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「噛むと痛い」の落とし穴。入れ歯を削っても治らない理由とは?

「噛むと下の部分入れ歯が痛い」

よくある症状で来られたのは70代男性のHさん。

よくある症例としては入れ歯の余計な出っ張りが歯グキを傷つけているというもの。

「噛むと痛い」

そんな症状が1週間以上も続くときはそのような傷が原因のことがほとんどです。

入れ歯の、歯グキを傷つけている部分を直径数ミリ程度を軽く削ることで治ります。

ガマンしすぎないで歯医者に相談されることをおすすめします。

ここまで申し上げておいて難なのですが今回の症例は、そのような簡単な治療では治りません。

なぜなら入れ歯の設計が原因だからです。

部分入れ歯を歯に引っかけて入れ歯を口の中に維持する金属バネ(クラスプ)の設計です。

クラスプが2つあります。

その両方が歯の横から回りこむ設計になっています、。

多くの場合にそれでとくに問題は生じないのですが、Hさんは長年使っているせいで入れ歯の適合が悪くなっていました。

歯グキと入れ歯の接するピンク色の面の適合が悪くて噛むと入れ歯が大きく沈みます。

その沈みこむ力で歯グキを傷つけていたのです。

これは先に説明した入れ歯を削る治療では治りません。

逆に削った分だけもっと沈んで、もっと歯グキを傷つけるだけです。

歯グキと入れ歯が接するピンク色の面の適合が良くなるように修理修正するのは一つの有効な治療方法ではあります。

上の入れ歯だとそのような治療が劇的に功を奏することがあります。

なぜならば上の入れ歯は面積が大きいため形を大きく修正できるからです。

しかし下の入れ歯は上の入れ歯と比べると絶対的な面積が小さいです。

Hさんも体つきはガッチリしているのですが下アゴが小さく、入れ歯も小さいです。

また舌が動くので入れ歯は舌の動く範囲を避けないといけません。

下の入れ歯を大きくしすぎると今度は舌に引っかかってしまいます。

すると舌を動かすと入れ歯が外れてしまったり舌を傷つけてしまったりということが起こります。

ちょうどいい大きさというものがあるのですね。

だから入れ歯のピンク色の部分(床)の形の改善には限界があります。

保険治療で入れ歯のヒビを30分~1時間で修理

そこで床の修正は後から考えるとして今回はクラスプの形を修正することにしました。

Hさんの入れ歯のクラスプは歯を横から抱えこんで入れ歯を外れないようにする構造のものでした。

幸いなことに歯は前に6本残っています。

そこで現在のクラスプの一つを除去して、歯の上から回りこむ構造のクラスプに作りかえることにしました。

歯が2本並んでいれば、その隣り合う面にクラスプを通すことができます。

歯の上にクラスプを通すことで、噛んだ時に歯が噛む力を支えてくれます。

入れ歯の沈みこむを防ぐことができるのです。

噛む力が加わったときに、どのくらい沈みこむかという数値を「被圧変位量」といいます。

歯は歯グキに植わっていますが直接くっついているわけではありません。歯根膜という膜を介してくっついています。

その歯根膜の被圧変位量は約0.05mm、顎の粘膜の被圧変位量は約0.2mmと言われています。

ですから歯、歯根膜で入れ歯を支えるのは有効な手段といえるわけです。

クラスプを修理するとなると一般的な歯医者だと入れ歯を預かって専門の歯科技工所に発注して修理してもらうことになります。

それだと

歯医者が発注する
技工所が引き取りに来る
模型を持って帰って修理する
技工所が持ってくる

必ずこのような工程が必要になります。

そのようなことで1週間~10日かかります。

昨今は歯科技工士が不足して業界では問題になっています。

昔ならば

「急ぎで3日でよろしく~」

とか言えたのですが、今それをやると

「あそこの歯医者はブラックだ」

との風評が立ってしまいます。

狭い世界なので評判が簡単に広まってしまいます。

もっとも、どんなに急いだとしても修理を技工所に任せると数日はかかってしまいます。

それでいて確実に良い修理ができるとは限りません。

とくに今回のような歯の上を回りこむクラスプは精度が要求されます。

定期的な入れ歯調整メンテナンス。費用は保険治療3割負担の方で総額約2,000~3,000円

先ほど
・歯根膜の被圧変位量は約0.05mm
・顎の粘膜の被圧変位量は約0.2mm
と書きました。

歯に引っかかって粘膜を傷つけないようにするには

0.2-0.05=0.15mm

の精度が必要ということです。

たとえばクラスプと歯に目で見えるほどのスキマなどあったら、もう0.15ミリ以上の誤差があるのは確実です。

そうするともうクラスプは役割を果たさなくなってしまいます。

つまり相変わらず噛むと痛いという症状が治らないということです。

とくに歯科技工所に任せると、そこまでの精度を要求できません。

往々にしてスキマのあるクラスプが帰ってくることがあります。

ですから当院では入れ歯を装着しておいて口の中の型をとる。

すぐに石こうを注いで模型を作る。

歯医者がその場でワイヤーを屈曲してクラスプを作って石こう模型と合わせる。

クラスプを歯科用プラスチックで入れ歯に埋めこむ。

その日のうちにこのような工程で修理してしまいます。

・石こう模型が硬化するのに30分。
・クラスプを屈曲して入れ歯に埋めこむ。
・ブラスチックが硬化するのを待ってから石こうを壊して入れ歯を取り出す。
・修理した部分を研磨する。

模型上で歯医者が自分で確実にスキマのないクラスプを作製するので精度も期待できます。

そのようなことで修理した入れ歯はピッタリと口の中に収まりました。

噛んだときの沈みこみが明らかに減っているのがわかります。

修理する前は噛むと目で見えるほど入れ歯がブカブカと沈みこんでいたのですが、修理後は沈みこみが目では見えないくらいになっていました。

「あっ、これなら噛んでも痛くないですねー」

Hさんは笑顔で答えてくださいました。
結果はすぐにわかります。

床の修正は必要なものの後からゆっくり考えます。

今回行なった入れ歯のクラスプを修理する治療は1回の治療でした。

費用は保険治療2割負担で総額約2,000円でした。

ところで今回のように歯に乗っかって入れ歯の沈みこむを防ぐ、金属製の構造物のことを「レスト」といいます。

「入れ歯はレストこそ大事!」

と言う歯医者もいます。

今回のような症例ではその大事さを実感します。

ですからレストの大事さは私も認識しているところです。

とはいえ当院ではレストを付けない入れ歯にすることがほとんどです。

なぜなら肝心のレストの精度が不十分なことがほとんどだからです。

先ほど説明したように目で見えるほどレストが歯から浮いている例は多いです。

0.15mmの精度で作れる根拠はあまりありません。

とくに入れ歯の作製を技工所任せにしてしまうと合わないものが出来上がってしまいます。

そして後からそれを修正することは不可能です。

後は逆にレストがジャマになって入れ歯が合わないとか、レストが反対の歯どぶつかって咬み合わせが狂うとかいうことがあります。

ですから床が合っていればレストは不要なことがほとんどです。

とはいえ今回のように床を合わせるのが難しいとか小さな入れ歯で床で支えるのを期待できない場合にはレストが活躍します。

決してレストの存在を否定しているわけではありません。

他院で作製された入れ歯で合っているレストは触らない方が無難です。

ただ歯とレストはスキマが目で見えないくらい合っている。

0.15mmの精度で合っている。

レストとは高度な技術が必要な難しい作品と言えます。

常にそんな治療をめざして日々努力しているところです。

【関連記事】→入れ歯が痛い「Q.入れ歯を入れているだけで歯ぐきが痛い。入れ歯がこすれて痛いようです。ずっと痛いのをガマンして入れ歯を使っています。治りますか?」


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・「インプラントが必要です」と言われた入れ歯が、わずか10分で噛めるようになった理由

「入れ歯の咬み合わせがおかしい」

そのせいで部分入れ歯が使えない。
もう何年も解決しないそんな悩みを当院で打ち明けられたのは70代男性のDさん。

生きるためには食べなくてはならないので、食事の時だけは仕方なく入れます。

それでも上手く食べられるわけではなく「ないよりはマシだけど」というレベル。

そして食事が終わったらすぐに外してしまう。

入れ歯がとにかく不快で入れていられないそう。

入れ歯は他院にて1か月前に新しく作り直されたばかり。

過去に使っていた入れ歯も入れていられないとのことで新しく作られたとおっしゃいます。

そこまで入れ歯が不調な理由はハッキリしていました。

「入れ歯の咬み合わせがおかしい」から。

すみません、患者さんの開口一番の言葉をコピペしただけです。

このように患者さんの悩みを患者さん自身の言葉で表現したものを「主訴」といいます。

これは歯科でない医療機関でも同じです。

「3日前から咳、鼻水、喉の痛みが止まらず熱が38度ある」

とかお医者さまに「主訴」を言うと、それを元に検査などをしてカゼとかインフルエンザとか診断して薬を処方するわけです。

まさか「3日前から咳、鼻水~」と言われて
「今すぐ大腸がんの手術しましょう」
と全身麻酔をやり始める医師はいないと思います。

主訴イコール正しい、正確なわけではありませんが重要な手がかりであることは確かです。

入れ歯自体は作り直されたばかりなのでキレイにできています。

しかし主訴の咬み合わせを削ったりした形跡がありません。

その作った歯医者の先生からは
「気のせいです」
「そのうち慣れますよ」
「ガマンしてくださいね」

と言われ続けたものの1か月経っても一向に慣れられる様子がないので、困って当院にいらした次第。

保険治療で入れ歯の修理が1時間でできます

主訴は大事。

患者さんの困っている主訴を解決するのが「治療」です。

内科クリニックで
「3日前から咳、鼻水~」
と言ったら大腸の内視鏡検査をされた。

そんなクリニックはないと思います。

入れ歯の咬み合わせがおかしい、とおっしゃるなら、まず入れ歯の咬み合わせを見ることです。

だからまず入れ歯の咬み合わせを検査しました。

私の父の代から行なわれている、とても原始的な検査です。

赤い薄い検査用の紙(咬合紙)を上下の歯で噛んでもらいます。

噛んでいる部分には歯や入れ歯に赤い噛み跡が点のように付きます。

噛んでいない部分は赤くなりません。

両側奥歯で咬合紙を噛んでもらったところ、とても分かりやすい結果が出ました。

両側奥歯、入れ歯の咬み合わせはクッキリと赤い噛み跡が付きます。

いっぽう前歯部は患者さん自身の歯ですが赤い色が全く付きません。

もう分かりやすい。

両側奥歯、入れ歯の咬み合わせが高いわけです。

試しに入れ歯を外して残っている前歯部だけで噛んでもらいます。

今度は赤ではなく青い咬合紙を噛んでもらいました。

すると前歯部の先端に青い噛み跡がクッキリと付きます。

つまり入れ歯を入れた時に両側奥歯、入れ歯の咬み合わせが高すぎて、残っている前歯部で全く噛んでいないのが不調の原因と分かります。

治療方針としては両側奥歯、入れ歯の咬み合わせを少しずつ削ることにしました。

1ミリも削ったら削りすぎです。

もっと薄く、噛み跡の赤い点の色を落とす程度の削り方をします。

そしてまた入れ歯を口の中に装着して咬合紙を噛んでもらう。

3回ほど繰り返したところ

「あっ、これなら噛めますよ!」

Dさんは笑顔です。

前歯部の自分の歯にも咬合紙の赤い噛み跡が付くようになりました。

なおかつ慎重に削っていったおかげで両側奥歯、入れ歯も赤い噛み跡は失われていません。

患者さんにも変化がすぐに分かります。

また特徴的な変化としては噛んだときの音です。

入れ歯の咬み合わせが高すぎたときは噛んでも音がしません。

ですが適正な咬み合わせになると
「カチカチ」
と金属音のような澄んだ音で噛めるようになります。

入れ歯修理の費用は保険治療3割負担の方で総額約3,000~5,000円

もう何年来のDさんの悩みをわずか10分で解決することができました。

しかも治療内容としては咬み合わせをわずか削っただけ。

当然保険治療でできるものです。

「いやー、実は入れ歯が合わないって言ったらインプラントを勧められていたんですよ」

とDさん。

歯医者はいつからそんな悪辣な商売になってしまったのでしょうか。

内科クリニックの例で言えばカゼの症状を言ったらいきなり全身麻酔されたみたいなものです。

さすがにまだそこまで悪辣なことをする内科クリニックの話は聞いたことがありません。

ただ歯医者の世界では、咬み合わせを0.何ミリ削ればいいだけのところにインプラントを入れようとする者が存在します。

まずは簡単にできる治療から始めるのは医療の基本です。

私は内科クリニックには区民健診で行くだけですが、心電図やレントゲンは行なうものの、必ず医師が自分の手指で背中やふくらはぎをトントン叩いたり聴診器を当てたりという原始的な検査を行ないます。

ハイテク治療、検査はもちろん大事ないっぽうで、トントンとか聴診器みたいな原始的な検査も大切なものなのでしょう。

調べたところ咬合紙を噛ませる検査は、ドイツの歯科医師であるハンス・バウシュ博士とジーン・バウシュ博士親子によって1953年に開発・導入された歯科材料です。

咬合紙が発明される前は薄いワックスやゴム状の材料で調べていました。

今でも売られていますが、やはり誤差があります。

70年経った今でも咬合紙は大切な検査で治療に大いに役立てています。

歯科治療において大切なのは

・患者さんの主訴を聞くこと
・患者さんの主訴を解決すること

これに尽きます。

なぜならそれが治療だからです。

ですからあなたが歯医者に行かれる時は、まず何で困っているかを明確にすることです。

そうすれば歯医者はその主訴を解決する手立てを講じてくれるはずです。

それを、主訴はほったらかしておいてインプラント入れましょう、などと言う歯医者がいたら避けたほうが無難です。

医師と違って歯医者がそのような拝金主義になってしまうのは理由があります。

都心部や西荻窪でも駅前の歯医者は実は保険治療だけでは赤字だからです。

だから何としても自費治療をやらないと潰れてしまいます。

私が20代の頃に勤めていた都心部のデンタルクリニックでは家賃、人件費、放漫経営の借金1億超が重くのしかかっていました。

クリニックの理事長先生からは
「とにかく自費をやれ!」
が口グセでした。

今回のように咬み合わせの調整だけで治って帰ってしまうと理事長から

「おい伊藤、なんで自費やらねーんだよ」
と怒られます。

自費治療自体を否定するつもりはありませんが、仮にやるとしても何回か通って信頼関係ができてからでないとトラブルになります。

結局そのクリニックは程なくして保険の不正請求が発覚して閉院してしまいました。

歯医者でない医師は、歯医者と比べてそんな不祥事は少ないです。

調べると2025年8月には医師20名、歯科医師8名への処分が諮問され、医師12名、歯科医師8名に処分(医業停止・免許取消など)が、医師8名に厳重注意の行政指導が答申されました。

日本の医師数は約34万人、歯医者の数は約10万人。

その割合からすると不祥事で処分された医師が24人いてもおかしくないはずです。

だから不祥事で処分される歯医者の割合が高いことがよくわかります。

そのようなことでDさんはもう治療は終わり。

後は3~6か月ごとの入れ歯調整と歯グキの予防治療を行なっています。

今回行なったDさんの咬み合わせ調整する治療は全部で3回の通院でした。

費用は保険治療2割負担で総額約4,000円でした(症状や治療部位などによって費用は変わります)。

【関連記事】→入れ歯で噛めない「Q.入れ歯にしてからよく噛めません。嚙めるようにできますか?」


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・「次は右が折れますよ」——1年越しの再会と、ツギハギの入れ歯が教えてくれたこと

「また壊れました~」

上の総入れ歯にヒビが入って折れ口から破片がプラプラしています。

これでは入れ歯は使えません。

一般的にはパニックする状況なのでしょうが、60代女性のRさんは何となくノンビリした口調です。

それもそのはず、1年前にも同じようにヒビが入って折れたのを修理していたからです。

1年前は、ひだり上犬歯部から後縁にかけてヒビが入りました。

それを修理していました。

その時に私がRさんに伝えていたことがあります。

それは
「今度は、みぎ側が折れる可能性は大いにありますよ」

ということ。

他院で作製されて長年調子よく使っていた上の総入れ歯です。

調子よく使えていますし出来具合は大変良いものです。

作られた先生の腕前の良さがよくわかる入れ歯でした。

しかし長年使っていると歯グキの形は変わってきます。

それは生きている体なので仕方ないことです。

すると歯グキと入れ歯の合わない部分から不自然な力が加わって入れ歯の破折につながります。

だから入れ歯が今回のように割れるのは仕方ないですが対策があります。

それは補強の金属線(補強線)を入れ歯に埋め込んでおくこと。

本来は入れ歯を歯科技工所で作製するときに、あらかじめ埋めておいてもらうことがベストです。

しかし近ごろは補強線を埋め込まれた入れ歯が少なくなったように感じます。

なぜなら昔は「補強線」が保険で認められていて点数設定は100点だったように記憶しています。

保険治療3割負担の患者さんは300円くらいの負担です。

しかしある時からこの補強線の保険点数設定がなくなってしまいました。

噂ていどですが、補強線を入れてもいないのに補強線を入れましたプラス100点、という不正請求が横行したからとの話があるとかないとか。

そんなことで保険請求できなくなってしまったからかも知れません。

ただ保険点数が変わってからも当院では入れ歯にはほぼ必ず補強線を入れて作ってもらいます。

点数設定がない割に、技工所には補強線の料金は支払うので金額的な話をすると当院の損にはなるのですが、そんな小さな損を補ってあまりあるメリットが補強線にはあります。

保険治療で、入れ歯と口の機能検査ができます。隠れた不調がわかります

それは
「入れ歯が割れても形を保ってくれること」

総入れ歯に補強線が入っていないということはプラスチックだけでできているということです。

これではもし入れ歯が今回のように割れたら完全にバラバラになってしまいます。

修理は可能です。

しかしバラバラになった破片を合わせた時に多少の手の角度次第では合わせ目が歪んでしまいます。

すると修理したのに口の中に合わないことが起こってきます。

総入れ歯だと、割れてしまうくらいですから不適合も著しくて、多少の角度の違いくらいは誤差で済んでしまうことはあります。

しかし入れ歯によってはピッタリ合っていたのに修理したせいで合わなくなってしまい、痛くて入れられなくなった。

そんなことが起こってきます。

補強線が入っていれば割れても補強線が支えてくれて形を保ってくれます。

補強線を中心に割れ目どうしを合わせれば、補強線がないよりはずっと元の形を正確に復元できます。

それで技工用瞬間接着剤で仮止めすれば精度の高い修理ができます。

口の中では1ミリの誤差というのは大きな誤差です。

そんな入れ歯に補強線を入れないなんてことは私は怖くてできません。

そのような経緯で1年前にRさんの補強線の「入っていない」総入れ歯が壊れたときには慎重に修理しました。

割れ目どうしを慎重に合わせて技工用瞬間接着剤で固定。

石こうを注いで入れ歯がズレないように模型を作製。

この工程は石こうが硬化するまで30分かかります。

模型上で入れ歯の割れ目に直交するように溝を4本掘ります。

その溝の中に補強線を作って埋めます。

補強線を4本埋めれば強度は十分です。

修理は上手にできました。
全部で1時間ほどで修理はできます。

当院では毎日1~2症例くらいは行なっている簡単な部類に入るような修理です。

しかし問題なのは、修理したのは「ひだり側だけ」ということです。

何が問題かというと「みぎ側」は何もしていないこと。

ひだり側が割れたということは、みぎ側も同じように割れる可能性が大いにあるわけです。

だから患者さんにそう説明しておいた次第です。

総入れ歯を作る費用は保険治療3割負担の方で総額約2万円

入れ歯が割れるほどの不適合です。

口を開けると簡単に入れ歯が外れて落っこちてしまいます。

だからその時に歯科専用の入れ歯安定材ティッシュコンディショナーを貼って安定させました。

ティッシュコンディショナーのおかげもあって口を開けても外れることはありません。

ただティッシュコンディショナーは耐久性がないことを説明。

近々また壊れる可能性と不適合の大きさから新しく作り直すことも勧めました。

ただRさんは、調子よくなったので、しばらく使ってみますとのことで1年前は治療終了にして様子を見ることになりました。

そうした中での今回の再破折。

補強線の入った、ひだり側はビクともしません。

破折したのはやはり補強線の入っていないみぎ側でした。

とはいえ1年前によくご説明して、患者さんもよく理解してくださっていたおかげでしょう。

患者さんも私もお互いにまったく慌てることなく入れ歯修理を行ないました。

手順は、これまで書いてきたことと全く同じです。

1時間で修理できました。

劣化したティッシュコンディショナーを薄く削りとって再び貼ります。

さすがに左右とも補強線が入り組んだツギハギだらけの入れ歯になったので、新しく作り直すことになりました。

入れ歯を新しく作り直すときに注意することが一つあります。

それは
「前の入れ歯と全く同じ咬み合わせで新しい入れ歯を作ること」

なぜなら前の入れ歯と違う咬み合わせの新しい入れ歯を作ってしまうと、まず使えないからです。

生えている歯があれば
「はい噛んでください」
といって上下の歯で噛んだ位置が下顎の安定した位置になります。

当たり前のことを述べているに過ぎないのですが歯があればその安定した下アゴの位置で入れ歯を作れば、まず失敗はしません。

それでは歯が一本もなかったら下アゴはどこで噛めば良いのでしょうか?

この下アゴの位置を決めるのが大変難しいのです。

ワックスで仮の入れ歯を作って決める
ゴシックアーチという装置で決める

などありますがいすれも何十年も前から行なわれているアナログな方法です。

ワックスを熱して柔らかくして噛ませるとか、装置とはいっても下の仮の入れ歯に金属の板にマジックインキで色を付けたものを貼り付けておいて、上の仮の入れ歯には細い針を付けておきます。

それで上下で動かすと金属板のマジックインキが針でハゲるので動かした道ができます。

その道から咬み合わせの位置を判断するとか内科医の聴診器とか背中をトントン叩くとかと同じレベルの古典です。

内科医ももちろん古典的な検査は大事ですがレントゲンとかMRIとか血液検査とか最新鋭の検査も併用しているはず。

しかし咬み合わせの位置決めにそのような最新鋭のテクニックは存在しません。

大学病院などではそれっぽい電子機器を使う話は散見されるものの保険治療に入ってくる気配はないです。

ですから歯が一本もない下アゴの咬み合わせをゼロから作るのは大変難しいわけです。

たとえば
「テッテレー、咬み合わせチェッカー♪」
みたいな装置を顎関節に当てて口をとじるとピッピッピッと音が鳴って、適切な咬み合わせの位置を感知するとピピピピピピと音が変わってお知らせしてくれる。

そんなナイスな機械があれば簡単なのですが残念ながら、そんなナイスな機械はまだありません。

だから今使っている入れ歯があれば大変助かります。

当院では下アゴの石こう模型と今使っている入れ歯を合わせて上の入れ歯の模型と噛ませます。

そうすれば正しい咬み合わせにできる可能性がグンと上がります。

実際に患者さんが使っている入れ歯だからです。

石こう模型と入れ歯は必ずしもピッタリ合うわけではないのですが口の中との誤差は多少の修正で概ね合わせることができます。

だから修理して入れ歯を使い続けることが作り直すときに活きてくるわけです。

こうして新しい入れ歯も、よく合うものができました。

今回行なったRさんの総入れ歯修理は、1回の通院でした。費用は保険治療3割負担で総額約4,000円でした(部位や症状により費用は変わります)。

【関連記事】→入れ歯が壊れた「Q.使っている入れ歯が壊れてしまいました。どうすればいいでしょうか?どのくらいの日数、費用で治りますか?」


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・「センセのおっしゃる通りになりました」半年ぶりに戻ってきた患者さんの言葉の真意

「センセのおっしゃる通りになりました」

半年ぶりに入っていらしたのは50代男性のDさん。

半年前に初めていらしたDさんの相談は

「部分入れ歯の金属バネ(クラスプ)が折れた」

というもの。

前歯部は自分の歯が残っていて両側奥歯が入れ歯になっています。

そのひだり側のクラスプが根元から折れていました。

治療方針は単純です。

クラスプを新しく作る修理をすること。

入れ歯を口の中に装着しておいて型をとります。

型に石こうを注いで模型を作製。

模型上でクラスプを作って入れ歯に埋めこみました。

石こうが硬化するのに30分、クラスプを作る作業、患者さんの口の中に装着する工程などを含めて約1時間で修理できます。

これは歯医者がクラスプを作れるからできる芸当です。

一本のステンレスワイヤーをプライヤーで屈曲して形を作ります。

私の祖父の時代から行なわれている古典的な技法で少し年とった歯科技工士なら誰でもできます。

もっとも歯科技工士が制定されたのが昭和30年。

昭和9年から当地で開業していた祖父の時代にはまだ歯科技工士が存在しませんでした。

だから祖父は自分でクラスプを作っていたと私は父から聞きました。

その影響で父もクラスプを作ることができました。

ただ父はワイヤーを平面的に曲げる単純鉤の作製が精いっぱい。

しかも精度に難がありました。

私は縁あって都心の歯科医院に勤務していた時に併設されていた歯科技工所で教わってクラスプを作れるようになりました。

専門家から習ったおかげで立体的に曲げる両翼鉤も作れます。

実際の臨床の場面ではこの両翼鉤を作れて始めて「入れ歯修理できます」と堂々と言えます。

その技術を買われて父の手伝いをしながら少しずつ患者さんを引き継いでいった次第です。

そのような経緯で歯医者である私がクラスプを作れるのですが、使いどころが多く毎日1~2症例くらいは入れ歯修理しています。

仮にクラスプが作れなかったとしたら、大概の歯医者は作れないのですが、どうするのでしょうか?

部分入れ歯の金属バネが折れても保険治療で修理できます

模型を歯科技工所に出して修理を発注します。

すると模型を渡して作ってもらって届けに来る。

大急ぎでやらせても4~5日かかります。

昔は働き方改革など概念もなかったので

「徹夜でやってよ、よろしく~」

と言っていたのですが今はそういうわけにはいきません。

そんな無茶をさせたら取り引き停止になってしまいます。

ですから1週間は入れ歯ナシになるでしょう。

患者さんとしてはそれは困ります。

生活が成り立ちません。

だから歯医者がクラスプを作って1時間で治すことが必要です。

そのようなことで1時間で修理できました。

しかし意外と難しい症例でした。

なぜなら入れ歯の咬み合わせが生えている歯よりも5ミリも低いからです。

生えている前歯部と入れ歯の奥歯とで段差があるのです。

これがなぜ難しいかというと、高さがないとは薄くて壊れやすいということだからです。

またたとえば前歯の先端と奥歯の先端を全て結ぶと一つの平面ができます。

これを「咬合平面」といいます。

咬合平面はなるべく平らな平面であることが求められます。

今回は前歯部と奥歯とで段差があります。

すると不均衡のために修理した部分などに思わぬ過大な力がかかる可能性が大きいです。

ただでさえ薄いところに過大な力のかかりやすい状況。

今回は修理したものの再び壊れる、クラスプが折れるでしょう。

そのように壊れやすい可能性を説明して入れ歯の奥歯部分の咬み合わせを高くする治療(バイトアップ)をご提案していました。

後日にその治療をしようかと考えていたのですが、患者さん曰く修理したクラスプの適合が良く快適に使えたから、とのことで通院が途絶えていました。

それで半年経って再び同じクラスプが折れたわけです。

「また修理はできるけど再び壊れる可能性は高いですよ」

とあらかじめ申し伝えておいた甲斐あって患者さんも

「その通りになった」

と覚えていてくださって今度は気軽に来てくださるわけです。

ところでこのDさんの入れ歯修理は別の難しい理由がありました。

ゆるい入れ歯には保険治療で歯科専用の入れ歯安定剤ティッシュコンディショナーを貼ると安定します

それは入れ歯の前歯部の形態です。

両側奥歯の入れ歯なので前歯部で何らかの形で左右の奥歯部分とつなぐ必要があります。

その形が治療を難しくしていました。

前歯部は補強の金属線を埋め込んだプラスチックの板(レジンプレート)でつないでいたのですが、その板の幅が極端に細いのです。

金属線の幅が3ミリ程度。その金属線をプラスチックで覆っているものの、全体的な幅が5ミリもないくらいでした。

実際に1箇所にヒビが入っています。

金属線のおかげで形は保てていますが、いつボキッと折れても不思議ではありません。

またレジンプレートがある程度の大きさがあると良いのは、前歯部の裏側を覆うことで入れ歯が前歯部に乗っかって動かないようにしてくれることです。

今回の幅の細い形態では、プレートは前歯部の下の歯グキに当たっているだけ。

これでは噛むと入れ歯が歯グキに沈みこんでプレートが歯グキを傷つけてしまいます。

また型をとる時も入れ歯が安定しません。

半年後の再修理で型をとった時は、型とりの工程で入れ歯が口の中で動いてしまい、歯からズレた位置での模型になってしまいました。

模型が不正確なのだから修理したクラスプも合いません。

とはいうもののプライヤーで多少の修正をしたら上手く適合しました。

ズレたとはいえ垂直的に沈んだだけだったので根本的に入れ歯が入らないみたいな事態を避けられたようです。

そのようなことから今回の治療方針は二つの工程を経ることにしました。

一番はその細すぎるレジンプレートを大きくすること。

前歯部の歯にプレートが乗っかるように修理します。

模型上で修理するのが正確にできるのですが、そもそも正確な模型を作れないことは経験済みです。

そこで口の中でプラスチックを盛ってプレートを作ることにしました。

粉と液を混ぜると硬化するプラスチックを入れ歯に盛って口の中に装着して、口の中で形を整えます。

正確な模型が作れるならば模型上で作業した方が、作業しやすいことは確かです。

ただそのような事情により口の中で作業を行ないます。

30分ほどで前歯部のレジンプレートが完成。

大きな構造物だと違和感が大きそうなものですが下の入れ歯については、そのような苦情はほとんど起こりません。

上アゴの口蓋部分は気にされる方がよくいます。

「いやー、むしろ入れ歯がしっかりして頼りになる感じで、良いですよ~」

とDさんも好感触。

これで1週間ほど使っていただいて違和感や痛み、傷などできないか確認しました。

10日後に来院され順調だったので一番やりたかった、咬み合わせを高くするバイトアップをします。

咬合平面を整えるのは大事です。

ワックスの板を少し熱して両側奥歯の噛む面に付けます。

歯科用パラフィンワックスといって厚さ約1.4ミリに規格化されています。

両側とも1.4ミリ咬み合わせが高くなるわけです。

それで噛んでもらうと

「あー、これは良いですね。よく噛めます」

とDさん。

そもそも咬み合わせが低すぎるところを高くするのでトラブルは少ないです。

ただ確認は必要です。

手がける症例を間違えると
「あっ、咬み合わせ高すぎっ、ムリムリ」
みたいになります。

確認したところ大丈夫そうなので片側ずつワックスを外して歯科用プラスチックに置きかえました。

30分ほどの作業で修理できます。

入れ歯の奥歯部分も、幅ができたので壊れにくくなります。

これで当分は快適に使えます。

実際に後は3~6か月ごとの定期的な入れ歯の微調整と残っている歯の歯周治療を行なって順調に経過しています。

今回行なったDさんの入れ歯を修理する治療は4回の通院でした。費用は保険治療3割負担で総額約1万円でした(症状や部位によって費用は変わります)。

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「歯がないのですが、何とかなりますか?」

不安げな様子で背中を丸めて入っていらしたのは50代男性のZさん。

歯自体は残っています。

ただ上の前歯5本分が歯の根だけの状態です。
奥歯も多くが歯の根だけ。

歯の根の状態は良好。

このような良好な状態ならば、根の中に最新鋭のファイバーでできた土台を埋め込んで、かぶせものを作れば前歯の形を回復できます。

ただし作れれば…の話です。

単純に前歯を作れば良いわけではない事情がありました。

その事情とは、カチッと噛んでもらうと下の前歯が上の歯の根と完全に噛みこんでしまっていること。

つまり「物理的に」前歯のかぶせものを作るスペースがないわけです。

よく目にするトラブルで
「かぶせものが簡単に壊れた、外れた」
というものがあります。

それは今回のZさんのようにスペースがない所に無理やりかぶせものを、それも高額な自費治療でセラミックなどを入れてしまう。

そうすると自らの噛む力でかぶせものを壊してしまいます。

かぶせものなら、また作り直せばいいのですが、歯自体がグラグラ揺れてきたとか、歯の根が割れたとかが起こったら、もう歯を抜く以外の方法がなくなってしまいます。

そうならないためには、いきなり前歯を治すのではない、ひと工夫が必要です。

そのひと工夫とは奥歯です。

奥歯も失っている部分、歯の根だけの部分があります。

その奥歯を先に形を復活させることです。

そこで今回はまず、ひだり下の奥歯を失っている部分に小さな入れ歯を入れることにしました。

まず入れ歯を作るところがポイントです。

前歯のかぶせものを作るスペースを作るための入れ歯だからです。

なぜ、ひだり下奥歯部分に入れ歯を作ることにしたかというと、ひだり上の奥歯が健全だから。

ムシ歯も歯周病もない。

だから健全なひだり上の奥歯と、ひだり下奥歯の入れ歯で噛ませて咬み合わせを高くすることにしたわけです。

ところで咬み合わせを高くするのは、かなり大きな治療です。

保険治療で、痛い入れ歯も調整できます

今回のような症例は歯科の世界では、いわゆる難症例とされています。

どのくらい高くすれば良いか?
どのくらい高くできるのか?

何ミリ高くしていい、何ミリ高くできる、といったことを客観的に測る方法がないからです。

咬み合わせを変えると、とくにアゴの関節に影響を及ぼします。

人によっては顎関節症の症状が出てアゴが痛くなったり口が開かなくなったり、極端な症例では手足の痺れ、めまいなど全身に影響する不定愁訴(ふていしゅうそ)と呼ばれる症状を起こす可能性も否定できません。

だからこそ、まず「入れ歯」なのです。

入れ歯だったら咬み合わせを高くする、低くする、の調整が簡単にできます。

症状が出るなら入れ歯ですから外してしまえば症状は止まります。

そのようなことから、まず入れ歯を作って合わせました。

ひだり側奥歯だけですが咬み合わせが高くなったおかげで、奥歯でカチッと噛むと前歯は3~4ミリほどのスキマができました。

ギリギリなスキマですが、これならかぶせものを作ることができます。

もっとも、まず咬み合わせを作ったのは、ひだり側だけ。

患者さんには状況をよく説明して1週間使っていただきました。

1週間後に話をうかがうと、やっぱり最初の2~3日は違和感あったそうです。

しかしそれ以降は慣れて、ひだり側で食事もできるようになりました。

咬み合わせが決まれば後は簡単。

みぎ奥歯に金属のかぶせものを作って、みぎ側奥歯でも噛めるようにしました。

みぎ側奥歯もムシ歯が大きかったのですが、入れ歯によってスペースができたのでかぶせものを作ることができました。

とはいえみぎ奥歯のスペースもギリギリではあります。

銀歯になってしまいますが保険治療で金属のかぶせものを作りました。

・強度がある
・調整しやすい

ギリギリの状況で作るものなので長持ちするかどうかは分かりません。

だからこそ保険治療で行なう方が後から融通がききます。

奥歯のかぶせものが長持ちしない可能性は否定できません。

しかし長持ちしなかったら、かぶせものをあきらめて新たに入れ歯を作ることは簡単にできます。

これが仮に自費治療50万円のセラミックのかぶせものを入れて長持ちしなかったら、とてつもないトラブルになるはずです。

50万円のかぶせものを入れるなら10年使えて当然だからです。

しかし難症例の場合、そんな見通しは立たないに決まっています。

だから見た目は仕方ないのですが「あえて」金属冠にしました。

患者さんも納得してくださって着けた金属冠でしたが、大変調子よく両側奥歯でよく噛めるようになったと笑顔でおっしゃってくださいました。

歯が抜けても保険治療で入れ歯に増歯修理

これでようやく前歯の作製に取りかかります。

ここからはあまり説明することはありません。

一般的な白い歯の色の前歯を保険治療で作製。

ここでも保険治療を行なうことを強くお勧めします。

やはりスペースがギリギリだから。

歯の根に保険治療で出来る最新鋭のファイバーコアを用いて歯の根から伸びる土台を作りました。

かぶせものを作れるまで土台を作ると実は下の前歯と当たってしまいます。

そこで下の前歯の先端を2ミリ削って何とかかぶせものを作れるスペースを作った次第。

こんなギリギリの症例でセラミックや貴金属の作品など作ったら、これまで書いてきたようなトラブルになることは確実。

そんなギリギリな症例には、後から修理調整しやすいようにハードレジンジャケット冠(HJC)という強化プラスチックのかぶせものを使います。

色も遜色ないものができます。

「おおっ、やっぱり歯があるのはいいですね~」

とZさんはきれいな歯を見せて笑顔でおっしゃってくださいました。

今回に関連する話で、自費治療専門歯科医院に勤めていた知人から聞いた内容に背筋が寒くなる思いをしました。

それは、今回のと同じような状況で奥歯が必要であることを知人は患者さんに説明したそうです。

しかし自費治療専門なので奥歯を作るのも高額な自費治療。

すると前歯だけ作るのと比べて、奥歯と前歯を作ると金額が倍になってしまいます。

結局100万円か200万円か、という話になってしまったそう。

それで患者さんは
「いくら何でも200万円は…」
とのことで100万円で前歯だけ作ったものの、案の定あっという間に壊れてしまった。

それはそれは、とてつもないトラブルになったと言っていました。

自費治療とは何でも治る魔法の治療法なんかじゃありません。

大いに矛盾のある危険な施術と思ってください。

とくに巷の歯医者のホームページにおいてよく見られる主張で
「保険治療は安いだけ」
みたいな内容があります。

だからちゃんとした治療は保険ではなく自費治療で、という論調です。

しかしこれは近視眼的な暴論です。

なぜなら歯科以外の医科においては、ほとんどが保険治療で行なってくれるからです。

子どもがカゼ引いて近所の内科に行って

「保険の薬なんかダメです。百万円の薬にしなさい」

そんなこと言われないはずです。

保険治療は安いだけ

そんなことを医科の先生に言ったらコラーと怒られます。

とくに歯医者も削る、抜く、詰めるだけでなく、悪化しないように「管理」する概念が近ごろの保険治療において盛んに盛り込まれるようになりました。

この5年くらいの話です。

医科でも健診の重要性が増しているので歯科でも口腔機能検査、口腔機能管理という名前で保険治療で用いられています。

このように安心できる価格の最新の保険治療で当院は患者さんに貢献しています。

今回行なったZさんの歯を作る治療は14回の通院でした。費用は保険治療3割負担で総額約4万5千円でした(費用は部位や本数、症状などにより変わります)。

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