杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。
「ダメだなぁ。新品を作りましょう」
初めて来院された患者さんに、このような方針を選択するのはやむを得ないところでした。
長年使い慣れた入れ歯が患者さんにとって一番いい入れ歯なんだ。
これが「いとう歯科医院」の基本的な考え方です。
入れ歯は使い込むほどしっくりと馴染んでまるで自分の身体の一部のように一体化してきます。
むやみに新しい入れ歯を作り直すより、修理しながら可能な限り長く使っていただいた方が患者さんに負担がかからない最善の方法となるからです。
もし破損してしまったら、たとえ小さな破片でもお持ちください。
ほとんどの入れ歯は修理が可能ですし、また元のように使えるようになります。
最近ある歯科医院で数十万円かけて自費でシリコン製の入れ歯を作ったIさんですが、
部分的に合わずに痛みが出はじめ、食事も会話も満足にできず困っていました。
ところが、悩みを訴えたものの、その歯科医院では調整できないと言われたそうです。
入れ歯修理の費用は保険治療3割負担の方で総額約3,000~5,000円
これが新素材の困った点です。
シリコンのような新しい素材は見た目はとても美しいのですが歯科用の修理素材や治療器具との相性が悪いものです。
・痛い部分を削ることもできない。
・ティッシュコンディショナーのような安定剤を貼ることもできない。
・後から金属バネ(クラスプ)をつける修理もできない。
・歯が抜けた部分にプラスチックの人工歯を継ぎ足す増歯修理もできない。
大変残念ですが当院でも調整はできません。
こうした新素材の入れ歯は「長く使い続けて欲しい」という方針に馴染まないため、いとう歯科では今のところ扱う予定はありません。
そこで今回は保険でプラスチックの入れ歯を新しく作りました。
これで会話も食事も不自由なくできます。
しかも気になる部分があれば、いつでも微調整が可能だと知ってIさんは笑顔を見せてくださいました。
今回行なったIさんの入れ歯を新しく作る治療は保険適応3割負担で約8,000円でした(治療費は症状により個人差があります)。
【関連記事】→保険?自費?入れ歯にかかるお金について「Q.保険の入れ歯か、自費の入れ歯を作るのが良いか悩んでいます。種類は選択できますか?」
ゆるい入れ歯には保険治療で歯科専用の入れ歯安定剤を貼りましょう
シリコン入れ歯についてはスマホで検索すれば山のように情報が出てきます。
流行でもあるようです。
そのほとんどの説明においてシリコン入れ歯のメリットと称して喧伝していますが、その多くはそのままデメリットになります。
ところがデメリットについては文章の最後のほうに小さく書かれているだけだったり肝心なことが書かれていなかったりです。
そのようなことでメリットとされていることと、その裏返しで起こるデメリットについて書いていきます。
シリコン入れ歯とは、歯グキと接触するピンク色の部分にプラスチックではなくシリコンを使った入れ歯です。
シリコンは生体適合性が高くアレルギー反応が少ない安全な材料で柔軟性と吸着力を兼ね備えています。
これによって入れ歯のズレや不快感が減少し顎の動きに合わせて快適に適応します。
また食事時の痛みが軽減され食べ物をより良く噛むことが可能です。
そしてシリコン入れ歯は歯に引っかけるバネ(クラスプ)を使いません。
これにより審美性が高まり快適な使用感を提供します。
シリコン入れ歯を使用するメリットをご紹介します。主に次の3つです。
・保険の入れ歯より目立たない
・痛くなくよく噛める
・安定感があり外れにくい
それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。
1.保険の入れ歯より目立たない
メリット→シリコン入れ歯は従来の保険適用入れ歯にありがちな目立つ金属の金具を使用しません。
代わりに歯グキの色に近いピンク色の留め具を採用しており、目立たない外観を実現します。
そのため保険の入れ歯と比較してシリコン入れ歯は審美性に優れ自然な見た目を提供し周囲に気付かれにくいメリットがあります。
デメリット→金属を使わないことはその通りです。
しかしピンク色の留め具とはシリコンやプラスチックの構造物です。
この留め具が折れたりゆるくなったりすることが頻発します。
金属よりも柔らかいので当然のことです。
しかし合わなくなったときに今回の患者さんのようにお手上げとなってしまうのが最大のデメリットです。
「治療法がない」
そんな無責任な物を患者さんに勧めることは当院はできません。
また見た目についてですがピンク色の構造物も最初のうちはきれいですが段々と色あせてきます。
数年も経たず茶色っぽく、くすんできてしまってお世辞にもきれいとは言い難くなっているシリコン入れ歯をたくさん見てきました。
10年以上もキレイが長持ちするなら良いのですが、そうではありません。
保険治療並みに安価で入れて数年で使い捨てるつもりなら、まあいいかもしれませんが…
ちょっと刹那的ですよね。
修理調整しながら長く使う当院の治療方針とは相容れないものです。
部分入れ歯を作る費用は保険治療3割負担の方で総額約1~2万円
2.痛くなくよく噛める
メリット→シリコン入れ歯は、普通は硬いプラスチック製の歯グキと接触する面のところに、特殊な柔らかさを持つシリコンクッションを採用しています。
このクッションが歯ぐきへの圧力を軽減し噛む際の痛みを和らげます。
また硬い食材もしっかりと噛めるため食べるものを選びません。
痛みの少ない快適な使用感と咀嚼を実現し日常生活の質を向上させます。
デメリット→柔らかさが、そのままデメリットになります。
なぜなら入れ歯とは口の中でいかに「動かない」ようにするか。
そのために次々と新しい技術や道具が編み出されてきた歴史があるからです。
部分入れ歯を歯に維持する金属バネ(クラスプ)の形を工夫して歯と密着させて入れ歯が「動かない」ようにする。
総入れ歯の型とりを工夫して歯グキと密着させて総入れ歯が「動かない」ようにする。
咬み合わせを綿密に調整して噛んだり歯ぎしりしたりしても入れ歯が「動かない」ようにする。
よくシリコン入れ歯の宣伝で入れ歯を指でグニャッと曲げている写真があります。
「動かない」ことを目的として作るはずの入れ歯自身がグニャッと動いてしまうのでは何のための入れ歯なのか私には理解できません。
3.安定感があり外れにくい
シリコン入れ歯は口腔内の形状に合わせて作られた柔らかいシリコンによって高い吸着力を発揮するのが特徴です。
吸盤のように機能し噛むときに発生する顎の横方向への動きに対しても安定感に優れています。
そのため食事や会話の最中に入れ歯が外れにくくなります。
また歯ぐきと入れ歯の間に食べ物が挟まる心配も減り使用者はより安心して食事を楽しめます。
デメリット→仮に宣伝のように吸着してリンゴを丸かじりできるのならばよいのですが、実際には言うほどは吸盤のようには吸着しません。
もちろんプラスチックの入れ歯でも吸着などは簡単にはしないものです。
もっとも保険治療で作られたプラスチックの入れ歯ならば歯グキと接する面に後から歯科専用の入れ歯安定剤ティッシュコンディショナーやリベース材などを貼ることで安定させることができます。
数か月~半年ごとに安定剤を貼って快適に使っている患者さんがたくさんいます。
ところがシリコン入れ歯ではそのような調整修理が一切できません。
合わなかったら、吸着しなかったら終わりです。
高額のお金をかけてそのようなリスクを患者さんに背負わせることは行なわないほうが良いと思います。
参考文献:
お口の情報専門サイトおくちコラム
【歯科技工のプロが教える】シリコン入れ歯とは?メリットやデメリット、費用相場を徹底解説!