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・歯科治療で大事な、患者さんとの価値観のすり合わせ

杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける歯医者
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「金属のかぶせものは一切やらないって言われまして」
「来週いきなりインプラントを埋め込む予約を入れられました」
「歯の根の治療を30万円でやったんですけど歯が揺れているから、追加で何十万円かで歯グキの手術が必要らしいんです」

思わず身震いしてしまう言葉が患者さんの口から次々と出てきます。
都心の歯医者は強烈ですね。

・デメリットも多く危なっかしいセラミックよりも、保険治療の金属のかぶせものが功を奏する場面はいくらでもあります。
・来週いきなり緊急でインプラントが必要…そんな症例など存在しません。
・歯の根の治療をしても止められなかった歯の揺れを歯グキの手術で止めるなど、のるかそるかのギャンブルです。

そもそも歯の根の治療も歯周治療も、お金をかければ歯の揺れを止められる理屈が自分には理解できません。

保険治療で入れ歯の調整

今回の患者さんは、高すぎる咬み合わせを削って1週間様子を見たら揺れが治まりました。

これらの施術に決定的に欠けているものがあります。

それは「患者さんとの対話」です。

「こっちの話を全然聞いてくれない」

そのような患者さんの話をうかがうことがよくあります。

対話、会話、コミュニケーション無しの人間関係など有り得ないことは誰でもご存知でしょう。

しかしそういったものが一切ない殺伐とした人間関係の中で人の身体に手を加えてしまうとは、考えるだけでおそろしいです。

そんな話を患者さんからお聞きする時にいつも自分の頭に浮かぶのは
「インフォームド・コンセント」
です。

インフォームド・コンセント(informed consent)とは、医師や看護師から十分な説明を受けたうえで患者が医療行為に同意することです。

患者が病気や容態、検査や治療の内容、処方される薬などについて理解し納得した上で同意して治療を受けることを意味します。

インフォームド・コンセントは患者の
「知る権利」
「自己決定権」
を保障する考え方で
「十分な説明に基づく同意」
「説明と同意」
などの訳があてられます。

医療者側からの十分な説明に基づく患者側の理解・納得・同意・選択であり、あくまで患者側が主体です。

医療職も患者や家族の意向や様々な状況や説明内容をどのように受け止めたか、どのような医療を選択するかなどを考慮し、関係者と互いに情報共有して合意するプロセスでもあります。

インフォームド・コンセントは、検査・処置・手術などの侵襲的な行為や重い副作用の可能性がある注射・処方・与薬など、身体に大きな影響を与える医療行為については特に重要です。

また人生の最終段階における医療・ケアの決定や入院中の診療・リハビリ計画や退院にむけた指導など、患者や家族の参加が重要な事項に関しても重視されます。

参考文献:「インフォームド・コンセントとは」
Search Labs | AI による概要

入れ歯修理の費用は保険治療3割負担の方で総額約3,000~5,000円



「インフォームド・コンセントについて述べよ」

との設問が私が大学受験生だった時代からありました。

30年以上経った今でも医学部、歯学部受験問題で出題されます。

しかし理解、納得、同意、選択を一切無視した、歯医者の自分でさえ身震いしてしまう言葉を患者さんに平気で投げかける歯医者がいます。

そんな歯医者にインフォームド・コンセントについてどう考えるのか、今さらながら聞いてみたいものです。

「理解し、納得し、同意し、選択する」
この大切さは医療だけに限りません。

人間関係すべてに必要。
夫婦だって同じです。

夫婦でも最初から何もかも考え方ややりたい事が同じわけではありません。
むしろ他人ですから違う方が当たり前です。

私は30代のころに、いわゆる婚活をしました。

その際に結婚相談所の先生から
「交際を通じて、お相手の方と意見のすり合わせをしてください」
と言われました。

実は自分はそれで初めて
「意見のすり合わせ」
の言葉を知りました。

話し合って譲るところは譲る、受け入れてほしいところは相手のプライドをへし折ったりしないように気をつけながら落としどころを探る。

インフォームド・コンセントは患者さんと医師との関係に限定された言葉なので一般的には「意見のすり合わせ」と私は解釈しています。

もちろん一般的な仕事をする時にもそのような事が大事なのは、社会で普通に生きている人なら誰でも心得ていることです。
別に私の大発見した特殊な理論などではありません。

でも歯医者の中には自分のやりたい事だけを押し付けて患者さんとの「意見のすり合わせ」が一切できない人がいるわけです。

月並みではありますが
「治療の際にはインフォームド・コンセントを通して患者さんと意見のすり合わせをしていくこと」
をこれからも当院は大切にしていこうと再確認した次第です。

セラミック治療のトラブル

ムシ歯を削ってセラミックのかぶせものを着ける治療はその美観と耐久性に優れているとされます。

とくに高額な自費の歯科治療でよく行なわれる選択肢となっていますが、トラブルも存在します。

以下にその主なトラブルとその原因、対処法について説明します。

1. セラミッククラウンやベニアの破損

原因:
過度な噛み合わせ力や事故、またはセラミック自体の製造上の欠陥で起こります。

とくに金属をかぶせて表面の見える部分をセラミックで覆う陶材焼付鋳造冠などはよくセラミックが欠けて金属が剥き出しになります。

対処法:
破損部分を修復するか、新しいセラミックを作成する必要があります。

軽度の破片であれば接着剤で補修可能な場合もありますが、やはり頼りないものです。

繰り返し壊れるので数か月おきに修理している症例もあります。

困ったものです。

新しいセラミック冠を作製するなど、もっと大変です。

そもそも問題があるから壊れたわけですから新しく作っても同じ結果が待っています。

セラミック冠は金属と違って冠に厚みが必要です。

ですから歯が長いとか口自体が大きいとか余裕が必要です。

欧米人みたいな口の中ならそんなセラミック冠もできるものの、日本人はそもそも体も口も歯も低く小さいことが多いです。

欧米の流行をそのまま持ってきたところで上手くいきません。

2. 色調の不一致

原因:
デザインや製造段階での色合わせのミス、長期間の使用による色素沈着。

とくに日本人の歯は赤みが強いといわれています。

アメリカで活躍した元大リーガーみたいな真っ白しろな歯は、ちょっと違和感あります。

対処法:
色調が不満であれば、再度色合わせを行い、新しいセラミックを作る必要があります。

色素沈着に対しては定期的なクリーニングや歯科専用の切削器具での研磨が有効です。

3. フィットの問題

原因:
印象採取やセラミックの製作過程での精度不足。

対処法:
フィットが悪いと歯茎の炎症や痛みを引き起こす可能性があるため、再製作が必要となります。

もっとも高額な自費治療で精度の悪い物を作るならば罪作りなので、そんな歯医者は勉強しなおした方がいいです。

私が勤務していた都心の歯医者でも忙しかったからか、歯型をとると箱の中に入れて、昼休みや夕方にまとめて石こうを注いでいました。

型をとって置いておくと経時劣化します。

だから作製物が全く合わず入れ歯もかぶせものも、患者さんに装着する前に内面をガリガリ削るところから始めていました。

名医を気取っていたものの実態はそんなものです。

4. 歯肉炎や歯周病

原因:
セラミックと歯の間の隙間からのプラーク蓄積。

対処法:
正確なフィットと良好なオーラルケアが求められます。

歯医者による定期的なチェックとクリーニングが重要です。

5. セラミックの脱離

原因:
接着剤の問題、セラミックのフィット不良、または過度の力による脱落。

対処法:
再接着が可能ですが、原因によってはセラミック自体の再製作が必要です。

数年しか経っていないのに再作製で15万円請求された、というトラブルが散見されます。

10年使えるかどうかは様々な要因が関わるので、私にはそんな未来のことはわかりません。

だから高額な自費治療は行ないません。

6. 知覚過敏

原因:
セラミックと歯の間のエナメル質の薄さや、治療過程での歯質の損傷。

対処法:
確かに歯の神経を取り除く歯内療法をせず歯の神経を生かしたままセラミック冠をかぶせたほうが歯が長持ちします。

しかしセラミック冠をかぶせるには金属と比べて歯を大きく削ります。

セラミックは厚さが必要だからです。

歯の神経の近くまで歯を大きく削ることになります。

そうすると知覚過敏が起こります。

知覚過敏用の歯磨き粉や特殊な接着剤の使用、または歯の表面に保護コーティングを施すことが考えられます。

ですが結局はしみる痛みに耐えきれずセラミック冠に穴を開けて歯の神経を取り除く治療を行なうことは起こりがちです。

やはりトラブルの元となります。

つくづく高額な自費治療はやめた方が良いと思います。

7. 長期的な耐久性

原因:
経年劣化や材料の品質。

対処法:
セラミックの寿命は通常10年以上ですが状態によっては交換が必要となります。

定期的なメンテナンスが長持ちさせる鍵です。

これらのトラブルは、適切な診断と治療計画、そして術後のケアによって多くは防げるか、軽減できます。

セラミック治療を検討する際には、信頼できる歯医者を選び、治療のリスクやメンテナンスについて十分な説明を受けることが重要です。

適切な診断が必要とはいえ
「こんな患者さんに高額な自費治療をやっちゃうんだ」
という無謀の施術をよく目にします。

私も勤務医時代に経験していますが金銭的なノルマが厳しくて、もう見さかいなく高額な自費治療をやりたがるようになるものです。

せめて初めての歯医者を受診する際は保険治療で様子を見ることをおすすめします。

また日常のオーラルケアを怠らず定期検診を受けることでトラブルを最小限に抑えられます。

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