One、Two、1、2、3、4 ……
ダン、ダダダ、ダンダン、ダッダンダーン ♪
カウントとともに始まった火を噴くようなキーボード。
ベースとドラムスが一体となって叩き出す激しいリズム。
割れんばかりの大歓声。
学生のころに中野サンプラザで見たプログレッシブ・ロックバンド「エマーソン・レイク&パーマー(EL&P)」のコンサートです。
目の前で繰り広げられる世界的ヒット曲「展覧会の絵」(アイランドレコード)に私は興奮しすぎて気絶しそうでした。
ドラマーのカール・パーマーは「EL&P」の前に「クレイジーワールド オブ アーサー・ブラウン」というバンドにいました。
いったいどんな音楽をやっていたんだろう?
それは私の中で長い間ずっと謎のバンドでした。
学生のころはまだインターネットもなかったので、1968年という古い時代のことを調べる手段がなかったからです。
近ごろは便利になりました。
YouTube で検索すれば当時の動画がすぐ見つかります。
アーサー・ブラウンのステージは異様な雰囲気に包まれています。
顔と体に奇怪なペインティングをして、頭上には、比喩的な表現ではなく、本当に火のついた冠をかぶっていました。
「オレは地獄の炎の神だ! お前を待っている! ファイアー!!」(I am the god of hell fire and I bring you. Fire!)と激しく踊りながら金切り声で絶叫する。
この「クレイジーワールド オブ アーサー・ブラウン」の「Fire」という曲は全米ランキングで第2位になっています。
ただ残念なことに世界的なヒットになったのはこの1曲のみ。
ともすれば「一発屋」と揶揄されかねないところですが、アーサー・ブラウンの歌と演奏とパフォーマンスは、のちのバンドに多大な影響を与えました。
彼らに影響を受けた代表的なミュージシャンは、アリス・クーパー、デヴィッド・ボウイ、ピーター・ガブリエル、Kiss、ジューダスプリーストなど全米・全英で大ヒットした、そうそうたる顔ぶれです。
アーサー・ブラウンの予想を超えるパフォーマンスに驚いて次々と他の動画も見ていたら驚くべき情報を見つけました。
2019年に、アーサー・ブラウンと「EL&P」のカール・パーマーが再び一緒にライブを行なっていました。
なんと50年ぶりの共演です。
アーサー・ブラウンは1942年生まれの77歳、もうすぐ80歳ですが相変わらず顔面に極彩色のペイントをして力強い歌と踊りは健在。
カール・パーマーの躍動感あふれる通称「走るドラム」も「EL&P」時代と変わらず元気いっぱい。
動画を見ながら私はロックンロールの興奮とは違う、何か温かいものが心に満ちてくるのを感じていました。
学生のころの楽しかった想い出がよみがえったのもありますが、老成したアーサー・ブラウンと私の祖父がオーバーラップしていたからです。
祖父(伊藤高秋)は84歳まで歯科医師として現役でした。
80歳を過ぎても治療室を元気に飛び回っていました。
細身で、細長い顔で、広いおでこ。
この点もアーサー・ブラウンと共通していますが、総入れ歯をも自らの手で作製し多くの患者さんに慕われていました。
そんな祖父の姿と、多くのミュージシャンに慕われて影響を与えたアーサー・ブラウンが重なって見えたのです。
私も祖父や父の治療方針を受け継いで入れ歯治療を中心に、患者さんの健康を願って日々真剣に治療に向き合っています。
とはいえ凡人の私がアーサー・ブラウンのように世界的に影響を与える歯科医師になることは考えにくい。
しかしアーサー・ブラウンや祖父や父のように80過ぎまで現役で元気に治療を続けることなら可能かもしれません。
念のために申し上げておきますが、祖父も、父も、そして私も「クレイジーワールド」な歯科医ではありませんので誤解のないようにお願いいたします。
これからも、こつこつと歯科治療の研究を続け、ひとりでも多くの患者さんの苦痛を取り除き健康な生活を送ることができるようにがんばります。
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