西荻窪、入れ歯専門のいとう歯科医院、伊藤高史です。
「宮殿の建築よりも水道の修復工事」
アントニヌス・ピウス(wikipediaより)
23年間にも渡る平和な治世を経て家族に見守られ静かに息を引き取った皇帝の幸福な最期。歴史小説「ローマ人の物語」を読んで私はまるで自分の父が亡くなったような気になって涙を流しました。
二千年前の地中海を支配下に置いたローマ帝国が舞台です。カリギュラやネロなど暴君を生み出した後を任されたアントニヌス・ピウス。当時の国会にあたる元老院やローマ市民との丁寧な話し合いで問題を解決したため、政治につきものの粛清や虐殺を行わずに国内を治めました。
また強大な軍事力で専守防衛に徹し侵略戦争も行わずに済みました。この政策が200年に渡るパクス・ロマーナと呼ばれる平和で強大なローマ帝国の礎となります。
アントニヌスを中心とした歴代5人のローマ皇帝は五賢帝と呼ばれローマ帝国の最盛期を築きました。
平和すぎて当時の資料が少ないそうです。こんな良い時代に私も生まれたかったと少しうらやましい。
たとえば独裁者が豪華な宮殿を建てる例は枚挙にいとまがありませんがアントニヌスは自分の宮殿などは建てませんでした。
宮殿の代わりに既存の公共建築やローマ帝国の動脈とも言われる街道や水道の修復工事を数多く行なっています。
そうした地味ながらも重要な仕事に熱心だったところに特に共感しました。
前の皇帝の墓として、アントニヌスが後を引き継いで完成させたハドリアヌス霊廟は現在もローマ法王庁の城壁カステル・サンタンジェロ城として残っています。
10年以上前に妻と新婚旅行で訪れて、その迫力に圧倒されたのを今でも鮮明に覚えています。今回のような話を知ってから行けばまた感激もひとしおだったろうと思います。
カステロサンタンジェロ城(wikipediaより)
アントニヌス・ピウスの「ピウス」とは慈悲深いという意味の言葉で民衆が皇帝を呼んだあだ名です。
賢帝のように私も豪華な家や派手な生活への憧れはありませんが「ピウス」とあだ名されるような立派な人間になろうとしたら、あと100年かかるでしょう。ピウスとなるのは次の世代に託します。
次世代となる当の子どもはいま私の横で、クッキーのつまみ食いがバレて妻と口ゲンカしているところです。
「ローマ人の物語」26巻(塩野七生著 新潮文庫)