杉並区、西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける、
いとう歯科医院の伊藤高史です。
「入れ歯が入らなくなっちゃったよ」
70代男性のWさんは1年半ぶりの来院です。
診療室に入ってくるなり入れ歯の入ったタッパーを渡されました。
口の中に残っている歯の本数が少ないので入れ歯がないと見た目にも関わりますし食事もできなくなってしまいます。
とはいえその表情に悲愴な感じはありません。
以前から揺れている歯が多かったWさんは、これまでも揺れている歯を抜いたり歯が自然に抜けたりして当院で何年間もずっと治療していたからです。
今回も治療方針としては同じです。
揺れている下の歯2本を抜いて、抜いた部分にプラスチックの人工歯を継ぎ足す増歯修理を行ないます。
また上の歯も1本が自然に抜けていました。
保険治療で入れ歯の調整
比較的遠方からいらっしゃる方なので上下同時に増歯修理をしました。
さらに下の入れ歯は増歯修理した結果、生えている歯が一本もない総入れ歯になりました。
だから抜いた部分の歯を補うだけでなく歯グキと接するピンク色の部分(床)の形も歯グキと合うように形を整えました。
簡易な修理にも関わらず歯グキと入れ歯が、軽くですが吸いつくような維持安定を得ることかできました。
入れ歯を口の中に維持する歯が一本でもある部分入れ歯と一本もない総入れ歯では安定がまったく違います。
その維持安定を得るのに大変苦労することもあるのですが
「あっ、これはピッタリになりました。良かった良かった!」
Wさんは笑顔です。
揺れている歯が痛くなるのをいつまでもビクビクしながら使い続けるよりは抜いて増歯修理してしまう方が、かえって安定して痛みもなく快適に使えるようになることが多いものです。
保険治療で入れ歯の作製
補う歯の本数や部位、咬み合わせの具合などの条件によって変わりますが診療時間は今回のように上下同時に治しても1時間ほどでできます。
失った歯の本数が多かったり、残っている歯に入れ歯を維持する金属バネ(クラスプ)を作ったりする時は、型をとって石こう模型上で修理します。
そのような場合は上下どちらか一つの入れ歯修理だけで1時間ほどお時間をいただくことがあります。
駅前の喫茶店などでお茶しながら時間が経つのを待ってから戻っていただければ、その間に修理してしまいます。
もっとも今回のように修理した結果、部分入れ歯から総入れ歯になったものは維持安定が不十分な場合があります。
Wさんの場合も修理を繰り返していて歯グキと歯並びが不整なので、これを機会に新しく総入れ歯を作ることになりました。
とはいえ使える入れ歯があるので、じっくり取り組んで良い入れ歯を作る余裕を患者さんも歯科医師も持つことができます。
たとえば遠方からの方で1か月に一度の来院で数か月かけて作る方もいます。
逆に早く新しい入れ歯が欲しい方の場合は4回くらい毎日連続して通っていただくと作る作業をどんどん進めることができます。
当院は初めて来院される時以外は予約制ではありません。
診療時間内に来院された順番で診察しています。
だからそのような融通がききます。
もっとも総入れ歯を1回の来院で完成させてほしい、というような保険治療を逸脱した施術はできません。
また入れ歯を作る工程の最後は専門の歯科技工所で完成させます。その作業は、発注して作ってまた持ってきてもらうため10日前後の日数をいただきます。
昔は「3日で仕上げて、よろしく」みたいなこともできました。
しかし昨今のご時世でそのような無茶をするとブラック企業のレッテルを貼られてしまいますし健全な仕事ではありません。
その工程を短くすることはできません。
そのことをご了承いただけますと助かります。
入れ歯は定期的な調整管理が必要です
入れ歯には、患者さんの口の中に残っている歯が一本もなく全部の歯が入れ歯の「総入れ歯」と患者さんの口の中に残っている歯が一本以上ある「部分入れ歯」があります。
入れ歯をつけた患者さんは、入れ歯を使っている間に上下ともアゴの形や位置関係が変わってきたり残っている歯の状態が変わったりしてきます。
他にも個々の患者さんごとの上下の歯の咬み合わせ、食事時の咀嚼でのアゴの動きのクセや習癖、食習慣などによっても状態が変化します。
するとアゴの骨が減ってくることによる変化、残っている歯の移動や傾きなどが時間の経過とともに起こってきます。
それによって口の中と入れ歯との間に不調和が生じてくるわけです。
そのような不調和によって、歯を失った部分を入れ歯を入れることによって補われた形と機能が再び失われる可能性があります。
ですから定期的に的確にその不調和を修正、調整、管理することで入れ歯の形と機能を回復することが必要です。
つまり入れ歯を着けた後の管理は、アゴや口の中への調和と、咬み合わせたり咀嚼、嚥下したりという口の機能の回復、維持することが大事です。
総入れ歯を作る費用は保険治療3割負担の方で総額約2万円
入れ歯の調整、管理、修正は、入れ歯が完成してからの時期に応じた管理の目的、手段があります。
1.おおむね1か月以内は、身体との調和を主な目的とした管理を目的として調整、アドバイス、指導を行ないます。
・着脱が不自由なくできるか
・プラスチック製人工歯の形や歯グキと接するピンク色の部分(床)の形は適切か
・残っている歯や歯グキと合っているか
・カチカチ噛んだりギリギリと左右に歯ぎしりした時の関係は適切か歯や歯グキを痛めていないか
・入れ歯が大きすぎないか部分入れ歯を残っている歯に維持する金属バネの装着感はどうか
・食事方法、入れ歯で食事するときにとくに注意するべきこと
・入れ歯の日常の取り扱い方法、清掃方法、壊さない、紛失しないための注意点
2.おおむね2~3か月は咀嚼などの口の機能の回復を主な目的とした調整、アドバイス、指導を行ないます。
・全身の疾患や咬み合わせの難しさ、アゴの小ささや凸凹が極端に多いなど口の中の状態が困難で機能回復が極めて難しい患者さんに対する再度の調整
・機能のより良い回復を主な目的とした指導、管理
3.2~3か月以降については口の機能の維持を主な目的とした調整、アドバイス、指導によって長期的な管理を行ないます。
・生体の経時的、生理的な変化、入れ歯の変化に着目した長期的な使用を見据えた調整管理
入れ歯自体も材質が劣化してきたりプラスチック製の人工歯がすり減ってきたりします。
また部分入れ歯の金属バネが着脱を繰り返しているうちに開いてきて入れ歯がゆるくなることが起こります。
機能検査とそれに基づいた治療、患者さんへのアドバイス!指導により口の機能の維持を主な目的とした管理
このような流れで入れ歯を長く良い状態を保ち快適に使えるように心がけています。
痛い入れ歯の調整の費用は保険治療3割負担の方で約1,000円~2,000円
とくによく行なうのは、たとえば入れ歯で食事すると痛いときに、入れ歯の直径数ミリほどの範囲が歯グキに強く食いこんで痛みを起こしている場合があります。
入れ歯の悩みでおそらく最も多いと思われるものの一つです。
そのような時は口の中をよく見ると直径数ミリほどの範囲で赤や白の傷、潰瘍があります。
その傷に白いペーストを付けてから、ちょっと痛いのは申しわけないのですが入れ歯を装着します。
すると白いペーストが入れ歯に転写されます。
その入れ歯にくっついた白いペーストの部分を削れば入れ歯と歯グキが当たらなくなって解決するわけです。
ですからとくに「食べると痛い」症状はすぐに治ることがほとんどですのでガマンせず相談していただければと思います。