杉並区、西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける、
いとう歯科医院の伊藤高史です。
「入れ歯が痛くて痛くて…」
顔をしかめて入っていらしたのは80代女性のTさん。
歯グキを見ると下アゴの部分入れ歯のフチが強く当たってできる傷があります。
傷つけている原因となっているのは前歯の下の歯グキ、直径5ミリほどの範囲です。
入れ歯の該当する箇所を削れば簡単に解決…
とはいきませんでした。
なぜならその部分入れ歯が金属バーでつながった物だったからです。
左右の奥歯に渡る部分入れ歯の場合、残っている前歯の部分は、何らかの方法で入れ歯の左右をつなぐ必要があります。
それでよく見かけるのが今回のTさんのような幅5ミリほどの金属バーでつなぐ物です。
一般的によく宣伝されるメリットとしては金属バーは細いので違和感が少ないというもの。
保険治療で入れ歯のゆるさを解決
金属バーの入れ歯とは上のイラストのような形態のものです。
しかし今「細い」と書きました。
これが実は大きな「デメリット」となることを訴える情報は、インターネットで検索してもほとんど見ることがありません。
細い金属バーのデメリット、それは「調整が一切できないこと」。
だから当院では金属バーの部分入れ歯は作りません。
たとえば金属バーが歯グキに食いこんで痛い。
今回のTさんはそのケースでした。
入れ歯の全体の形を作っているピンク色の部分(床)が食いこんでいるなら対処は簡単です。
食いこんでいるピンク色のプラスチックを削れば良い。
しかし金属バーが食いこんでいる場合、細い金属バーを削ってしまうと折れてしまいます。
そうすると当然、入れ歯がつかえなくなってしまいます。
たがら痛い箇所も解決法も分かりきっているのに手を出せない、解決できないという状況になってしまいます。
これは大変なデメリットです。
一つの解決法として、金属バーには触らないで、逆に入れ歯の左右奥歯の部分、歯グキと接する床に歯科専用の入れ歯安定材を貼ることがあります。
そうすることで金属バーの部分が歯グキから浮いて痛みを緩和できる「場合も」あります。
とはいえ入れ歯の設計によってはできませんし、痛みを緩和するとはいっても一時しのぎでしかありません。
根本的な解決法としては新しく作るだけです。
当院での設計は、前歯をつなぐ所をプラスチックの床にして金属の補強線を埋めて作ります。
こうすることで強度も保たれて、痛いときにはプラスチック部分を削ることで解決できます。
金属バーと比べると厚さ、幅はあります。
しかし下の入れ歯は慣れやすくて装着後にすぐに慣れます。
上の入れ歯は違和感や吐き気が続いて使えないことがたまにありますが下の入れ歯はそのような事は少ないという印象です。
4回の来院で新しい入れ歯を入れたTさんは数日後に来院。
「いやー痛くもないし、すごく調子いいです」
と笑顔で報告してくださいました。
今回のTさんの部分入れ歯を新しく作る治療は保険治療1割負担で総額約4,000円でした(治療費は症状により個人差があります)。
入れ歯の管理について
入れ歯を形作っている構成物としては
歯グキと接するピンク色の部分(床)やプラスチック製の人工歯、残っている歯に引っかけて入れ歯を口の中に維持する金属バネ(クラスプ)があります。
これらが生きている身体、口の中、歯グキや舌などと調和して機能を回復できるよう力を発揮するためには、入れ歯の調整と患者さんへの適切な管理が必要です。
とくに新しい入れ歯を装着した直後は重要です。
その後も長期的に使用しても身体に害を及ぼさないように3か月~半年ごとに定期的に調整と患者さんへの指導を行なうようにします。
入れ歯と身体との調和が良くないまま入れ歯を使い続けると、口の中が不潔になり結果的には残っている歯の虫歯や、歯がグラグラと揺れてくる歯周病を引き起こします。
残っている歯が一本もない総入れ歯の方の場合は歯グキの表面を傷つけたりアゴ骨の以上な減りを引き起こします。
また入れ歯の適正な使い方が患者さんに理解されないままだと、入れ歯が十分な機能を営めないことにもなります。
そのようなことから、身体の変化による入れ歯の不調和が起こった場合には歯科医院での適切な対応が必要です。
ゆるい入れ歯には保険治療で歯科専用の入れ歯安定剤を貼りましょう
1.新たに作製された入れ歯、装着後1か月以内の調整・指導
1)入れ歯調整の概要について
・入れ歯が歯グキと接するピンク色の部分(床)の歯グキと接する面、端の大きさと形の調整
型をとる時に歯グキの肉が型とりの材料に押されて厚みや形が変化します。
それらを入れ歯の調整によってその変化による歪みを是正します。
型をとった時に口の端や奥は不正確になりがちです。
また型をとる時に筋、舌などは動くので、その動きによって入れ歯が外れる原因となります。
だから動く部分は避けてアゴ骨の動かない部分ほなるべく広く入れ歯で覆うことを意識します。
もっとも模型とりだけではそこまで正確な石こう模型を作ることはできません。
そこで口の中に合わせながら動いて入れ歯を外す力が加わっている部分は削る。
型とりが不十分でアゴを広く覆えていない場合は歯科用プラスチックを継ぎ足して覆う。
このような調整が1か月~2か月ほど必要となります。
部分入れ歯の金属バネが折れても保険治療で修理できます
・プラスチック製の人工歯の調整
入れ歯と接する歯グキは入れ歯で噛んだり食べ物が入って咀嚼したりする時に力がかかります。
その荷重によって入れ歯の形が変わったり入れ歯自体が動いてしまったりします。
そうすると入れ歯が口の中で安定する位置関係が変化するため上下の歯でカチッと噛んだ時の位置での人工歯の調整が必要となります。
また下アゴがカチカチ噛んだりギリギリと歯ぎしりしたりする運動の際の人工歯の接触や滑走時に接する面を身体の動きと調和するようのな調整が必要です。
・残っている歯に引っかけて部分入れ歯を口の中に維持する金属バネ(クラスプ)の調整
口の中に残っている歯があって足りない箇所を補っている部分入れ歯を装着した場合はクラスプが歯を締めて入れ歯を固定する維持力の強弱や適合具合を調整します。
入れ歯と口の機能の検査は保険治療3割負担の方で約2,000円
・調整の回数
時間が経つにつれてアゴ骨や歯グキの肉の変化や移動が続くため入れ歯と歯グキが接するピンク色の部分(床)やプラスチック製人工歯は1回の調整だけでは目的を達成することは多くの場合は難しいです。
とくに新しい入れ歯を装着した直後は、歯グキの部分的な痛みや咬み合わせの不調和などについての検査を行なう必要があります。
装着後2~3日あるいは1~2週間においても新たな検査を行なって、入れ歯の調整や患者さんへの指導を行なう必要があります。
たとえ患者さんから痛みや不快感、違和感の訴えがない場合であっても少なくとも1か月以内に数回ほどの調整や患者さんへの指導を行なうことが重要です。
参考文献:
https://www.jads.jp/assets/pdf/basic/before_h30/document-071100-01.pdf
有床義歯の管理について(平成19年11月 日本歯科医学会)
【関連記事】→入れ歯が痛い「Q.入れ歯を入れているだけで歯ぐきが痛い。入れ歯がこすれて痛いようです。ずっと痛いのをガマンして入れ歯を使っています。治りますか?」