カテゴリー

入れ歯が全体的に細すぎるので、補強の金属線を入れて修理して大きく安定させた症例

杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「入れ歯が痛い」

入れ歯で大変多い悩みの一つです。
多くの場合、入れ歯を直径数ミリの範囲で削ることで解決できるのですが今回は大がかりな修理となりました。

70代女性のKさんの上の入れ歯です。痛い部分は明らかです。
普通なら該当する箇所を削って終わりなのに、そうはいかない事情がありました。

上アゴを覆うピンク色の材料(床)が細すぎるのです。

上の入れ歯は上アゴを広く覆う方が入れ歯が安定します。
しかし上アゴを覆うと違和感や嘔吐感を訴えられる方がいて、やむを得ず床を小さく作ったり削ったりすることがあります。

そのような事で幅が5ミリくらいになっていました。

さらに削ろうとして気がついたのが入れ歯のヒビです。

5ミリの床を横断するようなヒビ。
間に補強の金属線が入っているので何とか形を保っていました。
これ以上削ったら入れ歯が
折れてしまいます。

保険治療で歯が抜けた部分を入れ歯に継ぎ足す増歯修理

そこで今回は入れ歯上アゴ部分を覆う形に補強する修理を行なうことにしました。

床はプラスチックでできています。
もっともプラスチックだけでの補強では強度が心配です。

プラスチックの中に補強の金属線を埋め込んで強度をつけました。

このような修理をする場合、まずは上アゴを広く覆うようにします。
しかしもし違和感を訴えられたら削れるように補強線の配置も工夫します。

入れ歯を口の中に入れて型をとって石こう模型を作製。
全部で1時間で修理できました。

後は痛みを訴えていた部分を今度は遠慮なく削って当たらなくできます。

修理した入れ歯を入れたKさんは
「あっ、全然痛くなくなりました!」
と笑顔で答えてくださいました。

保険治療で入れ歯の修理

入れ歯の違和感も原因は入れ歯が大きすぎることだけとは限りません。

歯グキと入れ歯が接するピンク色の面(床)が合っていないと、たとえば食事の時や噛んだ時に入れ歯が揺れて歯グキと不自然に部分的に強くぶつかって違和感を引き起こします。

咬み合わせが合っていないと、やはり食事の時や噛んだ時に入れ歯が揺れて、やはり歯グキと不自然に部分的に強くぶつかる現象から違和感を引き起こします。

入れ歯の、グキと入れ歯が接するピンク色の面(床)が小さすぎるのも、かえって違和感を引き起こします。
小さすぎて噛む力に耐えられず、やはり入れ歯が動くことになります。
それで歯グキと不自然に部分的に強くぶつかる現象から違和感を引き起こすのは同じです。

また小さすぎる床は痛みを引き起こしたり噛む力によって折れてしまったりすることは今回の症例を見ても明らかです。

義歯床(ぎししょう)は、義歯の総入れ歯の本体で、人工歯を支え、口の粘膜と密着して総入れ歯を安定させる役割があります。

義歯床は、主にレジンと呼ばれる合成樹脂(プラスチック)だけで作られているものと、レジンと金属(金合金・チタン・コバルトなど)を組み合わせたものがあります。

義歯床の粘膜面部と研磨面部との境界部分を「床縁」といいます。義歯の維持に重要な部分で、周囲組織の動きと調和した形態でなければなりません。

参考文献:Search Labs | AI による概要

入れ歯修理の費用は保険治療3割負担の方で総額約3,000~5,000円

入れ歯の違和感は様々な原因があります。

また慣れるのにかかる時間が患者さんによって違ったり、同じ大きさでも歯グキや咬み合わせの適合具合によって感じ方が変わったりします。

違和感とは患者さんの主観なので、治療する歯科医師の側も経験と試行が求められます。

検査して数値を求めて、その科学的な根拠(エビデンス)に基づいて治療方針を決める「エビデンスベースドメディシン」は大切です。

根拠に基づく医療(こんきょにもとづくいりょう、Evidence-based medicine: EBM)とは、「個々の患者のケアに関する意思決定において、現在の最良のエビデンスを意識的、明示的かつ思慮深く用いること (conscientious, explicit, and judicious use of current best evidence)」です。
エビデンスに基づく医療とも呼びます。

EBMの目的は、臨床医の経験、患者の価値観、および入手可能な最良の科学的情報を統合して、臨床管理に関する意思決定を導くことです。

この用語はもともと、医学の実践を指導し、個々の患者に関する個々の医師の意思決定を改善するための手段を説明するために使用されていました。

参考文献:Wikipedia「根拠に基づく医療」

保険治療で入れ歯の痛いのを解決

ですが今回みたいな違和感の場合は、たとえば「入れ歯違和感チェッカー」とかいうマシンがあって、数値が10以上なら入れ歯の床を小さくする、数値が5未満なら入れ歯の床を大きくする。

…そのような便利な機械は存在しません。

ですから、これまでの歯科治療の流れや患者さんの望み、医科での治療との関わり、家族との関係、仕事のストレスなど様々なことをお聞きすることがあります。

その中に違和感の原因、治療のヒントが隠れていることがあるからです。

そのような事から病気の原因を追求していくことを患者さんの物語(ナラティブ)から治療する「ナラティブベースドメディシン」といいます。


カテゴリー

グラグラの歯を抜いて、抜いた部分にプラスチックの人工歯を継ぎ足す増歯修理を行なった症例

杉並区、西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける、
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「入れ歯が入らなくなっちゃったよ」

70代男性のWさんは1年半ぶりの来院です。
診療室に入ってくるなり入れ歯の入ったタッパーを渡されました。

口の中に残っている歯の本数が少ないので入れ歯がないと見た目にも関わりますし食事もできなくなってしまいます。

とはいえその表情に悲愴な感じはありません。

以前から揺れている歯が多かったWさんは、これまでも揺れている歯を抜いたり歯が自然に抜けたりして当院で何年間もずっと治療していたからです。

今回も治療方針としては同じです。

揺れている下の歯2本を抜いて、抜いた部分にプラスチックの人工歯を継ぎ足す増歯修理を行ないます。
また上の歯も1本が自然に抜けていました。

保険治療で入れ歯の調整

比較的遠方からいらっしゃる方なので上下同時に増歯修理をしました。

さらに下の入れ歯は増歯修理した結果、生えている歯が一本もない総入れ歯になりました。

だから抜いた部分の歯を補うだけでなく歯グキと接するピンク色の部分(床)の形も歯グキと合うように形を整えました。
簡易な修理にも関わらず歯グキと入れ歯が、軽くですが吸いつくような維持安定を得ることかできました。

入れ歯を口の中に維持する歯が一本でもある部分入れ歯と一本もない総入れ歯では安定がまったく違います。

その維持安定を得るのに大変苦労することもあるのですが
「あっ、これはピッタリになりました。良かった良かった!」
Wさんは笑顔です。

揺れている歯が痛くなるのをいつまでもビクビクしながら使い続けるよりは抜いて増歯修理してしまう方が、かえって安定して痛みもなく快適に使えるようになることが多いものです。

保険治療で入れ歯の作製

補う歯の本数や部位、咬み合わせの具合などの条件によって変わりますが診療時間は今回のように上下同時に治しても1時間ほどでできます。

失った歯の本数が多かったり、残っている歯に入れ歯を維持する金属バネ(クラスプ)を作ったりする時は、型をとって石こう模型上で修理します。
そのような場合は上下どちらか一つの入れ歯修理だけで1時間ほどお時間をいただくことがあります。

駅前の喫茶店などでお茶しながら時間が経つのを待ってから戻っていただければ、その間に修理してしまいます。

もっとも今回のように修理した結果、部分入れ歯から総入れ歯になったものは維持安定が不十分な場合があります。
Wさんの場合も修理を繰り返していて歯グキと歯並びが不整なので、これを機会に新しく総入れ歯を作ることになりました。

とはいえ使える入れ歯があるので、じっくり取り組んで良い入れ歯を作る余裕を患者さんも歯科医師も持つことができます。

たとえば遠方からの方で1か月に一度の来院で数か月かけて作る方もいます。
逆に早く新しい入れ歯が欲しい方の場合は4回くらい毎日連続して通っていただくと作る作業をどんどん進めることができます。

当院は初めて来院される時以外は予約制ではありません。
診療時間内に来院された順番で診察しています。
だからそのような融通がききます。

もっとも総入れ歯を1回の来院で完成させてほしい、というような保険治療を逸脱した施術はできません。

また入れ歯を作る工程の最後は専門の歯科技工所で完成させます。その作業は、発注して作ってまた持ってきてもらうため10日前後の日数をいただきます。

昔は「3日で仕上げて、よろしく」みたいなこともできました。
しかし昨今のご時世でそのような無茶をするとブラック企業のレッテルを貼られてしまいますし健全な仕事ではありません。
その工程を短くすることはできません。

そのことをご了承いただけますと助かります。

入れ歯は定期的な調整管理が必要です

入れ歯には、患者さんの口の中に残っている歯が一本もなく全部の歯が入れ歯の「総入れ歯」と患者さんの口の中に残っている歯が一本以上ある「部分入れ歯」があります。

入れ歯をつけた患者さんは、入れ歯を使っている間に上下ともアゴの形や位置関係が変わってきたり残っている歯の状態が変わったりしてきます。

他にも個々の患者さんごとの上下の歯の咬み合わせ、食事時の咀嚼でのアゴの動きのクセや習癖、食習慣などによっても状態が変化します。

するとアゴの骨が減ってくることによる変化、残っている歯の移動や傾きなどが時間の経過とともに起こってきます。
それによって口の中と入れ歯との間に不調和が生じてくるわけです。

そのような不調和によって、歯を失った部分を入れ歯を入れることによって補われた形と機能が再び失われる可能性があります。
ですから定期的に的確にその不調和を修正、調整、管理することで入れ歯の形と機能を回復することが必要です。

つまり入れ歯を着けた後の管理は、アゴや口の中への調和と、咬み合わせたり咀嚼、嚥下したりという口の機能の回復、維持することが大事です。

総入れ歯を作る費用は保険治療3割負担の方で総額約2万円

入れ歯の調整、管理、修正は、入れ歯が完成してからの時期に応じた管理の目的、手段があります。

1.おおむね1か月以内は、身体との調和を主な目的とした管理を目的として調整、アドバイス、指導を行ないます。

・着脱が不自由なくできるか
・プラスチック製人工歯の形や歯グキと接するピンク色の部分(床)の形は適切か
・残っている歯や歯グキと合っているか
・カチカチ噛んだりギリギリと左右に歯ぎしりした時の関係は適切か歯や歯グキを痛めていないか
・入れ歯が大きすぎないか部分入れ歯を残っている歯に維持する金属バネの装着感はどうか
・食事方法、入れ歯で食事するときにとくに注意するべきこと
・入れ歯の日常の取り扱い方法、清掃方法、壊さない、紛失しないための注意点

2.おおむね2~3か月は咀嚼などの口の機能の回復を主な目的とした調整、アドバイス、指導を行ないます。

・全身の疾患や咬み合わせの難しさ、アゴの小ささや凸凹が極端に多いなど口の中の状態が困難で機能回復が極めて難しい患者さんに対する再度の調整
・機能のより良い回復を主な目的とした指導、管理

3.2~3か月以降については口の機能の維持を主な目的とした調整、アドバイス、指導によって長期的な管理を行ないます。

・生体の経時的、生理的な変化、入れ歯の変化に着目した長期的な使用を見据えた調整管理
入れ歯自体も材質が劣化してきたりプラスチック製の人工歯がすり減ってきたりします。
また部分入れ歯の金属バネが着脱を繰り返しているうちに開いてきて入れ歯がゆるくなることが起こります。
機能検査とそれに基づいた治療、患者さんへのアドバイス!指導により口の機能の維持を主な目的とした管理

このような流れで入れ歯を長く良い状態を保ち快適に使えるように心がけています。

痛い入れ歯の調整の費用は保険治療3割負担の方で約1,000円~2,000円

とくによく行なうのは、たとえば入れ歯で食事すると痛いときに、入れ歯の直径数ミリほどの範囲が歯グキに強く食いこんで痛みを起こしている場合があります。

入れ歯の悩みでおそらく最も多いと思われるものの一つです。

そのような時は口の中をよく見ると直径数ミリほどの範囲で赤や白の傷、潰瘍があります。

その傷に白いペーストを付けてから、ちょっと痛いのは申しわけないのですが入れ歯を装着します。
すると白いペーストが入れ歯に転写されます。
その入れ歯にくっついた白いペーストの部分を削れば入れ歯と歯グキが当たらなくなって解決するわけです。

ですからとくに「食べると痛い」症状はすぐに治ることがほとんどですのでガマンせず相談していただければと思います。

【関連記事】→歯を抜くことについて「Q.歯が何本か抜けていますが、今のところそのまま放置してあります。前歯ではないので見た目は気になりません。食事も普通にできます。それでも抜けた部分をかぶせる、入れ歯を入れるなど治したほうがいいでしょうか?」


カテゴリー

高額自費治療のシリコン入れ歯は調整が一切できないので、保険治療で新しくプラスチックの入れ歯を作製した症例

杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「ダメだなぁ。新品を作りましょう」

初めて来院された患者さんに、このような方針を選択するのはやむを得ないところでした。
 
長年使い慣れた入れ歯が患者さんにとって一番いい入れ歯なんだ。

これが「いとう歯科医院」の基本的な考え方です。

入れ歯は使い込むほどしっくりと馴染んでまるで自分の身体の一部のように一体化してきます。
むやみに新しい入れ歯を作り直すより、修理しながら可能な限り長く使っていただいた方が患者さんに負担がかからない最善の方法となるからです。

もし破損してしまったら、たとえ小さな破片でもお持ちください。
ほとんどの入れ歯は修理が可能ですし、また元のように使えるようになります。

最近ある歯科医院で数十万円かけて自費でシリコン製の入れ歯を作ったIさんですが、  
部分的に合わずに痛みが出はじめ、食事も会話も満足にできず困っていました。

ところが、悩みを訴えたものの、その歯科医院では調整できないと言われたそうです。

入れ歯修理の費用は保険治療3割負担の方で総額約3,000~5,000円

これが新素材の困った点です。
シリコンのような新しい素材は見た目はとても美しいのですが歯科用の修理素材や治療器具との相性が悪いものです。

・痛い部分を削ることもできない。
・ティッシュコンディショナーのような安定剤を貼ることもできない。
・後から金属バネ(クラスプ)をつける修理もできない。
・歯が抜けた部分にプラスチックの人工歯を継ぎ足す増歯修理もできない。

大変残念ですが当院でも調整はできません。

こうした新素材の入れ歯は「長く使い続けて欲しい」という方針に馴染まないため、いとう歯科では今のところ扱う予定はありません。

そこで今回は保険でプラスチックの入れ歯を新しく作りました。
これで会話も食事も不自由なくできます。

しかも気になる部分があれば、いつでも微調整が可能だと知ってIさんは笑顔を見せてくださいました。

今回行なったIさんの入れ歯を新しく作る治療は保険適応3割負担で約8,000円でした(治療費は症状により個人差があります)。

【関連記事】→保険?自費?入れ歯にかかるお金について「Q.保険の入れ歯か、自費の入れ歯を作るのが良いか悩んでいます。種類は選択できますか?」

ゆるい入れ歯には保険治療で歯科専用の入れ歯安定剤を貼りましょう

シリコン入れ歯についてはスマホで検索すれば山のように情報が出てきます。
流行でもあるようです。

そのほとんどの説明においてシリコン入れ歯のメリットと称して喧伝していますが、その多くはそのままデメリットになります。
ところがデメリットについては文章の最後のほうに小さく書かれているだけだったり肝心なことが書かれていなかったりです。

そのようなことでメリットとされていることと、その裏返しで起こるデメリットについて書いていきます。

シリコン入れ歯とは、歯グキと接触するピンク色の部分にプラスチックではなくシリコンを使った入れ歯です。
シリコンは生体適合性が高くアレルギー反応が少ない安全な材料で柔軟性と吸着力を兼ね備えています。

これによって入れ歯のズレや不快感が減少し顎の動きに合わせて快適に適応します。
また食事時の痛みが軽減され食べ物をより良く噛むことが可能です。

そしてシリコン入れ歯は歯に引っかけるバネ(クラスプ)を使いません。
これにより審美性が高まり快適な使用感を提供します。

シリコン入れ歯を使用するメリットをご紹介します。主に次の3つです。

・保険の入れ歯より目立たない
・痛くなくよく噛める
・安定感があり外れにくい

それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。

1.保険の入れ歯より目立たない

メリット→シリコン入れ歯は従来の保険適用入れ歯にありがちな目立つ金属の金具を使用しません。
代わりに歯グキの色に近いピンク色の留め具を採用しており、目立たない外観を実現します。
そのため保険の入れ歯と比較してシリコン入れ歯は審美性に優れ自然な見た目を提供し周囲に気付かれにくいメリットがあります。

デメリット→金属を使わないことはその通りです。
しかしピンク色の留め具とはシリコンやプラスチックの構造物です。
この留め具が折れたりゆるくなったりすることが頻発します。
金属よりも柔らかいので当然のことです。

しかし合わなくなったときに今回の患者さんのようにお手上げとなってしまうのが最大のデメリットです。
「治療法がない」
そんな無責任な物を患者さんに勧めることは当院はできません。

また見た目についてですがピンク色の構造物も最初のうちはきれいですが段々と色あせてきます。
数年も経たず茶色っぽく、くすんできてしまってお世辞にもきれいとは言い難くなっているシリコン入れ歯をたくさん見てきました。
10年以上もキレイが長持ちするなら良いのですが、そうではありません。

保険治療並みに安価で入れて数年で使い捨てるつもりなら、まあいいかもしれませんが…
ちょっと刹那的ですよね。
修理調整しながら長く使う当院の治療方針とは相容れないものです。

部分入れ歯を作る費用は保険治療3割負担の方で総額約1~2万円

2.痛くなくよく噛める

メリット→シリコン入れ歯は、普通は硬いプラスチック製の歯グキと接触する面のところに、特殊な柔らかさを持つシリコンクッションを採用しています。
このクッションが歯ぐきへの圧力を軽減し噛む際の痛みを和らげます。

また硬い食材もしっかりと噛めるため食べるものを選びません。
痛みの少ない快適な使用感と咀嚼を実現し日常生活の質を向上させます。

デメリット→柔らかさが、そのままデメリットになります。
なぜなら入れ歯とは口の中でいかに「動かない」ようにするか。
そのために次々と新しい技術や道具が編み出されてきた歴史があるからです。

部分入れ歯を歯に維持する金属バネ(クラスプ)の形を工夫して歯と密着させて入れ歯が「動かない」ようにする。
総入れ歯の型とりを工夫して歯グキと密着させて総入れ歯が「動かない」ようにする。
咬み合わせを綿密に調整して噛んだり歯ぎしりしたりしても入れ歯が「動かない」ようにする。

よくシリコン入れ歯の宣伝で入れ歯を指でグニャッと曲げている写真があります。
「動かない」ことを目的として作るはずの入れ歯自身がグニャッと動いてしまうのでは何のための入れ歯なのか私には理解できません。

3.安定感があり外れにくい

シリコン入れ歯は口腔内の形状に合わせて作られた柔らかいシリコンによって高い吸着力を発揮するのが特徴です。
吸盤のように機能し噛むときに発生する顎の横方向への動きに対しても安定感に優れています。

そのため食事や会話の最中に入れ歯が外れにくくなります。
また歯ぐきと入れ歯の間に食べ物が挟まる心配も減り使用者はより安心して食事を楽しめます。

デメリット→仮に宣伝のように吸着してリンゴを丸かじりできるのならばよいのですが、実際には言うほどは吸盤のようには吸着しません。
もちろんプラスチックの入れ歯でも吸着などは簡単にはしないものです。

もっとも保険治療で作られたプラスチックの入れ歯ならば歯グキと接する面に後から歯科専用の入れ歯安定剤ティッシュコンディショナーやリベース材などを貼ることで安定させることができます。
数か月~半年ごとに安定剤を貼って快適に使っている患者さんがたくさんいます。

ところがシリコン入れ歯ではそのような調整修理が一切できません。
合わなかったら、吸着しなかったら終わりです。
高額のお金をかけてそのようなリスクを患者さんに背負わせることは行なわないほうが良いと思います。

参考文献:
お口の情報専門サイトおくちコラム
【歯科技工のプロが教える】シリコン入れ歯とは?メリットやデメリット、費用相場を徹底解説!

トップページ


カテゴリー

保険治療で入れ歯と口の機能の検査と管理を行なっている症例

杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「そういえば、昔からよく食べるとムセるんですよ」

ハタと思い出したようにおっしゃるのは50代男性のKさん。
口の中に関しては上下とも大きめの部分入れ歯を使っています。

残っている歯も不安定な状況です。
揺れている歯もありムシ歯のためにかぶせものを作製した所も何本もあります。
いつ歯が抜けたり折れたりするか警戒しているところです。

もっともそのような事態に備えて、あらかじめ入れ歯を作っておいたので歯を失ったら、抜けた部分は入れ歯にプラスチック製の人工歯を継ぎ足す増歯修理ができます。

そういった意味では大丈夫なものの、歯を失う速度を少しでも遅らせたい。

比較的若くて体格はいいし全身的な病気も一切ありません。
なぜ口の中だけ好ましくない状況になっているのでしょうか。

ムシ歯になったら削って詰める、かぶせる。
歯が抜けたら入れ歯に継ぎ足す。

もちろんこれらは歯科医師の役割りです。
しかし口の中の悪化に対して後手後手にまわっている印象は否めません。

たとえば全身を診る内科などは病気にならないうちに血液検査やレントゲンなどで数値や画像を通じて症状が具体的に悪化して現れる前に予防と早期治療に努めています。
私も毎年の区民健診と2年ごとの胃と大腸の内視鏡検査を受けています。

歯科でも同じようなことができないものでしょうか。

実は最近できるようになりました。
歯科でも内科のように患者さんの状態をより深く調べて治療に導く方法があります。
それが口腔機能検査です。

保険治療で、痛い入れ歯も調整できます

こんな症状はありませんか?

以前に比べて…

● 食べ物が口に残るようになった
● 硬いものが食べにくくなった
● 食事の時間が長くなった
● 食事の時にむせるようになった
● 薬を飲み込みにくくなった
● 口の中が乾くようになった
● 食べこぼしをするようになった
● 滑舌が悪くなった
● 口の中、とくに舌が褐色~黒く汚れている

「口腔機能低下」の状態とは加齢によって口腔内の「感覚」「咀嚼」「嚥下」「唾液分泌」等の機能が少しずつ低下してくる症状です。
「口腔機能低下」を早いうちに自覚することで生涯にわたり、食べることを楽しみ、会話に花を咲かせ、笑顔が続く健康長寿を支えます。

「口腔機能低下症」は、患者さんの「口腔機能低下」に「専門的な介入をするキーワード」です。
地域のかかりつけ歯科医師として、「口腔機能低下症」を診断しましょう。

「口腔機能低下症」を診断しましょう

歯科医師が「口腔機能低下症」を知り口腔衛生管理および口腔機能管理に積極的に介入することで、高齢者の豊かな食生活と健康維持を実現していきます。

その口腔機能を知るために行なうのが口腔機能検査です。

口腔乾燥による症状
 口の中が乾くのが気になる

口腔衛生状態不良(口腔不潔)による症状
 口の中、とくに舌が汚れている

咀嚼機能低下による症状
 硬いものが食べにくい

嚥下機能低下、舌口唇運動機能低下、低舌圧による症状
 滑舌が悪くなった
 食べこぼすようになった
 食べ物が口に残る
 薬を飲み込みにくい
 食事の時にむせる

咬合力低下
 口の中に残っている歯の本数が少ない

このような症状に心当たりがある方に行なうのが口腔機能検査です。

ゆるい入れ歯には保険治療で歯科専用の入れ歯安定剤を貼りましょう

口腔機能検査は以下のように行ないます。

口腔機能低下症は7つの評価項目[①口腔衛生状態不良(口腔不潔)、②口腔乾燥、③咬合力低下、④舌口唇運動機能低下、⑤低舌圧、⑥咀嚼機能低下、⑦嚥下機能低下]を用いて診断します。
7項目中3項目以上で低下が認められた場合に口腔機能低下症と診断されます。
7つの下位項目と各項目から読み取れる口腔機能の問題点について解説します。

1.口腔衛生状態不良(口腔不潔)
口腔の衛生状態は舌苔の付着程度を評価します。
舌表面を9分割し、それぞれのエリアに対して舌苔の付着程度を3段階(スコア012)で評価。
合計スコアが9点以上(TCIが50%以上)で口腔不潔と評価します。

2.口腔乾燥
口腔水分計(ムーカス®)を用いて評価します。
舌尖から10mm後方の舌背中央部における口腔粘膜湿潤度を計測。
測定器の先端に設置してあるセンサー部分を舌背部に押し当てることで測定します。
27.0未満を口腔乾燥とします。

3.咬合力低下
残存歯数を用いる方法は20歯未満の場合に咬合力低下と判定します。
咬合力の低下は咀嚼能力と相関が高く、残存歯数や咬合支持と関連が強いが筋力の低下にも影響を受けます。

4.舌口唇運動機能低下
オーラルディアドコキネシスの計測で検査を行ないます。
「パ」「タ」「カ」の音を5秒間計測して1秒間当たりの回数を算出します。
「パ」は口唇の動き「タ」は舌前方の動き「カ」は舌後方の動きを評価します。
いずれか1つでも6回/秒未満の場合に舌口唇運動機能低下と判定します。
舌口唇運動機能低下は口腔周囲の運動速度や巧緻性が低下した状態の指標となり、会話や食事に影響し生活機能やQOLの低下にも影響を及ぼす可能性があります。

5.低舌圧
舌圧は、JMS舌圧測定器(株式会社ジェイ・エム・エス)を用いて測定することが可能です。

JMS舌圧測定器は、舌圧プローブ、デジタル舌圧計、連結チューブから構成されています。
測定時は、硬質リング部を上下顎前歯で軽く挟むようにして、唇を閉じ、プローブ先端部のバルーンを舌と口蓋で押しつぶします。
日常生活において義歯を使用している場合は、義歯を装着した状態で測定。
最大舌圧が30kPa未満で低舌圧と判定する。

低舌圧の原因は、脳血管障害やパーキンソン病などの疾患、舌がん術後などの直接的な原因と廃用症候群、低栄養等の相互作用的な影響が考えられます。
舌は口腔周囲器官と協調して咀嚼、嚥下、構音に関わる非常に重要な器官です。
また、舌は筋肉の塊であるため、低舌圧は舌の筋力低下を意味します。
舌圧が低下して20kPa未満となると摂食嚥下障害に相当すると考えられます。
舌圧と食事形態の関係について調査した研究では、舌圧が30kPa以上ある人は全員常食を摂取しているのに対して、20kPa未満の半数以上が調整食を摂取していたことを報告していました。
よって、常食を摂取するためにはある一定以上の舌圧が必要であるといえます。

6.咀嚼機能低下
咀嚼機能低下の検査は、咀嚼能力検査(グルコース含有グミゼリー、グルコセンサーGS-ⅡN、GC-Ⅱセンサーチップ、株式会社ジーシー)で計測します。
グミゼリーを咀嚼した後に水を含嗽(がんそう)して吐き出させて、吐出水中に溶出したグルコース濃度を測定。
グルコース濃度が100mg/dL未満を咀嚼機能低下と判定します。

7.嚥下機能低下
EAT-10は信頼性と妥当性が検証された摂食嚥下障害のスクリーニングテストです。
方法は、嚥下スクリーニング質問用紙を用います。

10項目の質問で構成され、それぞれ5段階で回答し、合計点が3点以上であれば問題ありと判定し、専門医療機関での精査が必要となります。
EAT-10は主観的な評価ですが、個々の質問項目に注目すると患者のQOLを評価する項目があるため、介入効果の判定にも有効とされます。

聖隷式嚥下質問用紙を用いた場合は、より頻繁に起こる、または、重症を疑わせる解答項目(Aの項目)が1つ以上の場合を嚥下機能低下と判定します。

総入れ歯を作る費用は保険治療3割負担の方で総額約2万円

今回のKさんは咬合力低下、低舌圧、嚥下機能低下がありました。
これらは検査により具体的な数値として表せます。

とくに嚥下機能が低下していました。
嚥下機能検査とは、飲み込む機能についてアンケート調査のようの書式に三択形式で答えていただくものです。

その検査の項目を見て

「そういえば」

とKさんは食事中にムセることを思い出した次第です。

そのような事で今回の治療としては飲み込む機能を担う舌や口の周りの筋肉を鍛えて強くするリハビリテーション、口腔機能訓練を行ないました。

鍛えるというと筋トレみたいな厳しいイメージですが、そんなことはありません。
食事前後に舌やクチビルを1~2分動かす程度の簡単なものです。
それでも動かさないよりはずっと効果があります。

定期的な口腔機能訓練と歯周治療、入れ歯の手入れの甲斐があって、それから2年近く経って歯を抜いたりすることなく順調に経過しています。

参考文献:日本老年歯科医学会 https://www.gerodontology.jp/
公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/topics/tokushu/orarufureiruyobo-taberuchikara-ikiruchikara/orarufureiru-kokukinoteikasho-shindan.html


カテゴリー

部分入れ歯のティッシュコンディショナーを削って金属バネ(クラスプ)を締めたら、痛みがなくなってピッタリした症例

杉並区西荻窪で入れ歯治療を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。

「入れ歯が痛くて」
よくある訴えでいらしたのは70代女性のTさん。

元々は部分入れ歯がすぐに外れてしまうとのことで近所の歯科医院に相談したところ、入れ歯のウラ(床)に何かを貼られました。
ところがそれ以来すぐに外れるゆるさはそのままで痛くなってしまったそう。

「なおりますか?」

不安そうな表情です。
見ると確かに歯科専用の入れ歯安定剤ティッシュコンディショナーが貼られています。
柔らかさがまだ残っているので最近貼られたとわかります。

このティッシュコンディショナーは当院でもよく使う材料です。
入れ歯がすぐに外れる、ゆるいなどの時に入れ歯のウラ、ピンク色の面に薄く貼ります。
そうすることで歯グキとの適合が良くなり快適に使えるようになります。

痛みが起こることが少ない優れた材料です。
とはいうものの何でも治る魔法の材料ではありません。

たとえば床は合っているのにティッシュコンディショナーを無理やり貼ると逆に合わなくなって痛みを起こします。
入れ歯の外側にティッシュコンディショナーがかなりハミ出ていることからも、そうなっている可能性が高いです。

そこで今回は外にハミ出たり歯グキの面にあふれて尖っていたりするティッシュコンディショナーを削りました。
まず大事なのはTさんの一番の悩みである痛みを取り除くことです。

入れ歯を装着して痛みがなくなったことを確認したら今度はゆるさの改善です。

私が入れ歯を着脱してみたところ、ゆるさの原因は簡単にわかりました。
部分入れ歯を歯に引っかけて口の中に維持する金属バネ(クラスプ)がゆるいのです。

とはいえこの位のクラスプの適合具合で使っている症例はいくらでもあります。
他にも入れ歯のゆるさの原因はたくさんあります。

その原因を探って治療をしていくわけですが、治療には一つ鉄則があります。
それは「簡単なことから始める」ことです。

クラスプを締めるだけなら専用のプライヤーで簡単にできます。
仮に締めすぎたとかしても元に戻すことも簡単にできます。

慎重な判断は必要なものの、今回はまずこのクラスプを締めてみました。

すると
「あっ、ピッタリになりました!」

Tさんは笑顔で答えてくださいました。

行なったこととしては痛い部分を削ったのとクラスプを少し曲げただけ。
これ以上ないほど簡単な治療です。

しかし治療に必要なのは、何でも治る魔法の材料…ではありません。
そんなものは多分この世に存在しません。
だから高額なハイテク機器をそろえた歯科医院で治らず当院にいらっしゃるTさんのような患者さんがおられるわけです。

的確な診断と、それに対する的確な治療。

それが大事という当たり前のことを再認識した出来事でした。

*入れ歯のお手入れのやり方は

症例にもよりますが入れ歯の寿命とは通常3年ほどと言われています。
とはいえ、ほったらかしでいいわけではなく調整が必要なことがあります。

入れ歯を入れて時間が経つとアゴの生理的な変化で合わなくなったり今回のようにすぐ外れるなど不適合が起こったりします。
たとえば入れ歯の金属バネ(クラスプ)は着脱を繰り返していると段々とバネが開いてきてゆるくなります。

そのようなとき、たまに患者さんご自身でペンチなどでクラスプを締める方がいらっしゃいますが、それはお勧めしません。
なぜならば、変な方向に曲げてしまって、かえって合わなくなるからです。
ご自分で調整するのではなく、かかりつけの歯科医師のところに行って、早めに入れ歯の調整してもらいましょう。

入れ歯がゆるくなったら

「気のせいかな?」というくらいでも構いません。
入れ歯がゆるくなったと感じたら、できるだけ早く歯科医院にて調整することをお勧めします。
歯科医院で行なう調整は、以下のものがあります。

1.入れ歯のバネを締める

今回の症例のように一番簡単な調整です。
だいたいクラスプがゆるくなるのは一定の方向性があります。
歯科医師はそのこと分かっているので適切な方向に適切なプライヤーを用いて締めることができます。

患者さんがペンチで曲げると、間違った方向に動かしてしまって状況を悪化させてしまうことがあります。

2.入れ歯のウラ、ピンク色の部分(床)が歯グキと接する部分に歯科専用の入れ歯安定剤みたいなものを貼り足す。

とくに当院で用いることが多いのはティッシュコンディショナーという材料です。
膜のように薄く貼るだけで「ピッタリしました!」と、すぐに結果がわかります。
硬化しても柔らかさが残って歯グキへの負担を最小限にできる優れものです。

とはいえ今回のように間違った使い方をすると逆効果にもなるので注意が必要。
何でも治る魔法のお薬ではないです。

また硬化するとプラスチック状に硬くなる材料で貼り足すリライン(裏装)やリベース(改床)などもあります。

入れ歯のリラインとは、安定剤を入れ歯の床部分に貼り足して直接患者さんの口の中に入れて合わせる方法です。
1回の治療でできます。
とくに調整、修理を繰り返して床が薄くなってしまったときに、このような材料を貼り足して補強することがあります。

また床の形が著しく合っていなくて口の中で直接合わせるのが困難な場合があります。
そんな時にはアゴの型をとって模型上で床の形を大幅に修正します。
そのことをリベースといいます。

これは最適な適合を得るために、入れ歯の床を最初から作り直すことが目的です。
模型上で大きく形を修正してから口の中に合わせて再度調整することが多いです。
これはかなり大掛かりな治療といえます。

ティッシュコンディショナーと違ってリライン、リベースは硬化すると硬くなりますから、強度がある反面そのプラスチックの先端などが歯グキと強く当たって痛みを起こすことがあります。
多くの場合、後日に調整が必要になります。
これは材料の特性上で仕方がないこととしてご了承いただければ幸いです。

入れ歯の普段からのお手入れ

患者さんご自身で入れ歯を正しくお手入れする方法を身につけることで入れ歯を良好な状態に保つことができます。
入れ歯をきれいに保つことと快適な使用を保つために普段から心がけていただきたいことをご紹介します。

入れ歯をきれいに保ち快適に使える良い状態に保つために、お手入れするタイミングとしては自然の生えている歯と同じように毎食後に行なうと良いです。
入れ歯のお手入れに使う道具としては歯ブラシと入れ歯専用の磨き粉を使います。

歯ブラシについては入れ歯専用の歯ブラシがあります。
普通の歯ブラシよりも大きくて使い勝手が良くお勧めです。

入れ歯専用の歯磨き粉はお勧めですが食器洗い用の中性洗剤でも大丈夫です。
コップなどに水と錠剤と入れ歯を入れて発泡させて汚れを除去する入れ歯洗浄剤の使用もお勧めです。

入れ歯の床や人工歯はおおむねプラスチックでできています。
その硬さは天然歯の約10分の1(GSK調べ)と言われています。
つまり柔らかいということで天然歯と違った手入れが必要です。

入れ歯専用の磨き粉や泡タイプ洗浄は、普通のハミガキに配合される研磨材が無配合で、入れ歯の床を削ることなく汚れを落とせるようにできています。