カリフォルニア育ちのジェニファーの楽しみは、プレッツェルをボリボリ食べながらアメフトのテレビ中継を観ること。
旅行先のビュッフェでメニューを全種類制覇すること。
そして絶対に外せないのがビーチでのバーベキューです。
そんなジェニファーが、パリのフランス人マダム・シックの家庭にホームステイをすることになりました。
そこで様々なカルチャーショックを受け、その様子を描いてベストセラーになったのがジェニファー・L・スコットの「フランス人は10着しか服を持たない」です。
ある日、ジェニファーはホストファミリーのマダム・シックからデザートのイチゴタルト作りを教わりました。
焼き上がった熱々のタルト生地をオーブンから取り出して粗熱が取れたらイチゴを並べるように言われました。
張りきってイチゴをドサッと盛りつけ、ちょこっと向きを直し、次の指示を求めてマダムの顔を覗き込む。
ところが待っていたのはマダムのぎょっとした顔。
「ノン! イチゴは向きをそろえてきれいな円を描くように並べるの。丁寧にね!」
「えっ!?」
マダムは無造作に盛られたイチゴをすべて取り除くと、タルト生地の外側から中心へ向かってひとつずつ丁寧に円を描くように置きはじめた。
「いいわね。こうやるのよ」と手本を示して、ふたりでイチゴをきれいに並べ、完成したタルトを眺めながら「これで完璧ね」とマダムは優しく微笑んだ。
イチゴをきれいに並べたタルトはパーティ用でも来客用でもありません。
特別な日でもなく記念日でもないごく普通の日のために、身近にいるムッシューと息子さんとジェニファーのために作ったものでした。
このイチゴのタルトはジェニファーにとって忘れられない経験となりました。
些細なことでも心をこめて行えば毎日が素敵になると気づいたからです。
このマダムの教えは、いとう歯科医院の姿勢にもぴったり当てはまります。
何年も使い込んだタルト型と旧式のオーブン、そしてひと山いくらで売られている普通のイチゴでは美味しいタルトは作れないのか。
もちろん最新の調理機器を用意して、ブランドものの最高級素材をふんだんに使えば美味しくできるでしょう。
ですが、高価なものを使うよりも家族の笑顔を見るために必要なのは、食事の時間を大切にしよう、身体にいいものを味わって食べよう、そうした意識を持って愛情をこめて丁寧に作ることだと思っています。
最近の歯科医療では、高額な歯科用機材と歯科用の材料を使って高額な自費治療を行う歯科クリニックが多くなってきました。
ですが、昔から使われている安定した歯科用機材と保険が適用されている祖父の代から使い続けられている材料でも「ささやかな」と言ってもいいようなほんの少しの工夫で快適な入れ歯を提供することができます。
保険治療だからドサッと無造作にやる……。
ではなくマダムのように保険治療でも分け隔てなく心をこめて取り組むことで、保険で作る入れ歯でも快適に暮らせる喜びを患者さんと分かち合えるのです。
フランス語の「シック」は日本では「ファッションが上品で洗練された」という意味で使われていますが、本書に書かれている「シック」は、さらに外見だけでなくライフスタイルや生きかた、暮らしかた、心の持ちかたまでも表しています。
当院はそんな内面までも磨かれたマダム・シックのような「シックな歯科医院」であり続けたいと思いました。
【関連記事】→「診療理念」