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・4年前に予言! 80代患者Kさんの「入れ歯が落ちてきた」をたった1時間で直した保険治療の入れ歯修理

「歯が折れて上の入れ歯が落っこちてきちゃって~」

早口でおっしゃるのは80代女性のKさん。
祖父の代から通っていらっしゃる方です。

口の中を拝見すると左右とも前から4番目の歯が折れて、歯の根だけになっています。

もともと口も歯も小さいので歯の根も貧弱。揺れてもいます。
この根はもう使えません。

また部分入れ歯の金属バネ(クラスプ)のかかっていた歯が折れたので入れ歯を口の中に維持することができなくなっています。

口を開けると簡単に外れてしまいます。

とはいえ、これはもう4年前から
「いつかはそうなりますよ」
と私は患者さんに予言していました。

別に私に未来予知の特殊能力があるわけではありません。

これまでの長年の経過、口と歯の様子を知っていれば、歯医者なら誰だってそう予測できる程度の話です。

実はKさんは歯の欠損が多いにも関わらず、ずっと入れ歯を使っていませんでした。

「とくに不自由がないから~」
とのことだったのですが4年前のある時から話をして入れ歯を使ってもらっています。

・これから歯を失うと、さすがに食事に不自由すること

・もっと歯を失ってからだと、もっと大きく違和感のすごい入れ歯を入れなければいけなくなること

・今のうちに入れ歯を入れておけば、今後歯を失っても処置が簡単になること

を説明して入れ歯を使ってくださっていました。

残っている歯が少ないので入れ歯も本当は上アゴを全て覆うものが望ましい。

歯科の論文や高名な先生はそう主張するに違いない症例です。

しかし当時は上アゴの部分を大きくくり抜いた馬てい型の部分入れ歯を作製しました。

しかも口も歯も小さい上に歯の長さも短いので咬み合わせをジャマしないように作ろうとすると入れ歯の厚さは3ミリが精いっぱい。

一般的な歯医者は入れ歯を作るときに専門の歯科技工所に発注して作ってもらいます。

仮のワックスで入れ歯の赤いボディ(床)を作って人工歯を並べて咬み合わせや歯並びを確認。

それを歯科技工所に出してワックスをプラスチックに置きかえてもらいます。

ところがそのワックスをプラスチックに置きかえる作業の都合上、どうしてもプラスチックの厚みが必要となります。

・ワックス床を石こうに埋める
・熱を加えてワックスを溶かす
・ワックスを溶かしてできた空洞に餅状の柔らかいプラスチックを入れる
・プラスチックが硬化したら石こうを壊して入れ歯を掘り出す

このような工程を経て作られます。

あまりにプラスチックが薄いと、この作業中にプラスチックが折れてしまいます。

だから入れ歯にはある程度の厚さが必要になってくるわけです。

部分入れ歯の金属バネが折れても保険治療で修理できます

しかしそんな立派な厚みを与えたら間違いなくKさんの口には収まりません。

「入れ歯が大きすぎて入れていられない」

入れ歯の悩みとして、よく聞く話です。

原因として実はこのような構造的な欠陥によることがあります。

厚さ2ミリ3ミリの極端に薄い入れ歯を作るのは実は至難の業だったりするのです。

もっとも当院ではそのような至難の業ともいえる、Kさんみたいな入れ歯をよく作ります。

どうやって作るか?

答え:歯医者が自分で作る

です。

歯科専用のプラスチックで即時重合レジン(即重レジン)というものがあります。

入れ歯だけでなく仮のかぶせものを作ったりするのにも使われるので、どこの歯医者でも必ず置いてある材料です。

これは粉と液を混ぜると硬化する簡易なプラスチックです。

石こう模型にこの即重レジンを盛ることで入れ歯を作ることができます。

歯に引っかけるクラスプを当院では歯医者が自分でワイヤーを屈曲して作ってしまいます。

ワイヤーを模型に合わせて即重レジンを盛れば、そのまま使える入れ歯の完成です。

技工所作製のプラスチックの方がより重合がされていて硬さや滑らかさは即重レジンよりも上です。

ですが補強の金属線(補強線)を埋めこむことによって硬さを文字通り補強することができます。

何よりKさんの入れ歯で心がけたのは「修理のしやすさ」です。

構造のほとんどをプラスチックで作ることで、どの歯が抜けても簡単に修理できるようにしました。

実はKさんは他の歯科医院で入れ歯を作った経験があります。

しかしやはり
「違和感がすごい」
「大きすぎる」
「口が閉じられない」
「アゴが痛い」
など上手くいきませんでした。

それで長い間ずっと「不自由ないから」と言いつつ、歯がなくても咀嚼できる柔らかいものばかり食べてきた、というのが実情です。

それで厚さ3ミリの薄い入れ歯を歯医者が自分で作ったところ

「あっ、これなら抵抗なく入れられます~」

とおっしゃって入れ歯を使えるようになって今に至ります。

それからは大きな事件はなく半年ごとにむし歯と歯周病予防を行なってきました。

今回は歯が折れたとはいえ4年間も何事もなく使っています。

・保険治療だからダメ
・高額な材料で作らないとダメ
・偉いセンセの言うことを聞かないとダメ

…そんなことはないという話なわけです。

定期的な入れ歯調整メンテナンス。費用は保険治療3割負担の方で総額約2,000~3,000円

ただいつかは歯が折れる、抜けるなどのことで状況は変わります。

まさに今回みたいなことを想定していたので左右両側の歯が折れるくらいのことは当院にとっては掌の上のできごとです。

「え~っ、1時間で修理できるんですか~」

とおっしゃるKさんに待合室で待っていただく間に修理をします。

入れ歯を口の中に装着しておいて型をとって入れ歯を含んだ石こう模型を作製。

折れた歯の手前の歯が健在なので、そこにクラスプを新たに作製して即重レジンで埋めたら修理完了。

1時間で修理した入れ歯は適合良く口の中にピッタリと収まりました。

一般的な歯医者は、クラスプを自分で作る技術がありません。

だから当然このような壊れかたをした入れ歯は型をとって歯科技工所に発注することになります。

しかし今回の治療で難しいのは先ほども書いたとおり
「咬み合わせが極端に低い」
ことです。

どんなクラスプを作って、どう増歯するか。
これは患者さんごとに違います。

とくに咬み合わせが低くてクラスプを入れるスペースがギリギリ。

そんなギリギリした緊張感あふれる修理を当院では数多く手がけています。

しかし技工所は、そうではありません。

私も20代のころに勤務していた歯科医院で同じような修理を歯科技工所に発注したことがあります。

それで全然口の中に入らないトンチンカンな修理をされてしまったことがありました。

歯科技工所も入れ歯修理をそんなに数多く手がけるわけではありません。

1週間も待った挙句、それでも1週間での修理は技工所からしたら大急ぎの仕事ですから決して悪く言うつもりはないのですが、ぜんぜん合わないなどということもあるわけです。

ですから今回のような壊れかたをするケースは、どの歯科医院でも起こりうる話です。

ですが「歯医者が自分でクラスプを屈曲する入れ歯修理」が歯医者の間で広まる気配は今のところ微塵もありません。

それはさておき

「いや~絶対に1週間は入れ歯を預かるんだと思ってました~」

とおっしゃるKさん。

以前にも同じような修理を何回か行なっているのですが、先入観として

「入れ歯が壊れたら、修理は1週間は帰ってこない」
というのがあるのでしょうね。

そんな固定観念を打ち砕いて、うれしい驚きの患者さんの表情を見るのが私の楽しみです。

当院にはKさんのように長年通っている患者さんがたくさんおられます。

数年後の変化まで想定して、どんなに壊れても、どんな変化があっても想定の範囲内として1時間で対応する。

そんな治療を数多く手がけています。

今回行なったKさんの入れ歯を修理する治療は1回の通院でした。
費用は保険治療1割負担で総額約1,500円でした(症状や治療部位などによって費用は変わります)。

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