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区の歯科健診で気軽に行ったはずの歯科医院にて、部分入れ歯に何か貼られて痛くなったので、当院で痛い部分を削ったら治った症例

杉並区、西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「健診だと思ったから無料だし気軽に行ったんですけどねえ」

苦虫を噛み潰したような表情でおっしゃるのは70代女性のSさん。

内科健診のように気軽に近所の歯科医院を受診しました。

歯と歯グキの境目の汚れやプラークの付着の具合、歯周ポケットの深さ、出血の有無、歯の揺れの有無などを調べる歯周基本検査や虫歯の有無、入れ歯の具合、歯並びと咬み合わせの具合を調べるのが主な歯科での健診です。

その合間に世間話ていどに
「そういえば最近ちょっと入れ歯がゆるい気がします」
とSさんは言いました。

そこで部分入れ歯の床(歯グキと入れ歯が接するピンク色の部分)に何かを貼りつけられます。

するとそれ以来、入れ歯で食事すると痛くなってしまったとのこと。
これまで痛くなどなかったのに歯科医が何かしたせいで痛くなった。

…よくあるトラブルです。

保険治療で入れ歯の金属バネが折れたのを修理

区民健診の一つに歯科の項目があります。

歯科健康診査(成人・後期高齢者)

歯を失う2大原因はムシ歯と歯周病です。
どちらも自分では気づきにくい病気です。
とくに歯周病は最初は自覚症状が乏しいため、気がついたら歯がぐらついていたなど重症化しやすいです。
最近は糖尿病や心疾患など全身の病気との関係も明らかになっています。

この機会に健診を受けて、かかりつけ歯科医をもち、お口の健康管理を維持しましょう。

成人歯科健診
対象者
区に住所を有する今年度20歳・25歳・30歳・35歳・40歳・45歳・50歳・60歳・70歳になる方

後期高齢者歯科健診
区に住所を有する今年度76歳になる方(年齢は令和6年度中に誕生日を迎えた満年齢)

実施場所
【令和6年度 成人歯科健康診査 実施医療機関一覧表】をご覧ください。
(注意)実施医療機関は変更になる場合があります。
受診方法
受診券の到着後、実施期間内に受診を希望する実施医療機関へ電話等で予約してください。

健診内容
問診
口腔内診査【歯、歯肉、汚れなどの状態】
健診結果の説明及び健診結果に基づく指導
費用 無料

参考文献:
杉並区歯科健康診査(成人・後期高齢者)・眼科検診
https://www.city.suginami.tokyo.jp/guide/kenko/kensin/1004817.html

定期的な入れ歯調整メンテナンス。費用は保険治療3割負担の方で総額約2,000~3,000円

区民健診そのものは良いものです。
とはいえ内科健診とは違う歯科ならではの落とし穴があります。

たとえば内科健診なのにいきなりその日に開腹手術ことなどありません。
医科の世界はまだ道徳があるので、そんなことをする医師はいません。

大きい病気が見つかった際は大きい病院で精密検査を受ける流れができています。
健診自体がトラブルになってしまうようなことは、ほとんどありません。

しかし今回のSさんのように健診だけでなく施術されたら裏目に出てしまった。
それは医科にはない、歯科ならではのトラブルです。

ちなみに健診は無料ですが施術を行なったらそれはお金がかかります。
だから健診のついでに施術をやられて無料のつもりで行ったのにお金を取られたら、それは当然トラブルになります。
お金の話はトラブルを起こすので極力気をつけています。

治療の話に戻りますと、入れ歯を見ると床に貼ってあるのは歯科専用の入れ歯安定剤ティッシュコンディショナーでした。

ティッシュコンディショナーは当院でもよく使います。
ゆるい入れ歯をピタッとさせる良い材料です。

しかし何でも治る魔法の薬ではありません。
使いどころ、使い方があります。

床はさほど不適合でもないのにティッシュコンディショナーを貼られていたので逆に歯グキを刺激して傷つけていました。

また簡単な治療というわけではありません。
ティッシュコンディショナーの粉と液の微妙な違いによって変化する硬さや貼る厚さには細心の注意が必要です。

とくに今回の入れ歯を見た感じとしては硬すぎるティッシュコンディショナーを厚めに貼ってしまったために、かえって入れ歯に不適合を招いてしまったようです。

保険治療で入れ歯のヒビを修理

まずは痛みをなくすことです。
余計なティッシュコンディショナーを削り取って除去しました。

「あっ、痛くなくなりました!」
Sさんは笑顔です。

ところで入れ歯が外れやすい、ゆるさの原因ですが…

着脱してみると部分入れ歯を歯に維持する金属バネがゆるんでいます。
部分入れ歯は着脱を繰り返していると金属バネが変形して広がってしまいます。

これは金属の性質ですから必ず起こります。
そこで金属バネを専用のプライヤーで締めました。

「あっ、ピッタリしました。イヤー、良かったわ!」

時間が経って再び入れ歯がゆるくなったら再び締めれば良いことを説明して治療終了。

Sさんは笑顔で帰られました。

金属バネを締めるのは、締める方向や締める具合、使う器具など歯科医師ならではのノウハウがあります。

間違った方向に動かすと、入れ歯が
入らなくなったりバネが折れたりします。

ですから患者さんご自身で金属バネを曲げるのはやめて頂きたいです。

治療するたびに自分も忘れないように気をつけて意識しているのですが、入れ歯に限らず治療には一つ鉄則があります。

それは
「簡単なことからやること」
です。

入れ歯の金属バネを締めるだけなら治療内容としては簡単です。
金属バネを締めてもゆるかったらティッシュコンディショナーを貼るとか次のことを考えます。

簡単ではない大きく入れ歯の環境を変える施術はリスク、トラブルの可能性も大きくなります。
今回はティッシュコンディショナーを除去して痛みが取れたから良かったのですが、元に戻らない、痛みが取れないケースもあります。

やはりイザというときはすぐに首を引っ込められるような亀のみたいに慎重な姿勢が歯科治療には求められます。
自分への戒めという意味も含めてここに書いてみた次第です。

歯が抜けても保険治療で入れ歯に増歯修理

先の区民健診に同封される歯科健康診査は歯科医師会という組織が行なっている事業です。
当院はその歯科医師会に所属していないので無料での歯科健康診査事業は行なっていません。

全国どこの歯科医院でも誰でも歯科健診が受けられる「国民皆歯科健診」を法律に入れることを歯科医師会では悲願としているようです。

それもメリット・デメリットあります。
私がここに書いたトラブルもあまり表立っては出てこないデメリットです。

とくに仮に当院に健診目的で来院された患者さんがいらしたとしたら、健診以外の治療行為は少なくとも初回はしません。

もしも虫歯や入れ歯の不適合を見つけたとしても
「普段通っている歯科医院さんで治してもらってくださいね」
と言うのがスジです。

健診と称して他の歯科医院さんから患者さんを奪おうとするような道徳的ではないマネはしないほうが良いでしょう。
国民皆歯科健診になって、そのようなことが横行するのも怖い世界だなーと思います。

もちろん、かかりつけの歯科医院がないとか、そこでは入れ歯治療はやってないとか、今痛いから緊急で治してほしいとかいうなら治療するのですが、とにかく初めての患者さんには慎重なくらいの対応でちょうどいいのです。

そのようなことから国民皆歯科健診については、どのような経緯になるか慎重に見ているところです。

歯科健康診査(成人・後期高齢者)で行なうような歯周や歯、口の検査や歯石取りみたいな害をあまり起こさない治療や入れ歯の定期的な管理、リハビリテーションは、保険治療3割負担の方で1回2千円ほどでできます。

3か月~半年ごとの受診をオススメしています。

無料とはいえ健康診査で全く知らない歯科医院に行ってトラブルに見舞われるよりは、普段通っている、かかりつけ歯科医師の元で安心して定期的な通院をされる方が良いと個人的には考えます。

今回行なったSさんの入れ歯を調整する治療は、保険治療1割負担で約1,000円でした(治療費は症状により個人差があります)。

【関連記事】→入れ歯が痛い「Q.入れ歯が痛い。自然に治りますか?」