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杉並区西荻窪|「あっ、これなら歯が見えますね!」歯科医が自ら調整する総入れ歯の「自然な笑顔」とは? オルタナティブブログ

杉並区、西荻窪で、保険の入れ歯治療を数多く手がける歯医者、いとう歯科医院の伊藤高史です。

オルタナティブブログに記事を載せました。
杉並区西荻窪|「あっ、これなら歯が見えますね!」歯科医が自ら調整する総入れ歯の「自然な笑顔」とは?↓

https://blogs.itmedia.co.jp/ito_takafumi/2025/09/post_199.html

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・金属を多用した高額入れ歯にご用心! 痛い原因、まさかの「削れない」構造だった!

杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「食事すると入れ歯が痛くて…」

顔をしかめているのは50代女性のOさん。

普段は痛くないけれど食事すると痛い。
そのような症状はよくあります。

こんな時には2~3日様子を見てください。
症状が治まらなかったら早めに歯医者を受診しましょう。
自然に治ることはありません。

なぜなら入れ歯のフチや内部の出っ張りが歯グキと強く当たって傷ができると、そのような症状が出ます。

これは物理的な刺激、たとえれば針が刺さっているのと同じ状態ですから、原因を除去しない限り自然には治らないからです。

治療方法としては歯グキと当たっている入れ歯のフチや内部の出っ張りを削って除去すること。

歯グキの傷は多くの場合ハッキリと見えますから、傷に白いペーストを付けて入れ歯を装着。

それから入れ歯を取りはずすと白いペーストが入れ歯に転写されます。

その入れ歯に着いた白い部分を削れば解決します。

原因がハッキリしていて解決方法も単純。
普通であれば簡単な治療です。

しかし…

今回は簡単な治療ではありませんでした。

思わぬ理由でOさんのケースではその治療が行なえなかったからです。

思わぬ理由とは入れ歯の構造上の問題です。

Oさんの下アゴは前歯6本が生えていて両側の奥歯がない状態。
両側の奥歯が入れ歯で、前歯の部分でつながっています。

そのつなぐ方法が悪かった。

保険治療で、痛い入れ歯も調整できます

鋳造バーといって細い金属でつないでいたのです。

模型上でワックスで作り、それを金属に置き換える鋳造(ちゅうぞう)という手法で作られます。

・模型上で、ワックスで形を作る
・ワックスで作ったものを金属のリングで覆ってから埋没材という熱に強い石こうで埋める
・埋没したものに熱を加えてワックスが溶けて流れ出ると埋没材の中に空洞かできる
・その空洞の中に熱した金属を流し込む

手間はかかるものの歯グキと精密に合ったものができるとの触れ込みです。

細いから違和感が少ないという大義名分で使われる鋳造バーは、保険点数が高く設定されているため、小金を稼ぎたい歯医者が好んで用いる方法です。

もっとも、この数年で鋳造バーに使われる金属の値段が急激に上昇しました。
昔は30グラム1万円くらいだったのが10万円とかになっています。
これは鋳造の合金に含まれるパラジウムという金属が原因です。

パソコンや半導体の需要が急増して貴金属であるパラジウムの価格が跳ね上がっているのです。
金やチタンの方が安いくらい。
ですから今は鋳造バーは値段的にも厳しそう。

値段の話はともかく、ほとんどネット情報にも出てこない話ですが、この鋳造バーには致命的な欠点があるため当院では使いません。

致命的な欠点とは
「鋳造バーを削れないこと」

Oさんのケースでも鋳造バーを見た瞬間にイヤな予感がしたものです。

歯グキの赤く潰瘍状になった傷に白いペーストを付けて入れ歯を装着。
外すと入れ歯に白いペーストが転写されます。
その白いペーストを見て、当たってほしくなかった予感が的中してしまいました。

鋳造バーに白いペーストが付いているのです。

模型上でいくら精密に合わせたとしても歯グキは柔らかいですし生きている体です。歯グキの方が変化して鋳造バーと当たることなど、いくらでも有り得ます。

先に「細いから違和感が少ない」と書いた鋳造バーは幅が3~4ミリ、厚さが2ミリほどです。
傷に接しないようにするために削ると、通常は直径2~3ミリは削ることになります。
幅が3~4ミリの物を2~3ミリ削ったらどうなるか、わかりますよね。

はい、入れ歯はボキッと折れてしまいます。

この致命的な欠点があるから当院は用いないのですが、当院の他にそのような情報を出している所は皆無でした。

「鋳造バー 欠点」と検索しても
「鋳造バーが歯グキを傷つけていた場合に削る調整が一切できず治療できなくなってしまうこと」
との情報は私が書いた話以外、まったく出てきません。

ですからここに書くのですが簡単で分かりやすい話だと思います。
こんな当たり前の話を他の歯医者はなぜ言わないのか不思議です。

入れ歯に歯科専用の入れ歯安定剤を貼る治療の費用は保険治療3割負担の方で総額約2,000~4,000円

その話は置いといて現実にどうするか。

鋳造バーを可能なだけ直径1ミリ削って傷口を少しでも避ける努力をしました。
折れたら終わりなので慎重に、おっかなびっくり削ります。

それでも装着すると
「あっ、さっきよりラクになりました!」
と笑顔です。

これともう一つやることがあります。

それは入れ歯左右の臼歯部の調整です。

歯グキと接するピンク色の面にティッシュコンディショナーという入れ歯安定材のようなものを貼ること。

入れ歯の臼歯部がわずか0コンマ何ミリでも挙上されます。

こうすることで金属部分も0コンマ何ミリでも歯グキとスキマができることを期待します。

部分入れ歯は金属バネ(クラスプ)を歯に引っかけることで維持しています。
だからティッシュコンディショナーをあまり厚く貼ってしまうとクラスプが合わなくなってしまいます。

そのような理由でティッシュコンディショナーを貼るといっても、このようにせいぜい0コンマ何ミリの厚みを与えるのが精いっぱいです。

それでも効果はありました。

「あっ、これならまったく当たらなくなりました」

Oさんは再び笑顔。

しかし…

これで終わりにはなりません。
結局新しく入れ歯を作ることは必要です。

なぜなら今行なった処置は一時しのぎでしかないから。

だから同じ日に口の型をとって新しく入れ歯を作る治療も進めることにしました。

案の定、1週間後に来院されたOさんは

「はじめの数日は良かったんですけど、やっぱり食事すると痛いですね」

とおっしゃいます。

もう金属バーを削ることはできません。

ティッシュコンディショナーは適合が良くなる優れた材料ですが欠点があります。

それは「劣化」です。
時間とともに劣化します。

保険治療でも必要ならば毎週ティッシュコンディショナーを貼る治療が認められています。
そのくらい劣化が早いわけです。

そこで入れ歯を作る作業を進めながら、今使っている入れ歯に再びティッシュコンディショナーを新たに貼りました。

そのようなことから次からの治療は1週間も空けずに3~4日ごとに来ていただくことにしました。

入れ歯も歯医者の私が自分で作ります。

通常は完成を専門の歯科技工所に発注します。
しかしそうすると発注する、模型を引き取りに来る、作製する、持ってくる、このような工程で、どうしても1週間~十日はかかってしまいます。

近ごろは働き方改革などの影響で
「急ぎで明日までに徹夜で作ってね、よろ~」
などのような無茶な発注はできません。

そんなことをしたら狭い業界ですぐに話が広まって取引停止になってしまいます。

歯医者である私が入れ歯を作れば、2~3日、極端なケースでは明日作ることも可能です。

こうして4回の来院で入れ歯が入ったOさん。

両側臼歯部をつなぐ前歯の部分はプラスチックに補強の金属線を埋め込んで歯、歯グキと形を合わせたプレート状にします。

こうすることで歯グキへの過剰な負担を避けられます。

痛みが生じてもプラスチックの部分を削ればいいので調整が簡単にできます。

金属バーと比べてプレート状に幅が広くなると違和感は、どうなの?
と気にされる方もいますが、すぐに慣れます。

前歯のプレートの違和感が原因で入れ歯が使えないというトラブルは、私自身は経験がありません。

実際にOさんも新しい入れ歯を一回の調整で不自由なく使えるようになりました。
そのため現在は、順調に3か月ごとの入れ歯の調整と残っている歯の定期的な歯周治療を行なっています。

【関連記事】→入れ歯が痛い「Q.噛んだ時に、歯ぐきが痛いです。食事のときは入れ歯を外してしまいます。入れ歯をつけて食事がしたいです。治りますか?」


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・高額なシリコン入れ歯を捨て、保険治療で快適な毎日に。その驚きの理由とは?

杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「自費治療の金属床入れ歯の方が調整しやすいんです」
「自費治療の金属床入れ歯の方が修理が簡単なんです」
「自費治療のノンクラスプ入れ歯の方が歯とよく合います」

歯医者からそう力説された60代女性のNさん。

そーかなー?
と素人ながら疑問を持ったと言います。

もっとも歯医者じゃないあなたでも、そのような「イヤな予感」「勘」「なんとなく見えるヘンなオーラ」みたいなものは大切にしてください。
だいたい当たります。

「でも言い返せないですからねえ…」

渋々ながら30万円で作製された自費治療の下の部分入れ歯。
フレームに金属を多用して、歯に引っかけて入れ歯を維持する金属バネの代わりにシリコンの構造物を引っかけるというもの。

完成したものの、ひだり下の歯グキが痛くてしょうがない。入れ歯を入れて食事ができません。

またシリコンの構造物と歯が合ってなくて食事中に入れ歯が簡単に外れて食べものが入れ歯と歯グキの間に挟まってしまう。
これも痛くてツラい。

しかし当の歯医者は
「この入れ歯はこれ以上は調整できません」
の一点張り。

・調整しやすい
・修理が簡単
・歯とよく合う

の話はどこへ行ってしまったの?
それで困ったNさんは当院へいらっしゃいました。

定期的な入れ歯調整メンテナンス。費用は保険治療3割負担の方で総額約2,000~3,000円

まずは痛みを取り除くことから。

ひだり下の歯グキには直径5ミリほどの大きな傷ができていました。
これは入れ歯の余計な角や出っ張りが歯グキを傷つけて起こす症状です。
治療法としては歯グキを傷つけている入れ歯の余計な角や出っ張りを削って歯グキに当たらないようにすること。

単純明快です。
しかし今回のNさんの入れ歯は安易にそのような治療を許さない事情がありました。

それはシリコンの構造物です。

歯グキに当たっていたのがシリコンの構造物だったのです。
下手に削ると構造物が壊れてしまいます。

だからノンクラスプ入れ歯はお勧めできないと当院では力説しています。
後から何かが起こった時に、その構造がいちいち足を引っ張るからです。

そのような説明をしながらシリコンの構造物を細心の注意を払って最低限度の削合をして、傷口の入れ歯が当たらないようにしました。

「あらっ、痛くない!」
Nさんは笑顔で答えてくださいました。

1週間後に様子をうかがうと痛くなくなったおかげで、ゆっくりながら食事できるようになったとのことです。

ゆっくりながら、は何故かというと入れ歯がユルいからです。
ユルい原因はシリコンの構造物です。
歯とシリコンの構造物が全く合っていません。

Nさんが舌を動かすと、それだけで入れ歯はパカッと外れてしまいます。
こればかりは、どうしようもありません。

ノンクラスプ入れ歯のシリコンの構造物の致命的な欠点です。
後から調整は一切できない。

金属バネならば、ゆるくなったらプライヤーでギュッと締めれば維持力は復活します。
ゆるい部分入れ歯のもっとも簡単な調整の一つです。
そして効果は絶大です。

しかしその効果絶大な治療を封じられてしまっては、どうしようもありません。

ノンクラスプ入れ歯、シリコン入れ歯、商品名もたくさんありますが、宣伝で言うほどは合わないものです。

結局は入れ歯のウラ、歯グキと接する面に歯科専用の入れ歯安定材ティッシュコンディショナーを貼ることにしました。
歯で維持することができないので、せめて歯グキと入れ歯を合わせようという策です。

根本的な解決にはならないものの、やらないよりはマシ。

ただティッシュコンディショナーを貼るのに、今度は金属床が足を引っ張ります。
ティッシュコンディショナーはプラスチックとは接着しますが金属やシリコンとはくっつかないからです。

以前にシリコンを全面に貼られた入れ歯にティッシュコンディショナーを貼るのを試したこともありますが、なんと一日も持たずにハガれてしまいました。

そのようなことを説明しつつ、少ないプラスチック面に接着して効果を発揮すればとの思いで貼ってみます。

やらないよりは、ずっと良い。
というNさんの感想。

とはいうものの相変わらず入れ歯は維持してくれません。
舌を動かすと入れ歯がフワッと浮いてしまいます。
ただ歯グキとの適合が良くなることで使い良くなることがあります。

そこで再び様子を見ていただくことに。

後日に様子をうかがうと
「まあ、外れやすさはあるんですけど」
と言いつつも、よく合って使いやすい、食事も快適にできるようになったとのこと。

入れ歯を新しく作る型取り、模型作製まで行なって備えていたのですが、結局は作らずに、修理した金属床入れ歯をそのまま使ってみることになりました。

保険治療で入れ歯の金属バネが折れたのを修理

仮に新しく作る入れ歯が金属床入れ歯やシリコン入れ歯などの自費治療の作品だったら、多くの歯科医院だったら有無を言わさず新しい入れ歯を作っていたはずです。
なぜなら作ることで大金が歯医者の手に入るからです。
逆に作らなかったら儲けはゼロ。

歯科治療とは医療です。
歯科でない医療の世界では「利ザヤが大きいから」というふざけた理由で手術する医師などは、ほぼいません。
「利ザヤが大きいから」というふざけた理由で高額な入れ歯を作ったりインプラント入れたりするのは歯科ならではの光景です。

修理した入れ歯がよく合っているならば無理やり新しく入れ歯を作るのはリスク、害でしかありません。
しかし私でも自費治療入れ歯で仮に百万円入るかゼロか、と言われたらリスク、害とわかっていても大金の誘惑に勝てる気がしません。

だって人間だもの。

でも仮に新しく入れ歯を作るとしても保険治療ならば総額1~2万円程度のものです。
お金に目がくらむことなく新しく作る、作らないの判断ができます。

それからずっと様子を見ていますが結局は半年に一度ほどの調整だけで過ごしています。

あとは残っている歯が大事です。

歯が抜けた時に、抜けた部分を入れ歯にプラスチック製人工歯を継ぎ足す「増歯修理」が保険治療のプラスチック製入れ歯なら簡単にできるのですが自費治療のシリコン入れ歯では一切できません。

そんな致命的な欠点もあるので半年に一度、歯石除去とブラッシング指導を続けています。
比較的若い方なので今すぐ歯が抜けることはありません。

歯が抜けた時に入れ歯を作り直すのは必要となりますが、定期的な歯周治療と入れ歯の経過観察で長期的に変化させないことを主な目的として治療を続けているところです。

もう一つNさんは気にしていることがありました。

それは上の部分入れ歯です。

ひだり上の前から1から3番目の前歯が、キレイなセラミックのかぶせものが装着されています。
いっぽう、みぎ上の1から3番目までは入れ歯です。

その入れ歯の前歯が明らかに3ミリほども短くて、笑ったときにひだり上は歯の先端2~3ミリほどがキレイに見えるのですが、みぎ上はくちびるがかぶってしまって歯が見えません。
ちょっとアンバランスな歯並びです。

このような症例こそ、保険治療で入れ歯修理の出番。

上の入れ歯は一般的な保険治療で作製されたプラスチック製です。
人工歯もプラスチック製なので修理は可能。

ところで前歯3本分の修理というとバカ正直に3本全部やりがちではあります。

しかし実は今回は一番前の歯、一本だけ修理しました。
セラミックでできたひだり上1番と入れ歯のみぎ上1番との高さの差が見た目の違和感の原因だからです。

だからまず入れ歯のみぎ上1番だけに歯科用プラスチックを盛り足して、ひだり上1番と歯の高さを合わせました。
横の2番3番は短いことは確かなのですが見た目の影響は少ないです。

もっとも見た目とは患者さんの主観ではあります。
患者さんの意見が大事なのは言うまでもないことです。

鏡で新しい歯並びを見たNさんは
「あっ、これなら良さそうですね」

と笑顔で答えてくださいました。

もっとも後から修理した歯は変色しやすかったり壊れやすかったりします。
だからいつまで使えるか長持ちするかと言われると、そうは言えません。
新しく上の入れ歯を作るときも同じようにひだり側と歯の高さを合わせた入れ歯を作れば良いとわかりました。

いきなり新しく作ろうとすると、どのような設計にすれば良いのか分からないまま作ることになります。
入れ歯を修理調整を繰り返すことで、その入れ歯のクセや患者さんの趣向を把握できます。
そうすることによって入れ歯を新しく作るときに、より成功の確率が上がります。

「痛いのを何とかしてほしい」
「入れ歯がゆるいのを何とかしてほしい」
「見た目の違和感を何とかしてほしい」

そんな困ったことへの対応は迅速である必要があります。

もっとも今後どうするか、という話については年月経って状況も変わってきたりします。
情報や治療経験が不足したまま突き進むのは失敗の元。
だからあまり性急な変化は避けて、じっくり取り組むことが必要です。

【関連記事】→保険?自費?入れ歯にかかるお金について「Q.高い素材の高額な入れ歯を勧められるのではないかと心配です。大丈夫でしょうか?」


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・「まるで別人」2年前の面影を失ったNさんを救った入れ歯治療とは オルタナティブブログ

杉並区、西荻窪で、保険の入れ歯治療を数多く手がける歯医者、いとう歯科医院の伊藤高史です。

オルタナティブブログに記事を載せました。
「まるで別人」2年前の面影を失ったNさんを救った入れ歯治療とは↓

https://blogs.itmedia.co.jp/ito_takafumi/2025/08/content_9.html

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・その歯の痛み、気のせいじゃないかも。3年間続く歯の痛み、入れ歯の痛みの正体とは?

杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「ずっと困ってまして」

入っていらしたのは50代女性のMさん。
3年ぶりの来院です。

困っているのはひだり下の歯の痛み。

3年前にも同じ痛みを訴えていらしたのですが当時も2回ほど診察しただけだったので他の治療を優先して、ひだり下の歯については様子を見ていただくことにしていました。

それから3年。
今も痛みは続いていると言います。

口の中を見ると、ひだり下は歯が抜かれていました。

アゴ骨などは通常の形です。

経過をお聞きすると、ひだり下の歯の痛みが治まらず某歯科大学病院で歯の根の治療を受けたものの痛みは治まらず、仕方なく抜歯されました。

しかし…それでも同じ部位の痛みは治まらなかったのです。

痛みの形から私は「非定型歯痛」と診断しました。

非定型歯痛(ひていけいしつう)とは、歯科的な原因がないにも関わらず、痛み止めもほとんど効かず長期間続く歯の痛みのことを指します。

脳の神経ネットワークの異常が原因と考えられており、歯や歯茎に異常がないにもかかわらず痛みが続くのが特徴です。

非定型歯痛の特徴を挙げていきます。

・原因不明なこと。
歯科治療や検査で異常が認められません。

ムシ歯や歯周病がないのに今回のMさんのように痛みだけが続きます。

・長期間、痛みが続く
今回のように数週間、数ヶ月、数年と長く続くことが多いです。自然治癒した例は私は見たことがありません。

・鈍い痛みです
じんじん、じわじわとした鈍痛として表現されることが多いです。Mさんも痛みのせいで不眠を訴えられていました。

・痛み止めの効きが悪いです
ロキソニンやカロナールなど痛み止めを飲んでもほとんど効果がないことが多いです。

・食事に支障がない
食事は普通にできます。

むしろ食事中は痛みが和らぐ人もいるくらいです。

似たような痛みを起こす病気で巨細胞性動脈炎というものがあります。
ただこちらは食事などでアゴを動かす咀嚼運動で痛みが出る顎跛行(がくはこう)という特徴的な症状が多く出るので鑑別診断に用います。

・痛みが移動する
痛む部位が移動することがあります。

たとえば、ひだり下を治療したら今度はみぎ下が、みぎ下を治療したら今度は入れ歯が痛くなった、などのことが起こります。
それで次々と歯を削る、抜くなどの施術がなされて、それにも関わらず痛い、という経過の患者さんをお見かけします。

・心身両面からの治療が必要です
心理的な要因も影響する可能性があるため、精神科や心療内科への連携が必要となる場合があります。

大学病院ではそのように治療している診療科があります。

非定型歯痛の原因

非定型歯痛の原因はまだ完全には解明されていません。

脳の神経ネットワークの異常が考えられています。

具体的にはセロトニン系の機能不全や、痛みの信号を伝える神経回路の異常などが原因として指摘されています。

一般的には、たとえばどこかに何らかの刺激があると神経を通して刺激が脳に伝えられて脳で「痛い」と認知されて、また神経を通って刺激を加えられた部位に「痛い」
という信号を送る。

これが大ざっぱではありますが痛みを起こす正常のシステムです。

ところが脳の機能が異常になってMさんの場合はひだり下に「痛い痛い痛い」
という信号だけを送ってしまっている状態。

正確とは言えないかもしれませんが私は患者さんに、そのように説明しています。

非定型歯痛の治療について

非定型歯痛の治療は造影剤を入れて脳の血流をMRI撮影するなど、原因の特定が難しいので、原因究明は置いといて症状に対する治療が中心となります。

・抗うつ薬
痛みの伝達を抑制する効果があるため、抗うつ薬が用いられることがあります。

・鎮痛薬
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンなどの鎮痛薬が用いられることもありますが効果は限定的です。

・心理療法
精神的なストレスが痛みを悪化させる可能性があるため、心理療法やカウンセリングも有効な場合があります。

とはいえ私が大学病院に紹介して、その後の経過をお聞きできた範囲では心理療法の話は出てきませんでした。

・ブロック注射
神経ブロック注射で痛みを和らげることもあります。

・その他
漢方薬や代替医療も試されることがあります。

非定型歯痛の診断方法について

非定型歯痛の診断は、歯科的な異常がないことを除外診断で確認し、症状や病歴などを総合的に判断します。

非定型歯痛に悩んでいる場合の対処法

・歯科医師に相談しましょう
痛み止めが効かない場合や、原因が不明な場合は、歯科医師に相談しましょう。

ゆるい入れ歯には保険治療で歯科専用の入れ歯安定剤ティッシュコンディショナーを貼ると安定します

ただ非定型歯痛は、それを知っていないと予測もつきません。

私が歯科学生だった30年前は、この病名はなかったと思います。
だから高齢で不勉強な先生などはこの病気の存在自体を知らなかったりします。

「伊藤クン、伊藤クン、チミが言ってるのは、気のせい気のせい(笑)」
と言い放たれたことがありました。

そういう先生もいらっしゃいます。
だから患者さんの立場でも、あまりに治まらない痛みに、このような病気の可能性があることは頭に入れておいて損はないです。

・心療内科や精神科を受診する
心理的な要因も影響している可能性がある場合は、心療内科や精神科を受診するのも良いでしょう。

ただ口腔分野にどれだけ知識と治療経験があるかはわかりません。

・ストレスを軽減する
ストレスは痛みを悪化させる可能性があるため、適度な休息やリラックス法を取り入れましょう。

もっとも、それで治るくらいなら、そもそも病気になりません。

非定型歯痛は、原因不明で長引くため、患者さんの苦痛も大きくなります。
原因が特定されなくても、症状をコントロールするための治療法もいくつかあります。
専門家と連携しながら、適切な治療を進めていきましょう。

当院では、大学病院でそのような症状の患者さんを専門に診療している診療科をご紹介しています。
ただその診療科は、医師や歯医者の紹介状がないと診察できないので、具体的な診療科の名前を挙げるのはここでは控えさせていただきます。

痛みの他にも
「咬み合わせがおかしくて気になって眠れない」
「入れ歯の違和感がなくならない」
「入れ歯が原因の歯グキの傷などないのに入れ歯痛い」

のような「違和感」を訴えられることがあります。
このような症状も「非定型歯痛」のバリエーションの一つです。
「咬合違和感症候群」などと呼ばれる症状です。

このような症状に対して絶対にやってはいけないことがあります。

それは「歯や入れ歯を削ること」。

削るとその場では「良くなりました」と患者さんは言ってくれます。
しかし次の日にはもう「今度はここが…」と次の症状を訴えられます。
削る、抜くではその症状は治りません。

当院では一年に数例は大学病院に紹介しています。

以前は私もこの「非定型歯痛」「咬合違和感症候群」がわからず、1年以上も入れ歯を削ったり盛ったりを繰り返したことがありました。

今でも診断に至るまで数回かかることがあります。
「非定型」というだけあって症状、状況が千差万別で難しいものです。

ただ今回のMさんについては口の中を見る前に予想をつけることができました。

今回のMさんについては「幻歯痛」という症状も非定型歯痛の一つのバリエーションかもしれません。
幻歯痛(げんしつう)とは、歯が存在しない部位や、神経が切断されている部位に痛みを感じる症状です。
抜歯後や神経治療後に、痛みを感じることがあることがあり、神経障害性疼痛の一つとして考えられています。

確定診断としては脳に造影剤を入れて脳の血流を見る、などのことをするそうですが、歯科の保険適用ではないため「高額な自費治療」にならざるを得ないこともあり、なかなかそこまでできないと聞きました。

だから症状や兆候から判断し、歯科では処方できない薬を医科と対診しながら服用して効果を確認する、という流れになるようです。それでも十数万円くらいはお支払いいただくことにはなります。
私もその非定型歯痛の治療の現場を見たことがないのですが、紹介した患者さんから話をお聞きして知るに至りました。

非定型歯痛、幻歯痛とともに当院でたまにお見かけするのが

「入れ歯に『違和感』がある」

との症状です。

入れ歯の咬み合わせに違和感がある
入れ歯の形に違和感がある
歯並びに違和感がある

原因が見当たらないにも関わらずそのような訴えをお持ちの方の場合、非定型歯痛や幻歯痛と同じ理由で症状が出ていると推測されます。

このような症状を「咬合違和感症候群」といいます。
これは病名ではなく患者さんの状態を示しているものです。
このような患者さんも紹介の対象となります。

紹介状をお送りすると大学病院ではとても丁寧に、時には2~3時間もかけて診察してくださいます。
無駄に削る、抜くなどせず早めに専門医に紹介することが最も大事なことなのです。

【関連記事】→歯・口腔に関する悩み「Q.歯ぐきが痛い。どうすれば良いですか?」