杉並区、西荻窪で、保険の入れ歯治療を数多く手がける歯医者、いとう歯科医院の伊藤高史です。
オルタナティブブログに記事を載せました。
入れ歯の歯が大きすぎるので、形を削って修正して良い歯並びを作る治療を行ないました↓
https://blogs.itmedia.co.jp/ito_takafumi/2025/04/post_194.html
ホームページ掲載 すみ
杉並区、西荻窪で、保険の入れ歯治療を数多く手がける歯医者、いとう歯科医院の伊藤高史です。
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杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける歯医者
いとう歯科医院の伊藤高史です。
歯医者も時代の飢餓感に感応するセンスが必要となりました。
「『言われてみてはじめてわかりました』とか、『わたしも実はそうだったのよ』という、死角に入っていた心のうめき、寒さ、これがつまり時代の飢餓感です。(中略)
この見えない飢餓にボールをぶっつけて、ああ、それそれといわせるのが歌なんですよ」
「津軽海峡冬景色」(石川さゆり)
「勝手にしやがれ」(沢田研二)
「気まぐれヴィーナス」(桜田淳子)
「ペッパー警部」「渚のシンドバッド」(ピンク・レディー)
「宇宙戦艦ヤマト」(ささきいさお)
など数々の大ヒット曲の作詞を手がけた阿久悠氏の言葉です。
(参考文献:「作詞家入門」阿久悠、岩波現代文庫)
この言葉に、「夫のトリセツ」「妻のトリセツ」など数々のベストセラーを持つ作家、黒川伊保子氏は
「洗濯物をたたみながら観ていたテレビ番組で出会って、胸を打たれ、しばし手を止めて、ぼうっとしてしまった」
とありました。
そしてこのことは映画、アート、著作、そして製品開発など、すべての表現に言えるのではないか。
と述べています。
(参考文献:「不機嫌のトリセツ」黒川伊保子著、河出新書)
読んでいて私もしばし本を読む手が止まってしまいました。
なぜならば
人々がまだ気づいていない
「時代の飢餓感」
に気づくこと。
そしてそんな時代の飢餓感にボールを当てて
「ああ、それそれ」
と言わせること。
これは歯科治療を行なう原点でもあることに自分も気がついたからです。
私は都心のデンタルクリニックに数軒ほど勤めていた時代に
「なんか子どもの頃のお医者さんのイメージと違うなあ」
と思ったものです。
小学生の時によく中耳炎になっていました。
いつものかかりつけの耳鼻科に行くと
「おお、ターちゃん(私の愛称)また来たんだね」
と先生が簡単なあいさつをして診察。
薬を手渡されて母親が会計。
小銭をチャラチャラと先生に手渡します。
おまけで甘い味がするトローチをいただいて
「せんせい、さよなーら」
と手を振っておしまい。
母を見ても医療費とか気にした様子などなかったですし、ゼロがいくつあるのかわからない自費治療の見積書を耳鼻科医から手渡されたことなどありません。
都心の歯科医院においては百万円の治療を売りこむことが歯医者の主な仕事でした。
なんか歯医者だけ他のお医者さまとやってることが違うんじゃないの?
歯医者に必要なものとは、多少の手先の器用さ、ある程度の勉強ができることは当然です。
しかしそれらより大事なのは「時代の飢餓感」に感応するセンスなのだと阿久悠氏、黒川伊保子氏から教えられました。
脳は経験のない感覚は見えませんし聞くことができません。
脳が「時代の飢餓感」を感知するには「心のうめき、寒さ」を経験し知っていなければならない。
・お金持ちの名家に生まれました
・たっぷりと教育費をかけられた秀才として学生時代を過ごしました
・すこぶる健康で病気知らずでした
・何をやってもうまくいって大人になりました
・挫折? なあにそれ?
そんな育ち方をしたら、時代の飢餓感に感応できないことは明らかです。
残念なことに私を含め歯医者は上記のような恵まれた環境でぬくぬく育つ者がほとんどです。
おかげさまで親には感謝していますが。
とはいえ大学卒業して歯医者になったばかりのころは同じ歯医者である父親のやり方に疑問を感じていました。
・昔ながらのステンレス冠によるかぶせもの
・昔ながらのレントゲンなしの診療
・昔ながらの金属ワイヤーを曲げて作る部分入れ歯の金属バネ(クラスプ)。
大学で習った最新とされる治療と全く違うことをやっていたからです。
それで父に背を向けて、最新とされる歯科治療を修めようと都心のデンタルクリニックに勤めました。
ところが私はそこで初めて患者さんの「心のうめき、寒さ」を目の当たりにすることとなります。
私が感じとった患者さんの心のうめき、寒さとは
「歯医者だって内科とか病院とかと同じ医療なのだから、とにかく保険で治してほしい」
という、しごくもっともな事でした。
都心のデンタルクリニックで勤めるうちに私の心の中に、大金が必要な上に効果に疑問符がつく自費治療への不信感が芽ばえます。
つまり自分も患者さんと同じ心のうめき、寒さを持っていた。
だから感応できた。
そこで
「歯医者も内科や病院などと同じ医療だから、お金の心配なんかしなくて大丈夫ですから」
と言って保険治療を行うことで得られた反応が
「初めて歯医者でそんなことを言われました」
「言われてはじめてわかりました」
「わたしも実はそうだったのよ」
だったわけです。
それが原点となって当院は保険治療で入れ歯修理を特技としました。
もちろん、これと真逆の考えで高額な自費治療を選ぶ患者さんもいると思います。
「保険治療だと3分治療の流れ作業でやられる。おかしくない?」
「ゴールドやセラミックのほうが良い気がするのに保険治療ではできないの?」
「金ならいくらでも出すからワタシを特別扱いしてほしい」
これはこれで時代の飢餓感ではあります。
だから一人ひとりにたっぷり時間をかけて高額な自費治療を行なう歯医者のもとに通う。
そのことを否定はしません。
どちらが正しいかではなく患者さんがどちらを選ぶかというだけのことです。
とはいえ数軒のデンタルクリニックに勤務したり歯医者のホームページなどを見たりしてわかったのは、多くの歯医者が高額な自費治療をやりたがっていることです。
スマホで検索すると自費治療自費治療自費治療の情報の山に埋もれて、保険治療に関する情報は一般の人からは見えない死角となってしまっています。
「初めて歯医者でそんなことを言われました」
「言われてはじめてわかりました」
「わたしも実はそうだったのよ」
という、まさに死角に入ってしまっている患者さんの心のうめき、寒さ。
そのようなものを拾い上げる視野の広さ、確実に見つける眼力。
時代の飢餓感を患者さんと共に感じて一緒に乗り越えていく姿勢。
もちろん阿久悠氏のように作る曲、投げるボールがみんな、どストライクの大ヒット。
そんな境地に自分が達するのはいつの日になることやら。
黒川伊保子氏が書いているみたいに、ぼうっとタメ息をつきながら見上げるしかないのが現状です。
だからこそ、せめて当院に来てくださる患者さんには、保険治療で入れ歯修理というボールを的確に当てていく努力をこれからも続けていこうと思います。
歯科の自費治療が高額になるのは理由があります。
まず高度な材料と技術とされます。
自費治療では保険診療のように使用できる材料に制限がありません。
より高品質で審美性や機能性に優れた材料や最新の技術が用いられることが多いです。
これらの材料費や設備投資、そして高度な技術を持つ歯医者の専門知識や熟練した技術料が価格に反映されます。
とはいえ制限がないことが必ずしも良いことではありません。
治療方法が保険治療に収載されるには大規模で正確な研究、論文が求められます。
保険治療ならばそのような裏づけがあるわけです。
しかし自費治療に関しては、そのような研究論文は不要です。
だから科学的根拠がないのにテレビやメディアで持ち上げられて有名になったもののトラブルを起こして問題になるケースが後を絶たないです。
そのような問題ある自費治療は学会などで公式に注意を呼びかけていたりします。
一例
「ドックベストセメントについての見解」(日本歯科保存学会)
https://www.hozon.or.jp/file/news/250319.pdf
これからも情報収集して患者さんにとって最善の選択をしていきます。
杉並区、西荻窪で、保険の入れ歯治療を数多く手がける歯医者、いとう歯科医院の伊藤高史です。
オルタナティブブログに記事を載せました。
・5年前に作ったものの使っていなかった上の入れ歯を、修理して使えるようにした症例↓
https://blogs.itmedia.co.jp/ito_takafumi/2025/04/post_193.html
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杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける歯医者
いとう歯科医院の伊藤高史です。
「嘆けとて 月やは物を おもはする
かこち顔なる わがなみだかな」
百人一首にも歌を残している僧の西行(さいぎょう)1118年~1190年。
平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての日本の武士、僧侶、歌人。
その西行の残した言葉を私は、胸を締め付けられる思いで読んでいました。
「世の中のありとあらゆるものは、すべて仮の姿であるから、花を歌っても現実の花と思わず、月を詠じても実際には月と思うことなく、ただ縁にしたがい興に乗じて詠んでいるにすぎない。
美しい虹がたなびけば虚空は一瞬にして彩られ、太陽が輝けば虚空が明るくなるのと同じである。
わたしもこの虚空のような心で、何物にもとらわれぬ自由な境地で、さまざまな風情を彩っているといっても、あとには何の痕跡も残さない。
それがほんとうの如来の姿というものだ。
それ故わたしは一首詠む度に、一体の仏を造る思いをし、一句案じては秘密の真言を唱える心地がしている。
わたしは歌によって法を発見することが多い。
もしそういう境地に至らずに、みだりに歌を勉強する時は邪道におちいるであろう。」
西行はもともと伝説の多い人物です。
素晴らしい言葉ではあるものの、この言葉も実は後世の作り話と言われています。
とはいえ小説を読んでいると
「当然そのくらいのことは言っていただろうね」
と納得させられてしまうほどの強い説得力があります。
・2300首もの和歌が伝わり後鳥羽上皇から松尾芭蕉まで影響を与えた。
・鳥羽上皇に武士として仕えていたが高貴な女性(上皇の妃との説もある)との失恋をきっかけに出家。
・源頼朝に弓馬の道のことを尋ねられて「一切忘れはてた」ととぼけ、頼朝から拝領した品を通りすがりの子どもに与えてしまった。
虚実の間をすりぬけていくところに西行の魅力がある。
魅力があるからこそ伝説が生まれる。
私も入れ歯を一つ作る度に一体の仏を造り、患者さんに説明する言葉は秘密の真言を唱えるがごとし…
そんな西行のように虚空な心で、何物にもとらわれぬ自由な境地で入れ歯を作れるようになりたい。
そこで当院はまず保険治療に特化することで、人間の最大の煩悩「お金」にとらわれないようにしているつもりです。
西行のように私も、入れ歯治療によって法を発見することが多いことは確かです。
発見した「法」についてブログやホームページ、YouTubeに少しずつ載せています。
西行の言うような境地に至らずに「法」を無視した歯医者が邪道におちいてしまうのは、昨今の歯科治療におけるトラブル事例を見れば明らかです。
とくに高額な自費治療は「自由診療」とも呼ばれますが実際にはちっとも「自由」ではありません。
まず高額である時点で様々な縛りが発生するからです。
たとえば住宅ローンみたいな一般的な高額商品がどれほど人を縛りつけるものかは、私たち歯医者のような世間知らずよりもあなたの方がよほど詳しいと推測します。
また自費治療自体の話は別のブログやホームページに書いたので、ここでは割愛させていただきます。
歯がないことを欠損といいます。
欠損とは何もない空間すなわち「虚空」です。
虚空を入れ歯という虹で美しく彩り、入れ歯という太陽で明るく輝かせる。
そのために歯科治療には様々な技巧を凝らします。
といっても、欠損という虚空に入れ歯を入れていることを患者さんが忘れてしまうくらい、存在を主張しないことが求められます。
理想の入れ歯の姿とは、普段は存在を忘れているけれど確実に温かく私たちを見守ってくれている、まさに如来のような存在。
すなわち入れ歯治療とは入れ歯を通じて
「口の中に極楽浄土を作ること」
とわかった次第です。
そんな西行に近づくためには、世の中のあらゆるものを「虚妄」と観じ、虚空の如き心をもって俯瞰する。
そうすることで虚も実も存在しない、西行の視点を手に入れられる。
そういう方法しかないと小説の著者は看破します。
西行から教わったことを活かして、そんな入れ歯が作れるようになりたいものです。
参考文献:「西行」白洲正子著、新潮文庫
ところで別の小説に、舞台となる時代が全然違うのに西行とまったく同じ言葉が登場し、読みながらイスから飛び上がりました。
その小説とは「万葉集をつくった男 小説・大伴家持」(篠崎紘一著、KADOKAWA)。
鎌倉時代の西行からさかのぼること300年、奈良時代の話です。
「父、大伴旅人は歌の秘奥を伝授するとき、かく述べた。
『此の歌即ち是れ如来の真の形体なり。されば一首読み出でては一体の仏像を造る思ひをなり、一句を思ひ続けては秘密の真言を唱ふるに同じ、我れ此の歌によりて法を得ることあり。
若しここに至らずして、妄りに此の道を学ばば邪路に入るべしと云々。』
すなわち『一首、歌を詠みだすのは、一体の仏像を造るのと同じことぞ』
おのれの生命を削るつもりで作歌しろ、というのだ。」
大伴家持とは歴史に残る歌集「万葉集」の作者です。
すなわち
「一つ、入れ歯を作りだすのは、一体の仏像を造るのと同じことぞ」
ということ。
やはり入れ歯治療を志す身としては仏像彫刻をやらなきゃいけない気分になってきました。
…
…
…そのうちやろうと思います(汗)。
入れ歯治療は患者さんの生活の質を大きく向上させるものです。
いっぽうでその難しさもまた大きなものがあります。
日本の歯医者の間では一般的には「保険治療の入れ歯は赤字」という論調が目立ちます。
入れ歯治療が困難で、保険治療でみんなやりたがらない理由を挙げてみます。
まずあまりにバリエーションが多すぎる患者さんごとの個性が挙げられます。
患者さんの口の中の構造、大きさ、上下の距離、歯の欠損の程度や部位、アゴの形や動き、粘膜の状態などは一人ひとり異なります。
これらの事柄に合わせて入れ歯を調整してフィットさせることは非常に細やかな作業を必要とします。
たとえば歯グキの粘膜の厚さや柔軟性、顎の骨の形状などに応じて入れ歯の歯グキと接する面や厚さを微調整する必要があります。
薄い方が違和感は少ないものの壊れやすくなるからある程度の厚さが必要とか、相反する要素をバランス良く成り立たせなくてはなりません。
次にとくに残っている歯が一本もないところに入れる総入れ歯の場合などに咬合(こうごう)関係を入れ歯で再現することが難しい点です。
入れ歯を使用する患者さんでは、天然歯の位置や咬み合わせが変わっていることも多いです。
そこで入れ歯を装着した状態で自然な咬み合わせを再現することが重要です。
しかしこれには複雑な技術を要します。
ある程度の教科書的な咬合関係の決め方はあります。
とはいえその教科書に書いてあることを口の中で再現すること自体が難しい。
それプラス患者さんの感覚や満足度などの主観も考慮しながら何度も調整を重ねることが大事です。
「教科書どおりやりました」
と歯医者が主張したところで患者さんが使ってくれなかったら失敗なわけです。
入れ歯の適合性も大きな課題です。
入れ歯が口の中に適合しない場合、痛みや違和感が生じるので患者さんが使用を続けることが困難になります。
たまに入れ歯を2組、3組持っているのは、そういう事情です。
これを防ぐためには入れ歯を作製して完成する前、加工が簡単にできるワックス床での試適段階で患者さんのフィードバックを細かく取り入れ、微調整を行う必要があります。
たとえば顔の正中と入れ歯の正中が合っているかなど模型だけでは判断できないので確認が必須です。
あとは現在使っている入れ歯と新しい入れ歯とで咬合関係が変わっていないかなども確認します。
また材料の選択も重要です。
患者さんに合った適切な素材を見つけ出すことは入れ歯の長期安定性や快適性を左右します。
とくにセラミックやチタンなど見目麗しく最先端の強度ある材料でも大事なことは「その患者さんに合う、合わない」です。
「お金をかけたのに入れ歯が合わない」とは、その辺のミスマッチがあります。
また多くの入れ歯が後から修理調整が必要になります。
長い目で見た場合、結局は修理調整、加工、改造がしやすい保険治療の金属バネとプラスチックが最適だったりします。
さらに心理的側面も無視できません。
入れ歯を装着することへの抵抗感や見た目の変化に対する不安など、患者さんの心理的な受け入れが必要です。
このような受け入れを獲得するために長い時間が必要ということはよくあります。
とくに入れ歯を入れると吐き気がする、などは、とにかく入れておける、極限の小さな入れ歯にして、何年もかかって適切な大きさに少しずつ大きく加工する。
そんな気の長い治療を要することもあります。
このため歯医者は患者さんの心理的サポートも担い信頼関係を築くことが求められます。
技術的な難易度もあります。
たとえば部分入れ歯の場合、残っている歯との連結部や、歯に引っかけて入れ歯を口の中に維持する装置(クラスプ)の設計、金属床の使用などには技術的な熟練度が必要です。
全部床義歯(総入れ歯)では上顎と下顎の両方の入れ歯が安定するように設計するのは非常に難しく、患者の満足度を高めるためには長年の経験と知識が必要となります。
また装着して終わりではなく、その後の維持管理も重要です。
入れ歯は時間と共に摩耗したり、口腔内の変化に対応して調整が必要になったりします。
患者が自宅で適切に管理する方法を指導し定期的なチェックや再調整の重要性を伝えることも入れ歯治療の一部です。
そして残っている歯が抜けたり入れ歯が
壊れたり、といった突発事項への迅速な対応も必要とされます。
このような治療は当院のもっとも得意とするところです。
最後にコミュニケーションの難しさがあります。
患者さんが自分の不満や痛みをうまく表現できない場合、適切な調整が遅れることがあります。
また、表現の壁や医療用語の理解度によって、治療計画やケア方法についての説明が難航することもあります。
これら全ての要素が組み合わさって入れ歯治療は非常に専門性が高く、患者の生活に直接影響を与えるため、技術的・心理的な両面から非常に難しいと言えるのです。
【関連記事】→「入れ歯の扱い方」
杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける歯医者
いとう歯科医院の伊藤高史です。
紀元100年ころにヨーロッパ全土を支配していた古代ローマ帝国。
その皇帝ハドリアヌスに仕えていた温泉技師のルシウスは時々タイムスリップし現在の日本の温泉にやってくる。
映画にもなった大ヒット漫画「テルマエ・ロマエ」(ヤマザキマリ著、エンターブレイン)のあらすじです。
舞台はさびれた観光ホテルです。
古い温泉宿や施設を取り壊して巨大な観光リゾートにしようという企みを聞いたルシウスは
「歴史や伝統は、金銭で購えるような薄っぺらい物ではないのだぞっ!」
と怒る。
元の古代ローマでも荘厳な建築物を壊して新しくする動きが盛んになっていて、風紀の乱れを嘆いていたからです。
新しくした結果、風紀が乱れているのは歯科業界も同じです。
「新しく入れ歯を作られたのに上手くいかない」
そんな話をよく聞きます。
そんな時に私は
「作られる前の古い入れ歯を持ってきてください」
と言います。
当院は入れ歯修理を得意としています。
新しい合わない入れ歯よりも、これまで長年使ってきた古い入れ歯を調整修理した方が上手く使えることも多いです。
これまで長年使ってきた入れ歯とは、何年という歴史や伝統が積み重なっています。
何度も修理調整、歯グキの粘膜と接する面に歯科専用の安定材を貼りつけてあるなど、他院でも丁寧に扱われた入れ歯を見ると
「おおっ、美しい入れ歯だ」
とつい見入っていまうことがあります。
見た目はツギハギだらけで茶渋みたいなものがこびり付いていても美しいんです。
逆に使えない最新のピカピカした金属床、不気味な艶のシリコン入れ歯などを見るとその「醜悪さ」に目を背けてしまうことがあります。
あんな素晴らしい物を捨てて、合うかどうかもわからない新しいものを作るなんて私にはできません。
その気持ちは、ローマに例えると歴史的建造物のコロッセオを壊してショッピングモールを建てるようなものです。
ローマをグーグルで検索したところ、さすがに〇オン、ジャ〇コ、西〇、ア〇レ、〇K(伏字になってませんが…)などはありませんでした。
おみやげも買えるし便利と思いますけどね。
温泉技師ルシウスはタイムスリップした日本の温泉からアイデアを得て、老朽化しさびれた温泉を立て直していきます。
建て直しではなく「立て直し」です。
*「立て直す」と「建て直す」の違いについて
新聞界はほぼすべての社が「建て直す」は建築物について言う、として、そのほかの場合は「立て直す」を使うことに決めています。
幼少の頃ルシウスは祖父から
「素晴らしい建造物とは何か?」
について教わります。
「素晴らしい建造物とは人間が一所懸命造った立派な建物だと思います。」
ルシウスが答えると祖父は、それは違うぞと言い
「素晴らしい建造物とは人間の力だけでなく『時間』が仕上げてくれた建造物のことだ」
と教え
「人間と時間の創造物である先祖からの建造物を大切に受け継いでいく…補修や保護も建築家にとっては大切な役割なのだルシウスよ…」
と諭し
「これは代々、建築業に携わってきたモデストゥス家の考え方だ、ルシウスよ」と結ぶ。
これはまったく歯科医師の施す治療も同じです。
「素晴らしい入れ歯とは、どんなものだと思うかね?」
素晴らしい入れ歯とは歯医者が一所懸命造った立派な入れ歯だと思います。
「それは違うぞ」
「素晴らしい入れ歯とは歯科医師の力だけでなく『時間』が仕上げてくれた入れ歯のことだ」
これは当院の祖父、父、私と代々、入れ歯治療に携わってきた、いとう歯科医院の考え方です。
調整や修理をして入れ歯を補修、保護することも歯科医師の役目です。
古くて不便になった部分も修理調整で「立て直す」ことが可能です。
コロッセオなど壊してしまったらその2000年の積み重ねは、お金を出しても購えるものではありません。
さすがに入れ歯は2000年使える必要はありませんが10年使い続けた入れ歯を作りかえるのは相当な勇気が必要と思ってください。
漫画の中の文章で作者は述べています。
「過去への敬意というのは、人の気持ちを謙虚にさせると同時に生産的な気分にもさせてくれるものです」
入れ歯治療もそのような歴史への敬意が必要です。
そしてそれを修理調整する治療とは、噛む力を復活させて人間を活かす生産的なものと信じています。
さらに作者が私たちに勧めるのが
「古代の偉業に触れること」。
それによって新たなルネッサンスが生まれるかも知れません、と結びます。
ルネッサンスとは「再生」「復活」などを意味するフランス語で一義的には古典古代(ギリシア、ローマ)の文化を復興しようとする14~16世紀ころの文化運動です。
当院で目指す治療とは入れ歯の「再生」「復活」。
入れ歯修理とは、まさに入れ歯のルネッサンスなのです。
ルネサンス時代を代表する芸術家にミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロなどがいます。
私は結婚してすぐに新婚旅行でイタリアへ行きました。
その芸術の数々に圧倒されたのを今でも鮮明に覚えています。
当院も古代ローマの偉業とルネッサンスの天才たちにあやかって、入れ歯治療で至高の御業を身につけたいものです。
金属床入れ歯は、標準的な保険治療で用いられるレジン(プラスチック)床入れ歯に比べて多くの利点を持つ一方で欠点もあります。
以下にその長所と欠点を書いていきます。
長所:
耐久性と強度:
金属はレジンに比べて非常に強く、耐久性があります。
そのため入れ歯が壊れるリスクが減少し長期間にわたって使用可能です。
…という論調は一般的で多くの歯科医院のホームページなどで見かけるものです。
しかし保険治療のプラスチック製入れ歯でも金属の補強線や金属床みたいな補強床を埋め込むことができます。
だからケタ違いな金額などかけなくても強度に優れた入れ歯を作ることが可能です。
薄さと軽さ:
金属床はレジン床よりも薄く作ることができるので口腔内での違和感が少なく快適性が向上します。
また軽量で装着感が自然です。
これはそうかもしれませんが入れ歯とは年月が経つとアゴの粘膜と誤差が出てきます。
アゴの粘膜は生きている体なので当然そうなる、という程度の常識的な話をしているに過ぎません。
その新たな状況にあわせるために入れ歯と歯グキの接する面(床)にティッシュコンディショナーやリベース材などの裏打ち、入れ歯安定材みたいなものを貼るのは、よく行なう治療です。
そうすると厚さはプラスチック製入れ歯と変わらなくなります。
ですから薄いのは最初のうちだけです。
熱伝導性:
金属は熱を伝えやすい性質があり、食べ物の温度を感じやすくなります。
これにより、食事の味わいが増すことが期待できます。
衛生面:
金属はレジンに比べて汚れが付きにくく、細菌やカビの繁殖を抑制します。
清掃も容易で、口腔内の衛生環境を保つことができます。
これまたよく見かける論調です。
金属部分だけならそうかも知れません。
しかし金属床も半分くらいは赤いプラスチックでできています。
ですから汚れは付きます。
見た目:
一部の金属床義歯では、見える部分にレジンやセラミックを組み合わせることで、自然な見た目を保つことができます。
たとえばセラミックの歯を使うことで汚れは付きにくいし変色もしにくいので、キレイなことだけは確かです。
でもセラミックの人工歯ならではの欠点がたくさんあります。
費用:
金属床義歯は製造に高度な技術を必要とし、材料も高価であるため、レジン床義歯よりもコストが高くなります。
このような論調はよく見かけるます。
とはいえ金属床入れ歯が高価な理由はひとえに「保険外」だから、というだけです。
保険治療とは論文や治療指針となるガイドラインをもとにルールが決められます。
なぜその治療に対して国が7割とか給付してくれるのか「理由、根拠」があるわけです。
逆に保険治療に入らないということは同じように「理由、根拠」があるわけです。
その理由、根拠をここで書き連ねるのは難しいです。
私も全てを把握して理解しているわけではありませんから。
ただ何もかもが素晴らしくて欠点などない治療法ならば当然、保険治療になるはずです。
「何か理由があるから、こうなっている」
このような考え方は医療のみならず社会生活全般で必要な考え方と私は思っています。
調整の難しさ:
金属床入れ歯は一度作製すると、形状の変更や調整が難しい場合があります。
これはとくに患者さんの口腔環境が変化した場合に問題となります。
多くの歯科医院のホームページなどで、このような欠点は割とあっさりと書かれています。
しかしこのことこそ金属床入れ歯を当院が作らない最大の理由です。
当院での入れ歯治療の症例を紹介する記事でよく、金属床入れ歯が合わないので新しく保険治療のプラスチック製入れ歯を作った話を載せています。
参考にしていただければ幸いです。
アレルギーのリスク:
一部の人々は金属(特にニッケルやクロムなど)にアレルギー反応を起こすことがあります。
ですから特定の金属を使用できない場合があります。
これはありますがレアケースです。
金属の見た目:
金属部分が目立つ、とくに笑った時や話す時に見た目の問題となることがあります。
ただし上にも書いたように、見える部分を工夫することでこの問題を軽減できることもあります。
これは、そのような症例に出合ったことは私はありません。
金属床入れ歯をたくさん扱う歯科医師なら心当たりあるでしょうし解決策もあると思います。
音:
金属床入れ歯は食事や話す際に小さな音を立てることがあり、とくに静かな環境では気になる人もいます。
これもレアケースです。
これらの長所と欠点を考慮すると、金属床入れ歯はとくに耐久性や快適さを重視する患者さんにとって有利な選択肢となり得ます。
しかし費用や調整の難しさ、個々の健康状態(アレルギーなど)も重要な選択の要素となります。
そもそもという話になりますが高額な自費治療を行なうには、あらゆる事柄において「余裕」が必要です。
お金の余裕はもちろんのこと、アゴ、歯の大きさの余裕。
丁寧に治療を行なえば、それなりに回数もかかるので時間の余裕も必要です。
新しい義歯に適応するには年齢的な余裕、精神的な余裕も大事な要素です。
最終的な決定は、歯科医師とよく相談して行なうのが最善です。
【関連記事】→保険?自費?入れ歯にかかるお金について