杉並区、西荻窪で、保険の入れ歯治療を数多く手がける歯医者、いとう歯科医院の伊藤高史です。
オルタナティブブログに記事を載せました。
「抜かなくていい歯」を抜こうとする歯医者にご用心!歯を残したまま入れ歯を即日修理できたワケ↓
https://blogs.itmedia.co.jp/ito_takafumi/2025/07/80.html
ホームページ掲載 すみ
杉並区、西荻窪で、保険の入れ歯治療を数多く手がける歯医者、いとう歯科医院の伊藤高史です。
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「センセ、これはもう入れ歯を作り直すしかないですよね」
診察室に入って開口一番におっしゃるのは80代男性のMさん。
いやいや、口の中を見ないとわからないので。
Mさんが困っているのは歯の揺れ。
ひだり下の歯、3本が前後左右に大きく揺れます。
これは抜くしかない。
Mさんもこの歯は抜くしかないと理解されていました。
それで
歯を抜く→入れ歯を新しく作る
と考えたそうです。
Mさんは他院で作製された金属床の入れ歯を長年使っています。
入れ歯の出来具合は良好で、歯が揺れるまでは何ごともなく使っていました。
せっかく長年順調に使っている入れ歯なので新しく作り直すのはもったいない。
いえ、材料費とか通院回数とかがもったいない等とケチくさいことが言いたいわけではありません。
長年使い続けている入れ歯は、もう患者さんに馴染んでいます。
その長年の積み重ねを越える作品を新しく作るのは至難の業だと言いたいのです。
そんなに夢のように良い入れ歯がパパッと作れるわけではない。
仮にがんばって作ったとしても
「これまで使っていた物のほうがいいよ」
となって新しい入れ歯はケースに入ったまま…
そうなる可能性は高いです。
ではMさんのケースではどうするか?
グラグラの歯、3本を抜いてから入れ歯にプラスチック製人工歯を継ぎ足す増歯修理を行ないます。
Mさんの場合、ひだり下の歯を3本抜くと残りはみぎ下に1本が残るだけになります。
もっとも今回の治療はみぎ下は関係ないので、入れ歯はそのまま使えます。
残っている歯に引っかける金属バネ(クラスプ)の修理などはしなくていいので簡単な修理です。
とはいえ歯を3本抜くのは意外と大きな治療ではあります。
抜いた穴(抜歯窩)から出血が多いので糸で縫い合わせて傷口をふさぐのと念のために化膿止めの抗菌薬を処方します。
抗菌薬とはいわゆる抗生物質のことです。
一般的な歯科で感染予防で使うのは、アレルギーがなければペニシリン系のアモキシシリンです。
参考文献:JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2016 ―歯性感染症―: 日本感染症学会
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/guideline_JAID-JSC_2016_tooth-infection.pdf
アモキシシリンは一般的に「第1世代」と分類されます。
1972年に開発された古くからある薬です。
私の父もずっと使っていました。
第1世代とは、要するに「古い」ということです。
アモキシシリンはペニシリン系抗菌薬です。
似たものでセフェム系抗菌薬というものがあります。
セフェム系には第1世代~第4世代まであります。
ペニシリン系抗菌薬にはそのような世代はないので厳密には第1世代と言うのはおかしいのですが、ペニシリン系セフェム系と一緒くたに扱うことも多いのでペニシリン系抗菌薬のアモキシシリンも第1世代と通称されるようです。
もう30年くらいの話ですが当時最新だった第3世代経口セフェム薬がもてはやされた時代がありました。
商品名としてはフロモックス、メイアクト、セフゾン、トミロンなどです。
第2世代セフェム系抗菌薬のケフラールを大学病院でも使っていて、その後継薬が出たとのことで私も上司の先生の指示で処方した記憶があります。
しかし最近の研究でこの第3世代経口セフェム薬の薬効に疑義が呈されるようになりました。
経口の第三世代セフェム系抗生物質が「悪者扱い」される主な理由は、消化管からの吸収率が低く、効果が期待できない場合があること、そして耐性菌を生み出しやすいという点が挙げられます。
・吸収率の低さについて
経口の第三世代セフェム系抗生物質は、一般的に消化管からの吸収率が非常に低いとされています。
たとえばアモキシシリンは吸収率90%である一方、フロモックスやメイアクトなどは吸収率が20%程度しかないと指摘されています。
・効果が疑問視されるように
吸収されなかった薬剤は体外に排出されるため、腸管内の細菌感染以外にはほとんど効果がないと指摘されています。
・耐性菌の増加も
経口の第三世代セフェム系抗生物質は広範囲の細菌に効果を示すため、感染症を起こしている細菌だけでなく、腸内細菌などの常在菌も減少させてしまいます。
その結果、耐性菌が定着しやすくなる菌交代現象を引き起こす可能性を指摘されるようになっています。
・低カルニチン血症のリスク
ピボシキル基を持つ経口の第三世代セフェム系抗生物質は、重篤な低カルニチン血症を引き起こす可能性があり、低血糖や痙攣などの症状を引き起こすリスクがあることも指摘されています。
これらの理由から、経口の第三世代セフェム系抗生物質は、乱用や不適切な使用を避けるべきだと考えられています。
参考文献:学会トピック◎第34回日本環境感染学会総会・学術集会
「『だいたいウンコ』な経口第3世代セフェムは病院で採用すべきでない」のか?
「病院で第3世代経口セフェムの採用は必要か」Pros&Cons
2019/04/01
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/hotnews/int/201904/560401.html
定期的な入れ歯調整メンテナンス。費用は保険治療3割負担の方で総額約2,000~3,000円
このようなことから医科では処方することが少なくなっていますし、歯科ではもう第3世代経口セフェム薬を処方する理由は全くありません。
ただし2024年ころに薬の流通の混乱があって極度に抗菌薬が出回らなくなっています。
薬局でさえもアモキシシリンが入荷待ちなんてことがあって、そのような際は在庫がある第3世代経口セフェム薬をやむを得ず、仕方なく処方する場合があります。
ただそんな混乱があったものの2025年には少し回復しているようでアモキシシリン入荷待ちは減ってきています。
そのようなことで抜歯後に歯グキが腫れたり治りが悪くなったり全身に影響が出たりすることを防いでいます。
その日は他の患者さんが待っておられたので、その患者さん方の治療が終わるまでMさんには待合室でガーゼを傷口で噛んで圧迫する止血をしてもらいました。
45分ほど経ってから再び拝見するともう出血はなくなっています。
これならば入れ歯の増歯修理も簡単です。
やはり出血を気にしながらだと入れ歯修理も難しくなりますし、
患者さん→自分→他の患者さん
という感染もこわいので、しっかり止血。
そのために止血の時間を確保するのは大切なことです。
ところでその抜歯した部分へ、入れ歯にプラスチック製人工歯を継ぎ足すことでその日のうちに歯並びを回復させる増歯修理。
金属床入れ歯ならではの困難があります。
それは金属とプラスチックはくっつかない、ということ。
プラスチック製の入れ歯だったらプラスチックで修理するのは簡単です。
しかし金属の部分にプラスチックで修理するのはひと工夫必要です。
ひと工夫、それは金属床に穴を開けること。開けた穴にプラスチックを流しこんで物理的な嵌合力に期待します。
歯を削るエアタービンに金属を削る用のカーバイトバーを付けます。
たとえば金属のかぶせものを削ることはあるので、そういうバーはあるわけです。
とはいえ口の中のかぶせものよりは金属床入れ歯の方が格段に分厚いです。
だから削るのも大変。
穴を一つ開けるごとにカーバイトバーを一本使うので3本使って3つの穴を開けました。
これならば修理した部分は入れ歯にしっかり維持してくれます。
こうしてグラグラの歯、3本を抜いてから入れ歯にプラスチック製人工歯を継ぎ足す増歯修理は、その日のうちに完了できました。
「歯がある時よりも、これならしっかり噛めます」
Mさんは笑顔でおっしゃってくださいました。
ここに書いた内容を説明すると
「これは作り直したりせずに、このまま使った方がいいですね」
と考え直されたようでした。
修理が上手くできると、新しく作り直すよりもずっと短い時間で調子良い入れ歯に修理できます。
それは本当に患者さんのためになることです。
そんなMさんに聞かれたことがあります。
それは
「センセみたいに職人技を持っている歯医者って少ないでしょう?」
たとえば入れ歯を作るのも歯科技工所に丸投げ、歯列矯正も業者に丸投げ、そんな歯医者は増えていると思います。
でも今回のように職人技が活きる場面が入れ歯治療には数多く存在します。
昔に都心で勤務していた時代に
「もうこれからの時代はインプラントがあるから入れ歯なんか廃れてくるよ」
と先輩の歯医者から言われたことがあります。
…あれから30年近く経っていますが、そんな時代は来ていません。
【関連記事】→治療方針「以前に通っていた歯科医院でよく入れ歯のメンテナンスをしてもらっていたが、引っ越しや歯科医院の移転、閉院で通えなくなってしまい、どうしたらいいか困っている」
杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。
「あ、例の薬は飲んでから来ました」
と言って入ってこられたのは60代男性のKさん。
歯はそろっていて入れ歯もありません。
歯の揺れもありません。
数本の虫歯治療と定期的な歯周病治療を行なう治療計画を立てたのですが、定期的な歯周病治療を行なうために、解決しなければならない問題がありました。
定期的な歯周病治療とは
・超音波の力で歯石を除去する「スケーリング」
・回転するエンジンの力でブラシと特殊なペーストで歯面の汚れを除去する「機械的歯面清掃」
・9000ppmという高濃度のフッ素を歯に塗って虫歯を予防する治療「フッ化物歯面塗布処置」
を行ないます。
普通の場合には問題になることは何もない治療です。
しかしKさんの場合に問題となるのは「スケーリング」。
何も対策を講じなかったらスケーリングが絶対にできない事情がありました。
一般的には歯医者だけでなく歯科衛生士でもできる業務ですが、難しくしているその事情とは…
心臓の病気です。
具体的には心臓弁膜症でした。
・心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)とは、心臓にある4つの弁のどこかに異常が起こり、弁の働きができなくなる病気です。
弁が固くなったり切れたり癒着したりすることで、血液の流れをコントロールできなくなり、心臓に負担がかかります。
放置すると心不全や突然死を引き起こす可能性があります。
弁膜症には「狭窄」と「閉鎖不全」の2つのタイプがあり、弁の開きが悪くなる「狭窄」と、弁が閉じなくなり血液が逆流する「閉鎖不全」があります。
また、両方が同時に起こることもあります。
とくに「大動脈弁」と「僧帽弁」の異常は頻度が高く、重要です。
高齢化の進行とともに加齢による弁の変性や石灰化が増えており、65歳以上の約10人に1人が罹患すると言われています。
参考文献:https://www.cvi.or.jp/9d/862/
心臓の病気と歯周病との関連が近ごろは注目されるようになりました。
スケーリングを行なうと歯グキから出血します。
歯グキに炎症を起こしている菌を取り除く意味もあるのですが、逆に出血するということは口の中のバイ菌が血管の中に入り込むということでもあります。
するととくに歯周病の原因菌が血管を通って体の中を巡り、心臓にくっついて病気を引き起こすことが分かってきました。
動脈硬化や感染性心内膜炎は命に関わる病気です。
まずは動脈とは何か、そして動脈硬化とはどのような状態なのか、私たちの身体にどのような影響を及ぼすのかを簡単にみていきましょう。
動脈の役割
血管には大きくわけて動脈、静脈、細小動脈、毛細血管の4つがあります。
このうち動脈は、心臓から血液を全身に送り届け、酸素や栄養分を運搬する役割を担っています。
動脈は、内膜、中膜、外膜の3層からなるパイプのような構造で、心臓から送り出された血液は、約20秒で全身に届けられます。
心臓から勢いよく押し出される血液を滞りなく全身に届けるために、動脈は強く、柔軟性があります。
動脈の柔軟性を保つうえで重要な働きをしているのが、動脈の内膜の表面にある血管内皮細胞です。
血管内皮細胞は、血管が収縮したり拡張したりする機能を維持する物質を作り出しています。
動脈硬化とは?
動脈硬化とは、文字どおり動脈が硬くなる状態のことです。
この過程は加齢によるところもありますが、個人差が大きく、とくに血液中のコレステロールが強く影響しています。
なかでもLDL−コレステロール(悪玉コレステロール)が多く、HDL-コレステロール(善玉コレステロール)が少ないと動脈硬化が進みやすいことがわかっています。
動脈硬化になると、血管や心臓に大きな負担がかかって心臓の機能が低下したり、血管が破れて生命にもかかわる大きな病気を発症するリスクが高くなります。
動脈硬化には、粥状動脈硬化(アテローム性動脈硬化)、中膜硬化(メンケベルク型動脈硬化)、細動脈硬化がありますが、一般的に動脈硬化といえば、粥状動脈硬化のことを指します。
生活習慣病や肥満などにより、血液中のコレステロールが増加したり、高血圧や高血糖の状態が続くことで、血管壁に負担がかかります。この状態が長く続くと、血管内にLDL-コレステロールや細胞が蓄積していきます。
これを粥腫(じゅくしゅ)といいます。
粥腫が蓄積することで血管が狭くなったり、粥腫が剥がれたりすることで血液の流れを塞いでしまうことにもなります。
動脈硬化を起こした血管は、ちょうど古い水道管が汚れて詰まったり、さびが剥がれやすくなるのと同じと考えるとわかりやすいでしょう。
血管が狭くなると必要な酸素、栄養が全身に行き渡りにくくなり、さまざまな臓器や組織に影響が及びます。
さらに血管が詰まってしまうと、臓器や組織に血液が流れず、その場所が壊死して狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの心臓や血管の病気を発症しやすくなります。
また、硬くなった血管はもろく、破れやすいため、脳出血やクモ膜下出血の発症リスクが高まります。
参考文献:動脈硬化NET
https://www.domyaku.net/about/
感染性心内膜炎(Infective endocarditis)は、心臓の内側に細菌が感染し、これによる心臓弁の穿孔等の炎症性破壊と菌血症を起こす疾患です。
起炎菌としては口腔内常在菌である緑色連鎖球菌や黄色ブドウ球菌が多く、弁尖などを破壊することによる心不全がもっとも危険です。
「そんな大げさな」
と思われるかもしれませんね。
歯科治療によって血管にバイ菌が入る「菌血症」の確率は、これまた数字で出ています。
「日常生活や歯科治療における菌血症の発生頻度」によると
抜歯で10~100%
スケーリングで8~79%
となっています。
こんな高い確率ならば予防が絶対に必要です。
参考文献:http://www.kankyokansen.org/journal/full/03405/034050237.pdf
それではどのように対応するか。
このような症例に対しては実は対応方法が決まっています。
入れ歯治療などは口の大きさ、入れ歯の形、適応できる範囲、個人の好みなど個人差があまりに大きいので、それこそ百人の歯医者がいたら対応方法が百通りある、みたいになってしまいがちです。
いっぽうこの心臓に病気を持つ患者さんの、感染性心内膜炎を予防する方法には概ねハッキリした一つの答えがあるのです。
「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン」
です。
参考文献:https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_nakatani_h.pdf
歯科で出血するような治療を行なう場合、予防的抗菌薬投与を行なうことが推奨されます。
具体的にはアモキシシリンという古典的ながら今でも歯科では第一に推奨される抗菌薬を2グラム。
スケーリングなどを行なう1時間前に単回投与。
と定められています。
歯科治療で使うアモキシシリンは1錠中に250ミリグラムなので8錠を一気に飲むことになります。
ちなみにこの8錠は、歯医者では処方できません。
私が処方できれば歯の治療前に病院へ行く煩わしさがなくて良いのですが、そうはいきません。
たとえば歯医者が処方せんに
「アモキシシリン8錠、単回投与」
などと書いて薬局に持っていったら、薬局から問い合わせが来てしまいます。
歯医者はそのような薬の処方が保険治療で認められていないからです。
なぜ歯医者が処方してはダメなのか?
なぜならその抗菌薬は感染性心内膜炎の予防のために使うわけですが、感染性心内膜炎を検査、診断し治療できるのは歯医者ではなく医師だからです。
歯医者は感染性心内膜炎の検査、診断、治療はできません。
だから感染性心内膜炎を予防するための抗菌薬8錠は医師に処方してもらう必要があるわけです。
では抗菌薬を処方してもらいたい場合に医師と歯医者との連絡をどうするか?
これもまた保険治療においてルールが決まっています。
それが「診療情報等連携共有」です。
歯医者から医師へ紹介状のような形で文書提供し医師から返事の文書を受け取ることで行なうものです。
当院ではもう決まったひな型があって、必要事項を記入して医療機関に郵送できるようになっています。
Kさんの場合も医療機関と連絡を取り合って、スケーリングの前には医療機関で抗菌薬を処方していただくことになりました。
余談ですが歯医者の求めに応じて医科が文書で対応してくださった場合には医科も保険点数が算定できます。
その項目などを示した案内文書も同封して医科の先生も対応しやすいように工夫というか配慮もしています。
論文をベースとしたガイドラインに則って保険治療の流れで行なうことなので安心して治療が受けられるように体制を整えています。
こうしてKさんは3~6か月ごとに安全に歯周病治療を行なって歯グキを良い状態に保っています。
また心臓の病気を予防することで医療自体にも歯医者が関わっているのです。
杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。
「作ってまだ3か月しか経ってないので修理できないと断られまして…」
おずおずといった感じではいっていらしたのは60代男性Dさん。
はじめに申し上げますと入れ歯を新しく作ってから、すぐでも保険治療で修理できます。
もちろん「全ての入れ歯に対して」作って直後に修理などという無茶な保険点数算定をしていたとしたら査定されるのは当たり前ですが、作ってすぐに何か壊れることはあります。
だから安心していただきたいと思います。
壊れたのは部分入れ歯を歯にひっかけて入れ歯を口の中に維持する金属バネ(クラスプ)。
左右の二つある中の、みぎ側クラスプの頬側(外側)だけが折れています。
長さとしては5ミリくらいのものです。
しかしその5ミリがないだけでもう入れ歯は使えなくなってしまいます。
舌を動かすだけで入れ歯はパカッと外れてしまいますし食事できなくなってしまったと言います。
保険治療の入れ歯には俗に言う「半年ルール」というものがあります。
それは新しい入れ歯を作ったら半年は作ってはいけない、というものです。
これは厳密に色々のケースによって解釈も色々あります。
また場合によっては半年以内でも作り替えが認められることがあります。
細かいケースについては気軽にお尋ねいただければ幸いです。
ともかく修理に関しては半年間も修理してはいけないルールはありません。
もっとも保険制度がどうのこうのと言うよりも考えなければいけないことがあります。
それは「なぜ3か月でクラスプが折れたか」です。
普通はそんなケースは少ないものです。
入れ歯を入れて噛んでもらってすぐに折れた原因が分かりました。
咬み合わせです。
一般的には上下で噛むと上の歯が下の歯を前側あるいは外側に覆うように並んでいます。
それがDさんの場合は一般的なケースと逆で下の歯が前に極端に出ています。
昔のプロレスラー、アントニオ猪木さんみたいな咬み合わせでした。
それでたまたま上の歯が下の入れ歯のクラスプに強くぶつかってクラスプを折ってしまったのでした。
治療方針としてはクラスプの修理です。
入れ歯を口の中に入れておいて型をとって、石こうを流して模型を作ります。
模型上でクラスプを作って入れ歯に埋め込んで修理完了。
金属ワイヤーから単純鈎を一つ屈曲するだけなので作業としては簡単です。
もっともクラスプ屈曲ができる歯医者は少ないので、冒頭のように断ってしまう歯医者はいます。
クラスプ屈曲さえできれば簡単な修理なので他の歯医者もやって欲しいものです。
今回の修理で気をつけた点が2点あります。
まず一点目は型とりです。
クラスプが効いていないので口の中で入れ歯がフラフラ動いてしまいます。
歯医者が指で入れ歯を動かないように押さえながら型をとりました。
二点目はクラスプの位置です。
修理前と同じ場所にクラスプを設置したら、またクラスプが上の歯とぶつかって再び折れてしまいます。
上の歯とぶつからない位置に設置しました。
一般的にクラスプを修理するというと専門の歯科技工所に外注します。
模型を作って発注して作ってもらうと。
歯医者がクラスプを曲げて作れれば1時間でできるところを1週間はかかるので入れ歯修理としては現実的ではありません。
患者さんは1週間も入れ歯ナシというわけにはいかないはずです。
しかも歯科技工所は患者さんの口の中を知りません。
ともすると修理前と同じ場所に設置してしまいがちです。
それが一番簡単で、自然にそのような位置になってしまうからです。
患者さんの口の中がわかっている歯医者だからこそ、多少は屈曲が大変になるものの、口の中の状況に合ったクラスプを作ることが可能です。
そんなことで1時間で修理できた入れ歯は調整する必要なく口の中に収まりました。
「あっ、これならピッタリですね」
舌を動こしても入れ歯は浮きません。
Dさんは笑顔で帰られました。
今回行なったDさんの入れ歯のクラスプを修理する治療は、1回の通院で費用は保険治療3割負担で総額約4,000円でした(費用は治療部位や症状により変わります)。
入れ歯は、失われた歯の機能を補い、生活の質を向上させる重要な医療機器です。
しかし毎日のように使われる中で、破損や劣化は避けられず、修理が必要となる場面は少なくありません。
この入れ歯の修理は、一見単純な作業に見えて、実は多岐にわたる専門知識と技術を要する非常に難しい作業です。
その難しさの要因は、主に以下の点にあります。
1. 材料の多様性と特性の理解
入れ歯は、レジン(歯科用プラスチック)、金属、セラミックなど、様々な素材を組み合わせて作られています。
それぞれの素材には、異なる物理的・化学的特性があり、破損の状況や部位によって、最適な修理方法、接着剤、補強材料が異なります。
たとえば保険治療で広く用いられるレジンの破損であればレジンによる修理ができるのですが、金属床の破損であれば溶接やろう付けといった特殊な技術が必要となります。
実際には難しく、当院もろう付けの設備はあるのですが、ほとんど使うことはありません。
また残っている歯が抜けたり折れたりした時に、入れ歯にプラスチックの人工歯を継ぎ足す増歯修理という技術があります。
その増歯修理が保険治療のプラスチック製入れ歯なら簡単にできます。
プラスチック同士なら問題なくくっつくからです。
しかし高額な自費治療の金属床入れ歯だとこの増歯修理が格段に難しくなります。
あるいは出来ないこともあります。
なぜなら金属とプラスチックはくっつかないからです。
金属に無理やり穴を開けてプラスチックを埋め込んだり溝を掘って物理的な嵌合力に期待したり工夫はします。
ただそもそも穴を開ける場所がないくらい細い金属板だったり溝を掘れるほどの厚さがなかったりします。
普通に保険治療のプラスチック入れ歯なら簡単の修理が自費治療の金属床になつているせいで苦労したり修理不可能になってしまったりします。
また近ごろ流行のシリコン入れ歯、ノンクラスプ入れ歯などというものがあります。
商品名としてはコンフォート、スマイルデンチャーなど。
このような入れ歯には最大にして致命的な欠点があります。
それは「修理できない」こと。
壊れたら、あきらめて新しく作るしかない。
痛くなったら、あきらめて新しく作るしかない。
ゆるくなったらあきらめて新しく作るしかない。
「最新鋭、最先端技術のシリコンによって夢のようによく合う!」
みたいに喧伝されるものですが実際には言うほどは合いません。
とはいえ無理にでも削って合わせたり、歯科専用の入れ歯安定材みたいな材料ティッシュコンディショナーを無理やり貼り付けたりすることはあります。
ただあまり改善はできないのが実情です。
これらの材料特性を熟知し、適切な材料を選択する知識が不可欠です。
2. 精密な適合性の再現
入れ歯は、患者さんの口腔内の形状に正確にフィットすることで、安定した噛み合わせと快適な装着感を提供します。
破損した入れ歯を修理する際、元の適合性を完全に再現することは非常に困難です。
わずかな歪みやずれでも、噛み合わせの不調や粘膜への圧迫、さらには発音の障害を引き起こす可能性があります。
だから先に紹介したように、口の中で動かないように型をとる工夫が必要です。
ただ押さえる場所がないとか難しいケースもあります。
とくに、クラスプ(維持装置)の破損や、床(しょう:歯肉に接する部分)の破折の場合、口腔内の複雑な湾曲や歯列との関係性を考慮した上で、ミクロン単位の精度で修理を行う必要があります。
クラスプ修理は、写真で拡大してもスキマが見えないくらいの精度が必要です。
たとえば歯科技工所でクラスプを作ると、どうしてもそのスキマがないほどの精度ができない場合があります。
だから当院では入れ歯を作る際は歯医者が自分でクラスプを屈曲して発注のときにそのクラスプを技工所に渡して使ってもらうこともあります。
3. 口腔内環境の複雑性
入れ歯は、常に口腔内の湿潤で温度変化のある環境に晒されています。
唾液、咀嚼圧、清掃時の力など、様々な要因が入れ歯に影響を与えます。
修理後にこれらの口腔内環境に耐えうる強度と耐久性を持たせるためには、単に破損部位を接着するだけでなく、応力集中を避けるような設計変更や、適切な補強を施す必要があります。
これも先にご紹介した、クラスプの形の作り方を工夫して上の歯とぶつからないようにした、という話です。
こんにちは。院長の伊藤です。
早いもので、1年の半分が経ちましたね。
この半年間、 多くの方々にご来院いただき、その分たくさんの笑顔に触れることができました。
本当にありがとうございます。
1年の後半も皆さまの歯の健康を守るため、精いっぱい努めてまいります 。
さて普段は、患者様の唯一無二のお口の健康を守り抜く、という責任を自負しながら歯科医師としての仕事に全力を注いでいる私。
しかし白衣やスクラブを身につけていないときは、一介の父親でもあります。
物騒なニュース等を耳にするたび、家族のことが心配でたまりません。
こちらは先日、娘が塾へ行くところのワンシーンです。
娘の背中を玄関先まで追いつつ、「行ってらっしゃい」「気をつけてね」「明るい道を通って帰りなさいよ」と、くどくどと声をかける私。
しまいには「そうよ、最近もニュースで……」と妻まで加わる有り様。
娘はたまらず「もう!そんなの両側から立体音響で聴いてるみたいで、うれしくないワ」と、言いながら外へ出てきました。
まあ親心だと思ってください。親の心配は尽きません。
「ただいまー」と普段どおり元気に帰ってくるとやはりホッとします。
何かあれば少しでも事前に対策をしておかなければと、普段から警視庁のスマホアプリ「デジポリス」で情報収集しています。
特に、女性の皆様! 怖い思いをしたら迷わず110番ですよ!
ちなみに5月下旬から6月の上旬まで、春の運動会シーズンでしたね。
お子さん・お孫さんの学校へ、応援に行かれた方も多いのではないでしょうか。
娘は毎年「ダンスが凄くうまく踊れたよ!」「今年は◯位だった、悔しい!」などと感想を聞かせてくれます。
しかし私としては、怪我に注意をしながら自分のベストを尽くしてくれれば結果に関係なく、それで良いと思っています。
これも親心。
当院にも子育て中の方や、お孫さんのお話を楽しそうに話してくださる患者様が多くご来院されます。
皆様がお話してくださるお子さん・お孫さんの一人ひとりの健やかな成長を、歯科医師としても一人の父親としても心から願っています。
【医院からのお知らせ】
2025年7月は暦通りの診療です。
いとう歯科医院
〒167-0054
東京都杉並区松庵3-6-3
TEL:03-3333-5389
URL:https://ireba-ito.com/
Googleマップ:https://maps.app.goo.gl/9jrBJZuNm3gP5v3C7