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歯医者で「命に関わる病気」を防ぐ!?〜60代男性Kさんのケース〜

杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「あ、例の薬は飲んでから来ました」

と言って入ってこられたのは60代男性のKさん。

歯はそろっていて入れ歯もありません。
歯の揺れもありません。

数本の虫歯治療と定期的な歯周病治療を行なう治療計画を立てたのですが、定期的な歯周病治療を行なうために、解決しなければならない問題がありました。

定期的な歯周病治療とは

・超音波の力で歯石を除去する「スケーリング」
・回転するエンジンの力でブラシと特殊なペーストで歯面の汚れを除去する「機械的歯面清掃」
・9000ppmという高濃度のフッ素を歯に塗って虫歯を予防する治療「フッ化物歯面塗布処置」

を行ないます。
普通の場合には問題になることは何もない治療です。

しかしKさんの場合に問題となるのは「スケーリング」。
何も対策を講じなかったらスケーリングが絶対にできない事情がありました。

一般的には歯医者だけでなく歯科衛生士でもできる業務ですが、難しくしているその事情とは…

心臓の病気です。

具体的には心臓弁膜症でした。
・心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)とは、心臓にある4つの弁のどこかに異常が起こり、弁の働きができなくなる病気です。

弁が固くなったり切れたり癒着したりすることで、血液の流れをコントロールできなくなり、心臓に負担がかかります。
放置すると心不全や突然死を引き起こす可能性があります。

弁膜症には「狭窄」と「閉鎖不全」の2つのタイプがあり、弁の開きが悪くなる「狭窄」と、弁が閉じなくなり血液が逆流する「閉鎖不全」があります。
また、両方が同時に起こることもあります。
とくに「大動脈弁」と「僧帽弁」の異常は頻度が高く、重要です。

高齢化の進行とともに加齢による弁の変性や石灰化が増えており、65歳以上の約10人に1人が罹患すると言われています。

参考文献:https://www.cvi.or.jp/9d/862/

心臓の病気と歯周病との関連が近ごろは注目されるようになりました。

スケーリングを行なうと歯グキから出血します。
歯グキに炎症を起こしている菌を取り除く意味もあるのですが、逆に出血するということは口の中のバイ菌が血管の中に入り込むということでもあります。

するととくに歯周病の原因菌が血管を通って体の中を巡り、心臓にくっついて病気を引き起こすことが分かってきました。
動脈硬化や感染性心内膜炎は命に関わる病気です。

・動脈硬化について

まずは動脈とは何か、そして動脈硬化とはどのような状態なのか、私たちの身体にどのような影響を及ぼすのかを簡単にみていきましょう。

動脈の役割
血管には大きくわけて動脈、静脈、細小動脈、毛細血管の4つがあります。

このうち動脈は、心臓から血液を全身に送り届け、酸素や栄養分を運搬する役割を担っています。

動脈は、内膜、中膜、外膜の3層からなるパイプのような構造で、心臓から送り出された血液は、約20秒で全身に届けられます。

心臓から勢いよく押し出される血液を滞りなく全身に届けるために、動脈は強く、柔軟性があります。

動脈の柔軟性を保つうえで重要な働きをしているのが、動脈の内膜の表面にある血管内皮細胞です。

血管内皮細胞は、血管が収縮したり拡張したりする機能を維持する物質を作り出しています。

動脈硬化とは?

動脈硬化とは、文字どおり動脈が硬くなる状態のことです。

この過程は加齢によるところもありますが、個人差が大きく、とくに血液中のコレステロールが強く影響しています。

なかでもLDL−コレステロール(悪玉コレステロール)が多く、HDL-コレステロール(善玉コレステロール)が少ないと動脈硬化が進みやすいことがわかっています。

動脈硬化になると、血管や心臓に大きな負担がかかって心臓の機能が低下したり、血管が破れて生命にもかかわる大きな病気を発症するリスクが高くなります。

動脈硬化には、粥状動脈硬化(アテローム性動脈硬化)、中膜硬化(メンケベルク型動脈硬化)、細動脈硬化がありますが、一般的に動脈硬化といえば、粥状動脈硬化のことを指します。

生活習慣病や肥満などにより、血液中のコレステロールが増加したり、高血圧や高血糖の状態が続くことで、血管壁に負担がかかります。この状態が長く続くと、血管内にLDL-コレステロールや細胞が蓄積していきます。

これを粥腫(じゅくしゅ)といいます。
粥腫が蓄積することで血管が狭くなったり、粥腫が剥がれたりすることで血液の流れを塞いでしまうことにもなります。

動脈硬化を起こした血管は、ちょうど古い水道管が汚れて詰まったり、さびが剥がれやすくなるのと同じと考えるとわかりやすいでしょう。
血管が狭くなると必要な酸素、栄養が全身に行き渡りにくくなり、さまざまな臓器や組織に影響が及びます。

さらに血管が詰まってしまうと、臓器や組織に血液が流れず、その場所が壊死して狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの心臓や血管の病気を発症しやすくなります。
また、硬くなった血管はもろく、破れやすいため、脳出血やクモ膜下出血の発症リスクが高まります。

参考文献:動脈硬化NET
https://www.domyaku.net/about/

・感染性心内膜炎とは

感染性心内膜炎(Infective endocarditis)は、心臓の内側に細菌が感染し、これによる心臓弁の穿孔等の炎症性破壊と菌血症を起こす疾患です。
起炎菌としては口腔内常在菌である緑色連鎖球菌や黄色ブドウ球菌が多く、弁尖などを破壊することによる心不全がもっとも危険です。

「そんな大げさな」
と思われるかもしれませんね。

歯科治療によって血管にバイ菌が入る「菌血症」の確率は、これまた数字で出ています。

「日常生活や歯科治療における菌血症の発生頻度」によると
抜歯で10~100%
スケーリングで8~79%

となっています。
こんな高い確率ならば予防が絶対に必要です。

参考文献:http://www.kankyokansen.org/journal/full/03405/034050237.pdf

それではどのように対応するか。
このような症例に対しては実は対応方法が決まっています。

入れ歯治療などは口の大きさ、入れ歯の形、適応できる範囲、個人の好みなど個人差があまりに大きいので、それこそ百人の歯医者がいたら対応方法が百通りある、みたいになってしまいがちです。

いっぽうこの心臓に病気を持つ患者さんの、感染性心内膜炎を予防する方法には概ねハッキリした一つの答えがあるのです。
「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン」
です。

参考文献:https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_nakatani_h.pdf

保険治療で、入れ歯と口の機能検査ができます。隠れた不調がわかります

歯科で出血するような治療を行なう場合、予防的抗菌薬投与を行なうことが推奨されます。

具体的にはアモキシシリンという古典的ながら今でも歯科では第一に推奨される抗菌薬を2グラム。
スケーリングなどを行なう1時間前に単回投与。
と定められています。

歯科治療で使うアモキシシリンは1錠中に250ミリグラムなので8錠を一気に飲むことになります。

ちなみにこの8錠は、歯医者では処方できません。
私が処方できれば歯の治療前に病院へ行く煩わしさがなくて良いのですが、そうはいきません。

たとえば歯医者が処方せんに
「アモキシシリン8錠、単回投与」
などと書いて薬局に持っていったら、薬局から問い合わせが来てしまいます。

歯医者はそのような薬の処方が保険治療で認められていないからです。

なぜ歯医者が処方してはダメなのか?

なぜならその抗菌薬は感染性心内膜炎の予防のために使うわけですが、感染性心内膜炎を検査、診断し治療できるのは歯医者ではなく医師だからです。

歯医者は感染性心内膜炎の検査、診断、治療はできません。
だから感染性心内膜炎を予防するための抗菌薬8錠は医師に処方してもらう必要があるわけです。

では抗菌薬を処方してもらいたい場合に医師と歯医者との連絡をどうするか?

これもまた保険治療においてルールが決まっています。
それが「診療情報等連携共有」です。

歯医者から医師へ紹介状のような形で文書提供し医師から返事の文書を受け取ることで行なうものです。
当院ではもう決まったひな型があって、必要事項を記入して医療機関に郵送できるようになっています。

Kさんの場合も医療機関と連絡を取り合って、スケーリングの前には医療機関で抗菌薬を処方していただくことになりました。

余談ですが歯医者の求めに応じて医科が文書で対応してくださった場合には医科も保険点数が算定できます。
その項目などを示した案内文書も同封して医科の先生も対応しやすいように工夫というか配慮もしています。

論文をベースとしたガイドラインに則って保険治療の流れで行なうことなので安心して治療が受けられるように体制を整えています。
こうしてKさんは3~6か月ごとに安全に歯周病治療を行なって歯グキを良い状態に保っています。

また心臓の病気を予防することで医療自体にも歯医者が関わっているのです。

【関連記事】→歯・口腔に関する悩み「Q.歯ぐきが腫れている。どうすれば良いですか?」


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・たった5mmの破損が生活を奪う?入れ歯を数多く手がける歯医者が明かす、入れ歯修理の舞台裏

杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「作ってまだ3か月しか経ってないので修理できないと断られまして…」

おずおずといった感じではいっていらしたのは60代男性Dさん。

はじめに申し上げますと入れ歯を新しく作ってから、すぐでも保険治療で修理できます。

もちろん「全ての入れ歯に対して」作って直後に修理などという無茶な保険点数算定をしていたとしたら査定されるのは当たり前ですが、作ってすぐに何か壊れることはあります。

だから安心していただきたいと思います。

壊れたのは部分入れ歯を歯にひっかけて入れ歯を口の中に維持する金属バネ(クラスプ)。

左右の二つある中の、みぎ側クラスプの頬側(外側)だけが折れています。

長さとしては5ミリくらいのものです。

しかしその5ミリがないだけでもう入れ歯は使えなくなってしまいます。

舌を動かすだけで入れ歯はパカッと外れてしまいますし食事できなくなってしまったと言います。

保険治療の入れ歯には俗に言う「半年ルール」というものがあります。

それは新しい入れ歯を作ったら半年は作ってはいけない、というものです。

これは厳密に色々のケースによって解釈も色々あります。

また場合によっては半年以内でも作り替えが認められることがあります。

細かいケースについては気軽にお尋ねいただければ幸いです。

ともかく修理に関しては半年間も修理してはいけないルールはありません。

もっとも保険制度がどうのこうのと言うよりも考えなければいけないことがあります。

それは「なぜ3か月でクラスプが折れたか」です。

普通はそんなケースは少ないものです。

入れ歯を入れて噛んでもらってすぐに折れた原因が分かりました。

咬み合わせです。

一般的には上下で噛むと上の歯が下の歯を前側あるいは外側に覆うように並んでいます。

それがDさんの場合は一般的なケースと逆で下の歯が前に極端に出ています。

昔のプロレスラー、アントニオ猪木さんみたいな咬み合わせでした。

それでたまたま上の歯が下の入れ歯のクラスプに強くぶつかってクラスプを折ってしまったのでした。

治療方針としてはクラスプの修理です。

入れ歯を口の中に入れておいて型をとって、石こうを流して模型を作ります。

模型上でクラスプを作って入れ歯に埋め込んで修理完了。

金属ワイヤーから単純鈎を一つ屈曲するだけなので作業としては簡単です。

もっともクラスプ屈曲ができる歯医者は少ないので、冒頭のように断ってしまう歯医者はいます。

クラスプ屈曲さえできれば簡単な修理なので他の歯医者もやって欲しいものです。

部分入れ歯を作る費用は保険治療3割負担の方で総額約1~2万円

今回の修理で気をつけた点が2点あります。

まず一点目は型とりです。

クラスプが効いていないので口の中で入れ歯がフラフラ動いてしまいます。

歯医者が指で入れ歯を動かないように押さえながら型をとりました。

二点目はクラスプの位置です。

修理前と同じ場所にクラスプを設置したら、またクラスプが上の歯とぶつかって再び折れてしまいます。

上の歯とぶつからない位置に設置しました。

一般的にクラスプを修理するというと専門の歯科技工所に外注します。

模型を作って発注して作ってもらうと。

歯医者がクラスプを曲げて作れれば1時間でできるところを1週間はかかるので入れ歯修理としては現実的ではありません。

患者さんは1週間も入れ歯ナシというわけにはいかないはずです。

しかも歯科技工所は患者さんの口の中を知りません。

ともすると修理前と同じ場所に設置してしまいがちです。

それが一番簡単で、自然にそのような位置になってしまうからです。

患者さんの口の中がわかっている歯医者だからこそ、多少は屈曲が大変になるものの、口の中の状況に合ったクラスプを作ることが可能です。

そんなことで1時間で修理できた入れ歯は調整する必要なく口の中に収まりました。

「あっ、これならピッタリですね」

舌を動こしても入れ歯は浮きません。

Dさんは笑顔で帰られました。

今回行なったDさんの入れ歯のクラスプを修理する治療は、1回の通院で費用は保険治療3割負担で総額約4,000円でした(費用は治療部位や症状により変わります)。

入れ歯修理の難しさについて

入れ歯は、失われた歯の機能を補い、生活の質を向上させる重要な医療機器です。

しかし毎日のように使われる中で、破損や劣化は避けられず、修理が必要となる場面は少なくありません。

この入れ歯の修理は、一見単純な作業に見えて、実は多岐にわたる専門知識と技術を要する非常に難しい作業です。

その難しさの要因は、主に以下の点にあります。

1. 材料の多様性と特性の理解

入れ歯は、レジン(歯科用プラスチック)、金属、セラミックなど、様々な素材を組み合わせて作られています。

それぞれの素材には、異なる物理的・化学的特性があり、破損の状況や部位によって、最適な修理方法、接着剤、補強材料が異なります。

たとえば保険治療で広く用いられるレジンの破損であればレジンによる修理ができるのですが、金属床の破損であれば溶接やろう付けといった特殊な技術が必要となります。

実際には難しく、当院もろう付けの設備はあるのですが、ほとんど使うことはありません。

また残っている歯が抜けたり折れたりした時に、入れ歯にプラスチックの人工歯を継ぎ足す増歯修理という技術があります。

その増歯修理が保険治療のプラスチック製入れ歯なら簡単にできます。

プラスチック同士なら問題なくくっつくからです。

しかし高額な自費治療の金属床入れ歯だとこの増歯修理が格段に難しくなります。

あるいは出来ないこともあります。

なぜなら金属とプラスチックはくっつかないからです。

金属に無理やり穴を開けてプラスチックを埋め込んだり溝を掘って物理的な嵌合力に期待したり工夫はします。

ただそもそも穴を開ける場所がないくらい細い金属板だったり溝を掘れるほどの厚さがなかったりします。

普通に保険治療のプラスチック入れ歯なら簡単の修理が自費治療の金属床になつているせいで苦労したり修理不可能になってしまったりします。

また近ごろ流行のシリコン入れ歯、ノンクラスプ入れ歯などというものがあります。

商品名としてはコンフォート、スマイルデンチャーなど。

このような入れ歯には最大にして致命的な欠点があります。

それは「修理できない」こと。

壊れたら、あきらめて新しく作るしかない。
痛くなったら、あきらめて新しく作るしかない。
ゆるくなったらあきらめて新しく作るしかない。

「最新鋭、最先端技術のシリコンによって夢のようによく合う!」
みたいに喧伝されるものですが実際には言うほどは合いません。

とはいえ無理にでも削って合わせたり、歯科専用の入れ歯安定材みたいな材料ティッシュコンディショナーを無理やり貼り付けたりすることはあります。

ただあまり改善はできないのが実情です。

これらの材料特性を熟知し、適切な材料を選択する知識が不可欠です。

保険治療で歯が抜けた部分を入れ歯に継ぎ足す増歯修理

2. 精密な適合性の再現
入れ歯は、患者さんの口腔内の形状に正確にフィットすることで、安定した噛み合わせと快適な装着感を提供します。

破損した入れ歯を修理する際、元の適合性を完全に再現することは非常に困難です。

わずかな歪みやずれでも、噛み合わせの不調や粘膜への圧迫、さらには発音の障害を引き起こす可能性があります。

だから先に紹介したように、口の中で動かないように型をとる工夫が必要です。

ただ押さえる場所がないとか難しいケースもあります。

とくに、クラスプ(維持装置)の破損や、床(しょう:歯肉に接する部分)の破折の場合、口腔内の複雑な湾曲や歯列との関係性を考慮した上で、ミクロン単位の精度で修理を行う必要があります。

クラスプ修理は、写真で拡大してもスキマが見えないくらいの精度が必要です。

たとえば歯科技工所でクラスプを作ると、どうしてもそのスキマがないほどの精度ができない場合があります。

だから当院では入れ歯を作る際は歯医者が自分でクラスプを屈曲して発注のときにそのクラスプを技工所に渡して使ってもらうこともあります。

3. 口腔内環境の複雑性
入れ歯は、常に口腔内の湿潤で温度変化のある環境に晒されています。

唾液、咀嚼圧、清掃時の力など、様々な要因が入れ歯に影響を与えます。

修理後にこれらの口腔内環境に耐えうる強度と耐久性を持たせるためには、単に破損部位を接着するだけでなく、応力集中を避けるような設計変更や、適切な補強を施す必要があります。

これも先にご紹介した、クラスプの形の作り方を工夫して上の歯とぶつからないようにした、という話です。

【関連記事】→入れ歯が壊れた「Q.部分入れ歯のバネが折れてしまった。新しい入れ歯を作らないとダメですか?」


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親心と歯の健康:守りたい大切なもの

こんにちは。院長の伊藤です。
早いもので、1年の半分が経ちましたね。
この半年間、 多くの方々にご来院いただき、その分たくさんの笑顔に触れることができました。
本当にありがとうございます。

1年の後半も皆さまの歯の健康を守るため、精いっぱい努めてまいります 。

 

さて普段は、患者様の唯一無二のお口の健康を守り抜く、という責任を自負しながら歯科医師としての仕事に全力を注いでいる私。
しかし白衣やスクラブを身につけていないときは、一介の父親でもあります。
物騒なニュース等を耳にするたび、家族のことが心配でたまりません。
こちらは先日、娘が塾へ行くところのワンシーンです。

娘の背中を玄関先まで追いつつ、「行ってらっしゃい」「気をつけてね」「明るい道を通って帰りなさいよ」と、くどくどと声をかける私。
しまいには「そうよ、最近もニュースで……」と妻まで加わる有り様。
娘はたまらず「もう!そんなの両側から立体音響で聴いてるみたいで、うれしくないワ」と、言いながら外へ出てきました。

まあ親心だと思ってください。親の心配は尽きません。
「ただいまー」と普段どおり元気に帰ってくるとやはりホッとします。
何かあれば少しでも事前に対策をしておかなければと、普段から警視庁のスマホアプリ「デジポリス」で情報収集しています。
特に、女性の皆様! 怖い思いをしたら迷わず110番ですよ!

 

ちなみに5月下旬から6月の上旬まで、春の運動会シーズンでしたね。
お子さん・お孫さんの学校へ、応援に行かれた方も多いのではないでしょうか。

娘は毎年「ダンスが凄くうまく踊れたよ!」「今年は◯位だった、悔しい!」などと感想を聞かせてくれます。
しかし私としては、怪我に注意をしながら自分のベストを尽くしてくれれば結果に関係なく、それで良いと思っています。
これも親心。

 

当院にも子育て中の方や、お孫さんのお話を楽しそうに話してくださる患者様が多くご来院されます。
皆様がお話してくださるお子さん・お孫さんの一人ひとりの健やかな成長を、歯科医師としても一人の父親としても心から願っています。

【医院からのお知らせ】
2025年7月は暦通りの診療です。

 

 

 

いとう歯科医院
〒167-0054
東京都杉並区松庵3-6-3
TEL:03-3333-5389
URL:https://ireba-ito.com/
Googleマップ:https://maps.app.goo.gl/9jrBJZuNm3gP5v3C7


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・20万円のシリコン入れ歯がたった3年で「修理できません」と言われた話

「修理できません」
「たった3年で壊れたのも仕方ありません」
「作り直すしかないので料金は再び20万円(税別)になります」

歯が2本分の小さなシリコン入れ歯にヒビが入ったので、施術した某大学病院を再び訪問した、60代女性のUさんが担当の歯医者から言われた内容です。

「患者自身で接着剤で着けるぅ~?
…論外ですよ」

担当医はまるで憐れむかのような口調だったそう。

じゃあ一体どうしたらいいの?

シリコン入れ歯とは文字通り入れ歯の赤い部分をプラスチックではなくシリコンで作る入れ歯です。

・金属バネが要らない!
・材料が柔らかいから歯グキとよく合う!
・プラスチックより薄く作れる!

そう喧伝されるシリコン入れ歯ですが上記の宣伝文句は全てデメリットになります。

・金属バネじゃないから、入れ歯がユルいとか逆にキツい時に調整が一切できない。
・柔らかいから噛むとたわんでしまい、実際にはよく噛めない。
・薄く作るから壊れる。とくに痛みが出たときに薄すぎて削ることもできない。
・壊れて修理しようにも、プラスチックとシリコンはくっつかないので修理もできない。

結果、冒頭のようなトラブルにつながります。

また私が自費治療をやらない理由は
「10年後の未来など誰も予測できないから」です。

普通に保険治療で総額1万円以内で作れる入れ歯に自費治療として20万円以上もかける。

「それならば最低10年はトラブルなく使えてあたりまえと思っていました」

とUさんは言います。
私も同感です。

それが自費治療に対する一般的な感覚だと思います。

しかし10年後の口の中がどうなるか、誰も予測など不可能です。

ちなみにやむを得ない事情で入れ歯を作り直すのは、保険治療ならば半年経てば可能になります。

つまりこれは言葉を変えると、半年先のことも予測できないような入れ歯、口の中が世の中に多いということです。

口の中に限らず10年後の未来など誰も予測できません。

例を挙げるならウクライナとロシアが2022年から戦争を始めることを2012年に予測できた人は多分いません。

いつか戦争になるだろう、くらいは私でも予測していましたが遠い未来のことと考えていました。

日本も隣りの某大国と戦争を始める日は来るのでしょうが、それは私が死んだ後、50年以上は先の話と勝手に思っています。いや、そう思いたい。

…自分は政治評論家になる資格はなさそうです。

それはさておきUさんの口の中も

・残っている歯にセラミック製かぶせものが多い
・体も小柄で口と歯の大きさが小さい
・顎関節症の症状や歯を削った後に決まって起こる原因不明のめまい、手の痺れ、頭痛の不定愁訴で長期間の通院歴があるなど

難しい要素が満載です。

「Uさんの口の10年後を予測せよ」
そんな問題が出題されたとしたら私は空欄で提出します。

・残っている歯が抜けるかもしれない
・下手に削ると顎関節症や不定愁訴が再発かもしれない
・違和感すごくてムリ、といった訴えで、そもそも入れ歯を入れておけないかもしれない

何が起こるかわからない、そんな予測不可能な口の中と対峙するのに役立つのが保険治療です。

・プラスチックと金属バネでできた保険治療の入れ歯なら調整も修理も自由自在。
・残っている歯を削るのも最小限にできる。
・理不尽でない価格でできる。

もっとも歯1~2本分の小さい入れ歯は、それなりの難しさがあります。

簡単ではない、使えない可能性もあることを、よくよく説明してから作製しました。

結局はすぐに馴染んで何事もなく使えるようになりました。

今回行なったUさんの部分入れ歯を作る治療は、保険治療3割負担で総額約1万2千円でした(症状によって費用は変わります)。

シリコン義歯の長所と欠点

シリコン入れ歯にはいくつかの長所と欠点があります。以下にそれぞれを詳述します。

長所

快適さ:
シリコンは柔軟性があり口の中でのフィット感が良いとされています。

そのため硬いプラスチック製の入れ歯と比べて、違和感や痛みを感じにくいという論調をよく見ます。

全く咬み合わせのない前歯とかならそうかもしれません。

しかしそれは、噛むなどの力が加わると軟らかいため入れ歯そのものが動いてしまうということです。

入れ歯というものは総入れ歯、部分入れ歯を含めて様々な材料や設計がありますが、それらの設計思想はただ一つです。

それは
いかに「動かない」入れ歯にするか。

カチカチ噛んでも、ギリギリ歯ぎしりしても、食事しても、

「動かない」ことを目指して研究されてきました。

入れ歯がフラフラ動かないから快適に噛める、食べられる、使える、わけです。

それを入れ歯自体が柔らかければ当然動いてしまいます。
それ自体おかしなことと思います。

そのようなことからシリコン入れ歯とは何のための入れ歯なのか、私には理解できません。

噛む力の全くかからない歯並び、たとえば上の前歯が極端に出っ張っていて下の歯と全く噛み合わないところに入れるとか、かなり限局した使い方になると思います。

ただそのような難しい歯並びの症例は入れ歯を入れるのも長く使うのも難しいものです。

シリコン入れ歯は自費治療で数十万円とかします。

それならば10年は使えないと患者さんだって納得しないでしょう。

10年使えて当たり前。

金額からすると当然そうなることは歯医者の立場でもわかります。

しかし難しい条件の難しい設計の入れ歯が10年使える根拠など存在しないと考えた方が自然と、個人的には感じます。

入れ歯修理の費用は保険治療3割負担の方で総額約3,000~5,000円

味覚の影響が少ない:
シリコンは味を吸収しにくいため、食べ物の味をより自然に感じることができます…という話も見かけるものです。

これは
「シリコン入れ歯なら食べ物を保険治療の入れ歯よりも自然に感じることができる」
根拠、研究、論文があるなら読みたいです。

自分が「シリコン義歯 味覚」で公的機関限定で検索した範囲では見つけることができませんでした。

シリコン入れ歯と味覚に関しては、憶測や感想、宣伝で言っているだけと個人的には思いました。

耐久性:
高品質のシリコンは耐久性があり、適切にメンテナンスすれば長持ちします。

これもよく見かける論調です。

しかしそもそも軟らかいため変形してしまい、残っている歯との適合が全くないユルユルのシリコン入れ歯によく遭遇します。

それで全然噛めないし使えないと。

そうなったシリコン入れ歯は調整が一切できません。

シリコンの材料の物理的性質だけを見れば良い材料なのでしょうが、入れ歯として使うとなると全く別問題が生じます。

アレルギーのリスクが低い:
金属やアクリルに比べてアレルギー反応を起こしにくいです。

それはそうですが、アレルギーが起こりにくいというのは使われる頻度が極端に少ないから、というのもあります。

チタンもアレルギーを起こさないと持て囃された時代がありましたが2006年ころからチタンアレルギーの症例を見かけるようになったという論文がありました。

参考文献:チタンアレルギーの疫学的検討
Tokushima University Institutional Repository
https://repo.lib.tokushima-u.ac.jp

ですからいずれシリコンでもアレルギーが出てくる可能性はあります。

歯茎への圧力が軽減:
柔軟性があるため、歯茎に対する圧力が少なく、歯茎の健康にも良いです。

これも軟らかいから良いという論調ですが軟らかい故の欠点は、これまで書いてきたとおりです。

シリコン入れ歯の欠点

コストが高い:
一般的に、シリコン入れ歯はアクリルや金属製のものに比べて製造コストが高いです。

とはいえ製造コストは数が増えれば下がってきます。

製造コストが高いのは単に数が少ないから、ということもありえます。

数が少ないのはなぜか?

保険治療ではないからです。

ではなぜ、保険治療にならないのか?

色々な欠点があるから

と考えるのが自然と個人的には思います。

形状保持が難しい:
長期間使用すると、シリコンは徐々に変形することがあり、定期的なメンテナンスや調整が必要になります。

これは軟らかい故の欠点です。

「定期的なメンテナンスや調整が必要」とありますが、そのメンテナンスや調整が一切できないことがシリコン入れ歯の最大の欠点です。

だから当院ではシリコン入れ歯は作りません。

汚れが付きやすい:
シリコンは表面が滑らかでないため、汚れや細菌が付着しやすいです。適切な清掃が求められます。

その欠点はプラスチック製の入れ歯でも同じです。

シリコンもプラスチックも顕微鏡レベルで見れば穴だらけです。

その穴に汚れや細菌とその代謝物の固まり、プラークなどが入り込みます。

これはもう歯ブラシや入れ歯洗浄剤でも落ちません。

とはいえプラスチックならば削って新鮮な面を出した上で研磨すればまたキレイになります。

また目に余る汚れになってしまっても保険治療の範囲ならば作製してから半年以上経てばまた新しく作れる「半年ルール」がありますし低コストです。

いっぽうシリコン入れ歯は新しく作ろうとすると再び数十万円とかかかります。

半年ごとに数十万円使える大富豪でしたら、当院ではない歯医者にてご自由にどうぞ、としか私には言えません。

もっとも入れ歯の汚れだけを理由に入れ歯を新しく作ることはお勧めしません。

耐久性の限界:
非常に硬い食べ物や過度の力が加わると、シリコンが破損する可能性があります。

保険適用外の場合が多い:
日本では、シリコン入れ歯が保険適用外であることが多く、自己負担が増える場合があります。

シリコン入れ歯を選択する際には、自分の口腔環境や生活スタイル、経済的な面も考慮する必要があります。

歯医者と相談して、最適な選択をすることが重要です。

【関連記事】→保険?自費?入れ歯にかかるお金について「Q.保険の入れ歯か、自費の入れ歯を作るのが良いか悩んでいます。種類は選択できますか?」


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・部分入れ歯の金属バネ(クラスプ)が折れたので、歯科医師が新しく作製した症例、オルタナティブブログ

杉並区、西荻窪で、保険の入れ歯治療を数多く手がける歯医者、いとう歯科医院の伊藤高史です。

オルタナティブブログに記事を載せました。
部分入れ歯の金属バネ(クラスプ)が折れたので、歯科医師が新しく作製した症例↓

https://blogs.itmedia.co.jp/ito_takafumi/2025/06/content_8.html

ホームページ掲載 すみ