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10年以上愛用!「身体の一部」になった入れ歯を捨てない理由:「カチカチ」と噛める保険治療の修理術(費用1,000円)

「3か月経ったので定期的な調整で」

とのことで来院されたのは80代男性のTさん。
律儀に3か月ごとにいらっしゃいます。

10年以上前まで記録を遡っても作製した記録がありませんでした。
もっと前に当院で作製した入れ歯です。

なぜ分かるかと言うと上の入れ歯の上あご部分に保険治療でできる金属製の補強床が入っているからです。

この補強床とは、私も父から教わって初めて知った材料です。

他の歯科医院の作品でお目にかかることは、まずないと思われます。

高額な自費治療で用いられる、いわゆる金属床入れ歯は見た目はカッコいいのですが長い目で見ると色々と問題を起こす作品です。

たとえば金属部分が歯グキと当たって傷を作ってしまう場合にプラスチックなら遠慮なく削ることができます。

しかし金属を削ると入れ歯が折れてしまう構造になっていることがあります。

すると保険治療の入れ歯なら簡単に治せるのにような治療すらできません。

他にも致命的な欠点がいくつもあります。

金属床など高額な自費治療について、他の歯医者のホームページではあまり出てこない話については、当院のホームページや他のブログでもたくさん書いています。

だからここではこれ以上は割愛させていただきます。

上の入れ歯は、この保険治療の補強床のおかげもあって10年以上も使えているので自費治療に負けない力を備えていると考えて良いのでしょう。

いっぽう下の入れ歯は、元々は残っている歯がある部分入れ歯でした。

歯が抜けると、抜けた部分にブラスチック製人工歯を継ぎ足す「増歯修理」を繰り返して、最終的には残っている歯が一本もない総入れ歯となりました。

多くの場合は部分入れ歯から総入れ歯になると不適合が著しくなって使いにくくなります。

だから新しく総入れ歯を作ることが多いです。

しかしTさんは作り替えずそのまま使っていました。

それはもちろん増歯したツギハギだらけの入れ歯を見れば経緯がよくわかります。

もっとも下が総入れ歯になったのも私が当院で治療をし始める前の話です。

当院では10年分はカルテを保存しています。

10年以上も来院のなかった患者さんのカルテはシュレッダーをかけてしまいます。

しかしTさんの場合は来院が定期的に何十年も続いています。

一冊の本のような分厚いカルテの束になっています。

10年以上前の記録など処分しても良いのですが整理整頓がどうも苦手なので、そのまま積まれてしまうという。

それで20年分くらいは記録を遡れるものの下の入れ歯に増歯修理した記録も探してみたものの見つけることができませんでした。

そのような経緯で上下とも総入れ歯です。

保険治療で、痛い入れ歯も調整できます

ちなみにこの5年ほどの話ですが、歯科治療も
「入れ歯が合った、合わない」
みたいなフワッとした印象だけで判断するのでは、いかがなものかと言われるようになりました。

そこで検査をして正確な数値を出して、科学的根拠に基づいた治療をしましょうという流れになっています。

具体的には「口腔機能検査」を行ないます。

7項目の検査をして数値を元に治療をします。

さらにこの治療も「削る、詰める」だけの仕事だけでは不十分とされるようになっています。

入れ歯とは杖や車イスと同じ道具です。

道具を使いこなせるようにするために必要なのが「リハビリテーション」です。

だから治療の中にリハビリテーションの概念が導入されました。

入れ歯や口、舌、飲み込みや咀嚼の性能を口腔機能検査で計測し、その結果に基づいてリハビリテーションを継続的に行なっていく。

入れ歯の調整も、たとえるならば杖の長さや車イスの背もたれの角度を調整するようなリハビリテーションを円滑に進める目的で行なわれるわけです。

この口腔機能検査は保険治療でできます。

一つひとつの検査は、保険治療3割負担の方で500円くらいでできるものです。

当院ではこの口腔機能検査と、それに基づいた口腔リハビリテーション治療を積極的に行なっています。

そのようなことでTさんは、入れ歯の修理調整、口腔機能検査が保険治療に導入されてからは検査とリハビリテーションを行なって、ずっと調子の良さを保ってきました。

今回の入れ歯を拝見すると、生活に影響などはないとおっしゃるものの、入れ歯の奥歯がすり減っています。

身体のガッシリしたTさんは噛む力も強いです。

調整、修理してから3か月~半年も経つとプラスチック製人工歯がすり減ってしまいます。

そこで今回は入れ歯のすり減った咬み合わせを修理する治療をご提案しました。

これまでずっと定期的にすり減っては修理しています。

同じ治療をもう何回も行なっています。

そのようなことで治療の提案にすぐにご同意いただきました。

元気な方ですが遠方から介助者と来院されます。

年齢的にも体調的にも新しく作るのは避けた方が安全です。

多くの壊れた入れ歯は保険治療で1時間で修理できます

Tさんが総入れ歯となった経緯を書いてきました。

なぜ書いたのかというと、これほど長年に渡って使い続けている入れ歯を新しく作るのは大変難しいと言いたいからです。

「この入れ歯は、もはや身体の一部ですね」

とTさんはおっしゃいます。

本当にその通りです。

ツギハギだらけではありますし、修理を繰り返している影響で入れ歯の厚さが一般的なものの倍くらいあります。

しかし作り替えはまず上手くいかないです。

仮にTさんが使っているのが
「全然使えない!」
「やたらと壊れる」
「合わせてもすぐに合わなくなる」

こんな入れ歯なら調整修理しながら新しく作ることで良い入れ歯にすることが可能です。

しかし不自由なく使っている、3か月~半年くらいの適切な間隔での定期的な治療、リハビリテーションで快適に使えている。
壊れることもない。

そんな良好な入れ歯を捨てて新しく作るのは蛮勇とも言える行為です。

ぜひ良好な入れ歯を使い続けることをお勧めしますし、この文章を読んでいるあなたもそのような事を理解して対応してくれる歯医者に通われることを願っています。

そのようなことで今回のTさんについては、まずは簡単にできる治療から行なうのが鉄則です。

奥歯がすり減った面に、粉と液を混ぜると硬化する歯科用プラスチックを盛り足して噛んでもらいました。

簡易なものですがリスクが少なく簡単に咬み合わせを回復できます。

すり減った部分を補うだけなのでとくに技巧を要することはありません。

プラスチックが硬化するのを10分ほど待って、それから余計な部分を削って研磨したら完成。

治療としては簡単なものですが、意外と多くの歯医者は選ばない治療である可能性は高いです。

ロクに調整もしないで

「すぐに高額な自費治療の入れ歯を作りましょう!」

と提案されたとの話を患者さんからお聞きすることが多いからです。

でも新しく入れ歯を作るのは大きなリスクでもあることは覚えておいていただきたいと思います。

全部で20分ほどで修理できた入れ歯を入れたTさんは

「あっ、これはまたよく噛めますよ!」

とカチカチ噛んでからおっしゃってくださいました。

歯がすり減ったりして奥歯の咬み合わせが不正になるとカチカチ噛もうとしても音がしません。

グニュグニュといった咬み合わせになります。

それを修理することで奥歯の咬み合わせが良好になると「カチカチ」と澄んだ音が出ます。

気持ちよく噛めることで気持ちよく食事できるようになります。

3か月~半年ごとの入れ歯修理。

もう私の父の代から続けている治療でTさんの入れ歯は常に良好な状態を何十年も保てているのは私も本当にうれしいです。

今回行なったTさんの入れ歯を修理する治療は治療回数1回でできます。
費用は保険治療1割負担で総額約1,000円でした。

【関連記事】→入れ歯で噛めない「Q.奥歯で噛みにくくなった感じがします。入れ歯を作りかえなければいけないのでしょうか?」


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・4年前に予言! 80代患者Kさんの「入れ歯が落ちてきた」をたった1時間で直した保険治療の入れ歯修理

「歯が折れて上の入れ歯が落っこちてきちゃって~」

早口でおっしゃるのは80代女性のKさん。
祖父の代から通っていらっしゃる方です。

口の中を拝見すると左右とも前から4番目の歯が折れて、歯の根だけになっています。

もともと口も歯も小さいので歯の根も貧弱。揺れてもいます。
この根はもう使えません。

また部分入れ歯の金属バネ(クラスプ)のかかっていた歯が折れたので入れ歯を口の中に維持することができなくなっています。

口を開けると簡単に外れてしまいます。

とはいえ、これはもう4年前から
「いつかはそうなりますよ」
と私は患者さんに予言していました。

別に私に未来予知の特殊能力があるわけではありません。

これまでの長年の経過、口と歯の様子を知っていれば、歯医者なら誰だってそう予測できる程度の話です。

実はKさんは歯の欠損が多いにも関わらず、ずっと入れ歯を使っていませんでした。

「とくに不自由がないから~」
とのことだったのですが4年前のある時から話をして入れ歯を使ってもらっています。

・これから歯を失うと、さすがに食事に不自由すること

・もっと歯を失ってからだと、もっと大きく違和感のすごい入れ歯を入れなければいけなくなること

・今のうちに入れ歯を入れておけば、今後歯を失っても処置が簡単になること

を説明して入れ歯を使ってくださっていました。

残っている歯が少ないので入れ歯も本当は上アゴを全て覆うものが望ましい。

歯科の論文や高名な先生はそう主張するに違いない症例です。

しかし当時は上アゴの部分を大きくくり抜いた馬てい型の部分入れ歯を作製しました。

しかも口も歯も小さい上に歯の長さも短いので咬み合わせをジャマしないように作ろうとすると入れ歯の厚さは3ミリが精いっぱい。

一般的な歯医者は入れ歯を作るときに専門の歯科技工所に発注して作ってもらいます。

仮のワックスで入れ歯の赤いボディ(床)を作って人工歯を並べて咬み合わせや歯並びを確認。

それを歯科技工所に出してワックスをプラスチックに置きかえてもらいます。

ところがそのワックスをプラスチックに置きかえる作業の都合上、どうしてもプラスチックの厚みが必要となります。

・ワックス床を石こうに埋める
・熱を加えてワックスを溶かす
・ワックスを溶かしてできた空洞に餅状の柔らかいプラスチックを入れる
・プラスチックが硬化したら石こうを壊して入れ歯を掘り出す

このような工程を経て作られます。

あまりにプラスチックが薄いと、この作業中にプラスチックが折れてしまいます。

だから入れ歯にはある程度の厚さが必要になってくるわけです。

部分入れ歯の金属バネが折れても保険治療で修理できます

しかしそんな立派な厚みを与えたら間違いなくKさんの口には収まりません。

「入れ歯が大きすぎて入れていられない」

入れ歯の悩みとして、よく聞く話です。

原因として実はこのような構造的な欠陥によることがあります。

厚さ2ミリ3ミリの極端に薄い入れ歯を作るのは実は至難の業だったりするのです。

もっとも当院ではそのような至難の業ともいえる、Kさんみたいな入れ歯をよく作ります。

どうやって作るか?

答え:歯医者が自分で作る

です。

歯科専用のプラスチックで即時重合レジン(即重レジン)というものがあります。

入れ歯だけでなく仮のかぶせものを作ったりするのにも使われるので、どこの歯医者でも必ず置いてある材料です。

これは粉と液を混ぜると硬化する簡易なプラスチックです。

石こう模型にこの即重レジンを盛ることで入れ歯を作ることができます。

歯に引っかけるクラスプを当院では歯医者が自分でワイヤーを屈曲して作ってしまいます。

ワイヤーを模型に合わせて即重レジンを盛れば、そのまま使える入れ歯の完成です。

技工所作製のプラスチックの方がより重合がされていて硬さや滑らかさは即重レジンよりも上です。

ですが補強の金属線(補強線)を埋めこむことによって硬さを文字通り補強することができます。

何よりKさんの入れ歯で心がけたのは「修理のしやすさ」です。

構造のほとんどをプラスチックで作ることで、どの歯が抜けても簡単に修理できるようにしました。

実はKさんは他の歯科医院で入れ歯を作った経験があります。

しかしやはり
「違和感がすごい」
「大きすぎる」
「口が閉じられない」
「アゴが痛い」
など上手くいきませんでした。

それで長い間ずっと「不自由ないから」と言いつつ、歯がなくても咀嚼できる柔らかいものばかり食べてきた、というのが実情です。

それで厚さ3ミリの薄い入れ歯を歯医者が自分で作ったところ

「あっ、これなら抵抗なく入れられます~」

とおっしゃって入れ歯を使えるようになって今に至ります。

それからは大きな事件はなく半年ごとにむし歯と歯周病予防を行なってきました。

今回は歯が折れたとはいえ4年間も何事もなく使っています。

・保険治療だからダメ
・高額な材料で作らないとダメ
・偉いセンセの言うことを聞かないとダメ

…そんなことはないという話なわけです。

定期的な入れ歯調整メンテナンス。費用は保険治療3割負担の方で総額約2,000~3,000円

ただいつかは歯が折れる、抜けるなどのことで状況は変わります。

まさに今回みたいなことを想定していたので左右両側の歯が折れるくらいのことは当院にとっては掌の上のできごとです。

「え~っ、1時間で修理できるんですか~」

とおっしゃるKさんに待合室で待っていただく間に修理をします。

入れ歯を口の中に装着しておいて型をとって入れ歯を含んだ石こう模型を作製。

折れた歯の手前の歯が健在なので、そこにクラスプを新たに作製して即重レジンで埋めたら修理完了。

1時間で修理した入れ歯は適合良く口の中にピッタリと収まりました。

一般的な歯医者は、クラスプを自分で作る技術がありません。

だから当然このような壊れかたをした入れ歯は型をとって歯科技工所に発注することになります。

しかし今回の治療で難しいのは先ほども書いたとおり
「咬み合わせが極端に低い」
ことです。

どんなクラスプを作って、どう増歯するか。
これは患者さんごとに違います。

とくに咬み合わせが低くてクラスプを入れるスペースがギリギリ。

そんなギリギリした緊張感あふれる修理を当院では数多く手がけています。

しかし技工所は、そうではありません。

私も20代のころに勤務していた歯科医院で同じような修理を歯科技工所に発注したことがあります。

それで全然口の中に入らないトンチンカンな修理をされてしまったことがありました。

歯科技工所も入れ歯修理をそんなに数多く手がけるわけではありません。

1週間も待った挙句、それでも1週間での修理は技工所からしたら大急ぎの仕事ですから決して悪く言うつもりはないのですが、ぜんぜん合わないなどということもあるわけです。

ですから今回のような壊れかたをするケースは、どの歯科医院でも起こりうる話です。

ですが「歯医者が自分でクラスプを屈曲する入れ歯修理」が歯医者の間で広まる気配は今のところ微塵もありません。

それはさておき

「いや~絶対に1週間は入れ歯を預かるんだと思ってました~」

とおっしゃるKさん。

以前にも同じような修理を何回か行なっているのですが、先入観として

「入れ歯が壊れたら、修理は1週間は帰ってこない」
というのがあるのでしょうね。

そんな固定観念を打ち砕いて、うれしい驚きの患者さんの表情を見るのが私の楽しみです。

当院にはKさんのように長年通っている患者さんがたくさんおられます。

数年後の変化まで想定して、どんなに壊れても、どんな変化があっても想定の範囲内として1時間で対応する。

そんな治療を数多く手がけています。

今回行なったKさんの入れ歯を修理する治療は1回の通院でした。
費用は保険治療1割負担で総額約1,500円でした(症状や治療部位などによって費用は変わります)。

【関連記事】→入れ歯が壊れた「Q.部分入れ歯を支えている歯が折れてしまいました。金属のバネが引っ掛かっていたのですが入れ歯がグラグラです。どうすればいいでしょうか?どのくらいの日数、費用で治りますか?」


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・【警告】その入れ歯、安易に作り直さないで! ボロボロの古い入れ歯こそが「最高の治療」になる理由

「夫が物を食べなくなってしまって…」

奥さまに手を引かれてながら杖にもすがるようにして入っていらしたのは80代男性のTさん。

治療室の扉から治療台まで5メートルですが杖にもつれて転びそうです。

心配で私も一緒に手をお貸しして治療イスに座っていただきました。

食べられない理由は入れ歯です。

前歯だけの入れ歯を入れていたのですが、奥歯も失っていて口の中にはもう一本も歯が残っていない状態でした。

歯があった時代の名残りで金属バネ(クラスプ)が中空に浮いています。

これではクラスプなど、かえってジャマなだけ。

当然ですが入れ歯は口を動かすと簡単にアゴから浮き上がってしまいます。
食事など出来るはずがありません。

とは言うものの入れ歯を入れて噛んでいただくとカチッと一箇所に定まります。

前歯だけでなく残っている奥歯のクラスプでも噛めるからです。

これは大助かり。

入れ歯治療の難しい症例として、噛んでもおうとしても下アゴがフガフガと動いてしまって噛む位置が定まらないことが挙げられます。

アゴの位置が定まらない入れ歯だと

入れ歯を着けると痛い
食事できない
姿勢、歩行に影響する可能性
顎関節が悪化する

など様々なことが起こります。

アゴの位置が定まらないから入れ歯が難しい。
逆に入れ歯が難しいからアゴの位置が定まらない。

どちらにしても難症例になります。

しかし今回は咬み合わせが一箇所に定まっています。

形はともかく「良い入れ歯」「良いアゴ」なわけです。

これを使わない手はありません。

ちなみにせっかく「良い入れ歯」があるのに完全に無視して新しく入れ歯を作り始める歯医者がいたりしますが大変リスキーです。

なんの手がかりもなくゼロから総入れ歯を作るのは、咬み合わせを定めるのが難しいからです。

仮に新しく入れ歯を作るとして、使えるようにするには一つ鉄則があります。

ゆるい入れ歯には保険治療で歯科専用の入れ歯安定剤ティッシュコンディショナーを貼ると安定します

それは
「前に使っていた入れ歯と咬み合わせを変えないこと」
です。

前に使っていた入れ歯と咬み合わせが変わってしまうと、新しい入れ歯はほぼ使えない入れ歯になります。

ゼロから上下の咬み合わせの記録をとる方法はいくつもありますが、ほぼズレます。

それでは現在は歯が一本もない患者さんの下アゴの位置をどうやって決めるかというと「ゴシックアーチ」という機械があります。

機械…とはいっても下アゴの仮の入れ歯に金属の板を置いてマジックで色を塗っておく。
上アゴは仮の入れ歯に針を付けてアゴを動かすと、針がマジックを消すので動きが分かるという。

1920年くらいから行なわれている方法から進歩していません。

たとえば

テッテレー♪
「咬み合わせ測定器ー!」

みたいなハイテクマシンがあって、現在使っている入れ歯の咬み合わせを記録しておく。

新しい咬み合わせを記録する時に正しい咬み合わせになると「ピーピー」と音で知らせてくれる。

そんな便利な物があればいいのですが残念ながら、そこまで便利になるのはたぶん22世紀くらいの話だと思います。

ちなみに歯科でも、入れ歯ではない分野ではドラえもんの道具みたいな便利な機械があります。

たとえばムシ歯が大きくなって歯の根の治療をするとします。

歯の根の内部は目で見ることができません。

そんな時に活躍するのが「根管長測定器」。

リーマーという歯の根を掘る針のような器具に測定器を当てると、見えない歯の根の長さを測ることができます。

歯の根の先端に近づくとピッピッピッと鳴って、先端に到達するとピーピーピーと音が変わって分かるというもの。

これは数値的な根拠があるから機械が作れるわけです。

いっぽう入れ歯の上下の咬み合わせは数値化できるものがありません。

だから音で知らせてくれる測定器は作れないのです。

そのようなことで咬み合わせをゼロから新しく作ろうとすると結局は経験とか勘とかに頼らざるを得ないことになります。

歯科のセミナーや論文などでよく新しく入れ歯を作った症例を見かけます。

もちろん公にするくらいなので成功事例ばかりなのですが、マネして複雑な器械を使って保険治療外の高額な入れ歯など作ってしまうと思わぬトラブルに巻きこまれる可能性があります。

咬み合わせとは非常に繊細な場合があります。

元の入れ歯と咬み合わせが1ミリ変わっただけで使えなくなることは起こりがちです。

だから新しく作るなどのことはしない方が賢明です。

そこで行なうのが入れ歯の修理です。

下の前歯は健在です。
ひだり側の奥歯に相当する部分にクラスプが残っています。

だからまずクラスプに白い歯の色の歯科用プラスチックを巻き付かせることで歯の形を回復させました。

最初の修理で前歯とひだり側奥歯で噛めるように歯の列を回復することができました。

続けてみぎ側の奥歯です。

こちらは元々は4本分が金属のかぶせものでつながったブリッジが入っていたのですが歯周病で4本まとめて抜けてしまったそうです。

そのような経緯から、こちらには入れ歯の構造物は一切ありません。

だからみぎの奥歯は、もう少し手をかけた修理をしました。

下アゴの型をとって石こう模型を作ります。

模型と入れ歯を合わせて、みぎ奥にピンク色のボディから作って元の入れ歯とつなげる修理をしました。

ただしプラスチックでつなぐだけでは強度がありません。

噛む力で簡単に折れてしまいます。

そこで補強の金属線(金属線)を埋めこむことで強度を増しています。

みぎ側の咬み合わせを作るのは簡単でした。

なぜなら前歯とひだり奥歯で咬み合わせが既に定まっているからです。

こうして両側奥歯でしっかりした咬み合わせが復活したTさん。

「あ、これならよく噛めますね」

と笑顔で答えてくださいました。

後日に点検で来院されたTさんは杖をつきながらですがご自分だけで、しっかりとした足どりで診療室に入られました。

やはり食事もとれるようになったとのことで頬もふっくらとしていました。

もちろん入れ歯だけの力ではなくリハビリなど、ご本人の努力と奥さまの介助のおかげです。

ただ入れ歯修理が少しでもその力になれたとしたら私もとてもうれしいです。

今回行なった入れ歯を増歯修理する治療は5回の通院。費用は保険治療3割負担で総額約8,000円でした(費用は症状や治療部位などによって変わります)。

保険治療で入れ歯調整できます

修理を繰り返した入れ歯ですから壊れやすいことはあります。

あれから1年経っています。

クラスプと補強線の金属が埋まっている効果でしょうか。

割れたりすることはなく快適に使い続けています。

もっともアゴは生きている体なので変化します。

とくに今まで使っていなかった奥歯の部分に入れ歯が乗っかって力が加わる影響で、アゴ骨やピンク色の歯肉(粘膜面)がが形が変わりやすいです。

数か月に一度ほど変化したアゴと入れ歯を合わせるために、歯科専用の入れ歯安定材ティッシュコンディショナーを薄く貼ってピッタリさせる治療を続けています。

これは、入れ歯が歯グキと接するピンク色の部分(床)全体に、粉と液を混ぜてペースト状になった材料を薄く貼って口の中に入れます。

すると入れ歯になじんで歯グキとピッタリ合います。

目で見て分かるようなスキマなどなくても、入れ歯が不適合になると歯グキを圧迫して歪みが出てきます。

ティッシュコンディショナーはその歯グキの歪みを取り除くことができます。

薄い膜みたいな厚さでも効果は大きいです。

「あっ、これはピッタリになりましたね!」

患者さんにもすぐに変化がわかります。

現在は何回かこのティッシュコンディショナーを貼り替えて様子を見ているところです。

今のところ新しく入れ歯を作る必要もなく修理した入れ歯を使えるのは、高齢で通院も大変、前に説明したような新しい入れ歯を作るリスクもありません。

治療後はいつも奥さまと一緒に笑顔で帰られます。

【関連記事】→歯を抜くことについて「Q.歯が何本か抜けていますが、今のところそのまま放置してあります。前歯ではないので見た目は気になりません。食事も普通にできます。それでも抜けた部分をかぶせる、入れ歯を入れるなど治したほうがいいでしょうか?」


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・たった1.5ミリで激変。70代女性の入れ歯修理がもたらした「予想外の効果」とは?


「入れ歯がカパカパになってしまって…」

70代女性のJさん。
上の総入れ歯が、口を開けると簡単に外れて落っこちてしまいます。

他院で作製された入れ歯はもう長年使っていて、それまでずっと調子よく食事も何でもできていました。
それが最近になってカパカパになってしまったそう。

外れる原因は明らかでした。
入れ歯を見れば一目でわかります。

入れ歯のひだり奥歯の、更に奥に直径5ミリ大の穴が開いているから。

それではプラスチックの材料で穴を埋めれば治るかというと、もちろんそれで解決できることもあるのですが今回はそうではありませんでした。

なぜなら穴が開く原因があったからです。
その原因を解決しないと穴を埋めても解決しません。

そもそも今回の症例では初回の診察では穴を埋める修理をできませんでした。

なぜその位置に穴が開いたかというと下の歯がぶつかっているから。

Jさん自身の噛む力で入れ歯に穴を開けてしまっているのでした。

ですから穴を埋める前に、ちょっとまわり道が必要です。

たとえば通常、入れ歯を作る際は上下の模型を元に作るので、そんな風に下の歯と上の入れ歯の奥がぶつかることはありません。

今回の入れ歯も長年不自由なく使っていたことからもわかるように、保険治療の作品で出来の良い入れ歯です。

ですが長年使っているうちに上の入れ歯の奥歯が大幅にすり減っていました。

上の入れ歯の人工歯はプラスチック製です。

いっぽう下の歯は全部自分の歯がそろっているのですがセラミックのかぶせものが施されていました。

セラミックとは要するに洗面台などに用いられる、まっ白な素材です。

変色しにくく硬くて丈夫な大変優れた材料なので口の中でかぶせもの、とくに高額な自費治療において好んで用いられます。

確かに虫歯や乱れた歯並びが、パッとかぶせてまっ白な歯並びが回復するのは芸術的で感動ものなのですが、絵画や彫刻など他の芸術作品と違って完成したら終わり、ではありません。

完成してからも

・食事や歯ぎしりなどで体重と同じかそれ以上の力が加わり続ける

・唾液で満たされた常に湿度100パーセントの中にいる

・虫歯や歯周病など細菌の侵食を受け続ける

そんな過酷な環境下に置かれる芸術作品などありません。

ピカソの絵をそんな環境に置いたら一瞬でボロボロになって消えてなくなるでしょう。

下の歯のセラミックは欠けも揺れもなく形を保っています。

この治療を行なった先生は優れた腕前をお持ちだったのでしょう。

しかし今回はその優れたセラミックのかぶせものが上の総入れ歯に不調を起こしている原因だった。

下のセラミックの歯が硬すぎるゆえに上の入れ歯の咬み合わせをすり減らしてしまい、奥歯の咬み合わせが全体に低くなっています。

そのせいで上の入れ歯、奥歯の更に奥が下の歯とぶつかって穴を開けてしまっていました。

入れ歯を作った当時には、そんなぶつかりはなかったはずです。

入れ歯の奥歯を見ても、すり減って山も谷も溝もなくなってツルツルな板状になってしまっています。

そこで今回は上の入れ歯、奥歯の咬み合わせを高くする修理を行なうことにしました。

入れ歯の両側臼歯部に、歯科用のワックスを熱で軽く軟化して貼りつけます。

その入れ歯を口の中に入れて噛んでもらいます。

こうするとワックス一枚分、約1.5ミリ咬み合わせが高くなるわけです。

念のため咬み合わせが高くなって大丈夫か確認します。

確認、とは患者さんに直接聞くことです。

歯が抜けても保険治療で入れ歯に増歯修理

「あっ、これは調子いいですよ」
Jさんは即答。

咬み合わせの高さの決定は実は数値的な裏づけはありません。
患者さんの主観が大事。

仮にここで
「いや~、高すぎて違和感すごくてムリムリ」
とかになるようだったら、やめたほうが無難です。

もっとも低すぎる咬み合わせを高くする分には不評の声は少ないものです。

とはいうものの、1回の治療で高くする範囲はワックス1枚分、1.5ミリがせいぜいです。

3ミリとか高くすると変化が大きすぎて、かえって悪化してしまいます。

やはり人の体とは絶妙なバランスで成り立っています。
その辺りは細心の注意が必要です。

とにかく1.5ミリの高さアップは良さそうです。
そこでワックスで高くした咬み合わせに決定。

次にワックスを片側ずつ取り除いて歯科用プラスチックに置きかえることで咬み合わせを高くすることができました。

簡単な工程ではあるものの治療に30分ほどお時間をいただきます。

これで一週間、様子を見ていただくことにします。

…一週間後、思わぬ反響をいただきました。

・胃炎が治った
・口角炎が治った
・何でも食べられるようになった
・とくに葉っぱものが噛めるようになった

1.5ミリの違いが体調に大きく影響を与えたようです。

こうしてみると歯科治療というのは命に、生活に直結していることを目の当たりにします。

今後とも人の生活に、生命にたずさわる為に、より技術を磨いていこうと気持ちを新たにしました。

Jさんの入れ歯の咬み合わせを高くする治療は2回の通院でした。保険治療3割負担で費用は総額約5,000円でした(症状などにより費用は変わります)。

入れ歯に歯科専用の入れ歯安定剤を貼る治療の費用は保険治療3割負担の方で総額約2,000~4,000円

ところで上の入れ歯に開いている穴のことですが…実は今回の咬み合わせを高くする修理だけでは高さが不十分で、穴を埋めることができませんでした。

噛んでもらうとまだ穴の部分に下の歯がくい込んでいるのです。

総入れ歯とは唾液を介することで顎の粘膜と入れ歯との間を真空状態にして維持安定を図るもの。

穴など開いていたら真空状態が作れないので入れ歯の安定が悪くなります。

ですから穴は何としても埋めたいところです。

穴を埋めるためにはもう一回、上の入れ歯の咬み合わせを高くする修理を行なうことで下の歯がぶつからないようにできる可能性はあります。

しかしその、もう一回咬み合わせを高くする修理は今回は見送りました。

なぜなら前回の咬み合わせを高くする修理によって入れ歯の状況が大変良くなったからです。

咬み合わせを全体に高くする治療というのは体にとって大きな変化です。

仮に生えている天然歯に対して同じように全体の高さを変えるなどのことをしたら高い確率で顎関節症の症状が出ます。

歯を10本とか、たくさん削ってかぶせものを着けたら

謎のめまいを起こした
アゴが痛い
全く噛めない
手足に痺れが出る

などの不定愁訴と呼ばれる重篤な症状を起こすことがあります。

だから天然歯では、ほとんどできない治療です。

いっぽう入れ歯ではこのような大胆な変化を与えることが可能です。

とはいえ、ではもう一回咬み合わせを高くする修理をすれば、もっと良くなるかというと…

そんなことはありません。

以前に同じような経緯で二回、咬み合わせを高くする修理を行なったところ

「前回の方が良かった。かえって入れ歯が不安定になってしまった」

そんな事になってしまった苦い経験があります。

ですから一回咬み合わせを高くする修理を行なって症状が改善したので、穴が開いているのは仕方ないとして様子を見ることにしました。

入れ歯と歯グキの適合が良いので、穴が開いていても真空状態が保てているのかも知れませんね。
何がなんでも穴を埋めて真空状態を作ることに固執すると、かえって悪くしてしまうことがあります。

ですから長い目で見て経過を追いつつまた必要ならば、たとえば再びすり減ったとかいうことがあれば再び咬み合わせを高くする対応をするなどを行なう方針を患者さんと確認して治療終了になりました。

歯科治療とは時として、そのような柔軟な対応が求められます。
これからも頭をフル回転させてがんばります。

【関連記事】→入れ歯がゆるい「Q.上の入れ歯が落ちる、下の入れ歯が浮くなど、長年使用している入れ歯が最近外れやすくなって困っています。治療できますか?」


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・60代女性が直面!「高額自費治療」の落とし穴と【8,000円】の入れ歯に隠された歯科治療の深いワケ

「どこに行っても…」

ハア~、と深くため息をつくのは60代女性のNさん。

ため息の原因は、歯医者から告げられる高額な自費治療です。

みぎ下の奥から2番目の歯、前から数えると6番目の大臼歯が抜けているNさん。
学術的には、なくても生活に影響ないとされます。

大臼歯6番7番がない状態のことを「短縮歯列」といいます。

もう一本、前から5番目の小臼歯がなくなると入れ歯などの形で歯の形を回復させることが必須となります。
食事が上手く摂れない、下アゴの位置が定まらず顎関節が悪化する、発音への影響などの原因となるからです。

短縮歯列ならそのような症状を起こすことは少ないです。
だから短縮歯列に対して、大臼歯を補う入れ歯を作ることには慎重になった方がいい。
なぜ慎重になったほうが良いかというと、せっかく入れ歯を作っても使えないことがあるからです。

これは歯医者の技術の問題ではありません。

このような部位に入れる入れ歯というと1~2本分の小さな入れ歯になります。
「小さい入れ歯だから簡単」
…ではありません。

これが3本分以上の大きな入れ歯ならば、ある意味で言うと逆に簡単です。
なぜならば3本以上の歯を失うと先ほど説明したように生活に支障が出るから。

入れ歯が必ず必要となるからです。
多少の違和感などは乗り越えて、入れ歯を使う方が調子がいい。
そうなるので患者さんが受け入れてくれるからです。

ところが1~2本分の入れ歯とは「必ずしも必要とはいえない」という類いのものです。
たとえ患者さんが「入れ歯を入れたい」とおっしゃったとしても
「イコール必要」
「それなら上手くいく」
わけではありません。

入れ歯を入れたい、という言葉は頭の表面だけで考えて言っているだけという可能性があります。
ところが入れ歯を口の中に入れておくのは、ほぼ24時間です。

実際に入れてみたときに
「あのとき入れ歯を入れたいとは言ってみたものの、実際に入れてみると違和感すごい」
そうなる可能性は否定できないものです。

違和感を「痛い」と表現される方もいます。

入れ歯の尖りが原因の傷などできていないのに痛いとおっしゃるので、これは身体がイヤがっているという信号です。

そのような場合に対して、どう対応するか?

保険治療で、痛い入れ歯も調整できます

答えは
「入れ歯をあきらめる」
です。

口では「入れ歯を入れたい」と言ってみたものの実際に入れてみたらイヤだった。

これは深層心理でイヤがっていることですし、元来必要ないものを入れていることもあるわけです。

だから入れ歯を入れること自体が無理、と考えた方が自然です。

このような話に実は科学的根拠はありません。

たとえば、どのような場合に一本義歯が使えて、どんな条件だと使えないか、とか数値的な違いを出して論文にすることは不可能だと思います。

自分が調べた限りでは、そのような論文を見つけることはできませんでした。

だから1~2本分の入れ歯を作るのは慎重におこなっています。

「慎重におこなう」とはどういうことかと言いますと、先ほど述べたような理由で全く使えない可能性があると説明することです。

当院では
「1~2本分の小さな入れ歯を入れる方へ」
という小冊子をお渡しして
「それでも入れてみるつもりならば」
と割り切っていただいた上で作製するようにしています。

さすがにそこまで行なうようになってからは1~2本分の入れ歯に関するトラブルは減りました。

ですから
「1~2本分の入れ歯こそ難しい」
と認識していただけると幸いです。

またそのように使えるかどうか分からない物こそ
「試しに保険治療で作ってみる」
ことです。

状況を分かって
「使えないかもしれないけれど試しに作ってみる」
という物に数千円ならば仮に上手くいかなくても
「まあしょうがない」
とあきらめがつくと思います。

仮に100万円かけたとしても使えないものは使えません。
巷の歯科医院において、そのようなトラブルの話はよく耳にします。

さて、そのような経緯を経てNさんは、みぎ下6番目の歯を補う一本義歯を作製することになりました。

当院では、このような奥歯の小さな「難しい」入れ歯は歯医者が自分で作製します。

そのような手間暇、時間かけることを小ばかにする歯医者はいます。

自分は手を動かさずプロデューサー気どりのセンセが、そういうことを言いがちです。

一般的には専門の歯科技工所に模型だけ渡して作ってもらいます。

しかしそうすると、もし上手くいかないときに
「なぜ上手くいかないのか」
がわかりません。

なぜ小ばかにされながらも自分で作るか、というと
「そういえばここが難しかったな」とか
「難しそうだから、ここを工夫して作ってみよう」とか
考えて作ることになります。

そうすると入れ歯を装着することにも、より多くのことに注意し気づくことができるようになります。

入れ歯を歯医者が自分で作る手間暇、時間はそのように他の歯医者では気づかないような点に気づくことができて、より「治療成功」という形で帰ってきます。

それは患者さんのためになるに違いないと確信しているからです。

痛い入れ歯の調整の費用は保険治療3割負担の方で約1,000円~2,000円

口の中の型をとって石こう模型を作製。
両隣りの歯に引っかける金属バネ(クラスプ)を歯医者がワイヤーを屈曲して自分で作製。

粉と液を混ぜると硬化する歯科用プラスチックでまず入れ歯のピンク色のボディの部分(床)だけを作ります。

こうしてできた入れ歯を口の中に装着してみますが「困難その2」が起こりました。

模型上ではピッタリと合っていた入れ歯ですが、なぜか口の中に全く入らない。

何かが引っ掛かっているのです。

原因は歯の豊隆です。

多くの歯は樽のように歯の真ん中が膨らんで上下は すぼまっています。

クラスプが真ん中の膨らみをゆるやかに乗り越えてスポンとは入れば良いのですが、クラスプがその膨らみを乗り越えることができません。

クラスプの角度を調整してみたものの入りません。

そこで患者さんの了承を得てクラスプのひっかかる歯を削ることにしました。

噛む力で摩耗した歯は豊隆が不自然で、真ん中が膨らむというよりも鋭く尖っています。

これではクラスプが入らないはずです。

削ってなだらかな曲面にしたところスムーズに着脱できるようになりました。

これがもう少し大きな入れ歯だったら、多少は歯に尖りがあっても入れ歯がねじれるようにして入ることができます。

しかし小さい入れ歯だと、ねじれることもできません。

このようにしてまずは床だけを装着して1週間使っていただきます。

上下での咬み合わせはナシです。

床だけの入れ歯でも歯グキとぶつかって傷ができることがあります。

まずはその痛みがないかどうかの確認です。

その場合の痛みとは、普段は何ともないけれど食事すると痛い、というもの。

最初から上下で咬み合わせてしまうと、咬む力のせいで痛いのか、床の形が悪くて痛いのかが分からなくなってしまいます。
だから最初は床だけ装着するわけです。

1週間後に来院されたNさんは痛みもなく順調に使っていました。

実は上下の咬み合わせがなくても床があるだけで食事がしやすくなります。

それで入れ歯を気に入って使ってくださっていました。

順調なのが確認できたので今度は床の上に歯の色の白いプラスチックを盛って噛んでもらいます。

すると咬み跡がついて上下で咀嚼できるようになります。

再び1週間後に来院されて
「これは良いですね。食事しやすくなりました」
と笑顔で報告してくださいました。

今回行なった入れ歯を作る治療は通院回数4回。費用は保険治療3割負担で総額約8,000円でした(症状や治療部位によって金額は変わります)。

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