「噛めないんです」と言って入っていらしたYさん(90代女性)の口の中を見てすぐに分かりました。
部分入れ歯のバネを支えている歯がグラグラ揺れているからです。噛むたびに歯が揺れてしまうため、入れ歯がずれて噛む力が入らないのです。
歯を抜くことも考えましたがYさんには抜けない理由がありました。
骨粗しょう症の薬を飲んでいるため無理に歯を抜くと顎骨が腐る腐骨と呼ばれる副作用があらわれます。設備が整っている大学病院でしか治療できない、やっかいな症状です。
5年ぶりに来院されたTさん(90歳・女性)がそっと差し出した手のひらには1センチほどのかけらが乗っていました。私の祖父が作った入れ歯の一部です。今でもメンテナンスをしながら使い続けています。
欠けた入れ歯の尖った部分に舌が触って気になっていました。ささいなことと思われるかも知れませんがあまり良いことではありません。
気にしているうちに舌を傷つけてしまったり。変な口の動かし方をして、復元した入れ歯が合わなくなったりするからです。
今回は口を開けても入れ歯は外れません。欠けた部分は気になりますが、肉も野菜もご飯も食事は今まで通りにできるようです。「最近は杖をつくようになったけど散歩が楽しみでね」と会話もしっかりしています。
いれば 専門
歯科専用の安定剤(ティッシュコンディショナー)を貼ることで歯グキと入れ歯を密着させることができます。
Mさんの入れ歯に、厚さは1ミリもないくらいのティッシュコンディショナーを薄く貼りつけて口の中に装着。
「あ、これは吸い付く感じがします」
使ったのはほんのわずかな量ですが変化がハッキリ分かります。
このティッシュコンディショナーは父の代から使い慣れている材料です。「なんとなく入れ歯がゆるいかも」と感じたら、不自由さを我慢せずに来院されることをお勧めします。
今回行なったMさんのティッシュコンディショナーを貼る治療は保険適用で約1,500円でした(治療費は症状により個人差があります)。
ほけん しゅうり