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部分入れ歯の金属バネ(クラスプ)が2つだと入れ歯がゆるいので、クラスプ3つの入れ歯に作り直した症例

杉並区西荻窪で、入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「部分入れ歯がゆるくなりまして」

半年ごとくらいに定期的にいらっしゃるのは50代女性のTさんです。

4年前に前歯5本分の部分入れ歯を作ってから調子よく使っていました。

ただ定期的にゆるくなって、残っている奥歯に入れ歯を引っかけて入れ歯を口の中に維持する金属バネ(クラスプ)を調整したり、歯科専用の入れ歯安定剤のような材料ティッシュコンディショナーを貼ったりしていました。

もちろん本当は調整しなくても使える方が良いに決まっているのですが、Tさんの入れ歯に関しては、そうもいかない事情がありました。
その理由とは、クラスプの数です。

左右に1個ずつの2つのクラスプで入れ歯を維持しています。
しかしクラスプ2つの入れ歯には欠点があります。

それは左右のクラスプを結んだ線を中心に入れ歯が回転してしまうことです。
これは単純な物理の法則です。

クラスプ2つを線で結んだ写真

だから不安定になって調整が必要になるのは仕方ないことです。

そんな部分入れ歯を安定させる方法があります。

それはクラスプを3つ以上にすること。

入れ歯の回転を防げるので格段に安定します。

それではなぜ4年前に不安定と分かっていながら、そのような設計にしたのか、なのですが…

Tさんは当時、入れ歯を作るのが初めてだったからです。

入れ歯のクラスプを増やすと入れ歯は当然ですが大きくなります。

入れ歯治療における最大の失敗。
それは「違和感すごくて入れ歯を入れておけない」こと。

クラスプ3つにして安定するのは良いものの入れ歯を入れるのが当時初めてのTさんは入れ歯をそもそも使えるのか、という問題がありました。

Tさんだけにそのような問題があるわけではありません。

入れ歯を初めて入れる患者さんはみんな

「そもそも入れられないかも知れない」

という懸念は常に頭に入れておかなくてはなりません。

そのような理由でクラスプ2つにして入れ歯の大きさを最小限度に設計した次第です。

結局は違和感については数日で慣れて何事もなく使えるようになって今に至ります。

そこで今回の治療方針としては、調整修理は繰り返してきたので、もう限界です。
入れ歯を新しく作ることにしました。

入れ歯の設計について4年前との違いは明確です。

クラスプ2つ→3つにすることです。

すでに入れ歯には慣れています。
その程度なら大きくしても大丈夫。

4回ほどの来院で完成した入れ歯を入れたTさんは

「あっ、今までよりもずっと安定感ありますね~」

違いはすぐにわかります。

ずっと安定した入れ歯は定期的に様子を見るだけで調整はほとんどせずに使えるようになりました。

今回行なったTさんの入れ歯を新しく作る治療は、保険治療3割負担で総額約1万円でした(治療費は症状により個人差があります)。

理想的な入れ歯の設計というものはあります。
もちろんクラスプ2つより3つの方が安定することは物理の法則です。

参考文献:「部分床義歯の設計と咬合」丹羽克味著、学建書院より

以下引用

部分入れ歯に求められる要件

1.咀嚼機能が、最大限に回復されること

咀嚼機能の回復を評価するには正しい咬合の基準と、それを基にした咀嚼機能の評価法が確立している必要があります。

それらが未解決な現状では、この評価は、患者さんの主観に頼るしかないのです。

もし患者さんから「痛みが取れない」「噛みにくい」「歯がぐらついてきた」などという訴えがあれば、その主な原因は義歯設計の誤りであることが多いのです。

2.義歯の咬合が長期間にわたって安定していること

この項はとくに部分床義歯にとって重要な要件になります。
義歯を装着したあと、残存歯が抜去に至るような疾患に罹患せず、また、義歯床や支台装置に破損がなく、義歯が何年安定して使用できるか、つまり、「義歯の咬合が何年安定しているか」ということです。
装着直後は、どんなに快適に咀嚼ができた義歯であっても、その後、数年もしないうちに支台紙が抜去になる、また支台装置が破損に至ることがあります。

これはまさに義歯設計の誤りが原因です。
さらに、患者さんが定期検診日を忘れてしばらく来院しなくても、義歯や残存歯に障害が発生しないことが大切な要件です。
この2つは部分床義歯の要件として、最も重要なものです。

部分床義歯の要件として、上記以外に、次のことが挙げられます。
・審美性に優れていること、
・快適であること
しかし部分床義歯の設計において大切なことは、この優先順位を混同しないことです。
優先順位を無視して、審美性を第一にした義歯などは近い将来必ずトラブルに見舞われることになります。
部分床義歯の要件に関して、著者は、次のように言うことができます。
ある欠損部に対して立てられた義歯設計をみれば、義歯を作製し使用してみなくても、要件をみたす義歯であるかどうかがわかります。

引用ここまで

医療のかかり方 治療法選択の主役 歯科医師から患者へ

しかしそもそも使えるか使えないかは結局は物理学だけでは分かりません。

やはり患者さんの主観も大事な一因だからです。

このような医療ならではの難しさと取り組む姿勢について良い新聞記事を目にしました。

こちらにシェアさせていただきます。

以下引用
____________

科学の観点
いちばん重要なのは、サイエンスの観点だと思います。

医療行為に絶対的な正解はないということです。手術がいいと判断しても、やって失敗することがあります。多くの人に効く薬でも、その人には効かないばかりか、重い副作用が出ることもあります。うまくいくかどうかは不確実なのです。

人体はわからないことが多く、現代医学も正しいとは限りません。そして患者には個人差があります。持って生まれた遺伝子や体質も、その時の身体や精神の状態も、周囲の環境も、生活のしかたも、それぞれに違います。それらの情報から、なるべく良い結果になりそうな方法を選ぶとしても、すべての要素・条件を調べ上げて結果を完璧に予測することは、原理的に不可能です(数学的には、カオスと呼ばれます)。

つまり、医療の結果予測は、あくまでも確率的(統計的)なものであり、どの方法がよいかについては、ほとんどの場合、選択の余地があるということです。
__________
引用ここまで

参考文献:医療のかかり方(14)治療法選択の主役 医師から患者へ | ヨミドクター(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/yomidr/article/20140711-OYTEW54535/

部分入れ歯のクラスプについて

部分入れ歯のクラスプとは、入れ歯を固定するために使用される金属や樹脂製のフックです。
おもに残っている歯に引っかけて入れ歯が外れないように維持します。

クラスプには見た目の自然さを重視した樹脂製のものや、強度と耐久性に優れた金属製のものがあります。
金属製のクラスプは金属の色が口の中で目だってしまう欠点があります。

最近では審美性に考慮した薄くて目立ちにくいデザインや素材も開発されています。

もっとも保険治療で選択できるのは金属バネがほとんどです。
他の素材は選択肢が少ないです。

ここに書き出すと長くなってしまうので割愛させていただきますが
それは様々な欠点があるからです。

またクラスプの形状や位置によって咀嚼効率や装着感が変わります。
入れ歯の設計については歯科医師とよく相談することが重要です。

【関連記事】→入れ歯がゆるい「Q.入れ歯を新しく作ってもゆるいです。なんとかなりますか?」


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口腔機能の検査をしたところ口腔機能低下症とわかったので、口腔機能管理とご指導を行なっている症例

杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「そういえば、昔からよく食べるとムセるんですよ」

ハタと思い出したようにおっしゃるのは50代男性のKさん。
口の中に関しては上下とも大きめの部分入れ歯を使っています。

残っている歯も不安定な状況です。
揺れている歯もありムシ歯のためにかぶせものを作製した所も何本もあります。
いつ歯が抜けたり折れたりするか警戒しているところです。

もっともそのような事態に備えて、あらかじめ入れ歯を作っておいたので歯を失ったら、抜けた部分は入れ歯にプラスチック製の人工歯を継ぎ足す増歯修理ができます。

そういった意味では大丈夫なものの、歯を失う速度を少しでも遅らせたい。

比較的若くて体格はいいし全身的な病気も一切ありません。
なぜ口の中だけ好ましくない状況になっているのでしょうか。

ムシ歯になったら削って詰める、かぶせる。
歯が抜けたら入れ歯に継ぎ足す。

もちろんこれらは歯科医師の役割りです。
しかし口の中の悪化に対して後手後手にまわっている印象は否めません。

たとえば全身を診る内科などは病気にならないうちに血液検査やレントゲンなどで数値や画像を通じて症状が具体的に悪化して現れる前に予防と早期治療に努めています。
私も毎年の区民健診と2年ごとの胃と大腸の内視鏡検査を受けています。

歯科でも同じようなことができないものでしょうか。

実は最近できるようになりました。
歯科でも内科のように患者さんの状態をより深く調べて治療に導く方法があります。
それが口腔機能検査です。

保険治療で、痛い入れ歯も調整できます

こんな症状はありませんか?

以前に比べて…

● 食べ物が口に残るようになった
● 硬いものが食べにくくなった
● 食事の時間が長くなった
● 食事の時にむせるようになった
● 薬を飲み込みにくくなった
● 口の中が乾くようになった
● 食べこぼしをするようになった
● 滑舌が悪くなった
● 口の中、とくに舌が褐色~黒く汚れている

「口腔機能低下」の状態とは加齢によって口腔内の「感覚」「咀嚼」「嚥下」「唾液分泌」等の機能が少しずつ低下してくる症状です。
「口腔機能低下」を早いうちに自覚することで生涯にわたり、食べることを楽しみ、会話に花を咲かせ、笑顔が続く健康長寿を支えます。

「口腔機能低下症」は、患者さんの「口腔機能低下」に「専門的な介入をするキーワード」です。
地域のかかりつけ歯科医師として、「口腔機能低下症」を診断しましょう。

「口腔機能低下症」を診断しましょう

歯科医師が「口腔機能低下症」を知り口腔衛生管理および口腔機能管理に積極的に介入することで、高齢者の豊かな食生活と健康維持を実現していきます。

その口腔機能を知るために行なうのが口腔機能検査です。

口腔乾燥による症状
 口の中が乾くのが気になる

口腔衛生状態不良(口腔不潔)による症状
 口の中、とくに舌が汚れている

咀嚼機能低下による症状
 硬いものが食べにくい

嚥下機能低下、舌口唇運動機能低下、低舌圧による症状
 滑舌が悪くなった
 食べこぼすようになった
 食べ物が口に残る
 薬を飲み込みにくい
 食事の時にむせる

咬合力低下
 口の中に残っている歯の本数が少ない

このような症状に心当たりがある方に行なうのが口腔機能検査です。

ゆるい入れ歯には保険治療で歯科専用の入れ歯安定剤を貼りましょう

口腔機能検査は以下のように行ないます。

口腔機能低下症は7つの評価項目[①口腔衛生状態不良(口腔不潔)、②口腔乾燥、③咬合力低下、④舌口唇運動機能低下、⑤低舌圧、⑥咀嚼機能低下、⑦嚥下機能低下]を用いて診断します。
7項目中3項目以上で低下が認められた場合に口腔機能低下症と診断されます。
7つの下位項目と各項目から読み取れる口腔機能の問題点について解説します。

1.口腔衛生状態不良(口腔不潔)
口腔の衛生状態は舌苔の付着程度を評価します。
舌表面を9分割し、それぞれのエリアに対して舌苔の付着程度を3段階(スコア012)で評価。
合計スコアが9点以上(TCIが50%以上)で口腔不潔と評価します。

2.口腔乾燥
口腔水分計(ムーカス®)を用いて評価します。
舌尖から10mm後方の舌背中央部における口腔粘膜湿潤度を計測。
測定器の先端に設置してあるセンサー部分を舌背部に押し当てることで測定します。
27.0未満を口腔乾燥とします。

3.咬合力低下
残存歯数を用いる方法は20歯未満の場合に咬合力低下と判定します。
咬合力の低下は咀嚼能力と相関が高く、残存歯数や咬合支持と関連が強いが筋力の低下にも影響を受けます。

4.舌口唇運動機能低下
オーラルディアドコキネシスの計測で検査を行ないます。
「パ」「タ」「カ」の音を5秒間計測して1秒間当たりの回数を算出します。
「パ」は口唇の動き「タ」は舌前方の動き「カ」は舌後方の動きを評価します。
いずれか1つでも6回/秒未満の場合に舌口唇運動機能低下と判定します。
舌口唇運動機能低下は口腔周囲の運動速度や巧緻性が低下した状態の指標となり、会話や食事に影響し生活機能やQOLの低下にも影響を及ぼす可能性があります。

5.低舌圧
舌圧は、JMS舌圧測定器(株式会社ジェイ・エム・エス)を用いて測定することが可能です。

JMS舌圧測定器は、舌圧プローブ、デジタル舌圧計、連結チューブから構成されています。
測定時は、硬質リング部を上下顎前歯で軽く挟むようにして、唇を閉じ、プローブ先端部のバルーンを舌と口蓋で押しつぶします。
日常生活において義歯を使用している場合は、義歯を装着した状態で測定。
最大舌圧が30kPa未満で低舌圧と判定する。

低舌圧の原因は、脳血管障害やパーキンソン病などの疾患、舌がん術後などの直接的な原因と廃用症候群、低栄養等の相互作用的な影響が考えられます。
舌は口腔周囲器官と協調して咀嚼、嚥下、構音に関わる非常に重要な器官です。
また、舌は筋肉の塊であるため、低舌圧は舌の筋力低下を意味します。
舌圧が低下して20kPa未満となると摂食嚥下障害に相当すると考えられます。
舌圧と食事形態の関係について調査した研究では、舌圧が30kPa以上ある人は全員常食を摂取しているのに対して、20kPa未満の半数以上が調整食を摂取していたことを報告していました。
よって、常食を摂取するためにはある一定以上の舌圧が必要であるといえます。

6.咀嚼機能低下
咀嚼機能低下の検査は、咀嚼能力検査(グルコース含有グミゼリー、グルコセンサーGS-ⅡN、GC-Ⅱセンサーチップ、株式会社ジーシー)で計測します。
グミゼリーを咀嚼した後に水を含嗽(がんそう)して吐き出させて、吐出水中に溶出したグルコース濃度を測定。
グルコース濃度が100mg/dL未満を咀嚼機能低下と判定します。

7.嚥下機能低下
EAT-10は信頼性と妥当性が検証された摂食嚥下障害のスクリーニングテストです。
方法は、嚥下スクリーニング質問用紙を用います。

10項目の質問で構成され、それぞれ5段階で回答し、合計点が3点以上であれば問題ありと判定し、専門医療機関での精査が必要となります。
EAT-10は主観的な評価ですが、個々の質問項目に注目すると患者のQOLを評価する項目があるため、介入効果の判定にも有効とされます。

聖隷式嚥下質問用紙を用いた場合は、より頻繁に起こる、または、重症を疑わせる解答項目(Aの項目)が1つ以上の場合を嚥下機能低下と判定します。

総入れ歯を作る費用は保険治療3割負担の方で総額約2万円

今回のKさんは咬合力低下、低舌圧、嚥下機能低下がありました。
これらは検査により具体的な数値として表せます。

とくに嚥下機能が低下していました。
嚥下機能検査とは、飲み込む機能についてアンケート調査のようの書式に三択形式で答えていただくものです。

その検査の項目を見て

「そういえば」

とKさんは食事中にムセることを思い出した次第です。

そのような事で今回の治療としては飲み込む機能を担う舌や口の周りの筋肉を鍛えて強くするリハビリテーション、口腔機能訓練を行ないました。

鍛えるというと筋トレみたいな厳しいイメージですが、そんなことはありません。
食事前後に舌やクチビルを1~2分動かす程度の簡単なものです。
それでも動かさないよりはずっと効果があります。

定期的な口腔機能訓練と歯周治療、入れ歯の手入れの甲斐があって、それから2年近く経って歯を抜いたりすることなく順調に経過しています。

今回行なったKさんの口腔機能管理する治療の費用は、1回の治療につき保険適用3割負担で約2,000円でした(治療費は症状により個人差があります)。

参考文献:日本老年歯科医学会 https://www.gerodontology.jp/
公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/orarufureiruyobo-taberuchikara-ikiruchikara/orarufureiru-kokukinoteikasho-shindan.html

【関連記事】→歯科医院のかかり方「Q. 高齢の人の治療で、とくに気をつけている点はありますか?」


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噛めない、外れる入れ歯を外形の修正と咬み合わせの修正で改善した症例

杉並区西荻窪で、入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「上の総入れ歯が噛めないし、すぐ外れるし」

そんな症状を訴えるのは70代女性のJさん。

入れ歯自体の形は悪くありません。
咬み合わせも1箇所でパチッと噛めて安定しています。

他の歯科医院で数か月前にこの入れ歯を作製。
それ以来ずっと調整を繰り返していたと言います。

しかし
「自分にはこれが限界です。これ以上は良くすることはできません」
と担当の歯科医師から言われました。

決してこの担当医を否定、批判するつもりはありません。
先生なりにがんばられたのだと思います。

その証拠に咬み合わせの丁寧な調整、外形の細かな修正。
内面適合を改善するために歯科専用の入れ歯安定剤ティッシュコンディショナーを貼ってありました。

とはいうものの、ここまでがんばってまだ改善しないとなると…

たとえば「痛い」とかいう時には痛みの原因となっている直径数ミリの範囲を削ったら改善した。
そんな簡単に解決できることもあるのですが、今回はそんな小手先のテクニックでは対処できません。

そのような時に頼りになるのは「教科書」です。
と言っても患者さんの目の前で教科書を広げるわけではありません。

「医学には正解がありますが医療に正解は無い」

よく言われる言葉です。
臨機応変な対応は必要です。

一方で困難なときこそ教科書に書いてある「医学」を思い出すのです。

まず外形です。

とくに後縁が短くアゴ骨を覆っていない部分があります。

総入れ歯はとくに上アゴ全体を可能な限り広く覆うことで物理的に吸い付く力を得て口の中に入れ歯を維持しています。

物理の力を最大限発揮できるように、粉と液を混ぜると硬化する歯科用プラスチックを用いて足りない部分を補っていきます。

こうすることで教科書の図に書かれた形に近づけていきます。

結局は後縁だけでなく全面の修正が必要になりました。

外形を作ることで、口を開けた時に外れるのを防ぎます。

保険治療で入れ歯のヒビを修理

しかしこれだけではまだ使えません。
このままでは噛んだり食事したりするとパカッと外れてしまいます。

続いては咬み合わせです。

カチカチ噛んでもらうと、グニャッ、グニャッと下アゴの位置が定まりません。

同時に、あれだけ吸い付いていたはずの入れ歯が簡単に外れてしまいました。

咬み合わせを見る参考の一つが咬合紙です。

歯科治療でよく出てくる赤や青の薄い紙です。

咬合紙を噛んでもらって歯に付いた赤い跡を見ます。

思ったとおりです。

私も経験あるのですが咬み合わせの調整といって入れ歯のプラスチック製人工歯を削っているうちに、前歯にも奥歯にも、どこにも咬み合わせがない。

そんなケッタイな咬み合わせになることがあります。

そのような時こそ思い出すのは教科書です。

咬み合わせにも理論に裏付けされた医学があります。

様々な理論はあるものの、分かりやすくて使いやすいのは「リンガライズド」です。

すごく簡単に説明すると、上奥歯の口蓋側(内側)の歯の山が、餅つきの杵の役割りをし、下奥歯全体が臼の役割りをします。

件の入れ歯を見ると上の奥歯の口蓋側は削られているせいで山がありません。

これでは杵の役割りを果たせません。

そこでそのリンガライズドの理論に則って上奥歯の口蓋側にプラスチックを盛って杵の役割りを作りました。

再び噛んでもらうと「カチカチ」入れ歯から澄んだ音が響きます。

上手く噛めるようになった証拠です。

咬合紙でも確認すると上奥歯の口蓋側、杵に相当する部分にクッキリと赤い跡が付きました。

それなら完璧で安心かというと実はそんなことはありません。

入れ歯治療は一般的に下の入れ歯の方が難しいです。

アゴ骨も小さく湾曲している、舌が動いて入れ歯のジャマをする、アゴ自体が動くので動きに適応できないと外れたり痛みを起こしたりする。

しかしそんな中で上の入れ歯が合わないというのは本当に難しい症例のことがあります。

一般的には簡単なはずなのに難しいからです。

教科書に寄せてみたものの、何かまだ足りないことがあるかも。

教科書の他の項目、外形を頬の動きに合わせて修正する方法、咬み合わせはリンカライズド以外の2種類の咬み合わせのどっちを使おうかと想定しながら次の来院を待ちました。

1週間後に再び来院したJさん。

「あっ、調子良くなりました。外れないし食事もできますよ~」

と笑顔です。
やっぱり勉強は大事ですね。

今回行なったJさんの入れ歯の形を3回にわたって修理する治療の費用は、保険適用1割負担で総額約2,000円でした(治療費は症状により個人差があります)。

保険治療で入れ歯の金属バネが折れたのを修理

リンガライズドオクルージョン(lingualized occlusion)とは、総義歯の咬合様式のひとつで、上顎臼歯の舌側咬頭が下顎臼歯の中心窩に嵌合する咬合様式です。

Poundが提唱しました。

リンガライズドオクルージョンの利点には、次のようなものがあります。

・義歯が安定する
・咀嚼効率が向上する
・側方咬合圧が正中寄りに加わるため義歯の転覆が予防できる
・咬合調整が容易になる

リンガライズドオクルージョンを採用すると、上顎の頬側咬頭が大きく開け、食物の流れがスムーズになるだけのスピルウエイが確保できます。

また、人工歯の咬合接触面積は、小臼歯より後方に移るに従って徐々に小さくなるように設計されています。

これにより、咀嚼運動時の義歯沈下量、および浮上量を抑制することが報告されています。

リンガライズドオクルージョン専用の人工歯も販売されています。

参考文献:Search Labs | AI による概要

入れ歯の外形について

下の入れ歯の外形は患者さんのアゴ骨の形や咬み合わせによって大きく形が異なってきます。

まず入れ歯には、部分入れ歯と総入れ歯の2つの基本的な種類があります。

残っている歯もあって欠損した所に入れる部分入れ歯の外形は、残っている歯にバネ(クラスプ)をかけることで口の中に維持する構造です。

この場合、床(ピンク色の部分)は失われた歯の部分、アゴ骨の形に合わせて形が作られるのでアゴ骨との適合と、残りの歯との適合が重要となります。

部分入れ歯の外形は、以下の要素を考慮することが必要です。

バネ(クラスプ)の配置と形状:
天然歯にかけるバネは、見た目が目立たないように設計されることが多いです。

ただし保険治療の入れ歯では金属のバネを用いることがほとんどなので残っている歯の位置によっては、どうしても金属が見えてしまいます。

それで金属を使わない入れ歯もありますが、ほとんどが高額な自費治療となります。

自費治療の入れ歯は、長くなるのでここには書きませんがメリット・デメリットがあります。

当院ではおすすめしないので、よく調べて考えて進めていただきたいです。

また咬む力に耐えられるように強度も考慮されます。

それも様々な種類があります。
強度が強いイコール良い、ではありません。

保険治療で、痛い入れ歯も調整できます

義歯床の形状:
口の中のアゴ骨を覆う粘膜の形状にフィットするように作られて食事や会話の際に動かないように設計されます。

噛んでも歯ぎしりしても食事しても「動かない」入れ歯を作ることが入れ歯のもっとも大切なことです。

そう考えるとシリコン入れ歯などと称して柔らかいシリコンで床を作る入れ歯が流行っています。

しかし入れ歯自体が柔らかくて動くのでは何のための入れ歯だが私にはわかりません。

人工歯の配置:
天然歯と自然に調和し、正しい咬合を確保するために、位置や角度が精密に決められます。
これは特に前歯部分で重要です。

一方、総入れ歯はすべての歯を失った場合に用いられるもので、外形は以下のように決定されます:

基底部の形状:
上下の顎の形に合わせて作られます。

とくに下顎の総入れ歯は、安定性を保つために特殊な設計(例えば、顎の骨にフィットするように凹凸を設ける)が必要です。

入れ歯の床の形は「動かないアゴ骨の部分は、なるべく広く覆う、動く舌やスジなどの部分は避ける」か基本です。

言うは易しで、それを実現するために日々勉強し悩みながら患者さん一人一人に応対しています。

人工歯の配置:
言語機能や咀嚼機能を最大限に回復するために正しい位置に配置されます。

また見た目の自然さも大切で、顔貌のバランスを崩さないように配慮されます。

とくに顔の正中と入れ歯の歯の正中を位置、角度を合わせることは基本です。

そこが合わないと、ひん曲がった歯になってしまいます。

とくに型をとって咬み合わせの記録をとって、ワックスに人工歯を並べた仮の入れ歯で顔貌を確認する試適(してき)という工程が大事です。

当院ではこの試適の工程までを歯科医師が自ら行ないます。

模型上だと真っ直ぐに見えた歯並びが、実際の口の中では全然合ってない。

そんなことがよくあるからです。
結局は口の中に合わせながら歯並びを修正します。

自分で歯を並べていれば修正も自分で思い通りにできます。

しかしこの工程を外注の歯科技工所に丸投げする歯科医院があります。

たまたま患者さんの口と合っていれば良いのですが、合っていないと、歯科医師が自分で修正することもできなくなってしまいます。

技術、手先も使わなければ退化するからです。

歯科医師がなるべく手を動かさないよあにする「省力化」は大事だとは思います。

しかし省力してはいけない部分もあります。

当院は患者さんのために、そこは省力化せずに手を動かしています。

入れ歯の外形に関する情報は歯科補綴学の専門知識に基づいており、個々の患者の口腔内環境や要求に応じてカスタマイズされるため、ここには書ききれないほどのバリエーションが存在します。

とはいえ教科書通りの形をイメージして、なるべくそれに近づける努力は必要です。

【関連記事】→設備紹介「4・歯を抜かない治療」


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生成AIに頼る危険性と、入れ歯治療においてその末路をいち早く体現してしまった歯科業界について

杉並区西荻窪で、入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「へ~、伊藤ちゃんは入れ歯の人工歯を自分で並べてるんだー」
「ふ~ん、なんで、そんなことしてんのー、めんどくさいじゃーん」

歯科大学の同窓会で30年ぶりに会った同級生から言われました。

え、じゃあ、どうしてるの?
と逆に聞くと

「歯科技工所に丸投げー」
当然のような顔をしています。

確かに私のやり方は効率的ではありません。

入れ歯を作る手順とは

1.型をとって石こう模型を作る。
2.模型を元に上下の咬み合わせを見るためにワックスで噛んでもらう。
3.ワックスを介して上下の模型を咬合器という機械に取り付けて、下アゴが上下左右に動く動きを再現する。
4.ワックス上に人工歯を並べて患者さんの口の中に入れて歯並びを確認する試適(してき)。
5.歯科技工所に外注して完成させてもらう

この1~4までを当院では歯科医師である自分が全て行ないます。

1.の型をとる工程もアゴ骨が小さいとか難しい症例では、石こう模型を元にプラスチック製の個人に合わせたトレーを作って再び型をとることもあります。

もちろんそんなトレーも私は自分で作ります。

保険治療で入れ歯の作製

自分が20代のころに都心で勤務していた時代は1~4全ての作業を技工所に発注していました。

1か所だけ医院内に歯科技工所を持つ大手の歯科では、上司に言われて自分の患者さんの入れ歯の技工作業を全て自分で行ないました。

ただし他の先生は一切やっていなかったので、なぜ私だけ診療後に3時間残業して技工作業していたのかは謎です。

あまり長続きしなかった所なので嫌がらせのつもりだったのかもしれませんが、あまり深く考えずに受け入れたおかげで貴重な技術を身につけることができました。
だからまあまあ感謝するよう心がけているところです。

きっかけはさておいて、歯科医師が技工作業を行なう最大の利点があります。
それは入れ歯の歯並びを全て歯科医師が自分で考えて思い通りに並べられることです。

最近はchatGPTのような生成AIが話題になっています。
スマホに聞けば何でも答えてくれる、何でも作ってくれる魔法のような機械です。

しかしこの生成AIには大きな弊害があるといいます。
それは「生成AIに聞けばいいや」となることで人間が考える力を失ってしまうことです。

痛い入れ歯の調整の費用は保険治療3割負担の方で約1,000円~2,000円

こうした論調は様々な新聞や書物で見られます。
私独自の卓越した見解ではありません。

とはいえこの「人間が考える力を失ってしまう」弊害をすでに歯科医師は、だいぶ昔からこうむっている。
同窓会のちょっとした会話でしたが自分は危機感を持っています。

というより、もう手遅れです。

入れ歯作りを外注することは「生成AIに聞けばいいや」と同じで「歯科技工所にやらせりゃいいや」という発想だからです。

歯科技工士は現在なり手が少なく問題となっています。
歯科医師は歯並び一つ理解していないくせに、丸投げされて文句だけは言われる。
給料も安い。

そりゃ辞めたくなるというものです。

口の中にはたとえば歯並びの正中はココ、というある程度の指標があります。
石こう模型で見て、ある程度ここかな、という場所と角度で歯を並べます。

しかし模型だけでは顔の正中の位置や歯並びの角度などは分かりません。
模型上にそれを再現するのは不可能です。
だからいざ口の中に合わせると全然顔の正中とズレていた、角度が悪くて、ひん曲がった口元になっていた。

それで正中を3ミリ右にずらして角度を反時計回りに20度回転させた。
そんなことは普通にあります。

先ほどの1~4の工程の4.のことです。
試適(してき)といってワックスのボディに人工歯を仮に並べて口の中では歯並びを確認する作業が重要です。

そこで歯科医師が大いに考えて一生懸命に手を動かすことが必要です。
しかし「技工所に丸投げ」歯科医師では、どうして歯並びがズレたのか理解できません。

普段から手を動かしていないと、どうやって修正すれば良いのかも分かりません。
結果、患者さんから不満を持たれて、歯科医師は丸投げした技工士に不満をぶつける。

そんな事になります。

保険治療で、痛い入れ歯も調整できます

自分が入れ歯作製において歯科技工士に任せる仕事は次のことだけです。

「ワックスをプラスチックに置きかえること」

それは慣れない私がやるより純粋に数をこなしている歯科技工士の方が上手でキレイにできるに決まっています。
その単純作業だけが歯科技工所の仕事です。

だから入れ歯の合う合わないは全て歯科医師の私の責任です。

合わなかったら
「なぜ合わなかったのか」
「どうしたらもっと良い入れ歯ができるのか」
考えることにつながります。

だからこそ「一生が勉強」という当たり前の結論なのですが、そんな当たり前のことをせず歯科技工士にブースカ文句を言う歯科医師がいるのは事実です。

自分も20代のころはそんな歯科医師だったので自戒をこめて言っています。

昭和9年に開業した私の祖父は総入れ歯まで全部自分で作っていました。

ちなみにその時代はまだ歯科技工士に関する法整備がされていませんでした。

歯科技工法(現:歯科技工士法)が制定されるのは昭和30年です。

今とは比べものにならないほど歯科医師の社会的地位も収入も偏差値も高かった時代、祖父の「考える力」は歯科から溢れ出てしまっていたのでしょう。

診療していない日にはカメの甲羅を加工した硯を作ったり短歌をおさめた歌集を作ったり、今の私では太刀打ちできないことをやっていたのをうらやましく思っています。

これからも「考えること」を通して祖父に負けないような保険の入れ歯治療で患者さんに貢献していくつもりです。

参考文献:AIにはない「思考力」の身につけ方
ことばの学びはなぜ大切なのか?
今井むつみ著、筑摩書房

歯科技工士、減少問題について

歯科技工士の減少問題は日本国内の歯科医療分野において、ずいぶん前から課題となっています。
この現象の背景には様々な要因が絡んでいます。

まず教育と養成の面から見ると歯科技工士の養成校の入学者数が近年大幅に減少しています。

これは若者の間で歯科技工士という職業への関心が低下していることを示しています。

たとえば養成校の入学者数は過去30年間で4分の1にまで減少していると報じられてました。

これは先の文章で挙げたような歯科医師のワガママ、長時間労働や低賃金などの労働環境が改善されないことで職業としての魅力が薄れていることが原因として挙げられます。

労働環境の問題もあります。

歯科技工士は従来から長時間労働と低賃金が指摘されています。

私が勤めていた歯科医院の院内技工所も夜8時9時まで働くのが当たり前でした。

これは保険点数の都合で技工料が上がらず数をこなさなければならないため労働時間が長くなる傾向があるからです。

歯科技工所の経営が厳しい中で技工士の待遇改善が遅れている状況が見受けられます。

とくに保険治療の技工はやらない、という技工所も近年は出始めています。

またブラックな労働環境が問題視されることで既に資格を持っている人々が現場から離れるケースも増加しています。

離職率が高いのも特徴です。

入れ歯に歯科専用の入れ歯安定剤を貼る治療の費用は保険治療3割負担の方で総額約2,000~4,000円

さらに、技術の進歩と需要の変化も無視できません。

デジタル化が進んでCAD/CAM(コンピュータ支援設計・製造)システムなど新しい技術が導入される一方で、これらの新技術に対応できるスキルを持つ歯科技工士の供給が追いついていないという現状があります。

またCAD/CAMの機械があれば技工士がいなくても、かぶせ物なら作れるようになりました。

また歯科医療の需要自体は高齢化社会を背景に増加傾向にあって歯科技工物の質や量に対する要求も増えています。

しかし技工士も高齢化が進んでいることもあり量をこなすことが難しくなっているため一人あたりの受注量が減っている状況もあります。

政策や制度の対応も課題で歯科技工士の養成・確保に関する検討会ではこうした問題を取り上げています。

しかしせいぜい保険点数アップを要求するくらいで、具体的な解決への対策が十分に進んでいるとは言い難い状況です。

最後に社会的な認識の問題もあります。

歯科技工士の職業的な地位や重要性が一般に十分に理解されていないことも若者の志望を阻む要因となっています。

確かにマイナーな職業です。

昔、私の父の時代は歯科医師とともに羽振りが良かった時代もありましたが、もう昔ばなしです。

【関連記事】→「保険治療を選んだ理由」


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金属バーの部分入れ歯は痛みを生じても解決できないデメリットがあるので、保険治療でプラスチック製の入れ歯を作製して解決した話

杉並区、西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける、
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「入れ歯が痛くて痛くて…」
顔をしかめて入っていらしたのは80代女性のTさん。

歯グキを見ると下アゴの部分入れ歯のフチが強く当たってできる傷があります。
傷つけている原因となっているのは前歯の下の歯グキ、直径5ミリほどの範囲です。

入れ歯の該当する箇所を削れば簡単に解決…
とはいきませんでした。

なぜならその部分入れ歯が金属バーでつながった物だったからです。

左右の奥歯に渡る部分入れ歯の場合、残っている前歯の部分は、何らかの方法で入れ歯の左右をつなぐ必要があります。
それでよく見かけるのが今回のTさんのような幅5ミリほどの金属バーでつなぐ物です。

一般的によく宣伝されるメリットとしては金属バーは細いので違和感が少ないというもの。

保険治療で入れ歯のゆるさを解決

金属バーの入れ歯とは上のイラストのような形態のものです。
しかし今「細い」と書きました。

これが実は大きな「デメリット」となることを訴える情報は、インターネットで検索してもほとんど見ることがありません。

細い金属バーのデメリット、それは「調整が一切できないこと」。
だから当院では金属バーの部分入れ歯は作りません。

たとえば金属バーが歯グキに食いこんで痛い。
今回のTさんはそのケースでした。

入れ歯の全体の形を作っているピンク色の部分(床)が食いこんでいるなら対処は簡単です。
食いこんでいるピンク色のプラスチックを削れば良い。

しかし金属バーが食いこんでいる場合、細い金属バーを削ってしまうと折れてしまいます。

そうすると当然、入れ歯がつかえなくなってしまいます。

たがら痛い箇所も解決法も分かりきっているのに手を出せない、解決できないという状況になってしまいます。

これは大変なデメリットです。

一つの解決法として、金属バーには触らないで、逆に入れ歯の左右奥歯の部分、歯グキと接する床に歯科専用の入れ歯安定材を貼ることがあります。

そうすることで金属バーの部分が歯グキから浮いて痛みを緩和できる「場合も」あります。

とはいえ入れ歯の設計によってはできませんし、痛みを緩和するとはいっても一時しのぎでしかありません。

根本的な解決法としては新しく作るだけです。

当院での設計は、前歯をつなぐ所をプラスチックの床にして金属の補強線を埋めて作ります。

こうすることで強度も保たれて、痛いときにはプラスチック部分を削ることで解決できます。

金属バーと比べると厚さ、幅はあります。
しかし下の入れ歯は慣れやすくて装着後にすぐに慣れます。

上の入れ歯は違和感や吐き気が続いて使えないことがたまにありますが下の入れ歯はそのような事は少ないという印象です。

4回の来院で新しい入れ歯を入れたTさんは数日後に来院。

「いやー痛くもないし、すごく調子いいです」
と笑顔で報告してくださいました。

今回のTさんの部分入れ歯を新しく作る治療は保険治療1割負担で総額約4,000円でした(治療費は症状により個人差があります)。

入れ歯の管理について

入れ歯を形作っている構成物としては
歯グキと接するピンク色の部分(床)やプラスチック製の人工歯、残っている歯に引っかけて入れ歯を口の中に維持する金属バネ(クラスプ)があります。

これらが生きている身体、口の中、歯グキや舌などと調和して機能を回復できるよう力を発揮するためには、入れ歯の調整と患者さんへの適切な管理が必要です。

とくに新しい入れ歯を装着した直後は重要です。
その後も長期的に使用しても身体に害を及ぼさないように3か月~半年ごとに定期的に調整と患者さんへの指導を行なうようにします。

入れ歯と身体との調和が良くないまま入れ歯を使い続けると、口の中が不潔になり結果的には残っている歯の虫歯や、歯がグラグラと揺れてくる歯周病を引き起こします。

残っている歯が一本もない総入れ歯の方の場合は歯グキの表面を傷つけたりアゴ骨の以上な減りを引き起こします。

また入れ歯の適正な使い方が患者さんに理解されないままだと、入れ歯が十分な機能を営めないことにもなります。

そのようなことから、身体の変化による入れ歯の不調和が起こった場合には歯科医院での適切な対応が必要です。

ゆるい入れ歯には保険治療で歯科専用の入れ歯安定剤を貼りましょう

1.新たに作製された入れ歯、装着後1か月以内の調整・指導

1)入れ歯調整の概要について

・入れ歯が歯グキと接するピンク色の部分(床)の歯グキと接する面、端の大きさと形の調整

型をとる時に歯グキの肉が型とりの材料に押されて厚みや形が変化します。
それらを入れ歯の調整によってその変化による歪みを是正します。

型をとった時に口の端や奥は不正確になりがちです。
また型をとる時に筋、舌などは動くので、その動きによって入れ歯が外れる原因となります。
だから動く部分は避けてアゴ骨の動かない部分ほなるべく広く入れ歯で覆うことを意識します。

もっとも模型とりだけではそこまで正確な石こう模型を作ることはできません。
そこで口の中に合わせながら動いて入れ歯を外す力が加わっている部分は削る。
型とりが不十分でアゴを広く覆えていない場合は歯科用プラスチックを継ぎ足して覆う。
このような調整が1か月~2か月ほど必要となります。

部分入れ歯の金属バネが折れても保険治療で修理できます

・プラスチック製の人工歯の調整

入れ歯と接する歯グキは入れ歯で噛んだり食べ物が入って咀嚼したりする時に力がかかります。
その荷重によって入れ歯の形が変わったり入れ歯自体が動いてしまったりします。

そうすると入れ歯が口の中で安定する位置関係が変化するため上下の歯でカチッと噛んだ時の位置での人工歯の調整が必要となります。

また下アゴがカチカチ噛んだりギリギリと歯ぎしりしたりする運動の際の人工歯の接触や滑走時に接する面を身体の動きと調和するようのな調整が必要です。

・残っている歯に引っかけて部分入れ歯を口の中に維持する金属バネ(クラスプ)の調整

口の中に残っている歯があって足りない箇所を補っている部分入れ歯を装着した場合はクラスプが歯を締めて入れ歯を固定する維持力の強弱や適合具合を調整します。

入れ歯と口の機能の検査は保険治療3割負担の方で約2,000円

・調整の回数

時間が経つにつれてアゴ骨や歯グキの肉の変化や移動が続くため入れ歯と歯グキが接するピンク色の部分(床)やプラスチック製人工歯は1回の調整だけでは目的を達成することは多くの場合は難しいです。
とくに新しい入れ歯を装着した直後は、歯グキの部分的な痛みや咬み合わせの不調和などについての検査を行なう必要があります。

装着後2~3日あるいは1~2週間においても新たな検査を行なって、入れ歯の調整や患者さんへの指導を行なう必要があります。

たとえ患者さんから痛みや不快感、違和感の訴えがない場合であっても少なくとも1か月以内に数回ほどの調整や患者さんへの指導を行なうことが重要です。

参考文献:
https://www.jads.jp/assets/pdf/basic/before_h30/document-071100-01.pdf
有床義歯の管理について(平成19年11月 日本歯科医学会)

【関連記事】→入れ歯が痛い「Q.入れ歯を入れているだけで歯ぐきが痛い。入れ歯がこすれて痛いようです。ずっと痛いのをガマンして入れ歯を使っています。治りますか?」