
「入れ歯の咬み合わせがおかしい」
そのせいで部分入れ歯が使えない。
もう何年も解決しないそんな悩みを当院で打ち明けられたのは70代男性のDさん。
生きるためには食べなくてはならないので、食事の時だけは仕方なく入れます。
それでも上手く食べられるわけではなく「ないよりはマシだけど」というレベル。
そして食事が終わったらすぐに外してしまう。
入れ歯がとにかく不快で入れていられないそう。
入れ歯は他院にて1か月前に新しく作り直されたばかり。
過去に使っていた入れ歯も入れていられないとのことで新しく作られたとおっしゃいます。
そこまで入れ歯が不調な理由はハッキリしていました。
「入れ歯の咬み合わせがおかしい」から。
すみません、患者さんの開口一番の言葉をコピペしただけです。
このように患者さんの悩みを患者さん自身の言葉で表現したものを「主訴」といいます。
これは歯科でない医療機関でも同じです。
「3日前から咳、鼻水、喉の痛みが止まらず熱が38度ある」
とかお医者さまに「主訴」を言うと、それを元に検査などをしてカゼとかインフルエンザとか診断して薬を処方するわけです。
まさか「3日前から咳、鼻水~」と言われて
「今すぐ大腸がんの手術しましょう」
と全身麻酔をやり始める医師はいないと思います。
主訴イコール正しい、正確なわけではありませんが重要な手がかりであることは確かです。
入れ歯自体は作り直されたばかりなのでキレイにできています。
しかし主訴の咬み合わせを削ったりした形跡がありません。
その作った歯医者の先生からは
「気のせいです」
「そのうち慣れますよ」
「ガマンしてくださいね」
と言われ続けたものの1か月経っても一向に慣れられる様子がないので、困って当院にいらした次第。

保険治療で入れ歯の修理が1時間でできます
主訴は大事。
患者さんの困っている主訴を解決するのが「治療」です。
内科クリニックで
「3日前から咳、鼻水~」
と言ったら大腸の内視鏡検査をされた。
そんなクリニックはないと思います。
入れ歯の咬み合わせがおかしい、とおっしゃるなら、まず入れ歯の咬み合わせを見ることです。
だからまず入れ歯の咬み合わせを検査しました。
私の父の代から行なわれている、とても原始的な検査です。
赤い薄い検査用の紙(咬合紙)を上下の歯で噛んでもらいます。
噛んでいる部分には歯や入れ歯に赤い噛み跡が点のように付きます。
噛んでいない部分は赤くなりません。
両側奥歯で咬合紙を噛んでもらったところ、とても分かりやすい結果が出ました。
両側奥歯、入れ歯の咬み合わせはクッキリと赤い噛み跡が付きます。
いっぽう前歯部は患者さん自身の歯ですが赤い色が全く付きません。
もう分かりやすい。
両側奥歯、入れ歯の咬み合わせが高いわけです。
試しに入れ歯を外して残っている前歯部だけで噛んでもらいます。
今度は赤ではなく青い咬合紙を噛んでもらいました。
すると前歯部の先端に青い噛み跡がクッキリと付きます。
つまり入れ歯を入れた時に両側奥歯、入れ歯の咬み合わせが高すぎて、残っている前歯部で全く噛んでいないのが不調の原因と分かります。
治療方針としては両側奥歯、入れ歯の咬み合わせを少しずつ削ることにしました。
1ミリも削ったら削りすぎです。
もっと薄く、噛み跡の赤い点の色を落とす程度の削り方をします。
そしてまた入れ歯を口の中に装着して咬合紙を噛んでもらう。
3回ほど繰り返したところ
「あっ、これなら噛めますよ!」
Dさんは笑顔です。
前歯部の自分の歯にも咬合紙の赤い噛み跡が付くようになりました。
なおかつ慎重に削っていったおかげで両側奥歯、入れ歯も赤い噛み跡は失われていません。
患者さんにも変化がすぐに分かります。
また特徴的な変化としては噛んだときの音です。
入れ歯の咬み合わせが高すぎたときは噛んでも音がしません。
ですが適正な咬み合わせになると
「カチカチ」
と金属音のような澄んだ音で噛めるようになります。

入れ歯修理の費用は保険治療3割負担の方で総額約3,000~5,000円
もう何年来のDさんの悩みをわずか10分で解決することができました。
しかも治療内容としては咬み合わせをわずか削っただけ。
当然保険治療でできるものです。
「いやー、実は入れ歯が合わないって言ったらインプラントを勧められていたんですよ」
とDさん。
歯医者はいつからそんな悪辣な商売になってしまったのでしょうか。
内科クリニックの例で言えばカゼの症状を言ったらいきなり全身麻酔されたみたいなものです。
さすがにまだそこまで悪辣なことをする内科クリニックの話は聞いたことがありません。
ただ歯医者の世界では、咬み合わせを0.何ミリ削ればいいだけのところにインプラントを入れようとする者が存在します。
まずは簡単にできる治療から始めるのは医療の基本です。
私は内科クリニックには区民健診で行くだけですが、心電図やレントゲンは行なうものの、必ず医師が自分の手指で背中やふくらはぎをトントン叩いたり聴診器を当てたりという原始的な検査を行ないます。
ハイテク治療、検査はもちろん大事ないっぽうで、トントンとか聴診器みたいな原始的な検査も大切なものなのでしょう。
調べたところ咬合紙を噛ませる検査は、ドイツの歯科医師であるハンス・バウシュ博士とジーン・バウシュ博士親子によって1953年に開発・導入された歯科材料です。
咬合紙が発明される前は薄いワックスやゴム状の材料で調べていました。
今でも売られていますが、やはり誤差があります。
70年経った今でも咬合紙は大切な検査で治療に大いに役立てています。
歯科治療において大切なのは
・患者さんの主訴を聞くこと
・患者さんの主訴を解決すること
これに尽きます。
なぜならそれが治療だからです。
ですからあなたが歯医者に行かれる時は、まず何で困っているかを明確にすることです。
そうすれば歯医者はその主訴を解決する手立てを講じてくれるはずです。
それを、主訴はほったらかしておいてインプラント入れましょう、などと言う歯医者がいたら避けたほうが無難です。
医師と違って歯医者がそのような拝金主義になってしまうのは理由があります。
都心部や西荻窪でも駅前の歯医者は実は保険治療だけでは赤字だからです。
だから何としても自費治療をやらないと潰れてしまいます。
私が20代の頃に勤めていた都心部のデンタルクリニックでは家賃、人件費、放漫経営の借金1億超が重くのしかかっていました。
クリニックの理事長先生からは
「とにかく自費をやれ!」
が口グセでした。
今回のように咬み合わせの調整だけで治って帰ってしまうと理事長から
「おい伊藤、なんで自費やらねーんだよ」
と怒られます。
自費治療自体を否定するつもりはありませんが、仮にやるとしても何回か通って信頼関係ができてからでないとトラブルになります。
結局そのクリニックは程なくして保険の不正請求が発覚して閉院してしまいました。
歯医者でない医師は、歯医者と比べてそんな不祥事は少ないです。
調べると2025年8月には医師20名、歯科医師8名への処分が諮問され、医師12名、歯科医師8名に処分(医業停止・免許取消など)が、医師8名に厳重注意の行政指導が答申されました。
日本の医師数は約34万人、歯医者の数は約10万人。
その割合からすると不祥事で処分された医師が24人いてもおかしくないはずです。
だから不祥事で処分される歯医者の割合が高いことがよくわかります。
そのようなことでDさんはもう治療は終わり。
後は3~6か月ごとの入れ歯調整と歯グキの予防治療を行なっています。
今回行なったDさんの咬み合わせ調整する治療は全部で3回の通院でした。
費用は保険治療2割負担で総額約4,000円でした(症状や治療部位などによって費用は変わります)。

