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・歴史漫画キングダムの戦術包雷のように短期決戦型で挑む「超攻撃的な」入れ歯修理とは

杉並区、西荻窪で入れ歯修理を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

時は紀元前の中国、国が分裂し群雄割拠していました。

その国の一つ秦では秦国内を二分する内乱が繰り広げられます。

圧倒的多数の反乱軍。

攻められる王軍はしかし反乱軍大将、戎てき公(じゅうてきこう)の軍勢を分離させ、崖に追い込むことに成功していました。

王軍の軍師「河了貂(かりょうてん)」は戎てき公を討ち取るために、崖と三方の軍勢で壁を作り敵軍を囲い込む戦術「包雷」を決めます。

本来は広い場所で圧倒的多数で敵を囲む包雷ですが、数で劣る王軍の軍勢は壁を一列に作るのが精一杯。

「とにかく壁を破られないように持ちこたえて」

と兵を鼓舞する河了貂。

薄皮一枚のような壁を崩そうと数で押し込む敵勢を前に、包雷を維持できる時間はわずか。

チャンスは一回のみの超短期決戦を挑みます。

そんな包雷の中を、王軍手練れの将が突撃、一撃必殺で戎てき公の首を獲る。

…秦の始皇帝を描いた漫画「キングダム」を読んで頭の芯が痺れるのを感じました。

私も診療で河了貂のような状況に置かれることがあるのを思い出したからです。

総入れ歯を作る費用は保険治療3割負担の方で総額約2万円

保険治療が中心の当院は、基本的には亀のようにじっくりと時間をかけて丁寧に取り組むのを旨としていますが、時にはこの河了貂の作った包雷のような策を挑むことがあります。

たとえばグラグラ揺れている歯が一本あります。

他に歯はなく、口を閉じてもらうとグラグラの一本だけに頼って咬み合わせの位置を保っている症例。

まさに河了貂が作った包雷のように薄皮一枚で保っている咬み合わせです。

明日には歯が抜けてしまうかも知れない。

するとどこで咬めばいいのか患者さん自身も分からない咬合崩壊を引き起こします。

治療が格段に難しくなるのです。

そんなときに超短期決戦を仕掛けます。
迷ってはいけない。

歯が抜けないように、硬化しても柔らかさが残るアルヂックスという今ではあまり使われない旧式の型採りの材料を用いて、口の型を採り模型を作ります。

一般的には専門の歯科技工所に発注して数回かけて入れ歯を作るところを私が自分で作製。

すると次回には入れ歯が口の中に入ります。

薄皮一枚のところで咬み合わせを保っているグラグラの歯に歯科医師作製の入れ歯を入れて、入れ歯で咬み合わせを作ります。

ここまで態勢を整えれば、グラグラの歯はいつ抜けても咬み合わせは無事に保たれます。

圧倒的不利な状況を、自作の入れ歯を武器に短期決戦、一撃必殺で逆転勝利へ導く。

患者さんが笑顔で帰られるのを確認してから一人で拳を振り上げ

「ヨッシャー!」

見事勝利した河了貂たちのように勝ち鬨(かちどき)を挙げます。

これだから歯科医師は楽しい。
心からそう思える瞬間なのです。

参考文献:キングダム40巻 原泰久著 集英社

歯がない人の入れ歯の咬み合わせをどうやって決めるのか?

入れ歯でカチッと噛んだ時の位置、咬み合わせを決めるプロセスは、歯医者の専門知識と患者さんの口腔環境を考えて行ないます。

残っている歯、生えている歯が今回の症例のように一本でもあれば

「はい、カチッと噛んでください」
と歯科医師が言って患者さんが上下の歯でカチッと噛めばそれだけで多くの場合、解決します。

いつも快適に安定して噛める場所が1箇所に定まれば良いわけです。

しかし歯が一本もなく入れ歯もなかったら、どうでしょう?

噛む場所が分かりません。

すると入れ歯の咬み合わせを決めることが格段に難しくなります。

そこで咬み合わせを決める様々な方法があります。

とはいえ、その前に患者さんの口の中やや顎の形を知ることが必要です。

歯がある場合には赤い色のついた薄い紙、咬合紙を噛んでもらうことで咬み合わせを把握できます。

しかし歯がない場合は当院では主に二つの方法で咬み合わせを決定します。

1.患者さんが現在使っている入れ歯を直接使う

石こう模型に入れ歯を直接合わせて咬み合わせとなる対合する模型と組み合わせて、咬合器という機械に取り付けます。

患者さんの普段使っている入れ歯を用いるので信用できます。

ただ模型と入れ歯がピッタリと合う時ばかりではないので後から修正が必要になることもあります。

2.仮のワックス床を使う

たとえば
「歯がない、入れ歯もない」
という方は、どうすれば良いでしょうか?

ワックスでできた仮の入れ歯を模型に合わせて作ります。

そのワックス床を口の中に入れて噛んでもらって咬み合わせを記録します。

ワックスを熱で柔らかくして口を閉じてもらうやり方です。

熱し方や口を正しい位置に誘導するやり方など様々なメソッドがあり、私もいくつか知識にあって役立てています。

とはいえ中々難しいのが現状です。

その他のやり方として、ゴシックアーチという器具を使う方法もあります。

保険治療でも、入れ歯はここまで治る

2. 咬み合わせの計画

咬合平面(こうごうへいめん)の決定について:

咬合平面とは、前歯から奥歯までの切端と先端どうしを結ぶとできる平面のことです。

患者さんの咬み合わせの高さや水平的な位置を考慮して、理想的な咬合平面を設定します。

これは美観だけでなく、機能面でも重要です。

もっとも上アゴの咬合平面は、ある程度の指標が使えます。

だから上の入れ歯の咬合平面が全然合わず使えない入れ歯になってしまうことは自分は少ないです。

しかし極端にアゴが小さいとか歯の大きさ、高さが小さいせいで咬み合わせが極端に低いとか、上の入れ歯で極端に難しい症例もあります。

咬合力のバランス:
前歯と奥歯のバランスを考えてカチカチと垂直に噛んだ時に均等に力がかかるように設計します。

また前後左右にアゴを動かして歯ぎしりの運動をした時に変な引っかかりがあって入れ歯が外れないように歯並びを作ることが必要です。

これにより、よく噛めるようになり顎関節への負担を軽減します。

入れ歯で噛めることによって食生活も向上し誤嚥性肺炎の予防にもなります。

3. 試作用入れ歯(ワックスアップ)

ワックスアップ:
最初の試作用の入れ歯はワックスで作製されます。

歯グキに当たるピンク色の部分(床)をワックスで作って、そこにプラスチック製人工歯を並べます。

この仮のワックス床を患者さんが実際に装着して咬み合わせやフィット感、発音、見た目の確認が行われます。

とくにその中でも上の入れ歯において、顔の正中と前歯の正中を合わせることは大切です。

模型でもある程度は
「ここが正中かな」
という指標はあります。

しかし実際の顔面とズレていることも多いです。

だからワックス床に仮の歯並びを作って患者さんの口の中に装着して確認する工程が必須です。

たとえば下の歯並びと合わせて顔に合わせたら、顔が曲がって見えるようになってしまった。

そんなことが起こります。
必ず患者さんの顔を見て、多くの場合に修正をします。

ワックス床の調整:
患者さんの口の中にワックス床を合わせて、咬み合わせの高さや幅、歯の配置などを調整します。

模型では良さそうだったけど口に合わせたら咬み合わせが高すぎて口を閉じられなかったとか、よくあります。

このような誤差は入れ歯が完成してから修正することは難しいです。

ワックス床のうちに修正しておきます。

またこの時点で難しいということは入れ歯が完成してからも難しいことが多いですので患者さんにも説明して心構えをしておいてもらいます。

意外とそのような配慮が大切だったりします。

このプロセスを一回だけでなく何度か繰り返すこともあります。

こうしてワックス床で大丈夫と確認したら歯科技工所に発注して入れ歯を完成させてもらいます。

多くの壊れた入れ歯は保険治療で1時間で修理できます

4. 最終的な入れ歯の製作

素材を選択する:
患者さんのライフスタイルや予算に応じて、樹脂製、金属製、またはセラミック製などの素材が選ばれます。

保険治療だとプラスチック製の床、金属バネ(クラスプ)です。

近年はマグネット義歯も保険治療に収載されました。

しかしマグネット義歯は後からトラブルが多く当院では扱いません。

マグネット義歯は見るなり治療をお断りすることもありますのでご了承ください。

プラスチック製の床だと強度に不安をお持ちの方もいると思います。

保険治療でも中に補強の金属線や補強床を埋め込むことができます。
だから強度も十分保てます。

咬み合わせの最終調整:
完成した入れ歯を患者に装着し、再度咬み合わせと床の適合を確認します。

5. 使用後のフォローアップ

定期チェック:
入れ歯の使用開始後も、定期的なチェックが必要です。
咬み合わせの安定性や入れ歯のフィット感を確認して必要に応じて再調整を行います。

とくに食事すると痛い、というのは入れ歯の床の直径数ミリほどの出っ張りが歯グキを傷つけて潰瘍を作っていることが原因です。

その数ミリを削合することで治ります。

ガマンし過ぎず歯科医師に相談することをお勧めします。