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・咬み合わせが高い歯を削ったら、入れ歯で両側で噛めるようになった症例

杉並区、西荻窪で、入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「入れ歯で噛めない」

50代女性のNさんは、上アゴは歯が一本もない総入れ歯、下はご自身の歯がそろっています。

上の総入れ歯は、歯グキと接するピンク色の面はよく合っていました。
しかし口を閉じてもらおうとしたらアゴがふらふらっと横に揺れて、しかも一箇所に収まりません。

普通は、上下の歯が最も多くの部位で接触し、安定した状態にあるときの顎の位置があるものです。

この位置のことを咬頭嵌合位(こうとうかんごうい)といいます。

入れ歯の咬み合わせを見る一つの指標です。

Nさんの場合、この咬頭嵌合位が定まらない状態です。
「あ、あれ、どこが咬み合わせか、自分でもよく分からないんです」

これでは確かに噛めないはずです。
上アゴに一本でも残っている歯があれば、その歯で噛む位置が咬頭嵌合位であることが多いです。

一本でも歯が残っているのと、残っている歯がゼロの総入れ歯では咬み合わせの
難しさが段違いになります。

このような時に大事なのは、よく見ることです。

「お口を閉じてください」
と私が言うと、みぎの奥歯が当たった瞬間に上の入れ歯がカタンと外れます。

今度は私が上の入れ歯に手を添えて入れ歯が動かないように押さえて口を閉じてもらいました。

みぎの奥歯だけがカツンと当たる手応えが私の指先に伝わってきます。

やはりみぎの奥歯が先に当たってしまうせいで入れ歯が不安定になっている可能性が高い。

保険治療で歯が抜けた部分を入れ歯に継ぎ足す増歯修理

みぎが高いのか?
逆に、ひだりが低いのか?

これは口の中全体を見て判断したり模型を作って計測したり様々な技術があります。

ただ今回わかりやすかったのは、みぎ下の奥歯が明らかに尖っていたことです。

この尖りのせいで入れ歯が不自然な噛み方になっている可能性が高い。

歯は尖っている方が噛む効率は上がります。
歯が尖っている方が肉などを咬み切りやすい。

当たり前のことを言っているだけなのですが、これには条件があります。

それは、上下とも同じような形で尖った部分と凹んだ部分が合わさっていること、アゴや関節がその尖った歯にふさわしいことです。

これも当たり前の話です。

尖った歯を使いこなすなら上下とも尖った歯が必要です。
アゴもそれを使いこなせるガッチリしたアゴ骨と関節が必要なのは言うまでもありません。

ただ上の歯が入れ歯だと、そんな尖ったプラスチック製人工歯の入れ歯で下の歯と噛ませるのは至難の業です。

今回のようにアゴ骨が入れ歯を支えられず簡単に外れてしまうことにつながります。

上の総入れ歯に尖った歯を与えるよりは下の尖った歯を削ってなだらかにして入れ歯、アゴ骨に合わせた方が簡単ですし結果も良好になることが多いです。

治療は、まずは簡単なことから行なうのが原則です。
それで好転しなければ次のことを考えましょう。

歯の尖り1ミリ程度を削るだけなら患者さんの負担も最小限です。

歯を削ってから再び口を閉じてもらいました。

「あっ、ラクになりました。これなら、ひだりでも噛めます!」

Nさんは笑顔で答えてくださいました。

今度は咬頭嵌合位が定まって、しっかり噛めるようになりました。

左右に歯ぎしりしても入れ歯が外れないことも確認して治療終了となりました。

今回行なったNさんの、咬み合わせを調整する治療は、保険治療3割負担で約1,000円でした(治療費は症状により個人差があります)。

部分入れ歯の金属バネが折れても保険治療で修理できます

咬頭嵌合位(こうとうかんごうい)とは、上下の歯が最も多くの部位で接触し、安定した状態にあるときの顎の位置です。

下顎安静位から完全に口を閉じた先が咬頭嵌合位に相当します。
咬頭嵌合位には、次のような機能的意義があります。

咀嚼終末位として
習慣性開閉口運動の終末位として
生理的な咬みしめ位として

咬頭嵌合位は、顎関節や咀嚼筋に関係なく、歯の形態的な面から規定されます。また、中心咬合位とも呼ばれます。

咬頭嵌合位は、咬耗や抜歯、歯の移動、補綴処置などによって咬合面形態が変わると変化する可能性があります。
また、咬頭嵌合位の早期接触は、歯周組織をはじめ咀嚼系全体に大きな影響を与えます。

保険治療で入れ歯調整できます

総入れ歯で噛むには、前歯で噛み切って左右の奥歯でつぶすように噛むのがコツです。

前歯のみで噛んだり、片側の奥歯で噛み続けたりすると、入れ歯が浮き上がって外れやすくなります。

総入れ歯の噛み合わせには、次のようなポイントがあります。

前歯と奥歯でバランスを保つ
奥歯を前後左右に均等に接触させる

総入れ歯では、天然の歯に比べて噛み合わせの力が約3割程度になります。

そのため、今までと同じものを食べようとすると噛み切れなくなる場合があります。

同じ食べ物でも野菜などは薄切りやみじん切りよりも輪切りにすると噛み砕きやすくなります。

肉などは細かく刻みを入れる隠し包丁を入れておくと噛みやすくなります。

工夫して入れ歯でも食事を楽しんでいただきたいと思います。

総入れ歯が合わないと、次のような問題が発生する可能性があります。

・食事中に入れ歯と歯茎の間に食べ物が挟まりやすくなる
・滑舌が悪くなる
・喋る・飲み込むといった口の基本動作全般の機能が低下する

総入れ歯に慣れるには調整だけでなく、総義歯自体に慣れることも必要です。

慣れるまでには、長い場合は1カ月以上かかることもあります。

参考文献:Search Labs | AI による概要

入れ歯の咬み合わせの作り方

1. 初回の診察と印象採取

まず歯科医師は患者さんの口腔内を検査して残っている歯や歯グキの状態を確認します。

次に、柔らかいゴム状の材料(印象材)をトレーに盛って口腔内の型を取る印象採取という作業を行ないます。

この型に石こうを流し込んで石こう模型を作ります。この模型は入れ歯を作るベースとなるため、正確さが求められます。

既成の金属トレーを使うこともありますが既成トレーで型とりして作った模型を元に患者さんの口に合ったトレーをプラスチックで作ることもあります。

そのトレーのことを各個人に合わせている各個トレーといいます。

その各個トレーでもう一度型をとる精密印象を行なうこともあります。

当院でもとくに歯が一本もない総入れ歯を作る時にはよく行ないます。

2. 咬合採得
印象採取の後、咬合採得(こうごうさいとく)を行ないます。

これは患者さんが上下の歯を閉じた状態を模倣し、どのように歯が接触するかを記録するステップです。

ここで使用されるのは咬合レジンやワックスで、患者さんの正確な咬み合わせを再現します。

咬合採得は大変難しい技法です。

アゴの関節は上下だけの蝶番運動だけでなく前後左右にも自由に動くからです。

その中から最適なアゴの位置を決めます。

自分も今でも様々な技法を勉強して役立てています。

3. 試作用義歯の製作

石こう模型と咬合情報に基づいてワックスのボディと人工歯とで試適用仮義歯を作製します。

これは最終的な入れ歯の前段階で、患者さんが実際に口の中に装着して、フィット感や見た目、咬み合わせを確認するために使用します。

フィット感の確認:
試適用仮義歯を装着し、とくに歯グキや口腔内の他の部分に圧迫や痛みがないかをチェックします。

咬み合わせの確認:
患者さんに試作用義歯で噛んでもらい、食べ物を咀嚼する感覚や、上下の歯がきちんと合うかを確認します。

この段階で咬み合わせに問題がある場合、歯科医師は調整、歯並びの並べ直しを行ないます。

当院ではこの試適用仮義歯の作製までを歯科医師が行ないます。

試適用仮義歯を歯科技工所に外注して丸投げする歯科医院は多いです。

しかしそれだと、いざ修正が必要になった時に自分で並べていないので手が動きません。
結局は「できない」ということになってしまいます。

そうすると患者さんの不満が残る入れ歯となってしまいます。

4. 最終調整と製作

試適用仮義歯のフィードバックに基づいて最終的な入れ歯の製作に進みます。

ここでは、材質の選定や色調のマッチング、咬み合わせの微調整などが行われます。

材質の選定:
プラスチックや金属床、シリコン入れ歯など、患者さんの口腔環境や好みに応じた素材を選びます。

保険治療だとプラスチックになります。

プラスチックだと強度に問題ガー
などと言う歯科医師はいます。

ただそれは金属床やシリコン入れ歯などの高額自費治療へと引きずりこむための方便です。

保険治療でも補強の金属線や金属製の補強床などを入れることで強度は保てます。

入れ歯とは後から修理調整が必要になります。

だからプラスチックで作って後から修理調整しやすくしておいたほうが安心です。

色調のマッチング:
天然歯の色に合わせて入れ歯の色を調整し、自然な見た目を目指します。

保険治療でも、より白い色の歯を並べることができます。

もっとも例えば下の歯か黄色っぽいのに上だけあまりに白い歯を入れるのも変な感じになります。

おおむね上下や周囲で色を合わせることが多いです。

ワックスのボディで作った仮入れ歯を専門の歯科技工所に外注します。

歯科技工所ではワックスをプラスチックに置き換える「作業」をお願いしています。

後は部分入れ歯を歯に引っかけて口の中に維持する金属バネや補強の金属線を作ってもらいます。

ちなみに部分入れ歯の金属バネで、どうしても歯とピッタリに作りたい時には私が自分で金属バネを屈曲して作っています。

任せるところは人に任せますが絶対に成功させたい部分は歯科医師が自分で汗かいて責任を自分で背負うのが、いとう歯科医院流です。

5. 最終フィッティング
完成した入れ歯を患者さんの口の中に装着し、最後の調整を行ないます。

咬み合わせがきちんと合うか、快適に装着できるかを確認します。

この段階で細かい調整が必要であれば、追加の研磨や咬合調整が行われます。

この入れ歯の調整はある程度のメソッドはあります。

とはいえ、ここは患者さんが百人いれば百通りの調整法になるのであまり細かいことは書けない部分です。

6. 管理とアフターケア

入れ歯が完成した後も、定期的なチェックが必要です。

口腔内の変化や入れ歯の磨耗により、咬み合わせやフィット感が変わることがあります。

そのため、定期的な歯科検診を受けることが大切です。

入れ歯の咬み合わせは、患者の生活の質を大きく左右します。適切な作り方とメンテナンスにより、長期間にわたり快適に使用することが可能となります。

とくに
「食事すると痛い」
「これまで大丈夫だったのに最近は市販の入れ歯安定剤を使うようになった」

この二つのケースは歯科医院の専門的な技術で治すべき状態です。

早めに歯科医院を受診することをおすすめします。

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