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・「次は右が折れますよ」——1年越しの再会と、ツギハギの入れ歯が教えてくれたこと

「また壊れました~」

上の総入れ歯にヒビが入って折れ口から破片がプラプラしています。

これでは入れ歯は使えません。

一般的にはパニックする状況なのでしょうが、60代女性のRさんは何となくノンビリした口調です。

それもそのはず、1年前にも同じようにヒビが入って折れたのを修理していたからです。

1年前は、ひだり上犬歯部から後縁にかけてヒビが入りました。

それを修理していました。

その時に私がRさんに伝えていたことがあります。

それは
「今度は、みぎ側が折れる可能性は大いにありますよ」

ということ。

他院で作製されて長年調子よく使っていた上の総入れ歯です。

調子よく使えていますし出来具合は大変良いものです。

作られた先生の腕前の良さがよくわかる入れ歯でした。

しかし長年使っていると歯グキの形は変わってきます。

それは生きている体なので仕方ないことです。

すると歯グキと入れ歯の合わない部分から不自然な力が加わって入れ歯の破折につながります。

だから入れ歯が今回のように割れるのは仕方ないですが対策があります。

それは補強の金属線(補強線)を入れ歯に埋め込んでおくこと。

本来は入れ歯を歯科技工所で作製するときに、あらかじめ埋めておいてもらうことがベストです。

しかし近ごろは補強線を埋め込まれた入れ歯が少なくなったように感じます。

なぜなら昔は「補強線」が保険で認められていて点数設定は100点だったように記憶しています。

保険治療3割負担の患者さんは300円くらいの負担です。

しかしある時からこの補強線の保険点数設定がなくなってしまいました。

噂ていどですが、補強線を入れてもいないのに補強線を入れましたプラス100点、という不正請求が横行したからとの話があるとかないとか。

そんなことで保険請求できなくなってしまったからかも知れません。

ただ保険点数が変わってからも当院では入れ歯にはほぼ必ず補強線を入れて作ってもらいます。

点数設定がない割に、技工所には補強線の料金は支払うので金額的な話をすると当院の損にはなるのですが、そんな小さな損を補ってあまりあるメリットが補強線にはあります。

保険治療で、入れ歯と口の機能検査ができます。隠れた不調がわかります

それは
「入れ歯が割れても形を保ってくれること」

総入れ歯に補強線が入っていないということはプラスチックだけでできているということです。

これではもし入れ歯が今回のように割れたら完全にバラバラになってしまいます。

修理は可能です。

しかしバラバラになった破片を合わせた時に多少の手の角度次第では合わせ目が歪んでしまいます。

すると修理したのに口の中に合わないことが起こってきます。

総入れ歯だと、割れてしまうくらいですから不適合も著しくて、多少の角度の違いくらいは誤差で済んでしまうことはあります。

しかし入れ歯によってはピッタリ合っていたのに修理したせいで合わなくなってしまい、痛くて入れられなくなった。

そんなことが起こってきます。

補強線が入っていれば割れても補強線が支えてくれて形を保ってくれます。

補強線を中心に割れ目どうしを合わせれば、補強線がないよりはずっと元の形を正確に復元できます。

それで技工用瞬間接着剤で仮止めすれば精度の高い修理ができます。

口の中では1ミリの誤差というのは大きな誤差です。

そんな入れ歯に補強線を入れないなんてことは私は怖くてできません。

そのような経緯で1年前にRさんの補強線の「入っていない」総入れ歯が壊れたときには慎重に修理しました。

割れ目どうしを慎重に合わせて技工用瞬間接着剤で固定。

石こうを注いで入れ歯がズレないように模型を作製。

この工程は石こうが硬化するまで30分かかります。

模型上で入れ歯の割れ目に直交するように溝を4本掘ります。

その溝の中に補強線を作って埋めます。

補強線を4本埋めれば強度は十分です。

修理は上手にできました。
全部で1時間ほどで修理はできます。

当院では毎日1~2症例くらいは行なっている簡単な部類に入るような修理です。

しかし問題なのは、修理したのは「ひだり側だけ」ということです。

何が問題かというと「みぎ側」は何もしていないこと。

ひだり側が割れたということは、みぎ側も同じように割れる可能性が大いにあるわけです。

だから患者さんにそう説明しておいた次第です。

総入れ歯を作る費用は保険治療3割負担の方で総額約2万円

入れ歯が割れるほどの不適合です。

口を開けると簡単に入れ歯が外れて落っこちてしまいます。

だからその時に歯科専用の入れ歯安定材ティッシュコンディショナーを貼って安定させました。

ティッシュコンディショナーのおかげもあって口を開けても外れることはありません。

ただティッシュコンディショナーは耐久性がないことを説明。

近々また壊れる可能性と不適合の大きさから新しく作り直すことも勧めました。

ただRさんは、調子よくなったので、しばらく使ってみますとのことで1年前は治療終了にして様子を見ることになりました。

そうした中での今回の再破折。

補強線の入った、ひだり側はビクともしません。

破折したのはやはり補強線の入っていないみぎ側でした。

とはいえ1年前によくご説明して、患者さんもよく理解してくださっていたおかげでしょう。

患者さんも私もお互いにまったく慌てることなく入れ歯修理を行ないました。

手順は、これまで書いてきたことと全く同じです。

1時間で修理できました。

劣化したティッシュコンディショナーを薄く削りとって再び貼ります。

さすがに左右とも補強線が入り組んだツギハギだらけの入れ歯になったので、新しく作り直すことになりました。

入れ歯を新しく作り直すときに注意することが一つあります。

それは
「前の入れ歯と全く同じ咬み合わせで新しい入れ歯を作ること」

なぜなら前の入れ歯と違う咬み合わせの新しい入れ歯を作ってしまうと、まず使えないからです。

生えている歯があれば
「はい噛んでください」
といって上下の歯で噛んだ位置が下顎の安定した位置になります。

当たり前のことを述べているに過ぎないのですが歯があればその安定した下アゴの位置で入れ歯を作れば、まず失敗はしません。

それでは歯が一本もなかったら下アゴはどこで噛めば良いのでしょうか?

この下アゴの位置を決めるのが大変難しいのです。

ワックスで仮の入れ歯を作って決める
ゴシックアーチという装置で決める

などありますがいすれも何十年も前から行なわれているアナログな方法です。

ワックスを熱して柔らかくして噛ませるとか、装置とはいっても下の仮の入れ歯に金属の板にマジックインキで色を付けたものを貼り付けておいて、上の仮の入れ歯には細い針を付けておきます。

それで上下で動かすと金属板のマジックインキが針でハゲるので動かした道ができます。

その道から咬み合わせの位置を判断するとか内科医の聴診器とか背中をトントン叩くとかと同じレベルの古典です。

内科医ももちろん古典的な検査は大事ですがレントゲンとかMRIとか血液検査とか最新鋭の検査も併用しているはず。

しかし咬み合わせの位置決めにそのような最新鋭のテクニックは存在しません。

大学病院などではそれっぽい電子機器を使う話は散見されるものの保険治療に入ってくる気配はないです。

ですから歯が一本もない下アゴの咬み合わせをゼロから作るのは大変難しいわけです。

たとえば
「テッテレー、咬み合わせチェッカー♪」
みたいな装置を顎関節に当てて口をとじるとピッピッピッと音が鳴って、適切な咬み合わせの位置を感知するとピピピピピピと音が変わってお知らせしてくれる。

そんなナイスな機械があれば簡単なのですが残念ながら、そんなナイスな機械はまだありません。

だから今使っている入れ歯があれば大変助かります。

当院では下アゴの石こう模型と今使っている入れ歯を合わせて上の入れ歯の模型と噛ませます。

そうすれば正しい咬み合わせにできる可能性がグンと上がります。

実際に患者さんが使っている入れ歯だからです。

石こう模型と入れ歯は必ずしもピッタリ合うわけではないのですが口の中との誤差は多少の修正で概ね合わせることができます。

だから修理して入れ歯を使い続けることが作り直すときに活きてくるわけです。

こうして新しい入れ歯も、よく合うものができました。

今回行なったRさんの総入れ歯修理は、1回の通院でした。費用は保険治療3割負担で総額約4,000円でした(部位や症状により費用は変わります)。

【関連記事】→入れ歯が壊れた「Q.使っている入れ歯が壊れてしまいました。どうすればいいでしょうか?どのくらいの日数、費用で治りますか?」


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・「センセのおっしゃる通りになりました」半年ぶりに戻ってきた患者さんの言葉の真意

「センセのおっしゃる通りになりました」

半年ぶりに入っていらしたのは50代男性のDさん。

半年前に初めていらしたDさんの相談は

「部分入れ歯の金属バネ(クラスプ)が折れた」

というもの。

前歯部は自分の歯が残っていて両側奥歯が入れ歯になっています。

そのひだり側のクラスプが根元から折れていました。

治療方針は単純です。

クラスプを新しく作る修理をすること。

入れ歯を口の中に装着しておいて型をとります。

型に石こうを注いで模型を作製。

模型上でクラスプを作って入れ歯に埋めこみました。

石こうが硬化するのに30分、クラスプを作る作業、患者さんの口の中に装着する工程などを含めて約1時間で修理できます。

これは歯医者がクラスプを作れるからできる芸当です。

一本のステンレスワイヤーをプライヤーで屈曲して形を作ります。

私の祖父の時代から行なわれている古典的な技法で少し年とった歯科技工士なら誰でもできます。

もっとも歯科技工士が制定されたのが昭和30年。

昭和9年から当地で開業していた祖父の時代にはまだ歯科技工士が存在しませんでした。

だから祖父は自分でクラスプを作っていたと私は父から聞きました。

その影響で父もクラスプを作ることができました。

ただ父はワイヤーを平面的に曲げる単純鉤の作製が精いっぱい。

しかも精度に難がありました。

私は縁あって都心の歯科医院に勤務していた時に併設されていた歯科技工所で教わってクラスプを作れるようになりました。

専門家から習ったおかげで立体的に曲げる両翼鉤も作れます。

実際の臨床の場面ではこの両翼鉤を作れて始めて「入れ歯修理できます」と堂々と言えます。

その技術を買われて父の手伝いをしながら少しずつ患者さんを引き継いでいった次第です。

そのような経緯で歯医者である私がクラスプを作れるのですが、使いどころが多く毎日1~2症例くらいは入れ歯修理しています。

仮にクラスプが作れなかったとしたら、大概の歯医者は作れないのですが、どうするのでしょうか?

部分入れ歯の金属バネが折れても保険治療で修理できます

模型を歯科技工所に出して修理を発注します。

すると模型を渡して作ってもらって届けに来る。

大急ぎでやらせても4~5日かかります。

昔は働き方改革など概念もなかったので

「徹夜でやってよ、よろしく~」

と言っていたのですが今はそういうわけにはいきません。

そんな無茶をさせたら取り引き停止になってしまいます。

ですから1週間は入れ歯ナシになるでしょう。

患者さんとしてはそれは困ります。

生活が成り立ちません。

だから歯医者がクラスプを作って1時間で治すことが必要です。

そのようなことで1時間で修理できました。

しかし意外と難しい症例でした。

なぜなら入れ歯の咬み合わせが生えている歯よりも5ミリも低いからです。

生えている前歯部と入れ歯の奥歯とで段差があるのです。

これがなぜ難しいかというと、高さがないとは薄くて壊れやすいということだからです。

またたとえば前歯の先端と奥歯の先端を全て結ぶと一つの平面ができます。

これを「咬合平面」といいます。

咬合平面はなるべく平らな平面であることが求められます。

今回は前歯部と奥歯とで段差があります。

すると不均衡のために修理した部分などに思わぬ過大な力がかかる可能性が大きいです。

ただでさえ薄いところに過大な力のかかりやすい状況。

今回は修理したものの再び壊れる、クラスプが折れるでしょう。

そのように壊れやすい可能性を説明して入れ歯の奥歯部分の咬み合わせを高くする治療(バイトアップ)をご提案していました。

後日にその治療をしようかと考えていたのですが、患者さん曰く修理したクラスプの適合が良く快適に使えたから、とのことで通院が途絶えていました。

それで半年経って再び同じクラスプが折れたわけです。

「また修理はできるけど再び壊れる可能性は高いですよ」

とあらかじめ申し伝えておいた甲斐あって患者さんも

「その通りになった」

と覚えていてくださって今度は気軽に来てくださるわけです。

ところでこのDさんの入れ歯修理は別の難しい理由がありました。

ゆるい入れ歯には保険治療で歯科専用の入れ歯安定剤ティッシュコンディショナーを貼ると安定します

それは入れ歯の前歯部の形態です。

両側奥歯の入れ歯なので前歯部で何らかの形で左右の奥歯部分とつなぐ必要があります。

その形が治療を難しくしていました。

前歯部は補強の金属線を埋め込んだプラスチックの板(レジンプレート)でつないでいたのですが、その板の幅が極端に細いのです。

金属線の幅が3ミリ程度。その金属線をプラスチックで覆っているものの、全体的な幅が5ミリもないくらいでした。

実際に1箇所にヒビが入っています。

金属線のおかげで形は保てていますが、いつボキッと折れても不思議ではありません。

またレジンプレートがある程度の大きさがあると良いのは、前歯部の裏側を覆うことで入れ歯が前歯部に乗っかって動かないようにしてくれることです。

今回の幅の細い形態では、プレートは前歯部の下の歯グキに当たっているだけ。

これでは噛むと入れ歯が歯グキに沈みこんでプレートが歯グキを傷つけてしまいます。

また型をとる時も入れ歯が安定しません。

半年後の再修理で型をとった時は、型とりの工程で入れ歯が口の中で動いてしまい、歯からズレた位置での模型になってしまいました。

模型が不正確なのだから修理したクラスプも合いません。

とはいうもののプライヤーで多少の修正をしたら上手く適合しました。

ズレたとはいえ垂直的に沈んだだけだったので根本的に入れ歯が入らないみたいな事態を避けられたようです。

そのようなことから今回の治療方針は二つの工程を経ることにしました。

一番はその細すぎるレジンプレートを大きくすること。

前歯部の歯にプレートが乗っかるように修理します。

模型上で修理するのが正確にできるのですが、そもそも正確な模型を作れないことは経験済みです。

そこで口の中でプラスチックを盛ってプレートを作ることにしました。

粉と液を混ぜると硬化するプラスチックを入れ歯に盛って口の中に装着して、口の中で形を整えます。

正確な模型が作れるならば模型上で作業した方が、作業しやすいことは確かです。

ただそのような事情により口の中で作業を行ないます。

30分ほどで前歯部のレジンプレートが完成。

大きな構造物だと違和感が大きそうなものですが下の入れ歯については、そのような苦情はほとんど起こりません。

上アゴの口蓋部分は気にされる方がよくいます。

「いやー、むしろ入れ歯がしっかりして頼りになる感じで、良いですよ~」

とDさんも好感触。

これで1週間ほど使っていただいて違和感や痛み、傷などできないか確認しました。

10日後に来院され順調だったので一番やりたかった、咬み合わせを高くするバイトアップをします。

咬合平面を整えるのは大事です。

ワックスの板を少し熱して両側奥歯の噛む面に付けます。

歯科用パラフィンワックスといって厚さ約1.4ミリに規格化されています。

両側とも1.4ミリ咬み合わせが高くなるわけです。

それで噛んでもらうと

「あー、これは良いですね。よく噛めます」

とDさん。

そもそも咬み合わせが低すぎるところを高くするのでトラブルは少ないです。

ただ確認は必要です。

手がける症例を間違えると
「あっ、咬み合わせ高すぎっ、ムリムリ」
みたいになります。

確認したところ大丈夫そうなので片側ずつワックスを外して歯科用プラスチックに置きかえました。

30分ほどの作業で修理できます。

入れ歯の奥歯部分も、幅ができたので壊れにくくなります。

これで当分は快適に使えます。

実際に後は3~6か月ごとの定期的な入れ歯の微調整と残っている歯の歯周治療を行なって順調に経過しています。

今回行なったDさんの入れ歯を修理する治療は4回の通院でした。費用は保険治療3割負担で総額約1万円でした(症状や部位によって費用は変わります)。

【関連記事】→入れ歯が壊れた「Q.入れ歯の歯がよく欠けたり、入れ歯が割れることがたびたびあります。改善できますか?」


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・「もう歯がない…」と肩を落とす50代男性。4万5千円で、歯を見せて笑える顔を取り戻した「逆転の治療計画」とは?


「歯がないのですが、何とかなりますか?」

不安げな様子で背中を丸めて入っていらしたのは50代男性のZさん。

歯自体は残っています。

ただ上の前歯5本分が歯の根だけの状態です。
奥歯も多くが歯の根だけ。

歯の根の状態は良好。

このような良好な状態ならば、根の中に最新鋭のファイバーでできた土台を埋め込んで、かぶせものを作れば前歯の形を回復できます。

ただし作れれば…の話です。

単純に前歯を作れば良いわけではない事情がありました。

その事情とは、カチッと噛んでもらうと下の前歯が上の歯の根と完全に噛みこんでしまっていること。

つまり「物理的に」前歯のかぶせものを作るスペースがないわけです。

よく目にするトラブルで
「かぶせものが簡単に壊れた、外れた」
というものがあります。

それは今回のZさんのようにスペースがない所に無理やりかぶせものを、それも高額な自費治療でセラミックなどを入れてしまう。

そうすると自らの噛む力でかぶせものを壊してしまいます。

かぶせものなら、また作り直せばいいのですが、歯自体がグラグラ揺れてきたとか、歯の根が割れたとかが起こったら、もう歯を抜く以外の方法がなくなってしまいます。

そうならないためには、いきなり前歯を治すのではない、ひと工夫が必要です。

そのひと工夫とは奥歯です。

奥歯も失っている部分、歯の根だけの部分があります。

その奥歯を先に形を復活させることです。

そこで今回はまず、ひだり下の奥歯を失っている部分に小さな入れ歯を入れることにしました。

まず入れ歯を作るところがポイントです。

前歯のかぶせものを作るスペースを作るための入れ歯だからです。

なぜ、ひだり下奥歯部分に入れ歯を作ることにしたかというと、ひだり上の奥歯が健全だから。

ムシ歯も歯周病もない。

だから健全なひだり上の奥歯と、ひだり下奥歯の入れ歯で噛ませて咬み合わせを高くすることにしたわけです。

ところで咬み合わせを高くするのは、かなり大きな治療です。

保険治療で、痛い入れ歯も調整できます

今回のような症例は歯科の世界では、いわゆる難症例とされています。

どのくらい高くすれば良いか?
どのくらい高くできるのか?

何ミリ高くしていい、何ミリ高くできる、といったことを客観的に測る方法がないからです。

咬み合わせを変えると、とくにアゴの関節に影響を及ぼします。

人によっては顎関節症の症状が出てアゴが痛くなったり口が開かなくなったり、極端な症例では手足の痺れ、めまいなど全身に影響する不定愁訴(ふていしゅうそ)と呼ばれる症状を起こす可能性も否定できません。

だからこそ、まず「入れ歯」なのです。

入れ歯だったら咬み合わせを高くする、低くする、の調整が簡単にできます。

症状が出るなら入れ歯ですから外してしまえば症状は止まります。

そのようなことから、まず入れ歯を作って合わせました。

ひだり側奥歯だけですが咬み合わせが高くなったおかげで、奥歯でカチッと噛むと前歯は3~4ミリほどのスキマができました。

ギリギリなスキマですが、これならかぶせものを作ることができます。

もっとも、まず咬み合わせを作ったのは、ひだり側だけ。

患者さんには状況をよく説明して1週間使っていただきました。

1週間後に話をうかがうと、やっぱり最初の2~3日は違和感あったそうです。

しかしそれ以降は慣れて、ひだり側で食事もできるようになりました。

咬み合わせが決まれば後は簡単。

みぎ奥歯に金属のかぶせものを作って、みぎ側奥歯でも噛めるようにしました。

みぎ側奥歯もムシ歯が大きかったのですが、入れ歯によってスペースができたのでかぶせものを作ることができました。

とはいえみぎ奥歯のスペースもギリギリではあります。

銀歯になってしまいますが保険治療で金属のかぶせものを作りました。

・強度がある
・調整しやすい

ギリギリの状況で作るものなので長持ちするかどうかは分かりません。

だからこそ保険治療で行なう方が後から融通がききます。

奥歯のかぶせものが長持ちしない可能性は否定できません。

しかし長持ちしなかったら、かぶせものをあきらめて新たに入れ歯を作ることは簡単にできます。

これが仮に自費治療50万円のセラミックのかぶせものを入れて長持ちしなかったら、とてつもないトラブルになるはずです。

50万円のかぶせものを入れるなら10年使えて当然だからです。

しかし難症例の場合、そんな見通しは立たないに決まっています。

だから見た目は仕方ないのですが「あえて」金属冠にしました。

患者さんも納得してくださって着けた金属冠でしたが、大変調子よく両側奥歯でよく噛めるようになったと笑顔でおっしゃってくださいました。

歯が抜けても保険治療で入れ歯に増歯修理

これでようやく前歯の作製に取りかかります。

ここからはあまり説明することはありません。

一般的な白い歯の色の前歯を保険治療で作製。

ここでも保険治療を行なうことを強くお勧めします。

やはりスペースがギリギリだから。

歯の根に保険治療で出来る最新鋭のファイバーコアを用いて歯の根から伸びる土台を作りました。

かぶせものを作れるまで土台を作ると実は下の前歯と当たってしまいます。

そこで下の前歯の先端を2ミリ削って何とかかぶせものを作れるスペースを作った次第。

こんなギリギリの症例でセラミックや貴金属の作品など作ったら、これまで書いてきたようなトラブルになることは確実。

そんなギリギリな症例には、後から修理調整しやすいようにハードレジンジャケット冠(HJC)という強化プラスチックのかぶせものを使います。

色も遜色ないものができます。

「おおっ、やっぱり歯があるのはいいですね~」

とZさんはきれいな歯を見せて笑顔でおっしゃってくださいました。

今回に関連する話で、自費治療専門歯科医院に勤めていた知人から聞いた内容に背筋が寒くなる思いをしました。

それは、今回のと同じような状況で奥歯が必要であることを知人は患者さんに説明したそうです。

しかし自費治療専門なので奥歯を作るのも高額な自費治療。

すると前歯だけ作るのと比べて、奥歯と前歯を作ると金額が倍になってしまいます。

結局100万円か200万円か、という話になってしまったそう。

それで患者さんは
「いくら何でも200万円は…」
とのことで100万円で前歯だけ作ったものの、案の定あっという間に壊れてしまった。

それはそれは、とてつもないトラブルになったと言っていました。

自費治療とは何でも治る魔法の治療法なんかじゃありません。

大いに矛盾のある危険な施術と思ってください。

とくに巷の歯医者のホームページにおいてよく見られる主張で
「保険治療は安いだけ」
みたいな内容があります。

だからちゃんとした治療は保険ではなく自費治療で、という論調です。

しかしこれは近視眼的な暴論です。

なぜなら歯科以外の医科においては、ほとんどが保険治療で行なってくれるからです。

子どもがカゼ引いて近所の内科に行って

「保険の薬なんかダメです。百万円の薬にしなさい」

そんなこと言われないはずです。

保険治療は安いだけ

そんなことを医科の先生に言ったらコラーと怒られます。

とくに歯医者も削る、抜く、詰めるだけでなく、悪化しないように「管理」する概念が近ごろの保険治療において盛んに盛り込まれるようになりました。

この5年くらいの話です。

医科でも健診の重要性が増しているので歯科でも口腔機能検査、口腔機能管理という名前で保険治療で用いられています。

このように安心できる価格の最新の保険治療で当院は患者さんに貢献しています。

今回行なったZさんの歯を作る治療は14回の通院でした。費用は保険治療3割負担で総額約4万5千円でした(費用は部位や本数、症状などにより変わります)。

【関連記事】→歯を抜くことについて「Q.歯が抜けた部分がありますが入れ歯を使っていません。そのままで大丈夫でしょうか?」


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・「たった3ミリ」で劇的変化! 総入れ歯の「痛くはないけど、気持ち悪い」耐え難いくちびるの違和感が消えた理由

顔が下がる感じ
発音しにくい
くちびるが引っぱられる

微妙な表現をされるのは50代女性のNさん。

痛い、とかならば痛みを起こしている原因を探って取り除けばいい。

多くの場合は痛みを起こしている部分は直径2~3ミリほどの赤い潰瘍になっています。

だから目で見てわかるわけです。

ところが先ほどの訴えは目で見てわかる病変ではありません。

上下とも歯が一本もない総入れ歯です。
他院で作製されたものですが、あまり悪い出来には見えず、作り手の努力がうかがわれます。

本当に悪い出来ならば、そもそも口の中に入れていられません。

実際に患者さんはいつも口の中に入れて食事もできています。
でも使いにくい、違和感がぬぐえない。

正直に申し上げると、これは苦戦が予想されました。

というのは総入れ歯になった経緯です。

元々は7本の歯を金属冠でつなげた大きなブリッジが入っていました。

前歯はそれで何とか格好がついていたのですが、ある時から支えの歯が揺れ出して、あえなく抜歯に。

するとそれまで入れ歯を全く使ったこともなかったのが、いきなり歯14本分の総入れ歯となってしまいます。

当院に長く通っている方は比較的早くから着脱可能な入れ歯を入れることをおすすめしています。

たとえば歯が2本抜けた時点で2本分の小さな入れ歯を入れる。

年月が経って他の歯が抜けたら、抜けた部分は入れ歯にプラスチック製人工歯を継ぎ足す増歯修理を行ないます。

これまで入れ歯を使っているならば増歯修理して多少は入れ歯が大きくなって、2本分だったのが3本分の入れ歯になったとしても違和感を生じることなく、すぐに適応できるものです。

こうして少しづつ入れ歯が大きくなって、4本5本6本分となって最終的には歯が一本もない左右14本分の総入れ歯になる。

もちろん総入れ歯になるまで何十年もかかるわけです。

このような経緯で総入れ歯になったのならば問題を起こすことは少ないです。

もちろん歯が抜けたりしないように努めるのが歯医者の役割であることは百も承知です。

ですが何十年か経過して総入れ歯になる患者さんはそれなりにいます。

ですから患者さんと信頼関係を築いて時間もかけていくことで、歯がないことを患者さんが受け入れていく。

そのような方向性を決めて患者さんにも徐々に納得して受け入れていただけるよう努力しています。

患者さんの心の受け入れと総入れ歯使用については研究はされているものの、具体的な心の受け入れを数値化して総入れ歯の成功率をパーセントで示した論文などは、私が探した限りでは見つけることができませんでした。

たとえば「入れ歯を受け入れる心チェッカー」みたいなマシンがあってアゴに機械を押し当ててピピピッと測り、10以上なら総入れ歯できる。10未満だとできない、みたいな。

そんな便利な機械は残念ながら存在しません。

ですからなるべくトラブルにならないように穏やかに、歯がない状況にソフトランディングさせるのも必要な技術です。

それには時間もかかります。

それが入れ歯ナシから、いきなり総入れ歯。
これがどんな状況かというと…

保険治療で、痛い入れ歯も調整できます

あなたが明日突然、手足がなくなって車イスと義手になったと想像してください。

そもそも
「何でこうなった」
とパニックするところから始まるでしょう。

いきなり車イスと義手など使いこなせるはずがないことは想像できるかと思います。

これがたとえば難病などで何十年か経つ間に少しづつ手足の自由が効かなくなる。

こちらはこちらでもちろん大変な状況ではありますが、少なくとも時間はある程度あります。

明日からいきなり手足が動かなくなる難病というのは、あまりないでしょう。

それならば対策も考えつきそうですし少しづつですが覚悟感みたいなものもできて受け入れると思います。

このようなことと同じ状況と私は思いました。

総入れ歯になったことに対して、いわばパニック状態にあるわけです。

それゆえの難しさ。
時間が経つのを待つしかない。
そのようなことも考えられます。

そんな中でも一所懸命に口の中に入れて使ってくださっているのですから素晴らしいことです。

入れ歯を作った歯医者の先生は良い腕前なのでしょう。
それだけに問題を解決したい。

とはいうものの症状を起こす原因がハッキリしないのです。

このような時は、とにかく話を聞くこと。

先ほどの訴えの中で一つヒントがありました。

それは
「くちびるが引っぱられる」
というもの。

これは入れ歯の前歯の歯並びが前に出過ぎているときに起こる症状です。

とはいえ上下の入れ歯でカチッと噛んだり歯ぎしりしたりした時の歯並びは全く悪くありません。

一箇所で安定して噛めますし歯ぎしりも前後左右に不自由なくできます。

この歯並びを変えるのは相当な勇気が必要です。

たとえば噛んだときの垂直的な高さを変えてはいけません。

垂直的な高さとは、カチッと噛んでもらった状態で鼻の下からアゴの下までの高さをノギスで計測します。

まずはそれを変えないように気をつけます。

入れ歯を新しく作ると往々にしてその高さが変わってしまうことがあります。

また咬み合わせの高さがとくに低くなると下アゴが前に出てしまいます。

そのまま入れ歯を作って無理やり前に出たアゴの位置で使い続けると顎関節症になったり、よく噛めなかったりといったことにつながります。

すると違和感が大きくて使えない入れ歯になってしまう。

とくに今回のNさんのような違和感を強く訴える方は、そうなる可能性が大きい。

気軽に入れ歯を作り替えるなどのことはしない方が無難です。

自動車やスマホなどは新しい物の方が絶対に性能が上です。

なぜならそのように作っているからです。

ですが入れ歯はそういった「物」とは違う概念で成り立っていると考えてください。

新しく作っても上手くいかないことがある。
むやみやたらと新しく作ることが逆にトラブルの元となる。

他にたとえる物がないので表現が難しいのですが、新しく作るタイミングなどは患者さんと歯医者とでよく相談して
「これはもう作り替える以外に治療法がない」
そんなタイミングが作り替える時です。

だから定期的に長年通って信頼関係を築き上げることが何より大切です。

当院では祖父の代から何十年も通っている方も大勢おられます。

それはトラブルの少ない、なおかつ効果の高い治療法を選んでいるからと思っています。

ですから今回は咬み合わせの本質は変えずに前歯の出過ぎていることだけを変えます。

具体的には前歯の後ろ側に歯科用プラスチックを盛って出過ぎている部分を削ります。

ちなみになぜプラスチックを盛るかというと、後ろ側にプラスチックを盛らずに歯の前側を削ると歯がなくなってしまうからです。

前歯の後ろ側に歯科用プラスチックを盛って出過ぎている部分を削ります

粉と液を混ぜると硬化するプラスチックを盛って、硬化するまで5分ほど待ってから前歯の前側を削ると、歯並びが一本分ほど後ろ側に下がりました。

「あっ!_くちびるの引っぱられる感じがなくなりましたよ!」

Nさんは驚いた顔をして笑顔で答えてくださいました。

変化としては3ミリほどです。

多少は歯が前に出ていても不自由なく使っている人は大勢います。

ですから歯医者がこの3ミリの違いに気がつくのは、なかなか難しいものです。

ただ当院では同じように前歯を後ろに引っこめる治療をいくつも手がけていたので、気がつくことができたのだと思います。

まずは下の総入れ歯で前歯の位置を後ろに引っ込めました。

同じことを上の総入れ歯でも行ないました。

実はこれでキレイさっぱり全ての症状、違和感を解決…というわけにはいきませんでした。

とはいえ、これ以上歯並びをいじるのは無理でした。なぜならこれ以上も削ると入れ歯に穴が開いてしまうところまで入れ歯が薄くなっていたからです。

入れ歯の厚みをゼロというわけにはいきません。

ただ、これまでと比べれば格段に使い良くなったとのこと。

後は3か月~半年ごとに微調整しながらNさんも使う努力をしてくださっています。

今回行なったNさんの入れ歯を調整修理する治療は5回の通院。費用は保険治療で3割負担で総額約1万円でした(症状や治療部位などにより費用は変わります)。

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・10年以上愛用!「身体の一部」になった入れ歯を捨てない理由:「カチカチ」と噛める保険治療の修理術(費用1,000円)

「3か月経ったので定期的な調整で」

とのことで来院されたのは80代男性のTさん。
律儀に3か月ごとにいらっしゃいます。

10年以上前まで記録を遡っても作製した記録がありませんでした。
もっと前に当院で作製した入れ歯です。

なぜ分かるかと言うと上の入れ歯の上あご部分に保険治療でできる金属製の補強床が入っているからです。

この補強床とは、私も父から教わって初めて知った材料です。

他の歯科医院の作品でお目にかかることは、まずないと思われます。

高額な自費治療で用いられる、いわゆる金属床入れ歯は見た目はカッコいいのですが長い目で見ると色々と問題を起こす作品です。

たとえば金属部分が歯グキと当たって傷を作ってしまう場合にプラスチックなら遠慮なく削ることができます。

しかし金属を削ると入れ歯が折れてしまう構造になっていることがあります。

すると保険治療の入れ歯なら簡単に治せるのにような治療すらできません。

他にも致命的な欠点がいくつもあります。

金属床など高額な自費治療について、他の歯医者のホームページではあまり出てこない話については、当院のホームページや他のブログでもたくさん書いています。

だからここではこれ以上は割愛させていただきます。

上の入れ歯は、この保険治療の補強床のおかげもあって10年以上も使えているので自費治療に負けない力を備えていると考えて良いのでしょう。

いっぽう下の入れ歯は、元々は残っている歯がある部分入れ歯でした。

歯が抜けると、抜けた部分にブラスチック製人工歯を継ぎ足す「増歯修理」を繰り返して、最終的には残っている歯が一本もない総入れ歯となりました。

多くの場合は部分入れ歯から総入れ歯になると不適合が著しくなって使いにくくなります。

だから新しく総入れ歯を作ることが多いです。

しかしTさんは作り替えずそのまま使っていました。

それはもちろん増歯したツギハギだらけの入れ歯を見れば経緯がよくわかります。

もっとも下が総入れ歯になったのも私が当院で治療をし始める前の話です。

当院では10年分はカルテを保存しています。

10年以上も来院のなかった患者さんのカルテはシュレッダーをかけてしまいます。

しかしTさんの場合は来院が定期的に何十年も続いています。

一冊の本のような分厚いカルテの束になっています。

10年以上前の記録など処分しても良いのですが整理整頓がどうも苦手なので、そのまま積まれてしまうという。

それで20年分くらいは記録を遡れるものの下の入れ歯に増歯修理した記録も探してみたものの見つけることができませんでした。

そのような経緯で上下とも総入れ歯です。

保険治療で、痛い入れ歯も調整できます

ちなみにこの5年ほどの話ですが、歯科治療も
「入れ歯が合った、合わない」
みたいなフワッとした印象だけで判断するのでは、いかがなものかと言われるようになりました。

そこで検査をして正確な数値を出して、科学的根拠に基づいた治療をしましょうという流れになっています。

具体的には「口腔機能検査」を行ないます。

7項目の検査をして数値を元に治療をします。

さらにこの治療も「削る、詰める」だけの仕事だけでは不十分とされるようになっています。

入れ歯とは杖や車イスと同じ道具です。

道具を使いこなせるようにするために必要なのが「リハビリテーション」です。

だから治療の中にリハビリテーションの概念が導入されました。

入れ歯や口、舌、飲み込みや咀嚼の性能を口腔機能検査で計測し、その結果に基づいてリハビリテーションを継続的に行なっていく。

入れ歯の調整も、たとえるならば杖の長さや車イスの背もたれの角度を調整するようなリハビリテーションを円滑に進める目的で行なわれるわけです。

この口腔機能検査は保険治療でできます。

一つひとつの検査は、保険治療3割負担の方で500円くらいでできるものです。

当院ではこの口腔機能検査と、それに基づいた口腔リハビリテーション治療を積極的に行なっています。

そのようなことでTさんは、入れ歯の修理調整、口腔機能検査が保険治療に導入されてからは検査とリハビリテーションを行なって、ずっと調子の良さを保ってきました。

今回の入れ歯を拝見すると、生活に影響などはないとおっしゃるものの、入れ歯の奥歯がすり減っています。

身体のガッシリしたTさんは噛む力も強いです。

調整、修理してから3か月~半年も経つとプラスチック製人工歯がすり減ってしまいます。

そこで今回は入れ歯のすり減った咬み合わせを修理する治療をご提案しました。

これまでずっと定期的にすり減っては修理しています。

同じ治療をもう何回も行なっています。

そのようなことで治療の提案にすぐにご同意いただきました。

元気な方ですが遠方から介助者と来院されます。

年齢的にも体調的にも新しく作るのは避けた方が安全です。

多くの壊れた入れ歯は保険治療で1時間で修理できます

Tさんが総入れ歯となった経緯を書いてきました。

なぜ書いたのかというと、これほど長年に渡って使い続けている入れ歯を新しく作るのは大変難しいと言いたいからです。

「この入れ歯は、もはや身体の一部ですね」

とTさんはおっしゃいます。

本当にその通りです。

ツギハギだらけではありますし、修理を繰り返している影響で入れ歯の厚さが一般的なものの倍くらいあります。

しかし作り替えはまず上手くいかないです。

仮にTさんが使っているのが
「全然使えない!」
「やたらと壊れる」
「合わせてもすぐに合わなくなる」

こんな入れ歯なら調整修理しながら新しく作ることで良い入れ歯にすることが可能です。

しかし不自由なく使っている、3か月~半年くらいの適切な間隔での定期的な治療、リハビリテーションで快適に使えている。
壊れることもない。

そんな良好な入れ歯を捨てて新しく作るのは蛮勇とも言える行為です。

ぜひ良好な入れ歯を使い続けることをお勧めしますし、この文章を読んでいるあなたもそのような事を理解して対応してくれる歯医者に通われることを願っています。

そのようなことで今回のTさんについては、まずは簡単にできる治療から行なうのが鉄則です。

奥歯がすり減った面に、粉と液を混ぜると硬化する歯科用プラスチックを盛り足して噛んでもらいました。

簡易なものですがリスクが少なく簡単に咬み合わせを回復できます。

すり減った部分を補うだけなのでとくに技巧を要することはありません。

プラスチックが硬化するのを10分ほど待って、それから余計な部分を削って研磨したら完成。

治療としては簡単なものですが、意外と多くの歯医者は選ばない治療である可能性は高いです。

ロクに調整もしないで

「すぐに高額な自費治療の入れ歯を作りましょう!」

と提案されたとの話を患者さんからお聞きすることが多いからです。

でも新しく入れ歯を作るのは大きなリスクでもあることは覚えておいていただきたいと思います。

全部で20分ほどで修理できた入れ歯を入れたTさんは

「あっ、これはまたよく噛めますよ!」

とカチカチ噛んでからおっしゃってくださいました。

歯がすり減ったりして奥歯の咬み合わせが不正になるとカチカチ噛もうとしても音がしません。

グニュグニュといった咬み合わせになります。

それを修理することで奥歯の咬み合わせが良好になると「カチカチ」と澄んだ音が出ます。

気持ちよく噛めることで気持ちよく食事できるようになります。

3か月~半年ごとの入れ歯修理。

もう私の父の代から続けている治療でTさんの入れ歯は常に良好な状態を何十年も保てているのは私も本当にうれしいです。

今回行なったTさんの入れ歯を修理する治療は治療回数1回でできます。
費用は保険治療1割負担で総額約1,000円でした。

【関連記事】→入れ歯で噛めない「Q.奥歯で噛みにくくなった感じがします。入れ歯を作りかえなければいけないのでしょうか?」

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