いとう歯科医院の強み

いとう歯科医院の特技は「部分入れ歯の修理、調整」です。

入れ歯のほとんどは部分入れ歯です。
一般的な保険治療で作製された部分入れ歯を修理するのに、普通の歯科医院では入れ歯を1週間も預かって行なうところを当院では1時間から半日で出来るのが特長と思っています。

 

なぜ入れ歯が早く快適に修理、調整、作製できるのか?

部分入れ歯は歯に引っ掛ける金属のバネがあります。
普通その修理は歯医者が自分ではできませんので専門の歯科技工士さんにお願いします。

歯科専門の技工所さんに発注して持って行く。
作ってまた持って来る。

では入れ歯が技工所に行ってしまった1週間、患者さんはどうするか?
入れ歯がないままガマンしていただくしかありません。

これでは困りますよね。
患者さんは今夜も食事をしますし人にも会うでしょう。
歯がないまま何日も過ごすのは大変だと思います。

一般的な歯科医も、そのようなことは分かっているため入れ歯の修理は、なかなか引き受けてくれないのが現状です。

そのような「困った」をなくすため、いとう歯科医院では入れ歯の修理を1時間~半日で行なっています。
それも保険治療の範囲で行ないますから治療費が1万円を超えることはありません

 

なぜ通常1週間かかるところを1時間から半日でできるか?

いとう歯科医院では歯科医が自分で入れ歯のバネを作れます。

外の歯科医院で修業していた時代にバネを作るようになったきっかけがありました。

「患者さんにしっかり治って喜んでいただきたい」

バネを自由自在に曲げて複雑な形を作れるように一生懸命練習したのも、その一心です。
もしよろしければ入れ歯のバネを曲げて作る技術を習得した話。お付き合いいただけると嬉しいです。

 

金属のクワガタ虫

 

職人ワザの世界

「どうして来ないんだろう」

午前中の便で届く予定なのに、午後になっても注文しておいた入れ歯がまだ来ない。
患者さんは約束した時間通りに来院して待っている。

時計を見る。遅い。何をやっているんだ?
もう一度電話で確認してみよう。発注番号を読み上げ、荷物の追跡を依頼。

「そうですか。昨日完成して、すでに担当者に引き渡しているんですね」

大至急、配達途中の営業さんに連絡してもらうように指示する。
しばらく待たされた後当医院の荷物を持ったまま移動中だという連絡が入る。

と、そこまでは判明したものの、困ったことにハッキリした到着時間がわからない。
どうやら営業の途中で予想以上に時間がかかってしまったらしく、慌ててこちらに向かっているらしい。

歯科医は入れ歯の型を取る。細かい指示書を添えて歯科技工士さんに発注する。
入れ歯の加工は一ミリの何十分の一という細かな精度が要求されるまさに職人ワザの世界。
それなりの訓練を積んだ専門家でも納得のいく入れ歯を作るのは難しい。

そういった事情があるので、やり直しともなると医院と歯科技工所の間を行ったり来たり。
完成までにまたよけいに数日かかってしまうことも珍しくありません。

自分で作れないだろうか?
「私でも出来そうだなぁ」

目の前でクイッ、クイッ、と曲げられていく一本のワイヤー。

かなり微妙な角度でも自由自在。
プロの技工士さんは仕上げまで手を休めることもなく淡々と作業を進めて一気に完成させてしまう。
手際がいい。

それだけに、こうして見ているととても簡単な作業に思える比較的単純な構造のモノなら、完成までに要する時間はほんの5分程度だろうか。

ところがこの入れ歯のバネを歯科技工士さんに発注した場合、歯科医の手元に届くまで最短でも数日かかってしまう。
それでも約束した期日までに無事に届けばいい。
もし今回のように完成品が到着しなければ、患者さんが診療台の上に座っていても、歯科医師は手も足も出ない。

「自分で作れないだろうか?」

私が考えていたのは患者さんの笑顔です。
この技術を覚えればすぐに治療が完了する。
その日のうちに完成したら治療に来た患者さんはきっと喜んでくれるに違いない。

そう思えば思うほど、自分で作りたいという気持ちは強くなる。

もし自分で作ることが出来れば……。

患者さんを何日も待たせることもない。
たとえ数日間でも入れ歯が完成するまで、歯の無い生活を強いることになる。
食事のたびにあの不自由な思いをさせてしまう。

私に加工技術があればそんな不自由な思いをさせなくても済む。
それに実際に装着してみないとわからない微妙な調整だって臨機応変に、もっと適切に、その場ですぐに対応することが可能になる。

「挑戦してみたいなぁ!」

予想される複雑な形状

入れ歯の多くは部分入れ歯です。
通常は残っている健康な歯を利用して専用のバネで固定します。

その時、健康な歯に負担がかかりすぎるようではダメ。
金属製のバネで健康な歯を優しく抱え込むように安定させる必要がある。
ということは非常に複雑な形状になるということ。

問題はそこです。
ここが難しそうなんです。

この複雑な形状を知っているだけに不安に襲われてしまう。
だからこそ歯科医のほとんどは専門の歯科技工士さんに発注してしまいます。

「こんな複雑なモノが作れるようになるのだろうか?」

そう考えると、この技術を覚えようとする気持ちにブレーキがかかってしまう。

でも、どうしても患者さんの喜ぶ顔が見たい。
やはり挑戦してみよう。
やる前からあきらめてどうするんだ。

迷っていないで思い切って歯科技工士のWさんに相談してみよう。
でも、技工士さんの領域だからなぁ。
イヤな顔をされるかな?

私が挑戦しようと思った経緯を聞きながら、Wさんは加工中の手を休めない。
鋭利なピンセットで部品を押さえ、先のとがった小さな工具で器用に曲げていく。

「だから、どうしても覚えたいんです」

「……」

Wさんは無言のまま、鋭利なメスのような道具を使って微調整をしている。

「部分入れ歯のバネの作り方を教えてくれませんか?」

「……」

Wさんの顔を覗き込む。
断わられるかな?
やはり無理なお願いなのだろうか?

最後の調整を終えて完成した入れ歯を静かに作業台の上に置くとWさんはそのままイスを静かに回転させ、こちらを振り向く。
ニッコリと微笑みながら一言。

「はい。いいですよ」

アッサリ了解。
よかった。
気持ちが伝わったんだ。
そう思うととても嬉しかった。

「よろしくお願いします」

よーし、これを完璧にマスターするぞ!

指先に激痛が

Wさんの気が変わらないうちにと、すぐにその日から道具を借りてバネを曲げてみたいと申し出る。
最初は簡単な形から挑戦。
これなら一時間もあればできるだろう、なんて予測をたてて加工を開始する。

ところが「見る」と「やる」では大違い!

いくらやっても優しく歯を包みこむような形にはならない。
何度調整しても大きな隙間が出来てしまう。

「私でも出来そうだ」なんて、とんでもない!
固いワイヤーは思い通りに曲がってくれません。

「どうせ歯科医の気まぐれに違いない。すぐにあきらめるだろう」
もしかしたらWさんはそう思っていたのかもしれません。

でも私は、あきらめるなんて考えられません。

満足に食事が出来ずに困っている患者さんの顔が浮かんでくる。
だからどうしても覚えたい!

それからの毎日は残業の日々。
診療が終わってから三時間以上も作業台の前で過ごす日が何日も何日も続くことになります。

ひとり技工室にこもって悪戦苦闘。来る日も来る日も、目の前の模型を相手に真剣勝負。
BGMに流しているFM放送の軽快な音楽も耳に入りませんでした。

見本を見ると簡単に出来そうなんです。
一本のワイヤーを曲げるだけ。

でも現実はそんなに甘くない。
出来そうで出来ない。
それだけに悔しい。

慣れない手作業で道具の当たる部分が擦りむけてくる。
指の関節のあちこちが赤く腫れている。
こうなるとムキになる。

絶対に覚えてやる!
仕事の合間も昼休みもワイヤーとの格闘が続く。

「うっ!」

手が滑った。

突き刺してしまった指先のワイヤーを静かに抜く。
小さな赤い点はみるみる大きくなっていく。
やがて一筋の流れとなって赤い血がポタポタと床に落ちた。

ティッシュペーパーで押さえてその上からセロテープでグルグル巻いて固定。
その上から輪ゴムで止める。
道具を握ると指先に激痛が走る。

テクニック

ワイヤーは細くて固い。
しかもバネなので腰が強い。
ちっとも言うことを聞いてくれません。

それでもあきらめずに続けていると、なんとかそれらしい形が作れるようになってきます。

「腕が上がったかな」
そう思うと俄然やる気が出てきます。

「よし、この調子だ」
後は微調整をすればいい。

ところが模型の歯型に合わせてみると隙間だらけ。
使い物になりません。
これじゃダメだ、またやり直しだ。

そうやって丸一日かかって作ったのは十個の金属製のクワガタ虫。
どこをどう見ても部分入れ歯の固定バネには見えません。

これを患者さんに装着するなんてムリ!
口の中が傷だらけになってしまいます。

「ああ、どうしよう?」

焦る気持ちと、指先の痛みと、本当に出来るようになるのかという不安が、大きなかたまりとなって私に襲いかかる。
くじけそうになる。
そのたびに「挑戦するしかないんだ!」と、強く言い聞かせる。

何度やり直しても思い通りの形にならない。
金属のクワガタ虫が増え続ける。
出るのはため息ばかり。

ガクっと肩を落とし、頭を抱え込んだまま途方にくれてしまう。
出来ない!
どうしても出来ない。

悔しかった。情けなかった。
心細くって涙が出そうになってくる。

私はついにギブアップ。
Wさんに泣きついたのです。

「伊藤先生、こんな時間になるまで挑戦していたんですか?」

時計とクワガタ虫を交互に見る。
ひとつずつ手に取りじっと見つめたまま黙っている。

「うーん、工具の使い方が違いますね。」

Wさんは手垢で真っ黒になった模型を取り上げると目測で材料を切り出す。
そして黙々と私の目の前で作り始める。

「ここは道具を使わない」

そう言うとバネを指先で固定して軽く数回しごく。
すると歯に寄り添うようにバネが巻きついていく。

えっ! こんなやり方があるのか!

Wさんのやり方を見よう見真似で試してみると、あれほど言うことを聞かなかったバネがウソのようにしなやかに曲がる。
まるで魔法のようです。

忘れないように何度も練習してみる。
徐々にバネのクセがわかってきた。

「ひとつ覚えたぞ!」

嬉しくて飛び上がりたい気持ちをグッと押さえて心の中でガッツポーズ!
たったひとつのテクニックを覚えただけでも、とても大きな励みになります。

実は、その後も挫折の繰り返し。
そのたびにWさんに泣き付いてテクニックをひとつずつ覚えていくしかありません。

行き詰まるたびに指導を受ける。
練習、練習、ひたすら練習の日々。

患者さんの笑顔

やはり数ですね。
やがて全体のコツが見えてくるようになりワイヤーを指に突き刺す回数も減ってきました。

おかげさまで今では思い通りの形が自在に作れるようになりました。
気が付けばWさんの技術が少しずつ私に移植されていたのです。

Wさんに改めてお礼を言うとニッコリ微笑みながら、ボソっと一言。

「弟子ができたみたいで楽しかったよ。ありがとう。」

その言葉を聞いた瞬間、私はまぶたから熱いモノがあふれそうになるのを必死でこらえていました。
感謝の気持ちがこみ上げてきたのです。

ひとつずつ丁寧に指導してくれたから……

Wさんとの出会いがあったから私はこの技術を覚えることができたのです。

もう患者さんを待たせることもありません。
患者さんひとりひとりの健康な歯の状態を確認しながら、最も適した部分入れ歯を、私が自分の手で作ることができるのです。
患者さんの嬉しそうな笑顔を見るたびにWさんに感謝の気持ちが湧いてきます。

金属のクワガタ虫を量産することもなくなりました。

あなたの大切な入れ歯のバネは私が責任を持って作ります。

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→こんな患者さんが対象です。このようにして身につけた技術で行なう、いとう歯科医院の治療方針