治療困難な症例の実例その1

1.何件もの歯科医院に通っても治らない義歯を調整のつもりで削ったら、さらに義歯がゆるく使いにくくなってしまった。

何件もの歯科医院の中には

  • 義歯の専門医
  • 博士号の資格をお持ちの先生
  • 海外で学ばれた先生
  • 数百万円の顎運動測定器を用いた治療を行なう先生
  • テレビや雑誌などメディアに出ている有名な先生  等の方もおられたかと思います。

そのような先生でも治せない症例を「私なら治せます」と言い切ることは出来ません。また、安易に削ってさらに悪くしてしまった経験もあります。何件も歯科医院に通っても良くならない方で、口の中や入れ歯を拝見して治療困難と考えられる時は治療をお断りせざるを得ない場合もあります。

特に自費で数十万円以上の高額な入れ歯

  • 金属床義歯
  • インプラント
  • テレスコープ義歯
  • シリコン義歯
  • マグネット義歯
  • アタッチメント義歯

などはトラブルが起こるとアフターケアが困難あるいは不可能なことが多いです。

2.痛みもなく食事も普通にできる入れ歯が長年使って汚れが気になってきた。入れ歯を新しく作り直したら痛くて使えなかった

新しい入れ歯を作るのは慎重な判断が必要です。作り直す判断は歯科医師が行なう、ということをご理解いただきたいと思います。なぜならば、多くの患者さんは新しく作り直せば「必ず」調子良くなると勘違いしておられるからです。入れ歯以外の物は確かにそう言えるものもあります。

たとえばテレビですと、故障もなく普通に見ることはできるけど、同じ位の大きさでサラウンド付きの新しいテレビを高い値段で買ったとします。すると「必ず」良くなりますよね。そこにリスクなど存在しません。自動車もそうですね。10年落ちのトヨタプリウスから最新のプリウスに買い換えれば「必ず」良くなります。

でも入れ歯は、そういう物ではありません。前の入れ歯が痛くなく食事もできるのに新しく入れ歯を作ると全く合わなかったり、痛い、噛めないなどの問題を起こすリスクは非常に高いです。そこがテレビや車と違う所です。その感じは他に例えようがないので感覚的に分かりにくいかも知れません。私も、どのようにお伝えしたら良いのか大変悩みます。

入れ歯を新しく作り直すのは、患者さんの気持ちと入れ歯と歯科医師とが「これは新しく作り直すタイミングだ!」と一致する時があります。それがどんな時か、と聞かれてしまうとケースバイケースなので上手く言えないのは申し訳ありません。入れ歯を無くした、修理不可能なほど壊れたなど新しく作るしか手段がない状況で作れば新しい入れ歯は使えることがほとんどです。患者さんの側も後がないので必死に使うからだと思います。

一方で古い入れ歯が使えるのに新しく作るとか、新旧の入れ歯を交互に使うなどのつもりで作ると上手くいかないことが多いです。アゴが新旧二つの入れ歯に同時に慣れるのは難しいのかもしれません。これは私個人の非常に感覚的なものです。新旧の入れ歯の違いに関する科学的根拠や学会の研究などは私が知っている限りではありません。

そう考えると入れ歯を新しく作るのはギャンブル的な要素があります。上手くいかなかったとしても作り直しは出来ない一発勝負だからです。入れ歯を作るときに、模型を壊して入れ歯を取り出すからです。これは保険で作製しても自費治療で高額かけて作製しても同じです。作り直すとしたら、また最初からやり直ししか方法がありません。

また保険治療においては新しい入れ歯を半年間は作ってはいけないというルールがあります。ですから作ってみて上手く使えれば何よりですが、やっぱり使えなければ「新しく作り直すタイミングではなかったな」と認識していただいて半年待って再び作り直すかどうか考えることになります。

そのような意味では保険治療というのは大変便利で有益ではあります。半年で作り直したとしても数千円~10,000円くらいの金額的な負担で済むからです。それでも新しく作った入れ歯が使えなかったというのは後味のいいものではありません。これが100万円かけた入れ歯が上手くいかなかったら大変です。でも一発勝負ですから、そうなる可能性は否定できません。

そのような理由で、ふさわしくないタイミングで入れ歯を作り替えるのはお勧めしませんし、必ず上手くできるとは思っていただきたくないのですが保険治療の範囲で出来るだけの努力をします。もしいとう歯科医院でも他院でも、入れ歯を作り替える際に私から一つだけアドバイスできるとしたら

「今まで使っていた入れ歯は大事に保存しておいてください」

ということだけです。作り替えた入れ歯が合わない時に必ず役に立ちます。

3.入れ歯を作る前に残っている歯がグラグラで抜く必要があったが、高血圧症、糖尿病、悪性腫瘍、透析、脳血管障害などで医科の病院に通院治療中だった

そのような場合は歯科大学の附属病院で治療を受けられるのが最適です。内科医が体調をモニタリングしながら口腔外科専門医が歯を抜いて状況に合わせて入れ歯専門医が入れ歯を作製、調整する。私1人の開業医で同じことをやろうと思ったら莫大な時間がかかりリスクも大きいです。

全身状態のリスクが大きいと判断した場合は大学病院へ紹介することができます。紹介状がなく大学病院に行くと診察まで長いあいだ待ってしまったり金額が多く掛かったりします。紹介状があると状況も説明できるので大学病院の先生も安心して迅速に治療を進めることが出来るようです。

歯を抜く治療がなければ、虫歯や入れ歯の治療は普通に出来ます。具体的には、当院で歯を抜く治療ができない可能性のある全身疾患は以下の通りです。

(a)脳梗塞、心筋梗塞を防ぐため抗血栓薬を服用している

抗血栓薬の例:ワーファリン/パナルジン/プラビックス/エパデール/バイアスピリン/イグザレルト

歯を抜いた後に血が止まりにくくなります。昔は抜く前に抗血栓薬を止めることが行なわれてきましたが、最近はそれが脳梗塞、心筋梗塞の発作の原因になるとのことで抗血栓薬は止めずに歯を抜く傾向にあるようです。

また最近の抗血栓薬の新薬には「思ったよりも薬が効いていて血が止まらない」ということを引き起こす薬もあります。教科書や専門書には、止血をしっかりすればいいと書いてあるのですが、当院はそのような外科処置が得意というわけではありません。また思わぬ事態に対応できるように、大学病院で歯を抜いたほうが安全です。大学病院への紹介状を書きますので専門の口腔外科などを受診することをおすすめします。

(2)骨粗しょう症、ガンの骨転移を防ぐ薬としてビスフォスフォネート製剤(BP剤)を服用している

ビスフォスフォネート製剤(BP剤)の例:アクトネル2.5mg/アクトネル17.5mg/フォサマック(5mg・35mg)/デノスマブ/ランマーク

抜歯などのキズがきっかけでアゴの骨が壊死する副作用があります。副作用の頻度は低いのですが一度起こると難治性です。3か月間、BP剤を休薬するなどの対策を採るようですが休薬が望ましくない症例もあります。

薬もどんどん新しくなるので、ここに書いたような私の知識も追いついていないことも考えられます。大学病院で総合的に判断した方が良いので当院では抜歯は行ないません。大学病院への紹介状を書きますので専門の口腔外科などを受診することをおすすめします。

(3)喘息、リウマチ、アレルギー、膠原病などの治療でステロイド薬を長期間服用している

ステロイドの飲み薬の例:プレドニゾロン/プレドニン ※短期間使用する軟膏は問題ありません

ステロイド薬を長期間服用していると、ストレスを和らげる働きをして副腎皮質ホルモンが副腎から出にくくなります。そのため歯科治療で緊張して歯を抜くことなどでストレスが加わったときにホルモンが不足してショック症状を起こすことがあります。また免疫機能が低下する副作用があり、歯を抜いた後に細菌感染による悪化を起こしやすくなります。さらには糖尿病、骨粗しょう症などの合併症をお持ちのことも多いです。

教科書や専門書では「ステロイド薬を処方している主治医と連携して事前に抗生物質を処方しステロイドの補充する療法を行ないながら歯を抜く」とありますが当院では経験がありません。大学病院で総合的に全身の状況を確認し、何かあってもすぐに対処できる態勢が整っている中で治療を行なった方が安全です。大学病院への紹介状を書きますので専門の口腔外科などを受診することをおすすめします。

4.これまで入れ歯を入れていなかった場所に、いきなり新しく入れ歯を作って入れたが違和感が強くて入れていられない

最大限の努力をしますが、このような症例では「私なら入れ歯を上手く入れられますよ」と言える確信はありません。入れ歯になるまでには治療の流れがあります。

被せ物や歯を修復、修理、調整しながら使い続けていたが、歯が抜けたり、折れたりするなどして、どうしても使えなくなって1~数本の小さい入れ歯になった。年月が経って他の歯も抜ける、折れるなどして小さい入れ歯が徐々に大きくなった。

このように流れるように移行してどこかで落ち着けば、歯が1本もない総入れ歯でも違和感なく使えることが多いです。その落ち着くまでには何年~何十年もの時間がかかることは想像がつきますでしょうか。その何年~何十年を飛ばして、いきなり入れ歯を入れるのは大変困難です。

歯を入れるのは生きていくために必要な「治療」ですから、保険を用いて金額の負担は少なく治療していくのは当然のこと。入れ歯は保険治療で作れます。しかし、技術的には大変困難で入れ歯の違和感が大きかったり、痛い、噛めないなどのリスクも大きいことをご理解いただいた上で努力させていただきたいです。

歯科医師が自分で入れ歯を作製すると小さく作れるので、違和感などのリスクも小さくできる場合がありますが、欠けている歯が多かったり歯が1本もない総入れ歯など大きい入れ歯が必要だと、歯科技工士に外注して作製してもらった物を入れざるをえないです。たまに合うこともありますが、それは「運がいい」と思っていただきたいくらいのことです。

 

何もない所にいきなり入れ歯を入れるのは、私が作製しても歯科技工士が作製しても分厚くて合わせるのが困難です。違和感が大きい、痛いなどのリスクが大きく、上手くいかない場合も多いことをご承知おきください。なお

  • 古い入れ歯
  • 作ったけど一度も使っていない入れ歯
  • 歯が抜けたりして形が全く合わなくなった入れ歯
  • 歯に引っ掛けるバネが壊れたり折れたりした入れ歯
  • 真っ二つ、三つ、四つに割れた入れ歯
  • 人工歯が欠けた入れ歯

などありましたら何でも持ってきてください。過去に使っていた入れ歯を2つ3つお持ちの方は全て持ってきてください。必ず使えるとは言えませんが、修理、調整によって使えるようになることも多いです。

5.自費治療で高額をかけて作製された金属床やテレスコープ、インプラント、特殊なアタッチメント等を用いた入れ歯の修理を依頼されたが出来なかった(特にマグネット入れ歯)

他院で自費治療で作製された義歯は当院では修理不可能なことがあります。理由としては金属を多用していることが挙げられます。

いとう歯科医院で行なう修理の多くは金属でバネや補強の線を作って入れ歯のプラスチック部分に埋めこむ、というものです。だから金属ばかりでプラスチック部分がないと修理できません。また、金属の入れ歯はミクロン単位の精密さで合わせています。制作者以外の者が手を加えると余計に状況を悪化させてしまうこともあります。そのため、高額かけた特殊な入れ歯は、作製した歯科医師が責任を持ってアフターケアするのが最良と考えます。

とはいえ、プラスチック部分が使えれば特殊な入れ歯でも修理できる場合があります。実際に拝見すればすぐ分かりますので、疑問に思いましたらご相談ください。

6.極端に体調を崩して10キロ痩せたら入れ歯が合わなくなった。様々な努力をしたが合わせることが出来なかった

体調の変化があると口の中も大きく変化します。入れ歯が歯ぐきを覆う面を貼り足したり調整したりすることで改善することがほとんどですがあまりに極端な体重減少や、大きな病気による体力の衰えには対応できないことがあります。

入れ歯を入れておくのも体力が必要です。なぜなら入れ歯を口に入れて外れないのは舌や頬の筋肉の力で支えられているからです。そのため、あまりに筋肉が減ったり衰えたりすると、入れ歯が簡単に外れたり痛くて入れられないことがあります。そのような場合は大学病院やかかりつけの医師の元で体力の回復やリハビリテーションを優先した方が良い場合があります。

7.上の入れ歯が痛くて入れられないのが悩みだったが解決した。下の入れ歯は特に痛い、噛めない等の深刻な悩みはなく日常生活に支障なかったが何となくゆるさはあった。もっと良くできるだろうと調整したら痛くて使えなくなってしまった

日常生活に支障なく使える入れ歯は手を着けない方が無難です。

「会話も食事もできて日常生活に支障ないけれど、言われてみれば多少ゆるいかも」くらいの入れ歯を調整したり歯ぐきを覆う面を貼り足したりすると歯ぐきにピッタリ合いすぎたり咬み合わせの力が強くなりすぎたりしてかえって痛くて使えなくなってしまうことがあります。保険の入れ歯で普通に噛めるが、手を加えたり新しく作ったりすればもっと素晴らしく良くなるというものではありません。

上記の例の場合は上の入れ歯が良くなってから3か月ほど様子を見ていただくことがおすすめです。上の入れ歯の変化を見て、必要な時は下の入れ歯を調整することもあります。3か月、半年、1年と時間をかけて経過を見て対応していくうちに調整する勘どころが分かってきます。いっぺんに上も下も短時間で一気に手をつけるとトラブルを起こすことがあることをご理解いただきたいと思います。

8.前医が作製したかぶせものが仮の接着剤で着けてある。違和感が強い、噛みにくい等の不快なことが多いので「調整してセットできるか」と聞かれ「当院では出来ない」とお断りした

仮の接着剤でも意外と頑丈にくっついていることがあります。無理やり外そうとすると歯や歯ぐき、かぶせものを傷めることがあるので様子を見る方が無難です。運よく少しの調整で使えるようになれば、年月が経って外れてから接着すれば使えます。

保険および自費に関わらず、かぶせものは精密に作製されています。かぶせものの土台の状態も分からない、知らずに削ったりして調子を崩したら元に戻せない。リスクが大きいので制作者以外は手を着けない方が安全です。保険でも自費でもかぶせものに関するトラブルは歯科治療の中で多いという統計があるようですが基本的には施術された先生に最後までお任せするのがベストだと思います。

他院で作製されたかぶせものの不調には慎重に対応するか手をつけないのが当院の方針です。精通している分野が違うからです。自費治療を専門にしていたり、かぶせものの治療に熱心な先生に相談されることをおすすめします。

9.入れ歯のバネと床(入れ歯の大部分を占める赤い部分)が違和感を感じる。バネは極力短く細く、床は小さくしたが違和感をなくすには至らなかった

入れ歯には床が必ずあります。部分入れ歯にはバネ等の装置が必ず付いています。その違和感を「ゼロ」にすることはできません。ゼロにはならなくても少しの調整で大きく改善して日常生活に支障なく使える方も数多くいらっしゃいます。

床のない入れ歯、バネ等の装置のない部分入れ歯は存在しません。物理の法則を越えることはできません。患者さんから言われるがままに削りすぎると、壊れたり口の中に維持できなくなったり余計に調子悪くなってしまうことがあります。違和感がなくならないのは残念ですが、最大限の努力をしても違和感がなくせないならそれ以上は義歯に手を加えない方が安心です。場合によっては治療終了とさせていただくことがあります。

しかし、違和感がゼロにはならなくても多少でも「ラクになった」「良くなった」など好転しているのであれば、時間と回数をかけてより良い状態を作れる可能性があります。1回の治療で全てを求められても期待に沿えるか分かりませんが、患者さんの側も粘り強く入れ歯に慣れようと努力して通ってくださるのであれば私たちも最大限、手を尽くします。

10.何か所も不調がある。1か所を治したが他の部位が痛くなり、調子悪くなったとのことで「通っても良くならない」「もっと悪くなった」と言われてしまった

たとえばですが

  1. 右下の歯がグラグラして軽く噛むだけで痛い
  2. 左上の歯もグラグラして入れ歯を入れようとすると痛い
  3. 上下とも入れ歯がゆるい、咬み合わせも合っていなくて違和感がある

のような場合、まず最も症状が大きい患者さんが気にしている部分から治療を始めます。右下を治したところ、今まで隠れていた左上の症状、入れ歯の不調が目立つようになった、ということは十分起こり得ることです。

次に左上に症状が出るか、入れ歯の症状が出るか、あるいは全く別の場所に症状が出るかもしれません。それを予測するのは不可能です。また、右下も左下も入れ歯も全ていっぺんに治すことは出来ません。

ですから次に起こった症状に一つずつ順番に対応していく。それしか治療の方法はないということをご了承いただきたいと思います。とくに歯科医院での治療を何年もしていなかった方にそのようなことが起こることが考えられます。

11.他院で作られた時から合っておらず使えない入れ歯だった。張り替えたり噛みあわせを調整したり何とか努力したが、結局使えるほどに合わせることができなかった (※とくに歯が1本もない総入れ歯の方)

新しく作られたばかりの入れ歯が合わない場合、いきなり新しく作り替えることは少ないです。保険治療では、新しい入れ歯を作製してから半年間は作り直しは好ましくないというルールもあります。そのため、まずは現在使っている入れ歯を合わせる努力をします。

また、昔に使っていたけれど歯が抜けたり時間が経ったりして今は使えない入れ歯が合わせられることがあります。お持ちの入れ歯があればご持参ください。

  • 歯ぐきとの適合を合わせる。
  • 部分入れ歯のバネを合わせる、バネを新しく作る。
  • 咬み合わせを確認する。

などのことをします。そのようなことをメインに診療していて気が付いたことがありました。それは新しいのに合わない入れ歯には2種類あるということです。専門的な話ではありません。

  1. 少しの調整で合う入れ歯
  2. どうやっても合わない入れ歯

1.の場合は合わせることができる可能性が大きいです。1とはたとえば新しく作られた入れ歯は初めは違和感がある、痛いなどの症状があります。
部分入れ歯なら模型と口の中に誤差があって上手く入らないこともあります。少しの調整、1~2回の来院で合わせることができるということです。

問題は2の場合です。

合わせることが出来るのか、何をやっても合わないのか、色々とやってみて初めて1と2のどっちかが分かるという面はあります。何もしないうちから一目で「これは合わせられる」「これは新しい入れ歯を作った方がいい」と判断出来るのはごく少数です。2のケースで調整、修理などを試してみて合わなければ新しく作り直すことになります。

運よく1のケースならばその日のうちに快適な状態にできますが、2の場合は新しく作るまで2~5回程度の通院が必要になります。さらに入れ歯を新しく作るのは必ずよく合うものができます、と断言できない部分があります。他院で作って上手くいかなかったのは何か原因があるのかもしれません。当院でも最大限の努力をしますが難しい場合があります。とくに歯が1本もない方の総入れ歯の治療は、私自身が得意というわけではありません。

なぜなら、患者さん自身の歯があるところに入れる部分入れ歯と総入れ歯は安定する仕組みが全く違うからです。いとう歯科医院は部分入れ歯のバネを駆使して、ほぼ自由自在に修理、調整することができますが、歯が1本もない総入れ歯に関してはバネが活躍する余地がないからです。

総入れ歯に関しては、他の歯科医院で私が想像もつかないような技術をお持ちの先生もいるかもしれません。他の先生のやり方のほうがあなたに合うかもしれません。

他の先生のホームページで「自分こそ入れ歯名人!」と宣伝しているのを数多く見ることができます。具体的な技術、技量、実績、金額は問い合わせてみてください。特に歯が1本もない総入れ歯の方で「いくら調整しても合わない」「どこの歯科医院に行っても合わない」といった方は入れ歯のことで苦労されて様々な情報を収集していることでしょうが、今いちど、更なる情報収集されることをおすすめします。

12.見た目にこだわりたいと審美性を求められた。審美性を追求できるようになるには時間がかかり条件によっては限界もあると説明したが、納得していらっしゃらないようだった

入れ歯で見た目が良くなくなるのは理由があります。

  • 入れ歯の修理や張り替えを繰り返しているうちに歯並びが乱れた
  • 自分の歯が抜けて入れ歯に人工の歯を継ぎ足す増歯修理をしたら歯並びが乱れた(元からあった歯の大きさや位置の影響を受けて、鼻筋と歯の正中がずれることがあります)
  • 自分の歯と入れ歯の位置がずれた

これらは長い年月かけて治療を繰り返しているうちにやむを得ず、そうなってしまうことがあります。見た目も大事ですし、こだわる気持ちも分かります。保険の入れ歯で審美性を追求することもかなりできます。

とはいえ物事には順序があることを理解していただきたいと思います。まずは日常生活を不自由なく出来る機能回復が第一です。

  • 入れ歯が壊れていない
  • 入れ歯が痛くない
  • 入れ歯が口を開けても外れない
  • 食事が普通にできる
  • 残っている歯がグラグラ揺れたりしていない

多少は前歯の中心がズレていても機能に影響はありません。審美性を追求するとしたらこのような安定した状態が続いていることを確認してからになります。しかし、それでも歯並びを変えるのは大きく口の中の環境を変えることになります。だから見た目を良くするのが難しいことがあります。

たとえば以前このようなことがありました。

  • 前歯に、かっこいい長く大きな歯を並べようとしたら奥歯の咬み合わせが低すぎた。
  • 前歯を並べるためには、奥歯の咬み合わせをプラスチックなどを盛り上げて高くする必要があったが、奥歯の咬み合わせを変えようとしたら患者さんの違和感が大きすぎて出来なかった

結局、前歯の見た目を変えることが出来ませんでした。下の前歯の歯並びが上より出ている「反対咬合」だった方にそのようなことが多いようです。機能を壊してまで、見た目を綺麗にすることは不可能です。入れ歯として機能していないのに、見た目だけきれいにするのは不可能です。

いとう歯科医院ではこのような考えで治療をおこなっています。もっとも、他の歯科医院では可能かもしれません。ただ不可能なのは、それなりの理由があります。上記の例では

「不可能」→かっこいい大きな前歯を並べる
「理由」→奥歯の違和感

です。もし他院で施術を受けるなら、奥歯の違和感をどうやって解決するのか?不可能をどうやったら可能にできるのか?理由、治療法をよく聞いて納得してから受けることをおすすめします。

>>症例の実例その2はこちらから

治療困難な症例の実例その2