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保険治療で入れ歯と口の機能の検査と管理を行なっている症例

杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「そういえば、昔からよく食べるとムセるんですよ」

ハタと思い出したようにおっしゃるのは50代男性のKさん。
口の中に関しては上下とも大きめの部分入れ歯を使っています。

残っている歯も不安定な状況です。
揺れている歯もありムシ歯のためにかぶせものを作製した所も何本もあります。
いつ歯が抜けたり折れたりするか警戒しているところです。

もっともそのような事態に備えて、あらかじめ入れ歯を作っておいたので歯を失ったら、抜けた部分は入れ歯にプラスチック製の人工歯を継ぎ足す増歯修理ができます。

そういった意味では大丈夫なものの、歯を失う速度を少しでも遅らせたい。

比較的若くて体格はいいし全身的な病気も一切ありません。
なぜ口の中だけ好ましくない状況になっているのでしょうか。

ムシ歯になったら削って詰める、かぶせる。
歯が抜けたら入れ歯に継ぎ足す。

もちろんこれらは歯科医師の役割りです。
しかし口の中の悪化に対して後手後手にまわっている印象は否めません。

たとえば全身を診る内科などは病気にならないうちに血液検査やレントゲンなどで数値や画像を通じて症状が具体的に悪化して現れる前に予防と早期治療に努めています。
私も毎年の区民健診と2年ごとの胃と大腸の内視鏡検査を受けています。

歯科でも同じようなことができないものでしょうか。

実は最近できるようになりました。
歯科でも内科のように患者さんの状態をより深く調べて治療に導く方法があります。
それが口腔機能検査です。

保険治療で、痛い入れ歯も調整できます

こんな症状はありませんか?

以前に比べて…

● 食べ物が口に残るようになった
● 硬いものが食べにくくなった
● 食事の時間が長くなった
● 食事の時にむせるようになった
● 薬を飲み込みにくくなった
● 口の中が乾くようになった
● 食べこぼしをするようになった
● 滑舌が悪くなった
● 口の中、とくに舌が褐色~黒く汚れている

「口腔機能低下」の状態とは加齢によって口腔内の「感覚」「咀嚼」「嚥下」「唾液分泌」等の機能が少しずつ低下してくる症状です。
「口腔機能低下」を早いうちに自覚することで生涯にわたり、食べることを楽しみ、会話に花を咲かせ、笑顔が続く健康長寿を支えます。

「口腔機能低下症」は、患者さんの「口腔機能低下」に「専門的な介入をするキーワード」です。
地域のかかりつけ歯科医師として、「口腔機能低下症」を診断しましょう。

「口腔機能低下症」を診断しましょう

歯科医師が「口腔機能低下症」を知り口腔衛生管理および口腔機能管理に積極的に介入することで、高齢者の豊かな食生活と健康維持を実現していきます。

その口腔機能を知るために行なうのが口腔機能検査です。

口腔乾燥による症状
 口の中が乾くのが気になる

口腔衛生状態不良(口腔不潔)による症状
 口の中、とくに舌が汚れている

咀嚼機能低下による症状
 硬いものが食べにくい

嚥下機能低下、舌口唇運動機能低下、低舌圧による症状
 滑舌が悪くなった
 食べこぼすようになった
 食べ物が口に残る
 薬を飲み込みにくい
 食事の時にむせる

咬合力低下
 口の中に残っている歯の本数が少ない

このような症状に心当たりがある方に行なうのが口腔機能検査です。

ゆるい入れ歯には保険治療で歯科専用の入れ歯安定剤を貼りましょう

口腔機能検査は以下のように行ないます。

口腔機能低下症は7つの評価項目[①口腔衛生状態不良(口腔不潔)、②口腔乾燥、③咬合力低下、④舌口唇運動機能低下、⑤低舌圧、⑥咀嚼機能低下、⑦嚥下機能低下]を用いて診断します。
7項目中3項目以上で低下が認められた場合に口腔機能低下症と診断されます。
7つの下位項目と各項目から読み取れる口腔機能の問題点について解説します。

1.口腔衛生状態不良(口腔不潔)
口腔の衛生状態は舌苔の付着程度を評価します。
舌表面を9分割し、それぞれのエリアに対して舌苔の付着程度を3段階(スコア012)で評価。
合計スコアが9点以上(TCIが50%以上)で口腔不潔と評価します。

2.口腔乾燥
口腔水分計(ムーカス®)を用いて評価します。
舌尖から10mm後方の舌背中央部における口腔粘膜湿潤度を計測。
測定器の先端に設置してあるセンサー部分を舌背部に押し当てることで測定します。
27.0未満を口腔乾燥とします。

3.咬合力低下
残存歯数を用いる方法は20歯未満の場合に咬合力低下と判定します。
咬合力の低下は咀嚼能力と相関が高く、残存歯数や咬合支持と関連が強いが筋力の低下にも影響を受けます。

4.舌口唇運動機能低下
オーラルディアドコキネシスの計測で検査を行ないます。
「パ」「タ」「カ」の音を5秒間計測して1秒間当たりの回数を算出します。
「パ」は口唇の動き「タ」は舌前方の動き「カ」は舌後方の動きを評価します。
いずれか1つでも6回/秒未満の場合に舌口唇運動機能低下と判定します。
舌口唇運動機能低下は口腔周囲の運動速度や巧緻性が低下した状態の指標となり、会話や食事に影響し生活機能やQOLの低下にも影響を及ぼす可能性があります。

5.低舌圧
舌圧は、JMS舌圧測定器(株式会社ジェイ・エム・エス)を用いて測定することが可能です。

JMS舌圧測定器は、舌圧プローブ、デジタル舌圧計、連結チューブから構成されています。
測定時は、硬質リング部を上下顎前歯で軽く挟むようにして、唇を閉じ、プローブ先端部のバルーンを舌と口蓋で押しつぶします。
日常生活において義歯を使用している場合は、義歯を装着した状態で測定。
最大舌圧が30kPa未満で低舌圧と判定する。

低舌圧の原因は、脳血管障害やパーキンソン病などの疾患、舌がん術後などの直接的な原因と廃用症候群、低栄養等の相互作用的な影響が考えられます。
舌は口腔周囲器官と協調して咀嚼、嚥下、構音に関わる非常に重要な器官です。
また、舌は筋肉の塊であるため、低舌圧は舌の筋力低下を意味します。
舌圧が低下して20kPa未満となると摂食嚥下障害に相当すると考えられます。
舌圧と食事形態の関係について調査した研究では、舌圧が30kPa以上ある人は全員常食を摂取しているのに対して、20kPa未満の半数以上が調整食を摂取していたことを報告していました。
よって、常食を摂取するためにはある一定以上の舌圧が必要であるといえます。

6.咀嚼機能低下
咀嚼機能低下の検査は、咀嚼能力検査(グルコース含有グミゼリー、グルコセンサーGS-ⅡN、GC-Ⅱセンサーチップ、株式会社ジーシー)で計測します。
グミゼリーを咀嚼した後に水を含嗽(がんそう)して吐き出させて、吐出水中に溶出したグルコース濃度を測定。
グルコース濃度が100mg/dL未満を咀嚼機能低下と判定します。

7.嚥下機能低下
EAT-10は信頼性と妥当性が検証された摂食嚥下障害のスクリーニングテストです。
方法は、嚥下スクリーニング質問用紙を用います。

10項目の質問で構成され、それぞれ5段階で回答し、合計点が3点以上であれば問題ありと判定し、専門医療機関での精査が必要となります。
EAT-10は主観的な評価ですが、個々の質問項目に注目すると患者のQOLを評価する項目があるため、介入効果の判定にも有効とされます。

聖隷式嚥下質問用紙を用いた場合は、より頻繁に起こる、または、重症を疑わせる解答項目(Aの項目)が1つ以上の場合を嚥下機能低下と判定します。

総入れ歯を作る費用は保険治療3割負担の方で総額約2万円

今回のKさんは咬合力低下、低舌圧、嚥下機能低下がありました。
これらは検査により具体的な数値として表せます。

とくに嚥下機能が低下していました。
嚥下機能検査とは、飲み込む機能についてアンケート調査のようの書式に三択形式で答えていただくものです。

その検査の項目を見て

「そういえば」

とKさんは食事中にムセることを思い出した次第です。

そのような事で今回の治療としては飲み込む機能を担う舌や口の周りの筋肉を鍛えて強くするリハビリテーション、口腔機能訓練を行ないました。

鍛えるというと筋トレみたいな厳しいイメージですが、そんなことはありません。
食事前後に舌やクチビルを1~2分動かす程度の簡単なものです。
それでも動かさないよりはずっと効果があります。

定期的な口腔機能訓練と歯周治療、入れ歯の手入れの甲斐があって、それから2年近く経って歯を抜いたりすることなく順調に経過しています。

参考文献:日本老年歯科医学会 https://www.gerodontology.jp/
公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/orarufureiruyobo-taberuchikara-ikiruchikara/orarufureiru-kokukinoteikasho-shindan.html